「織斑君、代表決定オメデトー!!」
『おめでとー!!』
一斉に音を放つクラッカー。飛び散る紙吹雪。食堂の壁に吊された横断幕には“織斑一夏、クラス代表就任パーティー!!”と大きく書かれていた。
紙吹雪の中心にいたのは当然の如く、一夏だ。一夏は呆れたように溜息を吐いて、肩についた紙吹雪を払う。
「……なんかあるって聞いたから来てみたらこういう事か」
「祝って貰っている立場でそんな顔するな、一夏」
「未だに俺が代表、ってのも実感がねぇんだがなぁ」
「あら、一夏さん、駄目ですわそんな事では。選ばれたのですからもっと堂々としてくださいませんと」
「へいへい。しっかりしますよ」
「もぅ、そうやってすぐにだらしなくなりますし」
投げやりな返答を返す一夏に少し怒って見せて言うのはセシリアだが、その様子がどこか楽しげに見えるのは気のせいじゃないだろう。故にクラス全員がセシリアを見てにやにやしている事をセシリアは知らない。
一夏は確かにIS学園において人気者である。だが本気で好意を向けている者、つまりは一夏を恋人にしたい、などと思っている者は数少ない。明確に態度を露わにしているのは今の所、セシリアぐらいなものだ。
故に自然と注目が集まるし、それを肴にして楽しむ者までいるという訳だ。ちなみに遠巻きで見守っている箒もその一員と化している。
「あ、いたいた。織斑くん!」
「ん?」
「話題の新入生にインタビューに来ました! 新聞部副部長、二年の黛 薫子です、はいこれ名刺! よろしくね~!」
「は、はぁ……」
突如現れたマイペースかつハイテンションな先輩に一夏は戸惑いながらも流されるままに名刺を受け取っている。そんな一夏の情けない態度に箒は苦笑する。セシリアに視線を移せば、やはり案の定、眉を寄せている。
一夏らしいと言えばらしいのだが、一夏に惚れている女の子からすれば賜ったものではないだろう、と箒はくつくつと喉を鳴らせた。事実、セシリアは面白くなさそうに眉を寄せている。
それからは薫子の追求は一夏からセシリアに矛先が移ったり、薫子にされるがままに二人が握手してセシリアの顔が真っ赤になったり、恥ずかしさによってセシリアが今にも爆発しそうになったり、そのまま写真を撮ろうとして、結局はクラスメイトの乱入によって台無しになり、セシリアが悔しげに歯を噛んでいたり。
騒がしい宴の様子を箒は席に座ったまま見ていた。小さく吐息を一つ。箒は騒ぎの輪に加わらず、ただ見つめていた。
* * *
「――ふっ!!」
気合いの篭もった一声。大地に叩きつけた一歩。淀みなく綺麗な剣閃を描いた唐竹割。箒の手に握られるのは木刀は箒の意思を受けて、箒の思うままに剣閃を描き続ける。
浮いた汗が飛ぶ。呼吸は荒く、見ている方が辛くなる程の姿だった。だがそれでも箒は止まらずに木刀を振る。風を斬る音と箒の息遣いだけが響く。
正直に言えば、箒の身体は痛い程に疲労を訴えている。それでも箒は木刀を振り続けた。自分でも無茶をしているとわかっている。それでも自らを痛めつけなければ、心を軋ませる痛みに悲鳴を上げそうになる。だからこそ箒は己を鍛え続ける。
平和な光景が、平穏の日々が、一夏と共にいる日々がある。それを今更ながら受け入れる事が出来ない歯痒さと、それ故に募り続ける束への憎悪を糧にただ、ただ己の力を研鑽させる為に。
