狂咲の赤椿   作:駄文書きの道化

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第9話

「……落ち着いたか?」

「……すいません」

 

 

 シャワーから上がった鈴音にコーヒーを振る舞いながら千冬は問いかける。普段はツインテールに結ばれている髪はストレートに下ろされている。目はまだどこか虚ろで、鈴音は心在らずと言った様子だ。

 千冬は重たく溜息を吐き出す。外ではまだ雨が降っている。雨粒が窓を叩く音が妙に部屋の中に響いていく。鈴音は用意されたコーヒーに口を付ける事はなく、ただぼんやりとコーヒーの水面に映る自分の顔を覗き込んでいる。

 千冬は鈴音との接点はあるようであまり無い。一夏と仲の良い女友達という事で少しばかり言葉を交わしただけで、詳しい事情も知らないし、込み入った話をした事がある訳でもない。

 ただ、それでも今の鈴音がまともな状況でない事ぐらいわかる。どうしたものか、と千冬が頭を悩ませていると、鈴音が顔を上げて自分を見ている事に気付いた。千冬と鈴音の視線が合うと、鈴音はようやく重たい口を開いた。

 

 

「……千冬さんは、篠ノ之と知り合いなんですよね?」

「……篠ノ之と何かあったのか?」

 

 

 びくり、と鈴音の肩が震えた事を千冬は見逃さない。まるで怯えているような姿に、ここに居ない箒への苛立ちを千冬は募らせる。あの抜き身の刃物めが、と悪態を吐きたくもなる。だが原因の一因には自分も噛んでる以上、言葉を慎む。

 再び重たい沈黙が落ちる。千冬はただ鈴音の言葉を待っている以上、鈴音が言葉を発さなければこの状況は前にも後ろにも進まない。もどかしい思いを抱える千冬を前にして、ようやく鈴音は再び口を開いた。

 

 

「……千冬さんは、知ってるんですよね?」

「何をだ?」

「篠ノ之が、自分の姉を殺したがってる事を」

 

 

 今度は逆に千冬の眉がぴくり、と上がる番だった。鈴音が見上げてくる視線を見返しながら千冬は目を細める。一体、どうして箒が鈴音に漏らしたのかはわからないが、彼女は知ってしまったようだ。

 あの冷え切った闇の底を。その闇に沈みながら殺意で自らを研ぎ、己を憎悪の刃と変じさせた。拒絶の刃は鋼よりも冷たくも、刃を研ぐ憎悪の焔は何よりも熱い。そんな矛盾を抱え込んだ箒の姿を。

 

 

「あぁ、知っているとも」

「……そうですよね」

 

 

 千冬の返答に、鈴音は視線を落として呟く。鈴音の身体が小刻みに震えていた事に気付き、千冬は眉を寄せる。

 

 

「……アイツは、私なんです」

「……凰?」

「アイツは、誰にも助けて貰えない私なんです。ソレを見せつけられた。だから、私は、まだ救われてたんだって……!」

「凰、落ち着け」

「なんで! 千冬さんはアイツの事を放っておくんですか!?」

「凰ッ!」

 

 

 鈴音の叫びのと同時に千冬は鈴音の肩を掴んで落ち着かせようとする。明らかに鈴音の呼吸が速い。焦点が合っているようで合っていない。正気じゃないのが手に取るようにわかる。

 千冬は鈴音の傷を知らない。ただ察する事は出来る。それは彼女の経歴から、彼女の家族関係の事は把握しているからだ。両親が別れ、日本から中国へと引っ越しをせねばならなかった経緯を。

 そして、鈴音が一夏の事を好いていた事も察していた。故に状況を揃えていけばどうにも合致してしまうのだ。鈴音と箒の背景は細部こそ違えど、よく似ているのだ。理不尽に思い人と引き離され、家族すらもばらばらにされた。

 それがどれだけの苦痛か、知らない千冬ではない。彼女とて一夏以外の家族を失った身だ。そして一度は一夏を失いかけた事だってある。故に家族と引き離される痛みが、引き離そうとする理不尽がどれだけ憎いのかを千冬はよく知っている。

 

 

「……なんでですか? アイツは、私なんです。私と同じなのに、あんな……あんな……!」

 

 

