幼女の日常   作:雨英

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それは神ではなく存在x

 祈れ、働け。

 Ora et labora.

 

 とは有名な某所のモットーである。

 

 だけど残念ながら、ここの修道院はとても貧しい。

 祈りと労働とを半々で行う余裕なぞない。

 

 まぁそれはそうだろう。

 

 育てきれないと置いてかれた子供達を文句も言わずに引き取っているのだから。

 無理が出ないはずがない。

 

 というわけで。

 

 祈れ、働け、働け、働け、働け。

 

 うちの実態はこんなところである。

 修道院の本分の一つである祈る時間は、朝と食事前と、安息日たる日曜日くらい。

 

 でも住人の殆どは子供だ。

 

 寝て、働き、遊び、働き、遊ぶ。

 

 正確を期すならばこうなる。

 ただ、本来なら遊ぶのも子供の仕事だ。

 

 年長の子は厳しく怒る。

 けれど、大人達は困ったように笑うのだ。

 

 そんな大人達に甘えて、私はお友達にじゃれつく。

 

 

「ナっ、タっ、リー!」

「わぁっ」

 

 勢いを加減しながら背中に飛び付く。

 彼女は驚いて、種を入れた袋を抑えた。

 

「危ないよガビ」

 

 ナターリヤちゃんは赤みがかった髪をした灰色の瞳の子、見た目の通りスラブ系。

 こっちの世界ではスラブ系というのだろうか? 

 

「だいじょーぶ、どうせ畑に撒くんだし」

「駄目だよ? 何言ってるの?」

 

 あかん。口が滑った。

 

「まさか、適当に撒いてなんかないよね」

 

 品行方正というより、食い意地張ってる子。

 いや、みんな食い意地張ってると言えば張ってるんだけれども。それはそれとして。

 

「ハイ、ちゃんと撒きマシタ」

「本当に?」

 

 この子、怒らせると大変なのだ。

 

 ずっと口を聞いてくれなくなる。

 これは、死活問題である。

 

「イエス、マム」

「よし」

「んふ〜」

 

 あぁ、幼女のなでなで気持ちいい。

 

 ふふふ、羨ましかろう、羨ましかろう。

 あの日以来、彼女からのご褒美はこれだ。

 

 

 きっかけは硬すぎるバゲットでチャンバラした時だ。

 

 いやぁ前世は男なものでね。

 心が疼いてしまって仕方なく、そう、仕方なく。

 馬鹿共に混ざって遊んでたんですよ。

 

『何てことしてんの?』

 

 彼女、怒りが一周回って無表情になってた。

 

 それからが本当に辛かった。

 

 目を合わせると逸らされる。

 前に立つと避けられる。

 話しかけても無視される。

 パンで買収されてもくれない。

 

 いやぁ、胸の奥がキューっとね。

 縮んで痛くなるんですよ。

 

 ……ハッ!! 

 これが……恋……っ!? 

 

 恋はさておき。

 

 結局、無理矢理抱きついて泣いてたら許された。

 仕方ない子を見る目で撫でてもらいました。

 

 いやぁ、チョロい。

 女の子の扱いなんてお手の物ですよ。

 

 ああ、そうそう。

 これは彼女には言えないことだが。

 

 前世ではすっかり忘れていたが、頭を人に撫でてもらうのはとても心地良いもので。

 このご褒美を貰うのは何にも代え難い至福の時となっている。

 

 

 ……待て。待つんだガブリエラ。

 

 人に生まれたのになぜ自ら犬になっているんだ? 

 

 

「ナタリー、手伝うから種分けて」

 

 

 私は人間だ、立派な一人のロリコンだ。

 

 

「ほんと? ありがとね、はいなでなで〜」

「えへへ〜」

 

 ああああオキシトシンに侵されるぅ〜。

 

 

 私はナタリーの犬です。

 

 ワオ、背徳的ィ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでいろんな幼女に絡みつつ(浮気ではない)毎日グダグダ過ごしているわけだが。

 

 まだ関われていない幼女がいる。

 

 

 ターニャちゃんである。

 

 

 なかなか近寄り難い雰囲気をしてる子だ。

 