しかし限界は来る。箒はゆっくりと木刀を下ろし、肩を上下させながら呼吸を整える。体に力を入れるのが億劫で、水が無性に欲しかった。何とか体を起こしても全身に鉛でも入れられたかのように重い。
限界を悟り、箒は足を引き摺るように歩き出す。傍にあった自動販売機に小銭を入れ、水を購入する。水を手に取ればすぐさま蓋を開けて一気に飲み干す。あまりにもがっついてしまった為か、水の半分以上は零れてしまっていた。
「……う、く」
おかしいな。水がうまく飲めない。ならもう一本、飲もう。そう思いながら箒は世界がぐるり、と回った。
気付けば地面に倒れている事に気付いた。立ち上がろうにも頭がくらくらとして気持ち悪い。身体に力が入らず、とてつもなく重い。
「――おい、篠ノ之! 大丈夫か!?」
ふと、遠くから聞こえた声は誰のものだっただろうか。聞いた覚えのある筈の声なのに、ぼんやりとした頭は声の主が誰かも判別出来ない。
そして箒は自分を覗き込むように顔を見せた相手がようやく誰かわかった。心配げに箒の名を呼びながらも、どこか怒りを滲ませた人の名を箒は呼んだ。
「……千冬さん……?」
「貴様は馬鹿か!?」
千冬の怒鳴り声に頭が揺らされる。それが酷く辛い。何も考えたくなくて瞳を閉じる。すると次第に意識が遠ざかっていく。ただ、千冬の呼びかける声を耳にしながら、箒は意識を闇に落とした。
* * *
「自分の体調管理を行えないならば稽古などするな、馬鹿者が!」
「……すいません」
千冬は意識を失った箒を抱え込んで医務室へと叩き込んだ。ベッドに横たえられた箒は少し休んだ後に意識を取り戻した。箒が意識を取り戻すのを待っていたと言うように千冬は咎めるように箒を怒鳴りつけた。
千冬の声には隠しようのない怒りと呆れが見えている。これで体調が良かったら一発か二発は殴られていたのだろうか? と箒はまだどこかぼんやりとしている頭で考える。
「……まったく。何故、こんな馬鹿な真似をした?」
「……加減を間違えました」
「そんな言い訳が通用するとでも?」
千冬は鋭く箒を睨み付けながら言う。普段よりも鋭さが増している目つきは虚偽は許さないと言っているようだった。
だが、箒はどこ吹く風か、千冬の視線に無表情で視線を返すだけだった。暫し、二人の睨み合いが続く。重い空気が医務室に広がっていく。
「……箒」
箒は僅かに身じろぎした。先ほどまで名字で呼んでいた所をわざわざ名前で呼ぶという事は恐らく千冬にとって何かの切り替えだったのだろう。
先ほどまで見せていた厳しい視線は消え、箒から視線を外していた。俯くように僅かに頭を下げながら千冬は言葉を続けた。
「……私が憎いか?」
千冬から零れ出た言葉に箒は思わず嘲笑が零れた。どうしようもなくおかしかった。だから零れ出た嘲笑は止まらない。笑みを浮かべながら箒は千冬に言い放った。
「何を、今更」
「……そうか」
「今更、私をどうにかするつもりですか? 織斑先生」
「……あぁ。私は教師だから、な」
「なら、千冬さん」
はぁ、と。重たく息を吐きながら箒は告げる。
「無駄ですよ。絶対に私は変わらない。変わってなるものか。貴方達がこうしたんだ。……けど良いんです。貴方は良いんです。貴方は許します。貴方は生きてください。一夏の為にも幸せになってください」
「箒……!」
「貴方達だけは……巻き込みたくない。だからね、千冬さん?」
――今更、邪魔しないでくださいませんか?
