狂咲の赤椿   作:駄文書きの道化

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第3話

 懐かしい記憶と変わりない姿だった。

 ただ、その姿を見て気づいた。ようやく気づけたんだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 一夏と箒は壁に背を預けるようにして立っていた。一夏はズボンのポケットに手を入れ、箒は両腕を組んでいる。互いに何かを話そうともせず、ただ時間だけが過ぎていく。

 二人がいる場所はISでの模擬戦などに使われるアリーナのピットだ。そこで二人は何かを待つように、ただ黙っていた。

 どれだけ二人がそのままでいただろうか。遠くより誰かが駆けてくる姿が見えた。それは副担任の真耶だった。その後ろには千冬の姿もある。一夏は二人の姿を確認し、箒へと視線を向ける。箒は小さく頷く。

 

 

「織斑君! お待たせしました!」

「届きましたか?」

「はい! 当日になって、しかもギリギリですけど……確かに届きました!」

 

 

 今日は例のセシリアとの決闘の日だ。クラス代表を決める決定戦。その当日になってようやく一夏の専用ISである“白式”が届いたのだ。その報せを一夏は心静かに受け取った。

 千冬はいつもと変わらぬ引き締めた表情のまま、一夏の顔を見る。

 

 

「時間がない。アリーナを借りられる時間も限られている。本番でモノにしろ」

「わかりました、織斑先生」

 

 

 千冬の言葉を受け、一夏は頷きと共に返答を返す。その返答を受けた千冬は真耶に視線を移し、顎で指し示すように鉄製の扉を指し示した。それに真耶が頷き、端末を使って操作を始める。

 瞬間、鉄製の扉が鈍い音を立てながらゆっくりと開いていく。開かれた扉の先、差し込んだ光に照らされるのは箒に見せて貰った設計図と同じ“白式”の姿だった。

 

 

「これが織斑君の専用IS、白式です」

「……此奴が、白式」

 

 

 一夏は自らの愛機となる機体を見つめる。その瞳に何が込められているのか、一心に一夏は白式へと視線を送る。だが、そのままで居られる筈もなく、千冬の指示によって一夏は白式を装着する為に白式へと近づく。

 入学の試験の時に乗って以来の感覚。あの時とは違う感覚だが、悪くない。わかる、この機体が誰の為にあるのかを。だが、それはまだ完全ではない。千冬の状態を確認する声に返事を返しながら一夏は白式の感触を確かめる。

 そして、ゆっくりと鋼鉄の掌を握りしめる。ふぅ、と吐息を一つ。握ったままの拳をそっと胸に当てるように。白式の知覚するセンサーには敵であるセシリアのIS、“ブルー・ティアーズ”を捉えていた。その姿を睨むように見据える。

 

 

「……俺はお前を知ってる。だけどお前はまだ俺を知らないからな。嫌でも知って貰うぜ、白式。此奴に勝つ為に、な」

 

 

 一夏の呟きを聞いた者は誰もいない。一夏は再び吐息を吐き出し、未だに壁に背を預けている箒へと視線を向けた。

 

 

「箒」

「……なんだ?」

 

 

 名を呼べば、彼女は視線をあげて一夏を見上げた。そのまま二人は見つめ合う。一夏が小さく頷き、その仕草に箒もまた小さく頷きを返し、そして片手をあげて軽く振った。

 ふっ、と一夏が笑みを零した。片手を軽く上げ、握った拳を掲げる。

 

 

「勝ってくるぜ」

「あぁ。行ってこい」

 

 

 箒の送り出しの言葉を受けて一夏は箒へと背を向けた。歩みは淀みなく、発進用のカタパルトへと機体を設置する。発進を始める為のシークエンスが始まり、発進を告げるブザーが鳴ると共に一夏は空中へと解き放たれた。

 射出された勢いを殺し、空中で静止する。視線を上げたその先に彼女はいた。セシリア・オルコット。イギリスの代表候補生にして一夏との相対者。彼女は明らかな優越と侮蔑を以てして一夏を見下ろす。

 

 

「あら、逃げずに来ましたのね。わざわざ負けて惨めな姿を晒す為にご苦労な事ですわ」

「あぁ」

「今ここで謝るというなら許してあげない事もありませんでしたが……その目を見る限り、無さそうですわね?」

「当然だ」

 

