それは性的嗜好ではなく宗教
人は弱い。脆い。
情けないところのある生き物だ。
強固な意志を持つ者は稀で、多くはいとも容易く流される。
今の私のように。
それは、簡単に認められるものではない。
だから宗教に縋るのだろう。
寛容で、偉大な自己肯定の為の道具に。
19日目の精進潔斎に私は勤しんでいた。
辛かった。
苦しかった。
それ以外の言葉は無用の装飾だ。
語るほど陳腐になる。
ガリガリと削られた私の精神は、ただひたすらに我が神を乞い、依存し、それだけによって折れずにいた。
だがまだ残り1日。
しかし、あと残り1日の、修行。
全てが水に攫われた。
痛いほどの冷たさ。
朧になる感覚。
遠退く水面。
雨の中でも、無理をしたのが祟ったのか。
3日前には止んでいたが、体力は酷く消耗していた。
だから。
荒れ狂う流れから逃れることが叶わない。
困った。どうにか、したい。
どうしようもないわけだが。
何か、そう、何かが欲しい。
死を受け入れられる理由が。
死を受け止める余裕が。
救いが欲しい。
回らぬ思考。それでも、求める。
ああ、幼女、幼女、幼女よ。
願わくば死告天使よ、幼女であれ。
願わくば閻魔よ、幼女であれ。
願わくば獄吏よ、幼女であれ。
素面では日に一度しか思わないようなことを、死に際だからか、本気で、ただ一心に祈った。
そういえば、確か河とは龍神ではなかったか。
幼女に擬人化とかしてはくれないだろうか。
我が身を攫う龍神が、ロリだったなら。
溺死は最も苦しい死に方だと聞くが。
幼女のしたことだから仕方がない。
そう、諦めることができる。
大人しく、飲み込まれよう。
畝る激流は蠕動のようで。
暗い深みへと私を取り込む。
とても、艶めかしかった。
これが幼女の……体内、か。
体温を奪われ過ぎたのか、温かく感じる。
ゴオと鼓膜を揺らす音は、血流を思わせる。
どこかで聞いた事がある気がする。
あれは、どこだったろうか。
とても、穏やかな気分だ。
最後に、頭がギリギリと痛んで。
その先で、光を見た。
「その原因は、貴様の場合は、科学の世界で、男で、戦争を知らず、追い詰められていないからだな?」
声が聞こえた。
何故だか知らないが苛立っているようだ。
頻りに豊かな顎髭を手で梳いていた。
「ならば、その状況にぶち込めば、貴様でも、信仰心に目覚めるのだな?」
貞子よりも豊かな毛量だ。
あれではとても重いのではないだろうか。
見てくれは仙人のような老爺だ。
「今さら、媚びても遅いわ!」
それ程大きい声を出して大丈夫なのか。
何かの拍子に顎が外れても不思議ではない。
しかし、先程から誰と話しているのだろう。
と、思ったが。
もしかしなくても、耄碌しているんだろう。
施設から抜け出したのだろうか。
「もう、良い。分かった、ともかく、試してやる」
介護されている方も、大変だなぁ。
この様子だと、普段から職員さんに怒鳴っていそうである。なんとも横柄な人だ。
とりあえず、警察に連絡して保護してもらおう。
「貴様で試してやろうというのだ!!!!」
うん?
スマホはどこだ。
パンツのポケットにある筈……んん?
何故か、手の感覚が無いんだが。
どういうことだ?
……ああ、そうだ。
今さら、気づいたのだが。
私は死んだはずでは?
「ンガッ、ァガッ、ハーッ、ハーッ、アヴッ」
奇声がした方を見ると耳の前辺りを摩っていた。
顎を嵌め直したんだろう。
言わんこっちゃない。
その髭、半分くらい、いやいっその事全部剃り落としたらどうだろう。
「……お前も、大概だな」
ふむ?
目線があった。
なんというか、とても淀んだ目をしている。
「どうして解脱しようとしないのだ」
目を擦っているが可愛くない。有罪。
まさか、此方を認識できているのか?
解脱、というと確か仏教のだよな。
前世の記憶も無くして、輪廻から抜け出したいだなんて思うはずがないだろう。
「どうして信仰心を抱かないのだ」
む、もしや先達の方でございましたか。
これは、失礼いたしました。
ですが、どうかお待ちください。
オニャンコポンは、篤く敬っていますよ?
それはもう、日頃から片時も忘れずに。
ですが、延喜式巻10に記されている礼拝の仕方は少々、誠に遺憾ながらも、凡人たる私には荷が勝ちすぎたようなのです。
あるいは、巡り合わせが悪かったかと。
いや、分かっています!
私は確かに怠りました。
そこに救いを見出して、苦境に抗うこともなく。
漫然と龍神ロリの体内を流されました。
「何故だ、欠片も信仰心を感じられない」
そ、そんな!?
