皆さんみましょう!笑
□□□ウィズ魔道具店□□□
「いらっしゃいませー、あらカズマさん!」
「よぉ、ウィズ。店の方は今日も……相変わらずのようだな」
店に入ると、そこには様々な商品が所狭しとおいてあり、一見しただけでは、どのような道具なのか分からないものばかりであった。
そのような商品がたくさん並ぶ店の一番奥のカウンターと思しき場所に座っている女性が一人。
この女性が先程サトウカズマが言っていた、店主のウィズのようだ。
年齢は20前後と言ったところだろうか?
確かに優しいと聞いていた通り、人あたりの良さそうな雰囲気をしている。
サトウカズマもウィズとは、親しげに話しているところを見ると、彼はこの店の常連のようだ。
「今日は珍しい方をお連れになっているんですね。そちらのお子さんは?」
「あぁこいつは──」
「私はやむをえぬ事情よりカズマ殿の屋敷にしばらくお世話になります、ターニャ・フォン・デグレチャフです」
「あら、これは丁寧にどうも。私はこの店の店主のウィズです。よろしくお願いしますね」
ターニャが少し前に出て、簡単な挨拶を行い、手を差し出すと、店主であるウィズも軽く挨拶を返し、差し出された手を握り握手を交わす。
「随分と冷え性のようですね?」
握手を交わした際に、ターニャは思わずそう口にしていた。
ターニャが握ったウィズの手は、それほどまでに冷たかったのだ。
「こういう体質なんですよ。冷たかったですか?逆にターニャさんの手はとても温かかったですよ」
ターニャは、ウィズの手の冷たさに、少し引っかかりを覚えたが、本人が体質だと言っており、さらに自分の手を温かいと言って微笑んでくれている姿を見て、些末なことだと思い、それ以上深くは考えなかった。
「まぁそういう訳で、しばらくこいつを預かることになったから、この街を案内してたんだ」
「そうでしたか。ターニャさんみたいな年頃の女の子がカズマさんのお屋敷に来るとなると、アンナさんもきっと喜びますよ!」
「アンナさん?私はてっきり貴殿ら4人で住んでいると思っていたのだが、他に同居人がいるのかね?」
「えっと……それは……」
ターニャの質問に対し、カズマの返答はとても歯切れの悪いものだった。
その歯切れの悪さに、聞いてはいけない類のものだったか?と思案するが、そうであれば、サトウカズマとの付き合いが長いであろうウィズが、嬉嬉としてその事に触れるはずもない。
そんなターニャの疑問に答えてくれたのは、ウィズだった。
「アンナさんというのは、カズマさんが住んでいらしてるお屋敷に住み着いているゴーストのことですよ。ゴーストといっても、冒険話が好きで、少しイタズラ好きですが、基本的には無害なので心配はいりませんよ?」
「……ゴースト。そのような霊的な存在までこの世界には存在するのか。いやはや、この世界はまだまだ分からないことばかりだな」
「正直俺もゴーストはみたことがないんだよな。アンデッドの類はみたことがあるから、ゴーストがいても不思議じゃないんだけどなぁ。たまにアクアが誰もいないところに向かって話しかけていたのは、てっきり俺達を怖がらせようとしてるのかと思ってたけど、ウィズが言うなら本当にいるのか……」
「まぁ、ゴーストは普通の人には見えませんからね。アクア様はアークプリーストだから姿が見えているのでしょうね」
ターニャはウィズの話を聞いていて、ふと感じたことがあった。
ゴーストは普通の人には見えない………。