 

 一夏は掌をセシリアへと向けて翳す。瞬間、一夏の手に光が発生し、その光は次第に形を作っていく。それは刀だ。それを真っ直ぐにセシリアへと向けて構える。

 セシリアの表情に怪訝と怒りの色が浮かぶ。手にした武装は近接武装。自らのブルー・ティアーズを前にして近接武器を構える一夏を睨み付けながらセシリアは問う。

 

 

「この私に近接戦用の武器ですって? 挑発してるのかしら?」

「セシリア・オルコット。一つ言っておく。これは受け売りなんだがな」

「……?」

「刀も、銃も、武器と呼ばれるものは、本来は工芸品でなければ鑑賞物でもない。これは殺す為のものだ。――だから宣言する。今日、俺はお前を殺すつもりで行く」

 

 

 一夏が告げた瞬間、一夏の気が膨れあがる。先程まで侮っていた筈の男が大きく見えるような錯覚。緊張感の無かった顔は今は引き締められ、瞳は鋭くセシリアへと向けられている。

 僅かに身を引いた事で、セシリアは自らが気圧された事に気付き、歯を噛みしめる。歯ぎしりを僅立てながら手にしたレーザーライフル、“スターライトmkⅢ”を一夏に向ける。

 

 

「……くっ! 随分と大層な口ですこと!! なら、その減らず口、私のブルー・ティアーズの力で塞いで差し上げますわ!!」

 

 

 セシリアはブルー・ティアーズの固有武装であるビットを展開する。それは様々な軌道を描きながら一夏の周囲を飛び交う。一夏はブレードを握りなおし、セシリアを強く睨みつける。

 そして開戦の合図が高らかに鳴り響く。一夏は咆哮しながら弾け飛ぶようにセシリアに向かって飛翔した。

 すぐさま一夏を迎撃せんとセシリアの攻撃が一夏へ牙を剥く。三次元的な空間攻撃、上から、下から、はたまた左から、右から、ありとあらゆる場所から放たれるレーザーの雨をかいくぐりながら一夏は思う。

 

 

 ―――見えるなら、恐くない。

 

 

 一夏は恐れる事無く、身体を前に倒すように加速する。加速の瞬間、セシリアの驚愕の表情が見える。だがそれを気に留めず一夏は動き続ける。

 この一週間の間、一夏は箒にもたらされた白式のスペックを可能な限り頭に叩き込み、覚束ないイメージを構築していた。あの僅かな一瞬、IS学園に入学する際の切欠となった初めてISを纏った時の万能感を思い描きながら。

 そのイメージを共に空を駆ける白式の感覚と擦り合わせていく。幾度か掠ったものの、一夏はセシリアの攻撃が見えていた。回避できる、戦えている。己のイメージ通りに動きが変わっていく。

 ムキになったかのように降り注ぐレーザーの雨。僅かに身を捻る事で避けようとするも、装甲に掠る。まだ足りない、まだ白式が掴み切れていない。だから、と一夏は加速を繰り返す。

 

 

「そのブレードは飾りですの!? 大層な言動の割にはちょこまかと逃げ回ってばかりで!!」

 

 

 セシリアの罵声が聞こえる。だが、それは些細な事だ。白式に身を委ね、白式を操る。白式と呼吸を合わせるように己の呼吸を変え、白式もまたそれに合わせようとするのを感じる。まるで鼓動の音を重ねていくかのように。

 降り注ぐレーザーの嵐は確かに驚異だ。このままでいれば敗北は必至。だが、それに恐れを感じない。この攻撃は軽い。あぁ、なんて軽いんだ、と一夏は吐息を吐き出し、そして加速する。

 怯まない。一夏は怯まずに加速を続ける。ただ早く、もっと早く、早く、早く、早く――!!

 

 

(まだか白式……! まだ俺がわからないか!! なら、もっとだ!!)

