不良隊長と表情筋が死んでる副隊長ちゃんのハートフル戦場談話   作:ネイムレス

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はい、またタイトル釣りです。
今回は毎日投下はしない予定です。


一日目

 最初に感じたのは大きな揺れ。それまで感じていた微細な振動とは違い、ガクンと殴りつけられる様な衝撃だった。

 次に感じたのは浮遊感と圧迫感。腹の中身がひっくり返る様な上向きの重力で、身体を固定していなければ天井に打ち付けられていたかもしれない。

 最後に感じたのは、最初の時よりも強く長い衝撃。耳を打つ轟音とともに現れたそれは、容赦なく機内の全てに襲い掛かり舐め回す様に激しく揺さぶった。

 そう、これは軍用の輸送ヘリが墜落した経緯である。

 

「っ……う……。……ああクソ、ついてねぇなぁ……。何で敵襲も無いのに墜落するんだよ……」

 

 振動が完全に収まったヘリの機内で、ごそごそと動き出す者が居た。機内の壁面に付けられたシートから固定用のベルトを外して、軽く全身をポンポンと叩いて損傷や異常が無いかを確認する。異常が無いと分かると、シートから立ち上がり次は機内の状況を確かめる為に動き出した。まずは、他の乗組員の状況を確認せねばなるまい。

 

「おい、誰か生き残りはいるか!? 特にパイロットぉ!! 生きてたらぶん殴ってやるから返事しろ!」

 

 それは、精悍な顔立ちの青年であった。背は高めで無駄なぜい肉は無く、鍛えた体は深緑色の軍服に包まれている。その上に更にベストを装着して、右の太ももには拳銃用のホルスターが備え付けられていた。そして、左胸には大型の通信端末が取り付けられている。これは他の一般兵とは違う指揮官としての専用装備だ。

 

 彼は機内に自分以外の姿が無いのを見て取ると、直ぐに大きく声を張り上げて生存者の反応を求めた。すると、それに反応してコックピットの方から返答が聞こえて来る。

 

「たーいちょー、駄目ですね。パイロットは二階級特進してます。これはちょっと、殴る部分が残ってないですね。機密保持機能が働いて、もう灰になってます」

「……はあ、生まれたばっかりなのについてねえ奴だな。つーか、新品なのになんで事故ってんだよったく……」

 

 返答の声は甲高く聞こえる女性の物で、若いと言うよりも幼いと言える声色だった。その声の持ち主は続いて、コックピットに通ずるハッチからひょっこり顔を出す。

 

「恐らくは、製造時の情報インプリンティングに失敗して、ヘリ操縦でエラーを起こした……と言う所でしょう。まさかヘリ操縦の部分だけにエラーがあるなんて、工場じゃチェックしきれないでしょうからね」

「一山いくらで兵士作ってるからこう言う事になるんだよ、糞が! ……ヘリ自体は何も問題は無かったのか?」

「幸い燃料漏れも無いようですし、墜落時に発生した火災は自動消火で何とかなったようです。まあ、お金の掛かっている機械の故障よりは、私達の故障の方を先に疑うべきでしょう。十中八九、パイロットの故障が原因です」

 

 現れたのは、声の通りの少女であった。小柄な体格を青年と同じ軍服で包み、ショートボブの黒髪の上には服と同じ色のヘルメットが乗っている。上半身は防弾プレート入りのベストを羽織っていて、軽装の青年とは違い少しだけ重装になっていた。更に差異としては、左胸と腰の部分に肉厚の軍用ナイフが装備されている。より実戦的な、前線の兵隊としての装備であった。

 

 年の頃は十を幾つか過ぎた頃合いだろうか。パッと見た印象では黒髪黒目の美少女と言って申し分ないだろう。だが、どうしようもなく目が死んでいる。多感さを発揮するはずの年齢だと言うのに、彼女の表情筋はピクリとも動こうとはしていなかった。可愛い顔立ちだと言うのに、表情が無さ過ぎてこれではまるで人形の様だ。

 

「たいちょー、生存者はどうやら私たち二人だけのようです。他は皆二階級特進して、灰になってますね」

「チッ……。シートベルトぐらいしとけよ、ったく……。あー、タバコ吸いてぇ……」

「機内は禁煙ですよ。まあ、床は灰塗れですけどね。それに、たいちょーも灰塗れです」

 

 この墜落してしまったヘリは本来、前線基地へ人員と物資を輸送する為の物だ。警戒待機中でも無ければ、多少油断するのは無理もない事だろう。もっとも、それで死んでいれば世話が無いのだが。

 

「しょうがねぇな、まずはヘリが飛べるかどうか中と外から確認するぞ。ついでに使える物が無いか探して、その後周囲警戒だ。俺は食料品を探すから、お前は武器の方を頼む」 

「了解しました、たいちょー。全力で食料を探しましょう。チョコレート、チョコレートとか探しましょう」

 

 いや、武器探せよ。さりげない命令無視に、青年の無言のチョップがヘルメットに落ちるのであった。

 

 

 閑話。

 

 この世界では人間が貴重である。

 

 数が少なく、育てる為の資源も少なく、何よりもお金が無い。それだと言うのに、世界のあちこちでは戦争ばかりで消費が尽きない。人が減るばかりで、この問題を何とかしたくてしょうがなかったのだ。

 