箒が告げた言葉に千冬は表情を顰める。何か言おうと口を開いて、けれど言葉は出ずに顔を俯かせるのと同時に口は閉ざされる。
箒は千冬から視線を外し、布団を深く被って背を向けた。もう話す事はない、と言うように拒絶の意思を見せつける。
箒の拒絶を見せつけられた千冬は苦虫を噛み潰したように表情を歪ませる。そしてゆっくりと息を吐き出し、今度こそ言葉を紡いだ。
「今更か。最もだな。だからお前はきっと私の言葉を聞かないだろう。それはわかっている。……それでも私はお前を止めよう。贖罪だなんて言うつもりもない。憎ければ憎んでいろ。それでも私はお前を止めてやる。教師として、一夏の姉として、あいつの友人として」
「……そうですか」
「だからまずは無茶な事は止めろ。……自分の身体を労れよ、箒」
それだけ言い、千冬はゆっくりと席を立って医務室を後にする。医務室を出て、扉を後ろ手に閉めてそのまま背を扉に預けた。
仰ぐように天井へと視線を向け、ふぅ、と重く苦しい溜息を吐き出した。身体を襲う倦怠感は恐ろしい程であった。
「今更、か」
一言呟いて前髪を掴み上げる。天上を見上げていた瞳を閉じて、血を吐くように呟いた。
今更。その言葉を箒に言われれば、千冬には返す言葉がない。箒は憎んでいるのだろう。千冬を。そして何より自分自身の姉である束を。
束の作ったISは世界を変革させた。そして変革した先の世界で箒は絶望を味わった。そして変革に片棒を担いだのは自分だ。何よりも変革の恩恵を受けたのは自分だと千冬は理解している。
だからこそ箒は千冬の言葉を受け入れない。受け入れる筈もないだろう。憎悪を抱く相手の言葉など、受け入れる筈もない。ただ千冬が許されているのは一夏の存在があるからに過ぎない。
その事実がどうしようもなく千冬に無力感を与える。箒の状態を知りながらも、指を咥える事しか出来ない無力さと愚かさを千冬は嘲笑う。
束の事を思う。あの天才にして、愚かなまでに無知な友人の事を。姿を眩ませた束は知らないだろう。いいや、理解出来ないだろう。最も愛した妹に憎まれているだなんて事実を。
「……愚かしいな。なぁ、そう思うだろう?」
それは誰に同意を求めたのか。千冬に答えを返す者はいない。呟きはただ空気に飲まれて消えていく。
どんなに愚かであろうとも、千冬が束を見捨てられないのは彼女の孤独を知っているからだ。そして、彼女の孤独が自分にとっても救いだったから。だから見捨てる事なんて出来ない。それは自分が負った責任だからだ。
あの寂しがり屋の兎は手をはね除けるだけで死んでしまうかもしれないから。それは出来ない。それが出来る程、二人の関係は安くはないのだ。彼女にとっても、自分にとっても。
「なぁ、束。やっぱり私達は愚かだよ」
自らを嘲笑うように千冬は呟きを零した。脳裏に映した友の姿を同じように嘲笑いながら。世界最強の称号を持つ筈の千冬は、まるで子供のように弱々しく項垂れた。
* * *
「そういえばさ、1組以外の別のクラスの代表ってどうなってるんだろうな?」
ふと教室で一夏が疑問を零す。セシリアや箒との訓練も言ってしまえばクラス対抗戦の為の訓練ではあるのだが、実際に自分が戦う相手はどんな奴になるのか、と疑問が芽生えた為だ。
もうすぐクラス対抗戦も迫っている事もあり、教室も話題が持ち上がるようになったクラス対抗戦。代表として戦う事になったし、戦うならば強くなりたいという気持ちもある。セシリアにも時間を割いて貰っている以上、結果は出したい、と一夏は思う。
「あぁ、それなんだけど……転校生が来て、なんでも代表が交代したって話だけど」
「交代?」
「うん。中国から来た子なんだって」
「ふふ、私の存在を今更ながら危ぶんでの事かしら?」
話を聞いていたセシリアが腕を組み、自信満々に告げる。そんなセシリアを皆は生暖かい目で見ている事にセシリアは気付いてはいない。
「その2組に転校生してきた中国のクラス代表って強いのかな?」
「どうだろう? でも専用機を持ってるのはウチのクラスと4組しかいないから織斑君なら大丈夫だよ!」
誰が相手でも構わないのだが、やはり気になるものは気になるものだ。一夏の言葉を不安と受け取ったのか、一夏と話していたクラスメイトは一夏を励ますように一夏の肩を軽く叩く。