 

 

 ここで一夏は初めて攻勢に転じる為に地を滑った。ビームの嵐をかいくぐるように疾走する。土煙を巻き上げ、腹の底から咆吼し、一夏はセシリアとの距離を詰めていく。

 

 

「なっ!? 嘘、素人で、こんな!?」

「お前の攻撃は、軽いんだよっ!!」

 

 

 地を蹴り上げ、空中にいるセシリアとの距離を詰める。しかし間合いには入ったものの、援護に入ったビットによって後退を余儀なくされた一夏は再び放たれたレーザーをかいくぐるように空を走る。

 そのまま大地へと着地。態勢を低く、這うようにして地を滑る。止まる事は無い、呼吸を短く吐き出す。吹き出した汗に不快感を感じるも、気にしてはられない。

 

 

「恐くねぇぞ……! この程度で、縮こまってなんかられねぇんだ!!」

 

 

 当たれば痛みはあるだろう。衝撃もあるだろう。それに体は反射的に竦みそうになるのを一夏は強靱とも言える意志で叩き伏せ、逆にその痛みが待ち受ける嵐の中を突っ切る為に力を込めた。

 セシリアの攻撃は確かに驚異だ。だがそれに一夏は恐れていない。恐れてなどいられないのだ。セシリアの攻撃は軽い、こちらを叩きのめそうという意志は伝わってくる。だが、所詮はそこまでだ。

 

 

(こんな所で、足踏みは出来ないんだよ……!!)

 

 

 ――私にはこれぐらいしか教えられん。

 

 

(アイツが、箒が、あんな顔をしてまで教えてくれた……!!)

 

 

 ――すまない、一夏。

 申し訳なさそうに謝る彼女の、そして彼女が教えてくれた事が脳裏に過ぎる。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 それは代表戦が始まる前日の事だ。

 

 

「前にも言ったが、私に教えられる事は数少ない。時間がないし、実戦に必要な知識といっても、やはり基礎の知識があっての事だ」

「お、おぅ」

 

 

 IS学園の道場。剣道の稽古の為に借りていた場所。箒に稽古をつけて貰う、と決めた日から一夏はこの道場に足を運んでいた。そこでいつもよりも早く稽古を切り上げ、明日の為に休む、と箒が言い出したのがそもそもの始まりだった。

 最後に、と箒は前置きをして、教える事があると告げた。そして一夏は今、竹刀を構えて箒と向かい合っていた。

 

 

「この剣の稽古はお前の剣の感覚を呼び戻す為にやっただけで、それがプラスになるかはわからない。だが、参考程度にはなるだろう」

「あぁ」

「なら――私が教えられる事は、あと一つだけだ」

 

 

 その瞬間、まるで空気が質を変えたように歪む。思わず一夏は息苦しさを覚えた。まるで今まで吸っていた空気が別物に変わってしまったような錯覚。

 思わず一歩、一夏は足を引いていた。何故一歩足を引いたのかわからないまま、困惑する一夏に対して箒が言葉を続ける。

 

 

「一夏。武器とは何の為にある?」

「……何の為に?」

「元より武器は敵を殺す為のものだ。今となってはスポーツや観賞用、工芸品のような扱いを受けてはいるが、元々それは戦う為のものにして、敵を殺す為の物だ」

「それが何だよ」

「ISの絶対防御。使用者の命を絶対に守るという機能。これによって命の危険性は限りなく低い」

「それぐらいは俺だって覚えたさ」

「だからISは今となってはスポーツだ。命を奪う危険性は限りなく少ない――だが、忘れるなよ、一夏」

 

 

 気づいた。気づいてしまったのだ。異質の空気の元。それは他ならない目の前の彼女だと言うことに。そして気付くには余りにも遅かった。

 彼女から漂う冷たい気配は何なのか。頭を地に抑え付けるような圧迫感は今にも押し潰されてしまいそうになる。

 一夏の手が震えていた。動悸は速まり、息が荒れていた。膝が笑いそうになり、箒を直視するのも辛い。

 一夏は知っている。これは――殺気だと。

 

 

「あくまで私の持論だがな。武器はどこまで行っても殺す為のものだ。故に私は忘れない。握る時には常に必殺。抜くと決めたのならば殺す。向けると決めたら殺す。その覚悟もないものが力を握る資格などない」

 

 

 まるで空気が震えているかのようだった。喘ぐように一夏は呼吸を繰り返す。また一歩、知らずの内に足が下がっている事に気づいた。

 それに合わせるように箒は一歩、前に足を踏み出した。まるで一夏を逃がさない、と言うようにだ。

 

 