 ――あんな、おぞましい姿に成り果ててしまうのか。

 口にこそ出来なかったものの、鈴音は思っていたのだ。あの箒の姿が恐ろしいのだと。一歩間違えれば自分があんな姿になっていた可能性がある事が恐ろしかった。突き付けられた事実が自分に安堵させ、そして故に箒が恐ろしくも哀れに思えるのだ。

 それが鈴音の胸を締め付ける。人が深淵を覗き込む時、深淵もまた人を覗き込んでいる。鈴音は魅入られてしまったのだろう。自らが陥ってしまったかもしれない憎悪の行き着く成れの果てに。

 

 

「……凰、お前は篠ノ之じゃない」

「同じです」

「凰、違う。お前は違う」

「同じじゃないですか! アイツは言ったんです! 一夏は幼馴染みだって! 巻き込む気はないって! ただ狂ってるだけなら、どうでも良い筈なのに……! アイツは! アイツは……!」

 

 

 ――まるで、宝物のように一夏の名を呼んでいた。

 察する事が出来ない鈴音じゃない。同じ思いを抱く以上、共感があってもおかしくない。共感が出来てしまったが故に箒の心情を察する事が出来た。察する事が出来てしまったのだ。

 狂っている自分を受け入れながらも、どこまでも自分を否定していて。でも否定しきれないからこそ狂うしかない。壊れる事を自覚しながら、ただそれを受け入れる事しか出来ない。自覚しているからこそ遠ざけようとして、自分とは関わりないものだと捨てようとする。

 本当は捨てたくない癖に。ただ苦痛から逃れたくて自らを削ぎ落としていく姿を目の当たりにした鈴音は当てられてしまったのだ。箒の狂気に。自らにもあった片鱗を自覚させられて、どうしようもなく恐ろしいのだ。

 じゃあどうして誰も彼女を救わないのだと、自分は救われたのに。救われた事に安堵出来ればどれだけ良かっただろうか。なのに鈴音がそれだけを享受出来なかったのは、あれだけ狂っても箒が慈しみを忘れていなかったから。

 圧倒されてしまったのだ。あんなに憎悪に浸りながらも、無闇に殺意に塗れたい訳でもないと。知ってしまえば、振りまかれた殺意が自らに寄せ付けぬようにする為の拒絶なのだと知って、更に胸を打たれた。

 

 

「なんで……あんなに苦しまなきゃいけない人がいるんですか!? 同情? そうですよ、同情しますよ、あんなの! 同情出来なきゃ、私はどうすれば良いんですか!? だって私は救われたのに! 気付いちゃったのに!」

「凰、お前……」

「知ったら、もう無視出来ない……!」

 

 

 知りたくはなかった、と鈴音は叫ぶ。自分が為り得た可能性を目にして、それでも尚、まだ壊れきっていない箒の姿を見て、知ってしまったのだ。彼女が抱える歪みと悲しみを。

 それを知りながらも彼女の最後の希望とも言える一夏に思って欲しいなど、あぁ、なんと後ろめたい事か。きっと一夏が誰かの思いを受け止めて、結ばれたとしても。箒は笑って祝福するだろう。

 かつて抱いた気持ちを置き去りにして、これで何の憂いもないと言うように全てを捨て去るだろう。目に見えてわかる崩壊の結末、それを箒は受け入れているどころか、望んでいるだなんて笑えない話だ。

 知りながらも、自らの手で1人の人間の崩壊の引き金を引くだなんて、なんて恐ろしい事か。知りたくはなかった。知ればまだ、ただ一夏を好きでいれたのに。そう思ってしまう自分すらも身勝手に思えて、鈴音は苦しげに吐息を零す。

 理解出来てしまったが故に、鈴音は箒の思いに引き摺られてしまう。故に雁字搦めにされてしまった鈴音に取れる道などもう1つしかない。――引き上げてしまうしかないんだと。

 

 

「誰にもどうしようも出来なくて、無視も出来ないなら! 私がどうにかするしか無いじゃないですか!! じゃないと、じゃないと誰も幸せになれないだなんて……!! どうして……!? どうして、こんな事になってるんですか!? 篠ノ之は……どうしてあんな事になってるんですか!? 答えてよ、千冬さんッ!!」

 

 