おお、神よ、お慈悲を、どうかお慈悲を!!
この不心得者の祈りも、お受け取りください。
「というか。龍神ロリだとか、オニャンコポンだとかは一体何なのだ」
オニャンコポンを、知らない……?
そんな、思わせぶりなことを言っておいて、実は同輩などではなかった、だと……。
落ち着け……落ち着け……。
ゆっくり、深呼吸だ。
息ができなかった。
そういえば、体がないのか。
まぁ、いい。
オニャンコポン、とは。
オニャンコポンとは二次元に御座す御方です。
しかし、四次元なら犯罪じゃありません。
「意味が分からない」
分からずとも問題はありません。
何も分からなくていいのです。
むしろ、分からないでください。
あなた、一般人なんでしょう?
「はぁ……」
あの、すっごい今更ではありますが。
心、読めるんですか?
「何を今更」
わぁお。あかん。死ぬ。
何がとは言わないけどバレたら終わりだ。
しかもこの老爺、心が読めるだけではないだろう。
先の独り言がもし本当ならば?
転生を司る何かなのではないか?
つまり、なんだ、絶体絶命だ。
「……はぁ、なるほど。お前、ロリコンか」
「ええ、ロータリーエンジンは実に背徳的です」
あのくびれ、惹き込まれるような動き、芸術的発想、洗練された機能美、エクスタシーを感じずにはいられません。
ほんとほんと。
あぁん、えくすたしぃかんじちゃうぅ。
……胃袋もないのに吐き気がする。
もうだめだ、終わった。
これは完全にバレている。
せめて畜生道に落としてくれ。
そうしたら、チワワに生まれ変わるんだ。
チワワに生まれ変わって楽しいことするんだ!
幼女と楽しいことするんだ!!
「わたしのほかに神があってはならない」
はい?
「姦淫してはならない」
はぁ。
なんです、突然。
聞いたことはある気がしますけど。
「貴様はこれを破っている」
そのように仰られましても。
……ああ、十戒でしたか。
思い出しました。
でも私、某一神教教徒ではないのですが。
「はぁ……もう面倒だ。貴様も送るか」
ゑ?
チワワ刑ですか?
「魔法の世界で、戦争の真っただ中で、女にして送ってやると言ってるのだ!!!!」
やったぜ。
幼女に転生させてくれるらしい。
合法幼女(自分)。
貴方が神か。
そういや神なんでしたっけね。
あ、でも待って。
「ンガッ、ァガッ、ハーッ、ハーッ、アヴッ」
戦争の真っただ中、だって?
何がとは言わないが色々危険なのでは?
あかん。
生まれ変わった所は随分と近代的だった。
ガブリエラ・ドーレス・ハイゼ。
今生の名だそうだ。
両親は駆け落ちの末、ろくな稼ぎもなく、父親はどうも運び屋かなんかやって、失敗したらしい。
帰ってこなくなり、日に日に窶れていった母は見ていて辛かった。
そのうち、母乳も出なくなって、冬が来て。
どうにもならなくなった母親は子供を、私を修道院に置いていった。
ポロポロと零れ落ちた水滴。
表情の抜け落ちた顔から降ってきたそれは、母に残った最後の感情のようで。
ふらふらと去った彼女は、多分、死んだのだろう。
もう、優しく、温かい、私だけの為の子守唄を聞くこともない。
「私の可愛い小さい子」
「ガブリエル様に救われた」
「恩寵あつき私の幸福」
「私の愛しい大事な子」
「私の愛しいガブリエラ」
冷たく雲が棚引く夜。
細い月光に絡まるように、滔々と響いた歌。
私は奇跡によって生まれ落ちたそうだ。
死産の子に、私を吹き込みでもしたんだろう。
生まれた時から神の玩具なのだ。
わたしだけじゃない。
胎を弄ばれた母もだ。
なんともやりきれない。
悍ましく、呪わしく、愛おしい名前。
私の名前は、ガブリエラ・ドーリス・ハイゼ。
健気な母の為にも。
ロリコンを抑えて生きていきたい。
「ターニャぁぁぁあああ゛あ゛あ゛」
なるべく。
ぼちぼちと更新していく予定です。
残念ながら、モチベーションは有限なんですよね。
さて、一般人のガブリエラ。
ええ、一般人なんです。
マッドな主人公を書くと、後で心が痒くなると分かってしまったので、一般人メンタルです。
主に作者のストレス発散の為の作品なので、今後の展開はまだ考えてないです。はい。
ですがまぁ長いお付き合いになったらいいなとは。
どうぞ、気長によろしくお願いします。
ぴーえす
大幅改訂、加筆しました。
本作は主人公がターニャちゃんに纏わりつこうとする作品になりそうです。