 無口な子は他にもいる。

 大人びた子だっている。

 それは別に不思議なことでも、珍しいことでもない。

 

 むしろ、明るく振る舞う私が異常ですらある。

 

 事情は色々あるにしても、ここに来るのは親から手放された子達だ。

 悲哀なり、怨恨なり、その小さい身には過分なものを背負っている。

 

 血縁というのは、案外軽くはない。

 

 まぁ、これについては私も例外ではないが。

 

 

 近寄り難い、と言ったのは。

 彼女が何を考えているのか分からないからだ。

 

 ほんとに分からん。

 

 普段は労働は適度にこなしつつ。

 暇なら本を読むか聖堂に行くようなのだが。

 それ以外になにかしてる様子はない。

 

 お分かりいただけただろう。

 どうも彼女、まったく遊んでないのだ。

 

 とても困った。

 

 お前ほんとに幼女か? (困惑)

 

 遊んでるならば絡むのは容易い。

 遊びに混ぜてもらうだけだ。

 

 でも文学少女に絡むなら最低限の教養は必須。

 下手に絡めば邪魔者扱いされて終わり。

 

 初手からハードルが高かった。

 

 しかもだ。

 ちょろちょろと回りを嗅ぎ回ってみたのだが。

 

 彼女、帝国語の読みをマスターしてるっぽい。

 帝国語と連合王国語の辞書を使って。

 

 そんなの、義務教育受けてる年長の子でも、引っ張り出したりなんかしてないぞ? 

 

 

 お前ほんとに幼女か? (白目)

 

 

 前世は大の男であった意地もある。

 大学まで卒業してるから相応の語学力もある。

 私だってできるだろうと、負けまいと努力した。

 

 彼女の真似をして、同じ帝国語と連合王国語の辞書をふらつきながらも机に乗せたまではいい。

 

 幼女の体のせいなのか。

 親しみのない二つもの異なる言語を前に、脳味噌が茹で上がった。

 

 帝国語はもちろん読めなかった。

 読めなくて辞書を持ってきたのだから当たり前だ。

 

 もう一方はというと、連合王国語は読めなくはなかった。が、古めかしいし綴りも用法も知ってるものと違っていたりした。

 面倒なことこの上ない。

 そして幼女は面倒なことができない。

 

 両方の読解を熟す? 

 出来るはずもないに決まっている。

 

 なんであの子はできるんだろうね。

 きっと天才なんだよあの子は。

 私は天才じゃないからしかたないね。

 私は転生者なんだけどね。

 

 HAHAHA☆

 

 

 せめて、日本語の辞書があればよかったのだが、この修道院には置いてなかった。

 まぁ、そもそも日本語の書籍がないから仕方がない。

 

 

 とはいえ、私はロリコンである。

 これしきのことで屈しはしない。

 

 普段から私はいろんな幼女と会話してるから、発音は私にも分かっていた。

 そして幸いなことに、単語ごとの発音記号が辞書には載っていた。

 

 あとは幼女との素敵な会話の記憶で気力を補充しながらのデスマーチ。

 なんとか絵本や聖書を読めるようになった。

 

 ついでに卑猥な言葉を覚えたのは男の性だ。

 

 

 そんなこんなでやっと簡単な帝国語の読みを習得した私が、せっせと絵本を読んでる合間に。

 

 彼女はもう歴史書を読み解いていた。

 信じ難い学習速度である。

 手に持っていた絵本を危うく落としかけた。

 

 

 お前ほんとに幼女か? (呆然)

 

 

 折角色んな絵本を読んだというのに。

 まさか、既に難しい本を読んでいる彼女に、絵本の話をしにいくわけにもいくまい。

 

 目が合ったけれど、つい逃げてしまった。

 

 他の子と遊ぶのも続けながら、歴史書も読む? 