 鈴音の叫びに千冬は息を止めた。目を見開かせて鈴音を見つめる。悲痛な叫びを上げる鈴音の顔には悲壮な決意が浮かんでいた。

 心が、箒と自分の重なる姿によって締め付けられていく。自分の思いが身勝手な思いに思えてきて、けれどそんな事はなくて。否定しようと藻掻いても、藻掻けば藻掻くほど深く食い込むように、箒の面影が消えてくれない。

 ならば消し去るしかない。無視も出来ないならば消し去らなくてはならない。そうしなければ、自分はどう足掻いても報われないなんて。そんなの理不尽じゃないか、と鈴音は叫ぶ。

 一体、どうして? そう問いかける鈴音の瞳はまるで千冬を責めているようにも見えた。千冬にそう見えたのは、少なからず負い目があるからに違いない、と千冬は頭を項垂れさせた。

 

 

「……つくづく、私は愚か者だと自覚させられる」

「……千冬さん?」

「すまん……すまんな、凰。お前に背負わせる事になってしまった」

 

 

 弱々しく呟く姿に鈴音は目を見開かせた。こんなに弱った千冬の姿など見たことはなかった。今にも折れてしまいそうな、そんな弱々しい雰囲気を出す千冬なんて想像も出来なかったのだ。

 世界が認める“世界最強”、それ相応の振る舞いを千冬はし続けていたから。だからこそ鈴音は信じられない、という表情で千冬の顔を見つめる。

 

 

「……ある話をしよう」

「ぇ?」

「昔、女の子がいた。その女の子には両親がいなかった。家族は弟だけ。……自分が姉だから弟を護らねばならない、と考えていた。求めたのは力であり、立場であり、親の代わりを務めようと藻掻いていた、そんな女の子だ」

 

 

 それって、という鈴音の呟きに、千冬は首を振る。まずは黙って聞け、と言うように。

 

 

「だが、その女の子の意思や願いと裏腹に、弟は案外しっかりものでな。それに助けられる事が多かった反面、その女の子は焦っていたんだ。弟を護らなければならないのに力が足りない。至らない、至らない、そんな思いに囚われていた。

 そんな余裕の無い子供が、碌に友達が出来る訳がない。……が、その女の子は孤独ではなかった。何故なら、たった一人だけ親友を呼べる友人がいたからだ。

 そいつは……馬鹿だ。簡単に言うならば底抜けの馬鹿だ。だが、それ故に天才だった。天才が故の馬鹿であり、馬鹿故の天才であった。だからこそ、どこぞの女の子と同じように孤立していた」

 

 

 懐かしむように語る千冬の表情が、段々と無表情になっていく。それはまるで己の罪を告白するようにも鈴音には見えていた。

 いや、実際に罪の告白なのだろう。千冬が明かす後悔。それは箒の狂気に繋がる何かがあるのだろう、と。

 

 

「互いに似ているようで、まったく似てない。噛み合うように見えない二人が連むようになったのは、ある意味必然だったのかもしれない。

 噛み合わないようでよく噛み合ったんだ。弟に代わり、明確に護っているという事を実感出来るそいつを、何だかんだ言って切り離せなかったんだ。自分が護ってやらねば、という、弟へしてやれない事への慰めだったのやもしれん。

 逆に、天才だったそいつは自身を守ってくれる守護者を望んでいた。噛み合うのは必然で、そこから切り離せない縁になるのは時間がかからなかった。

 そうして傷の舐め合いが続いた。護れぬばかりの弟への申し訳なさから、護っているという優越感と達成感を求めた女の子と、孤独を埋める為と、自分を理解してくれて、護ってくれる者を求めていた女の子は、な」

 

 

 吐き捨てるように告げる千冬の胸中には一体、どんな思いが渦巻いているのだろう、と鈴音は千冬の瞳を覗く。千冬の瞳は何も語らない。ただ、ただ深い闇のような瞳がぼんやりと虚空を見つめていた。

 

 

「その関係が崩れたのは……ISが公表された時からだ。その女の子は力を手に入れたよ。国すらも追随を許さない、世界で最強の称号すら手に入れた。あの時、誰よりも自惚れていただろう。

 ――これで、弟に楽をさせられる。もう弟に何も強いる事はない。弟は弟のまま、好きなようにやらせて、好きなように生きて貰える、と。あの力ならば、と。……考えていたんだ」