しかし先程までのウィズの話し方からすると、ウィズにはゴーストが見えているようだった。
つまりそれは、自らを普通の人ではないと、言っているようではないかと。
ここに来て、ウィズと握手した時の、引っかかりを再び思い出す。
あの時に感じた、引っかかりは一体何だったのかと。
しかしその事について、深く考える前に、カズマが口を開き、ターニャを思考の世界から呼び戻した。
「そういえば、バニルのやつはどこに行ったんだよ。あいついつも、俺らが来るタイミングを見計らったように入口で待ち伏せて、俺達に嫌がらせしてくるくせに、今日はどうしたんだ?」
「カズマ殿、そのバニルというのは?」
「あぁ俺が来る前に注意しろって言った仮面の大男の事だよ。てっきりすぐに出てくるかと思ってたんだが」
「あぁ、バニルさんは、今はその、私が仕入れた商品の返品作業を────」
ウィズがそこまで言ったところで、ターニャは背筋に寒気を感じ、それと同時に今まで誰もいなかったはずの場所に気配を感じた。
咄嗟に振り返るとそこにいたは、顔半分を不気味な仮面で覆った大男が、口を不敵に歪めて笑っていた。
「フハハハハハ!!どうした、我輩のことが恋しくなったのか?今のハーレム要員に飽き足らず、このような幼女まで屋敷に連れ込もうとしている小僧よ」
「だ、誰が連れ込もうとしてるか!預かっただけだわ!ってかお前どっから現れたんだよ!普通に出てこいよ!」
「ふむ、連れ込むも預かるも大差はあるまい?それにしてもそこの男に世話になる憐れな娘よ。貴様にはこの子供に大人気のバニル仮面をくれてやろう。早速街の子供らに自慢してきてもよいぞ?」
ターニャは、全く動けずにいた。
目の前にいる仮面の大男、バニルはその腰を折り、その顔をターニャの顔に突き合わせ、自分が付けている仮面と似たような仮面をターニャに差し出し、静止しているが、その仮面を受け取るための手すら動かすことが出来ずにいた。
一体こいつはいつからそこにいた?
確かに誰もいなかったはず。
にもかかわらず、気づいた時にはそこにいたのだ。
ターニャ自身、少し気を抜いていた自覚はあったが、それでも簡単に背後を取られるほど腑抜けていた訳ではなかった。
だがしかし、警戒心が引き上げられると共に、目の前にいる存在の異様さも感じ取っていた。
どうして、この街に入った時に気付けなかったのだと、後悔してしまう程に………
それほどまでに強力な魔力反応をこの男からは感じる。
このバニルという男は一体何者なのだ……
ターニャがそのように困惑している間、最初のうちはなぜ仮面を受け取らないのだろうかと、不思議そうな雰囲気を醸し出していたバニルであったが、次第にその視線はターニャの姿ではなく、その奥を見透そうとしている瞳へと変わっていた。
しばらくの間その膠着状態が続き、それが5秒か10秒か、はたまた、1分程続いたのか、時が止まったかのように静止していたが、バニルが、上体を反らし、仮面を抑えながら高笑いを始めると共に、それは崩れた。
「フハハ!フハハハハハ!何とも数奇な人生を歩んでいる幼女よ!何かあると思ったが、まさかここまでとは!!おっと失礼、幼女ではなく“男”であったな」
ターニャはその瞬間、さっきまで動けなかったのが、嘘かのような反応速度で、拳銃を抜き、バニルに向けた。
「男!?お前まさか、ターニャくんだったのか?」
「うるさい!貴様は黙ってろ!」
「はい?!」
うるさい奴は黙らせたところで、この仮面の男は今何と言った?