 読み終えた頃には、彼女は更に難しい本を読んでいるに決まっている。

 

 

 まだ学習は続けてはいるが、文学少女作戦は無期延期とすることにした。

 

 

 次なる作戦は聖少女作戦である。

 

 どんな内容かというと。

 

 彼女が聖堂によく行くことはもう話しただろう。

 

 そこで「私も〜」と言って一緒にお祈りする。

 初めての共同作業を終えたらピロートーク。

 礼拝堂で破廉恥なことをする背徳的な作戦だ。

 

 つまり、遊びに混ぜてもらう作戦の亜種である。

 

 この作戦は聖書を学習に使っている時から実行することも視野に入れていた。

 なんだかんだで決行を引き伸ばした理由は、主に私情である。

 ガブリエラだなんて名前をしているが、あの爺さんやらガブリエルを敬う気にはなれなかったのだ。

 

 母は、たぶん彼らに感謝しているだろう。

 

 何せ私は、駆け落ちまでした二人の愛の結晶だ。

 ガブリエルに名前をあやかるほど、彼女は心の奥底深くから救われたのだろう。

 死産のままだったなら、母の心はその時点で折れていたかもしれない。

 

 私は彼らをとやかく言う資格を持っていない。

 死んでほしくなかったとはいえ、別れたくなかったとはいえ、母の愛に訴えかけ、彼女を生き長らえさせたのだ。

 彼女が自殺を試みたり、私を捨てようとする度に、みっともなく泣き散らして。

 余計に苦しい思いをさせたのだ。

 

 それでも。

 

 母が彼等に翻弄されたように思えてしまう。

 良いように利用されたとしか思えない。

 

 いや、違うな。

 

『恩寵あつき私の幸福』

 

 母からの、私への愛に。

 彼等が紛れ込んでいるのが許せなかったのだ。

 母を救わなかったくせに、と。

 

 まったく、人の事など言えないな。

 本当に、血縁は、重い。

 

 母は、天国に行けたのだろうか。

 父は、どうだろう。

 後暗い仕事で死んでしまったなら、行けるかは怪しいかもしれない。

 

 死後の世界なんてろくでもないと思ってはいるが。

 彼女は信じていた。

 だから、どうか。

 

 天国で二人が出会えてますように。

 

 そんなことを祈ろうと思う。

 

 

 今日、初めて私は自発的に聖堂へ踏み入る。

 

 うちの修道院は貧しい。

 けど、だからといって聖堂までみすぼらしいということはない。

 仮にも神の国の領域を粗末なものにはできない。

 そんなところだろうか。

 

 当たり前な話、どんなに神聖なものだろうとも建築するには相応の費用がかかる。

 むしろ神聖なものほど、豪華につくる為により多くのお金を必要とする。

 とある大聖堂は免罪符を売ってまで作られたとか。

 帝都ベルン郊外にあるうちの修道院も、それなりのお金を払って建てられたことは間違いない。

 その内の少しでも暮らしの為に残しておいてくれたら、もっと楽な生活ができたのではないか、なんて。

 働くのが面倒な私は思ってしまう。

 

 我らが修道院の造りは比較的新しい。

 新しいとはいっても、数百年前の様式だけど。

 窓は広く、天井は高く。

 聖堂はとても開放的な空間となっている。

 ドームの明り取りは、精巧に彫り込まれた装飾の内の、ヒエラルキア的にちょうど神様がいるはずの位置にある。

 なんともあざとい演出である。

 

 でも残念ながら、本物は小細工も無しに、本能で理解させるのだろう。

 

 本物とは? 

 

 目の前の幼女のことだ。

 

 キラキラと、ステンドグラスを通して色付いた光は小柄な彼女を照らし出していた。

 

 

 どう見ても天使であった。

 

 

 煌びやかに陽光に祝福されて、今まさに天から舞い降りたかのよう。

 見る者全てを圧倒する姿だった。

 あの天才ぶりも、神の御加護なのかもしれない。

 

 しかし、ここで退いてはロリコンの恥。

 

 絨毯に助けられて、足音を殺しながら。

 恐る恐る彼女の横へと足を進める。

 

 そう、まだ作戦の序盤。

 彼女と一緒に祈ろう、の前である。

 緊張しすぎてピロートークを熟せるか心配だ。

 

 

 だがそれは、無用の心配であった。

 正しくいえば、皮算用だった。

 

 ゆっくりと隣に立って、膝を着く前に。

 

 

 そうだ、ターニャちゃんの横顔見ちゃお。

 そう思ったが運の尽き。

 

「ぴっ」

 