 

 

 千冬は顔の半分を隠すように片手を添えた。その顔は笑みに歪んでいた。どうしようもなく、可笑しくて堪らないと、話の中の“女の子”を嘲笑うように。

 

 

「だが結局、守れなかった。それどころかトラウマになってもおかしくない事件まで起きた。我に返った時には、私には不要なしがらみが幾多にも巻き付いていた。そして気づいたんだ。……私では、守れない、とな」

 

 

 はは、と漏れた声は、まるで泣いているようにも聞こえた。最初は客観的に話そうとしていた言葉が自分自身の話へと変わっている事に千冬は気付いているだろうか。

 胸が締め付けられるように痛い。だけど、耐えなければ、と鈴音は歯を噛みしめた。

 

 

「滑稽な話だろう。護ろう、護ろうと躍起になっていたが、実の所、離れていたんだ。護れるつもりになって、護る気のまま、本当に何一つ護れないまま……私は、弟の傍を離れざるを得なかった。

 ……辛かったな。傍に入れない苦痛も、傍に居ても苦痛を覚えるというのは」

 

 

 それは克服された、という訳でもない。

 それは改善された、という訳でもない。

 今でも千冬はその傷を引き摺っている。

 

 

「更に極めつけだったのは、私が護ろうとも思わずに結果的に護った親友だった。アレは……いつしか、私を中心とした、私に付随するものにしか目を向けていなかった。

 アレは、私に依存していた。私が護りすぎたんだ。なのに私はアイツにまったく関心が無かった。私達のすれ違いは気づかないままに広がり……私は、アイツを狂わせた。我に返ってみれば、世界は一変していた。私は女尊男卑の象徴となり、そしてアイツは笑うんだ」

 

 

 ――『良かったね、これでちーちゃんが世界で一番だよ!』

 

 

「アイツはただ私に好かれたくて、褒められたくて……ただ純粋なだけだった。だが、邪気無くとも、それは悪意と何ら変わりがなかった。それでも私は否定出来なかったんだ。アイツを壊すとわかっていてもアイツを否定出来なかった。……それぐらいには、私もアイツを思っていたんだろう。それが更に多くの人間を壊すとわかっていても」

 

 

 だから、そこで彼女の戦いは終わったのだと悟ってしまった。彼女は敗者なのだ。誰よりも世界に名を残し、今でも尚称えられるその英雄の中身は……本当に得たかったものを見失い、誰よりも世界を混乱させた筆頭の一人として心を痛めるただの人。

 

 

「私が教師なんて柄でもないものを引き受けたのも、もう二度とどこぞの“馬鹿者”は生み出さない為にだ。あんな惨めな思いをするのは私だけで良い。今度こそは間違えないように、護りたいんだ。……そんな思いがあって、私はここにいる」

 

 

 そう言って笑う千冬の姿は、強かだった。誰よりも痛みに泣きたい筈なのに、その涙を誰にも見せる事無く、ただ立ち続ける。

 余りにも痛ましい姿だった。直視する事が出来なくて鈴音は視線を逸らしてしまった。こんなボロボロになってまで、果たして彼女は何を守れたというのだろうか。

 

 

「……お前が羨ましいな。尊敬に値するよ。凰」

「え……?」

 

 

 突然投げかけられた千冬の言葉に、鈴音は勢いよく顔を上げた。穏やかに笑っている千冬の瞳には羨望の色が見える。眩しげに目を細めている千冬に、ただ鈴音は困惑する。

 

 

「私とて箒が精神的に危ういのは知っていた。何せ原因だからな。だが、私は知っていても何も出来ないんだ。私の言葉がどれだけ箒に届く? 何を言ってやれば箒を救ってやれる?」

「……それは」

「私は箒に憎まれているからな。ただ私が許されているのは一夏の姉だからだよ。ははっ、また私は一夏に護られているんだな。……本当になんて無様」

「千冬さん……」

「すまん。……仕方ないんだ。私は束の共謀者だからな」

 

 

 千冬は自嘲するように笑みを浮かべる。が、すぐに表情を戻して鈴音へと視線を送る。

 

 