そんな時だ。会話に割って入るように声が響いたのは。
「――その情報、古いよ。2組にも専用機持ちが代表になったんだから、そう簡単に勝利は譲らないわよ」
一夏は挑戦的な言葉を放った声に驚いて声の方へと向く。一夏の視線の先にいたのは髪をツインテールに結んだ女子。少々小柄だが、浮かべる表情は挑発的な笑みを浮かべている。
「……鈴? まさか鈴なのか!?」
その姿が記憶の中にある彼女の一致し、一夏は嬉しそうに彼女の名を呼んだ。周りは一夏の様子に驚いたように目を丸くしている。
一方、一夏に名を呼ばれた鈴と呼ばれた少女は不適な笑みを浮かべて一夏に軽く手を振る。それは旧友との再会を喜ぶ気安さが見て取れた。
凰 鈴音。それが彼女の名前だ。一夏にとっては1年ぶりとなる再会になる幼馴染みだ。それまでは幼馴染みとして長く連んでいた彼女がここにいるという事が一夏にとっては驚きであり、また嬉しい事であった。
「久しぶりね、一夏!」
「お前、どうしてここに? まさか中国の代表候補生ってお前なのか?」
「そうよ! 今日は再会の挨拶がてら、宣戦布告をしに来たって訳よ」
ふふん、と鼻を鳴らして腰に手を当てる仕草は実に鈴音らしい仕草だ。それがたまらなく懐かしくて一夏は思わず笑ってしまった。
「鈴、お前、相変わらずだなぁ。お前に宣戦布告とか似合わないって!」
「んな! 相変わらず言ってくれるじゃない、馬鹿一夏!」
一夏の物言いに流石にかちん、と来たのか八重歯を剥き出しにして鈴音は唸る。今にも噛みつかんばかりに一夏を睨んでいた鈴音だが、突如後ろから感じた殺気に後ろを振り返ろうとする。
そこに立っていたのは千冬だ。普段の無表情のまま、鈴音の頭に拳を落とす。鈴音は頭に落ちた痛みに呻き、頭を抑える。そして自分の頭を殴ったのが千冬だという事に気付いて鈴音は顔を青くさせた。
「ち、千冬さん……」
「織斑先生と呼べ。もうSHRの時間だ。さっさと戻れ」
「は、はい……」
先ほどまでの威勢はどこに行ったのか、借りてきた猫のように大人しくなる鈴音。ふん、と鼻を鳴らして千冬は教室へと入っていく。
「くぅ……! 一夏、また後で来るんだからね! 逃げるんじゃないわよ!」
最後に捨て台詞を残して鈴音は自分の教室へと戻っていった。その姿を見送って一夏は小さく笑った。相変わらず変わってないな、と1年ぶりとなる友人との再会を喜んだ。
「お前もいつまで突っ立ってるつもりだ。さっさと席につけ」
「あ、すいません」
「あと、伝えておくが篠ノ之は体調不良で休ませている。今日は欠席だ」
「あれ? アイツ……戻ってないと思ったら体調崩してたのかよ」
朝から姿が見えなかった箒だったが、朝練などに出ていて会えなかっただけだと思っていた。だからこそ、一夏は千冬から伝えられた箒の事にやや驚いたように目を瞬きさせた。
授業終わったら見舞いにでも行った方がいいかな、と思いながら席に着く一夏。そんな一夏の姿を見ながら千冬は一つ溜息を吐いて朝のHRを始めた。
* * *
「一夏! ご飯食べに行きましょう!」
「お、鈴。別にいいぜ」
昼休み。授業の終わりと同時に教室にやってきた鈴音の誘いに一夏はすぐさま応じる。食堂に入れば既に列が作られていて二人もまた食券を購入し、列に並びながら自分の順番が来るのを待つ。
自分の番が来るまでの間、一夏と鈴音の会話は弾んだ。再会を喜び合う二人は互いに思った事を口にし合う。
「にしても驚いたよ。転校生がまさかお前だったなんてな。連絡ぐらいしてくれればいいのによ」
「そんなことしたら感動の再会って奴にならないじゃない。驚かせたかったのよ」
「そりゃ驚いたさ。元気にしてたか?」
「当然よ。あんたも……ま、あんたが元気なのはいつもの事か。たまには病気の一つにでもかかってみたらどう?」
「おいおい、人が病気になって欲しいみたいな事言うなよ」
久しぶりに鈴音を交わす会話は一夏にとっては楽しいものだった。1年前までは自分も普通の学生で、鈴音とは一緒に遊んだり、出かけたりしたものだ。一夏にとって一緒に学生時代を過ごした気安い友人なのだ。
1年前、中国に引っ越してしまった為、それからは鈴音と別れる事となった。当時は本当に寂しかったものだ。いつも連んでいた彼女がいなくなったのは。こうして明るく元気な姿を見ればほっとしたし、またこうして連めるといのは楽しみだった。