 私は見てしまった。

 

 

 悪鬼も逃げる、とんでもない形相の彼女を。

 

 

 突然過ぎるホラーだった。

 いや、ホラーは突然襲ってくるものだが。

 

 彼女は美幼女である。

 

 私は一発で顔と名前を覚えれた。

 そんな綺麗なお顔が、悪魔憑きとか、そういうのを連想してしまうくらい歪んでいたのだ。

 

 もう恐ろしいこと恐ろしいこと。

 

 だからちょっと漏れた。

 男の頃なら驚くくらいで済んだだろうが。

 今生は貧弱な幼女だったから。

 

 うん、仕方ない。

 仕方ないんだよ!! 

 

 

「タ、ターニャちゃん、どうかしたの?」

 

 無けなしの勇気で私は聞いた。

 

「ぴっ」なんて情けない声で気づかれしまったからには、策など無用、総員着剣、銃剣突撃の思いでアタックである。

 

 まぁどうせ、何かあったんだろう。

 例えばマセガキにスカートを捲られて天罰を祈っていたとか、そんなところではなかろうか。

 

「……なんでもない」

 

 ンマァ、なんてつれない子でしょう! 

 

「なんでもない」ではない。

 君は会話スレイヤーなのか。

 

 私のパンツが犠牲になった以上、意地でも会話を続けてやるっ! 

 

「いやいやいやいや、絶対何かあったでしょ。あ、えっと、私ガブリエラって言うんだけど」

 

 

「ガブリエラだと?」

 

 

「ひあっ」

 

 こあい。

 

 よんぱくがん? 

 なんでよんぱくがんするの? 

 

 何もしてないのにめちゃくちゃ睨まれた。

 びっくりして乙女な声出た。

 ぱんつがたいへん。

 

 なんにもしてないのに。

 

 

 いや、本当に、何もしてない。

 信じてくれ。

 

 第一印象は大事だからこそ、噂になるような変なことは多分してない。

 私はロリコンはロリコンでも、馬鹿なロリコンなんかではないのだ。

 

 

 ないんだけどもしかしたら何かしちゃったかもしれないので聞いてみようと思いマス、ハイ。

 

「ガ、ガブリエラ何かししししちゃった?」

 

 だめだぁ……。

 あ、顎が震えて……震えて……。

 いやでも本当に怖かったし……。

 

 

 お前ほんとに幼女か? (号泣)

 

 

「い、いや、ガブリエルはそんざ……神様の遣いとして有名だから、つい……。大丈夫か?」

「だいじょぶよ」

 

 幼女に心配された。

 ロリコンなので嬉しいです。

 だけど何かの尊厳がいよいよ危ういです。

 

 まぁ、でも良かった。

 収穫はあった。

 

「わたしもガブリエル嫌い。神様も嫌い」

「うん?」

 

 ターニャちゃんは神様を心底嫌ってる。

 さすがに驚いたけれど。

 

「だって、自分勝手だもん」

 

 この感情は、共有できそうだ。

 

 

 

 

 

 

「あれは神などではない」

 

 

 彼女は言った。

 

 

「悪魔ではないと自称していたが」

 

 冷然と。

 

「神ならば世の不条理を正すものだ」

 

 厳然と。

 

「私には悪魔としか思えないが」

 

 断然と。

 

 

 

「存在xと、呼んでいる」

 

 敢然と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ターニャちゃん。

 どんな本に影響されちゃったんだろ。

 

 天才の感性は分からないや。




お気に入り登録と投票ありがとうございます!
反応が貰えるのは本当に嬉しいものです。
ご期待に添えるよう頑張りたいとは思うのですが。

なんか、主人公のロリ化が著しいです。
これでも修正を図ったのですが。
ガックリきた方には申し訳ないです。

興が乗って書いたはいいんですけどね。
まぁ、諦めてマイペースに続けるつもりです。
良ければ今後とも是非によろしく、でございます。

ぴーえす
文章に脈絡が無いところを改訂しました。
推敲のすの字もやらないからこんなことに……。
礼拝堂→聖堂に訂正。

感想ありがとうございます!
とっても嬉しいです!
後ほど返信いたします〜。
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