「お前は箒の闇を突いた。そして共感してしまった。それが良い事なのか、悪い事なのか。私には判断出来ん。……だが、もしも、だ。凰」

「……はい」

「頼まれてくれないか? 箒を、私の親友の妹を支えてやってくれ。私達が叩き落としてしまった闇からあいつを掬い上げて欲しい」

 

 

 息が詰まる思いで一杯だった。目の前に頭を下げる千冬がいる。千冬の言葉が何度も何度も頭の中でリフレインする。鈴は背に汗が浮かぶのを感じながら、自らを落ち着かせようと息を吸う。

 救って欲しい、と。千冬は言ったのだ。世界最強であり、憧れの通りであり続ける千冬が、自分に頭を下げてまで言ったのだ。その事実が心臓を馬鹿みたいに跳ねさせる。息をしている感覚すらなくなってしまいそうで、頭がくらくらしてくる。

 だが、それでも鈴音は歯を食いしばって堪えた。真っ直ぐに千冬を見据える。――知ってしまったからにはもう後には退けない。

 

 

「教えてください。千冬さん。――アイツの事をもっと。知らなきゃ……どう手を伸ばせば良いかわからないから」

 

 

 ――そして、退くつもりも鈴音には無かった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

(……箒の奴、どうしたんだ? いつもよりぴりぴりして怖いっつーの……)

 

 

 朝食を取る為に向かう道すがら、一夏は居心地の悪さを感じていた。先日から部屋に戻ってきた箒の纏う雰囲気がおかしいのだ。常に殺気立っているような箒が恐ろしく、それでいて不安定にも見える彼女が心配に思える。

 今も通りかかるだけで通行人を威圧する箒の姿に一夏は溜息を吐く。箒の横に並ぶように歩調を早め、箒の顔を覗き込む。いつもの無表情に眉が寄っていて、不機嫌な様子を隠しもしていなかった。

 

 

「……箒? お前どうしたんだ?」

「……構うな」

「……その、女の子の日だったりするのか、ってうぉっ!? あ、あぶねぇッ!?」

「黙れ、殺すぞ」

 

 

 箒が繰り出した手刀を一夏は一歩退く事で交わす。あまりに鋭さにぞっと背筋に寒気が走るのを感じながら一夏は冷や汗を流す。ここまで不機嫌な箒の姿など、いっそ懐かしい程であった。

 昔よりも凶暴性と凶悪さが増してはいるが、昔はよくこんな感じで言い合いとか喧嘩をしていたな、と一夏は懐かしむ。だがしかし、逆に不思議になる。一体どうしてこんなにも機嫌を悪くしているのだろうか? と。

 

 

「おはよう! 一夏、篠ノ之!」

 

 

 するとだ、鈴音が通路の向こうから不敵な笑みを浮かべて姿を現した。まるで挑みかかるような笑みを浮かべた鈴音を見た瞬間、箒の不機嫌さが増した。殺気が肌を刺すようで、ぴりぴりとした空気が更に震えるかのようだった。

 一夏はぎょっ、とするも、鈴音は動じた様子はない。箒はただギラギラとした、一夏から見れば今にも人斬りをしかねない瞳で鈴音を見据えていた。一触即発、というべき空気に一夏は知らずと唾を飲み込んでいた。

 

 

「……何のつもりだ、凰」

「朝食を一緒にどう? って誘いに来たのよ?」

「巫山戯ているのか?」

「巫山戯てこんな事言う筈ないでしょ」

「私に関わるな」

「嫌よ。決めたのよ、篠ノ之」

「何をだ……」

「あんたと朝食を食べる、ってね。良いから付き合いなさいよ。はいかYES、好きな方を選びなさい?」

「…………」

「無言は肯定と取るわよ?」

「断る」

「認めないわ」

 

 

 苛々とした様子で箒は鈴音との問答を続ける。元々相性が悪そうだと思っていた一夏だったが、脳内ではこの二人の相性は最悪どころか災厄レベルだと認定しそうになっていた。

 それ程までに二人の間に漂う気配が並じゃない。ここは戦場にして死地。通りかかる人が別の道を探したり、横を擦り抜けていく姿に一夏は思わず羨望の眼差しを送る。そして思う。――誰か助けてくれ、と。

 しかし一夏を助ける者は現れず、睨み合う二人に挟まれる事となった一夏は、そして考える事を止めるのであった。

 

 

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