「お前、いつの間に代表候補生なんかになってたんだよ」
「アンタこそ! ニュースで見たときなんて吃驚したわよ。どうしてまたISを動かしちゃった、みたいな事になるのよ」
一夏と鈴音は食事をしならが互いの近況を話す。1年という互いが会えなかった時間を埋めるように、互いがあった事を聞きだそうとする。
が、二人の会話を遮るように割って入る者がいた。それは二人が楽しげに話している事が我慢ならなくなったセシリアだった。
「い、一夏さん! そちらの方は誰ですの!? 知り合いのようですけど!?」
「ん? あぁ、こいつは凰 鈴音。俺の幼馴染みだよ。鈴、こいつはセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生なんだ」
「……ふーん。凰 鈴音よ? よろしくね?」
「え、えぇ。と、ところで幼馴染みと仰っておりましたが……」
「ちょうど1年前に中国に引っ越しちゃってな。まさか俺はこんな所で再会するなんて思って無くてな。嬉しいよ」
「う、嬉しい? そんなに私と会えた事が楽しいの? 一夏」
一夏の言葉に鈴音は思わず笑みを浮かべる。鈴音が笑みを浮かべたのを見てセシリアは察する。そう、即ちこいつは敵だ、と。
セシリアの視線に気付いたのか、鈴音もまた察する。故に睨み合いが起きるのは当然の事だった。
「そりゃ昔から連んでる幼馴染みが戻ってきたら嬉しいって。ここに弾達もいれば完璧だったんだけどなぁ」
「あいつ等も元気にしてるかしら? ま、あいつの事だからIS学園に入ったアンタを羨んでそうだけど」
「めっちゃ羨ましがられたよ……。別に良いもんだとは思えないんだけどなぁ」
「む、むぅ! 私を無視しないでくださいまし!」
幼馴染み特有の二人しかわからない話をされればセシリアには話に立ち入る隙はない。だが、それでも恋する乙女が別の女の子と楽しげに二人で話している姿というのは気になってしまうのだ。
明らかにセシリアを無視している鈴音と、なんとか割って入ろうとするセシリアの間で睨み合いが続き、周囲も野次馬が集まったりと騒がしくなり始めた頃だ。
「……何の騒ぎだ?」
「あ、箒!」
手に食事を乗せたトレイを持ちながら箒が訝しげに周囲を見渡しながら呟く。一夏は箒の姿を見つければ席を立って箒の下へと駆け寄っていく。箒の傍へ駆け寄ればすぐに眉を寄せ、心配げに箒の顔を覗き込む。
「お前、体調は?」
「もう治った。だから食事をしに来ただけだ。……お前のいるところは相変わらず騒ぎが絶えないな」
「俺も好きで騒ぎを起こしてる訳じゃねぇって」
「そうか。……それより近いぞ。すこし離れろ」
覗き込んでいた為に一夏の距離は少しばかり箒と近づいていた。箒は鬱陶しげに一夏に告げると、一夏も慌てたように距離を取る。
そして安堵の溜息を吐く。体調を崩したと聞いていたが、特に問題が無さそうだったからだ。
「……一夏、知り合い?」
そんな二人の様子が面白くないのは鈴音だ。随分と親しげな一夏の姿に鈴音は眉を寄せて問う。鈴音の視線に箒もまた気付いたのか、鈴音へと視線を向けた。
「一夏、誰だ?」
「あぁ。箒、こいつは凰 鈴音。ちょうどお前と入れ替わって転校してきた幼馴染み。で、鈴。こいつが篠ノ之 箒だ。ほら? 前に話しただろ? ファースト幼馴染み」
「……なんだ? そのファースト幼馴染みとは。まるでお前に他に幼馴染みが居なかったとでも言いたいのか?」
「いや、そうじゃねぇけど。特別に親しかった奴だしな。箒と鈴は」
「……特別」
一夏の口から出た特別、という言葉に頬を緩ませた鈴音だったが、すぐにそこに箒の名も並べられている事に不機嫌そうに顔を歪める。話を聞いていたセシリアに至っては悔しそうだった。今にもハンカチを取り出して噛みしめんばかりに。
一方で箒はセシリアと、そして鈴音に視線を送って疲れたように溜息を吐く。やや肩を落として吐息した後、改めて鈴音と向き直る。
「……そう言うことらしい。改めて、篠ノ之 箒だ」
「……凰 鈴音よ」
顔を見合わせて改めて挨拶を交わす。箒は無表情に、鈴音はどこか貼り付けたような笑みを浮かべたまま。
二人の間にセシリアと違った緊張感が二人の間に駆け抜けた。一夏はそんな二人に気付かず、ただ笑っていた。