「一夏。―――私はな、今からお前を殺そうと思う」

「な……」

「冗談でもなく、そのつもりで行く。――行くぞ」

 

 

 そして、箒が目にも止まらぬ速さで竹刀を振り抜いた。箒の口から発せられたのは女とは思えない咆吼。思わずその場から蹈鞴を踏むように飛び退いた。瞬間、道場の床を叩いた竹刀の音はあり得ないまでの音を立てて響いた。あんな速度で己の身を打ち付けられたら、と一夏は想像し、体を震わせた。

 待て、という声すらも喉が引きつって出なかった。荒い呼吸が漏れる。それを意に介した様子もなく箒は幽鬼のような動作で一夏へと近づいていく。

 再び竹刀が迫る。情けなくも一夏は床を転がるようにして避ける。瞬間、まるで落雷が落ちたような音が鳴り響く。どうやったら竹刀でそんな音が出せるのかと言わんばかりの音に一夏は顔を引き攣らせる。

 

 

「恐れろ」

 

 

 箒の声が、まるで慣れ親しんだ人の声でなくなったような錯覚。

 これは誰だ。これは何だ。わからない、だから一夏は――箒に恐怖した。

 

 

「恐れろ。その上で敵を恐れるな。恐れなければ見える。恐れなければ身体は動く。恐怖に身体を縛られるな。恐怖に支配されるな」

 

 

 無茶苦茶だ、という言葉は、喉に出かかって出なかった。そんな言葉を出せる余裕など一夏には無かった。

 

 

「だから恐れるな。逆に相手を恐れさせろ。相手を、状況を、全てを支配しろ。如何なる手段を使っても構わん。攻撃は当てなければ意味がない。だから当てる為に必要なものを使え。技術、経験、状況、何でも良い。利用し尽くせ。その一つが、これだ。

 ――決めた事は曲げるな。最後までやり通せ。死んでもやり通せ。それを出来なければ息をする資格すらないと、私はそう思いながら剣を振っている。

 私は決めたら突き通す。お前にここまでしろ、とは言わん。だが技術も経験もないお前が唯一、セシリア・オルコットを上回れるとしたらそれしか思いつかない。意志は何の力にもならない。だがそもそも、意思が無ければ何も生まれん。だから――私は今、お前の甘えを殺す」

 

 

 そう言って、箒は一夏の眼前に竹刀を叩きつけた。ぱぁん、と鈍い音が道場に響き渡り、そして耐えきれなかったように竹刀が砕けた。それを、一夏はただ震えながら見つめていた。これがもしも竹刀ではなく木刀や真剣だったら?

 そんな想像が思わず過ぎった。竹刀で良かった、という安堵。しかし、思い描いたもしもの可能性の恐怖が一夏を襲う。まざまざと浮かび上がる可能性に一夏は箒への恐怖を募らせていた。

 

 

「殺すと決めたなら――無慈悲に、感動もなく、惜しむ事もなく、ただ斬り捨てろ」

 

 

 冷ややかに箒は言い切った。氷よりも尚冷たく、刃より尚鋭く。斬りつけた傷口から全ての熱を奪っていくように。ただ、一夏には箒を見つめ続ける事しか出来なかった。そんな一夏の表情を見ていた箒は、ふっ、と表情を和らげた。

 

 

「恐いか? 私が。……普通はそれで良い。だが、勝ちたいんだろう?」

 

 

 一転して箒の声は優しかった。だが同時に、寂しそうだった。

 

 

「すまないな。私が教えられる事なんてこんな事ぐらいなんだ」

「……箒」

「教えておいてなんだが、お前も思っただろう? 無茶苦茶だ。こんな教え。だからあくまで参考程度にしろ。だから、私のようにはなるなよ?」

 

 

 ゆっくりと背筋を伸ばして立つ彼女が恐ろしかった。

 そして同じぐらいに、その姿が悲しく思えた。

 

 

「一夏が勝ちたい、と望むなら、私にはこれぐらいしか教えられないんだ。……私にはそれしかないから」

 

 

 

 * * * 

 

 

 

「俺は、お前に勝つ……! アイツにあんな顔までさせておいて、お前になんか負けてられねぇんだよっ!!」

 

 

 あんな悲しそうな顔をさせてまでセシリアに勝ちたいと思っていたか? と、問われれば否だった。ただ退けなくなったから、このまま退くのは格好悪いし、納得もいかない。だから戦おうとした。

