□□□アクセル・裏通り□□□
ターニャは今、隣にいる男、サトウカズマに連れられ、このアクセルという街を案内してもらっていた。
その際にターニャが目にしたものは、まさにここが異世界だということを証明するものばかり。
女騎士の格好をしたダクネスに加え、魔法使いの格好をしためぐみんを見た際に、少々その可能性を疑いはしたが、よもやそんなことはあるまいと、その可能性を否定していた。
しかし、まさか本当に異世界だったとは。
一度経験していなければ、簡単には信じることは出来なかっただろうな、などと思いつつ、決して何度も経験したいものでは無いな、とターニャは心の中で呟く。
ターニャが最初に見たのは、この街、アクセルを囲うようにしてそびえる外壁。
そしてその外壁を潜り、その先に広がっていたのは、中世を彷彿とさせるような街並みだった。
帝国の首都、ベルンよりも時間の流れが緩やかなのではないかと、錯覚させる程、穏やかな空気が漂う街。
街中には機械のようなものは一切なく、おそらく通信機器の類もないのだろう。
もちろん自動車なんてものは存在せず、往来を走るのは馬匹のみである。
産業革命が起こったターニャのいた世界には、もはやこのような街は存在しないだろう。
長距離通信は当たり前、移動も列車や自動車などが一般的である。
逆にそれらがない世界など考えたくもない。
通信機器なくして、統率の取れた作戦行動をすることは厳しく、列車やトラックなくして、どうして前線に安定した物資供給を行えるだろうか。
まぁ未だに線路の敷設が間に合わず、馬匹に頼らざるを得ない場合もあるにはあるのだが。
どちらにせよ、この街の文明はそれほどまでに遅れている。
あくまで、私のいた世界基準だが。
ただ、文明の発展は必要にかられて生じるものであり、その多くの場合は戦争である。
前世での私の記憶がそれを証明している。
必要は発明の母とはよく言ったものだ。
ここまで文明が発展していないのは、平和な証左か、はたまた、機械のようなものに頼らない、別のベクトルに文明が発展しているのかは、現時点では分からない。
文明以外の部分で決定的だったのが、ヒトならざる種族、エルフの存在だ。
ヒトではないと言ってもその姿は、ほとんどヒトと同じなのだが、特徴的なのはその尖った耳だろう。
前世の知識として、フィクションの中に登場する存在だという程度には知っていたが、まさかこんなところで実際に目にするとは、人生とは何があるか分からないものである。
まぁあの耳が、つけ耳だという可能性もないではないが、そのような馬鹿げたことをする奴はいまい、とターニャは勝手に決めつけていた。
とまれ、ここが異世界だと分かり、ターニャは、このサトウカズマらの屋敷に世話になるという判断はあながち間違ったものではなかったなと改めて感じていた。
ここが元いた世界であれば、どうにか連絡手段と移動手段を手に入れ、帝国に帰国すればよかった。
何か問題が生じたとしても、演算宝珠と拳銃があればどうになると確信しており、最悪の場合は帝国軍人だということを盾に解決すればいい。
むしろ一番の問題は、帰国後である。
何か上手い説明を考えねば、任務を放棄し戦線から離脱したということで、銃殺されるのがオチだろう。
いや、この問題は、現状でもつきまとうものか。
帰る方法も問題であり、帰った後も問題か。
まさに八方塞がりだな。
兎も角にも、まずは帰還方法を探る必要があり、そのためには、この男から天界について聞かねばならない。
しかし、この男にはしばらくやっかいになる予定であるからして、強硬な手段をとる訳にもいかず、一先ずは様子見をしているところだ。
「さっきからずっと険しい顔してるけど、どうしたんだよ。ってかその顔まじで怖いからやめておいた方がいいぞ」
「おっとこれは失礼。少々考え事をね。それにしてもこのような表通りから外れた所に貴殿の案内したいという店があるのかね?」
「あぁ、もうすぐそこだぜ。あ、店に入ったらあまり店内のものに触らないことをおすすめしておくよ。あとは仮面を付けた大男には注意しろよ。まぁそっちの方は注意した所で無意味だけどな」
「……肝に銘じておこう」
店のものに触れるな?
仮面の大男に注意しろ?
こいつは一体、今から私をどこに連れていくつもりだ?
「まぁそう固くなるなよ。別に注意しろとは言っても、直接的には害はないし、見知った仲だしな。それにそいつは兎も角、店主の方は優しい人だからさ」
「そうは言ってもな、仮面の大男などと、いかにも怪しげな風貌を聞いてしまえば、警戒するなと言う方が無理な相談だとは思わないかね?」
「まぁそれもそうか。おっと、着いたぞ。ここがその店、ウィズ魔道具店だ」
「ほぅ、ここが……」
ターニャの目にはこじんまりとした、一軒の普通の店にしか見えなかった。
しかし先程のサトウカズマの発言。
固くなるなと言われはしたが、仮面の大男と聞いて警戒しない方が無理だろう。
知人とのことで、少しは安心もできるが、それにしてもなぜ仮面などをつけているのだ?
この世界にはそのような風習でもあるのか?
ターニャは理解に苦しむと共に、警戒したことに越したことはないとして、いつでも拳銃を抜けるように身構え、店に入ることにした。