間違いなく“男”と、そう言ったのである。
自分の前世がサラリーマンをしていた男だなんていうことは、ターニャがもといた世界でも誰にも話しておらず、もちろんこちらの世界に来てからも話してなどいない。
こちらの世界で話したのはせいぜい、ターニャがいた世界のことだ。
もちろんその事がバレたところで、生命に関わるようなことではないが、そんなことは問題ではない。
誰も知るはずもない、誰にも話していない自分の秘密を何故こいつはしっているのか、その事が重要なのであり、ターニャの本能に近い部分が、こいつを警戒しろと警鐘を鳴らしている。
「貴様は一体何者だ。どうしてその事を知っている」
「お初にお目にかかる、我輩はこの世の全てを見通す大悪魔、バニルである。我輩の目は全てを見通す故、我輩の前では秘め事なぞ無意味だと思った方がよいぞ?」
ゴーストの次は悪魔ときたか。
この世界は些か得体の知れない存在が多すぎはしないか、そう思わずにはいられなかった。
豊かな緑に、中世の街並み、更にはヒトならざる存在。
この世界にターニャは随分と驚かされ、そして注意が散漫となっていた。
異世界へ来てしまったとは言え、まだ前線を離れてから一日と経っていないにも関わらずこの体たらくぶりとは。
ターニャは自分の愚かさを呪いつつ、今の自分のような部下がいれば、間違いなく、再教育または、銃殺としているだろう。
それ程までに愚かだったのだ。
どうしてこのような化け物がいることにもっと早く気付かなかったのか、それも2人も。
「ウィズと言ったか?貴様も何者だ?どうして貴様のような奴がこんな所で店を営んでいる」
「えぇ!わっ、私ですか!?」
惚けているようだが、バニルの登場により引き上げられた、ターニャの警戒心は、バニルの異様さと共に、ウィズの異様さも感じ取っていた。
今は気の抜けたような顔をしているが、それでも感じ取れる魔力反応は、バニルと同等。
そして今のターニャは、思考をフル回転させており、ウィズと握手を交した際に感じ取った引っかかりの正体が何だったのか、既に気づいていた。
ウィズの手の冷たさ、最初は冷え性かと思ったが、それは違う。
あの冷たさは、戦場で何度も触れてきた、死んだ者の冷たさだ。
死人のような冷たさに、悪魔を名乗るものと同等の魔力、そして先程のゴーストの話をしていた時のサトウカズマの話を合わせると………
「貴様はアンデッドの類であろう?人ならざるものがここで何をしている」
「どうして私がリッチーだと分かったのですか!?た、確かに私はもう人ではありませんが………、私はただ…」
人でないことを認めたようだが、相手の正体を見破ったとしても、現状に変わりはない。
目の前には化け物が2人。
後ろにはサトウカズマか……
ターニャは、そこでふと思った。
サトウカズマは、この化け物達の正体を知っていたのだろうか、と。
知らなければ、ただの間抜けだが。
バニルの時然り、ウィズの時然り、こいつらが正体を口にした際、特に驚いたような反応はしていなかった。
つまり、敵は3人と考えるのが順当か。
私はこの男に騙され、ノコノコとこんな所までついてきてしまったのか。
「サトウカズマ、貴様私を嵌めたな?このような所に連れてきて、一体何が目的だ?もしや、私の銃を分解したのも、私から主要武器を奪うためか……?さては貴様ら、存在Xの差し金か!?」
「どうしてそうなるんだよ!というかそれは、被害妄想が過ぎるぞ……」
「ふむ、我輩としても、神と名乗るものの手先と間違われるのは、心外であるな。我ら、悪魔族は神の敵対者であるからして、むしろお主とは良い関係が築けると思うのだが?神を自称する輩に弄ばれし者よ」
神の敵対者?
確かにクソッタレな神を名乗る奴の敵対者であれば、喜んで迎え入れるが、悪魔信仰をするほど、落ちぶれてなどいない。
だが、しかし、こいつらから敵意を感じないのも、また事実。
こいつら一体何なのだ。
「なぁ、ターニャさんよ。いいから一度銃を下ろして、話を聞けよ。エリス様の時もそうだけど、1人で突っ走りすぎだぞ?俺もウィズも別にお前に危害を加えるつもりはないよ。確かにウィズは人では無いかもしれないけど、誰にでも秘密の1つや2つぐらいあるもんだろ?バニルも信用出来ないのは認めるけど、こいつも人に危害を与えるような奴じゃねぇよ。そうだろ?」
「フハハハハハ!いかにも。人はいつ誰が極上の悪感情を生み出すか分からないからな。そのような者達をどうして我輩が危害を加えようか!」
「だそうだ」
信用は出来ない………が、敵ではないか。
確かに、見知らぬ環境故に、少々過剰反応しすぎたやもしれん。
ターニャは、警戒心を抱きつつも、構えていた拳銃を下ろし、話を聞くことにしたのであった。