 それが軽い気持ちだったと思い知った。箒はそれを真剣に悩んで教えてくれた。あんな顔をするまで見せてくれた。そこまで望んでいなかった、など言えない。そんな厳しいものじゃないだろ、なんて笑えない。

 何故なら彼女には、本当にそれしか言えなかったんじゃないか、と。今更ながら気づいてしまったのだ。そして気付いてしまえば、言わせてしまった自分に酷く腹が立ったのだ。

 男女と虐められていた箒。それが何となく見逃せなくて庇った事もある。最初は馬が合わなかった箒と一緒にいるようになったのはそれからだ。

 箒はいつだって真面目で、頑固で、責任感が強かった。一本真っ直ぐな芯は通っていたが、それ故にいつかぽっきりと折れてしまいそうだった。それが見ていられなかった、という記憶はある。

 箒の表情はいつだって思い詰めたような顔だった。いつだって周囲を睨み付けているような、自分以外は信じられない、という目で世界を見ていた。自分にだって時折そうだった。それは、再会してからも変わらない。むしろ酷くなった方だ。

 思い返して気づいたのだ。箒は箒なりに一夏の力になろうと必死に考え、勝つ為に何をすれば良いのかを必死に考えてくれた。その為に自分が差し出せるものがあれしかなかったのだとしたら?

 あの恐怖を覚えた一面を一夏は知らなかった。箒は見せないように隠していたのかも知れない。それでも自分に必要だと思ったから晒しだしたのだとすれば、安易に彼女の闇に自分は触れてしまったのだと気付いた。

 箒の言うことは極論だ。箒の考え方に共感は出来ない。だが、それでも、その姿勢だけでも見習うべきだ、と。真っ直ぐに誠心を以て向き合う。自らが握るものは凶器なのだと。相手を打倒する為のものなのだと。だから一夏は惑わない。

 

 

「俺は負けられない! 俺にだって戦う理由がある! 俺には護りたい人がいる!! 護りたいと思った人達がいる!! だから俺は戦う!! 戦うぞ、セシリア・オルコット!! そして勝つぞ!!」

 

 

 脳裏に過ぎるのは、幼い頃から自分を護り続けてきてくれた姉、千冬の姿。

 そして、いつだって凛々しく前を向いていた幼馴染み。悲しい顔をしながらも道を指し示してくれた箒。

 自分には背負うものがある。背負いたいものがあるのだと。気付いてしまえばもう退けない。絶対にこの戦いは負けられないのだと、一夏は吠え猛る。

 

 

「戯言を……ッ! いい加減に墜ちなさい!!」

「ッ! しまった、ミサイルッ!?」

 

 

 降り注ぐレーザーの雨をかいくぐった先に待ちかまえていたミサイル。絶妙なタイミングだ。回避が出来ない、と一夏は咄嗟に判断した。

 不味い、と一夏が唇を噛む。これは致命的だ。これを喰らえば状況は一気にひっくり返る。だから喰らう訳にはいかないのに、と。噛みしめた奥歯が軋むのがわかった。ちくしょう、と言葉が一夏の口から零れ落ちる。

 

 

『――初期化と最適化が終了しました。確認ボタンを押してください』

 

 

 ――そんな主の声に応えるように、白式が反応を示した。

 

 

 ミサイルが両断され、大きな爆音を響かせる。そしてミサイルが本来得る筈だった戦果は得られない。ミサイルを両断し、煙を切り裂いて姿を現したのは光り輝く刃を掲げる一夏。

 一夏の纏っていたISはその姿を変え、彼に適した姿へと変貌していた。彼が扱いやすいように、彼の血肉となるように、彼の為だけに存在する為に。主を得た白き翼は雄々しくその姿を見せつける。

 

 

「まさか……“一次移行<ファースト・シフト>”!? 今まで初期設定の機体で戦っていたというの!? あり得ませんわ!?」

「……あり得ない? 違うな、セシリア。あり得るから、ここにいるんだ。――行くぜ? 今度こそ、テメェを叩き斬る!!」

 

 

 驚きに目を見開くセシリアに吠え、一夏はその手に全てを断つ剣を構え、雄々しく空を駆け抜けた。

 

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