 ならば、その人間を消費しないために、代わりに消費される物を人類は作り出す事に成功していた。低コストで量産できる、人類に従順な代替品。それが、彼女達である。

 

 人類は彼女達を、コッペリアと呼んでいた。

 

 閑話休題。

 

 

 機外の光景は、三百六十度見渡す限りの地平線。何処まで行っても荒れ地しか見えない。周囲一面、クソ茶色である。

 

「よし、副隊長。今日この時から、お前はこの部隊の副隊長だ。俺とお前しかいないから、繰り上げ当選だおめでとう」

「わーい、大出世ですね。この部隊の取り纏めのサポートはお任せください。十人ぐらいまでなら代理指揮もこなして見せますよ。部下、今一人も居ないんですけどねー。就任祝いはチョコレート下さい」

 

 機内の物資をかき集めた二人は、ヘリの後部にあるカーゴベイをこじ開けて外に出ていた。前方付近は地面に埋まっていて、側面のタラップにもなる搭乗口は開かなくなっていたのだ。ついでに、肝心要の上部ローターが機体から離れて何処かに旅行に行っていたので、二人はヘリを飛ばすのを完全に諦めた。

 

 そうしてから、機内から探し出した双眼鏡を片手に、隊長である青年は周囲を大雑把に見まわし警戒に努める。その間に、副隊長に任命された少女は長大な武器ケースを両手で機内から引っ張り出し、慣れた手つきでケースを開封し納められていた銃器を取り出す。

 ボロンと取り出されたそのご立派な銃は、少女の体に対しては不釣り合いに長大であった。

 

「経費節約だか何だか知らねーが、ずいぶんな骨董品を用意してくれたもんだな。ホントに弾出んのかよ、鉄パイプ見たいじゃねぇか。実は鈍器でしたってオチはやめてくれよ?」

「仕方ないですよ、最新式の光線系の銃器はお高いんですから。こっちの方面の最前線じゃ、大昔の銃だってマシな部類ですよ。酷い所だと、ナイフしか装備させてもらえないなんて事もあるらしいですし。ナイフ縛りですね」

 

 会話の合間にちょっとしたハードカバーの本の様な大きさの弾倉をストックとグリップの間に斜めに叩き込み、グリップ脇のレバーを握り込みながらそのグリップを斜めに引き倒す。するとグリップと繋がった銃身が動く様になり、そのままグリップを前後させると長大な銃身が連動して動いて、弾倉から実包を掬い上げ初弾が装填された。最後にグリップをまた真下に戻る様に倒してレバーを離せば、後はトリガーを引くだけでマジックペンみたいな大きさの薬莢から弾丸が撃発されるだろう。

 そう、この銃は弾倉が銃の後部にあるブルパップ方式を採用した、マニアックな構造のボルトアクションライフルなのだ。

 

「……狙撃銃なのにアイアンサイトって、スコープも支給しないのかよ、上のクソ共は」

「私達の視力ならこれでも十分なんです。地球の裏側のリンゴでも撃ち落としてやりますよ」

 

 残念ながら世界は丸いので、それは百万年経っても無理だろう。

 しかしこの副隊長、顔は一切変わらないと言うのにやたらと良く喋る。まるで口から先に生まれて来たかのようだ。そのおかげで隊長は、事故直後だと言うのに非常に気が楽だった。少なくとも、救助を待っている間に暇を持て余す事は無いだろう。

 

「救難信号は発信出来たんだよな? 通信機とか情報端末とか、他に使えそうなものはなかったのか?」

「通信機は無残にも大破してました。パイロットの死因は多分これですね。墜落の衝撃でコンソールに頭突っ込んで、首がぽっきり行ったんでしょう。それ以外だと、後はレーダーが生きてたぐらいです。輸送ヘリの物なんで大した事は無いけど、お客さんが来たかどうかぐらいは解るんじゃないですかね」

 

 この場合のお客さんは救助隊か、通りがかりの味方部隊と言う意味になる。前線基地と本国とを繋ぐ補給線に、敵勢力がお客さんとして現れればそれはそれで一大事だ。

 ちなみに、今回発信した救難信号はボタン一つで周囲に無差別にSOSを発信する方式なので、通信機とは独立したシステムで機能させることが出来ていた。

 

「念の為に狙撃手のお前は、前線方向を集中して見張ってくれ。俺は逆方向な」

「了解たいちょー。日差しは気になりますが仕方ないですね。美白なんて物は、兵隊には程遠い幻想です」

 

 そうして二人で背中合わせ。じりじりと照り付ける太陽の元で、健全に二人の兵隊が銃と双眼鏡を構えて警戒を続ける。そしてすぐに二人は思いついた。

 

「クソあちい……。おい、幌張るぞ幌。監視小屋でも作らんと、このままじゃ干からびて死ぬわ」

「じゃあ塹壕も掘りましょう。半地下にした方が涼しいですよ。エンピ取って来ますね。ついでに支柱になりそうな物と迷彩になりそうな布も」

 

 エンピとはつまりショベルの事である。そうして地面を四角く切り取って、四隅に支柱を立ててその上に幌を被せる。この即席の土木作業には、副隊長の膂力が遺憾無く発揮された。青年の胸ほどまでしかないと言うのに、小さな体で成人男性顔負けの働き様。頼りがいがあり過ぎるその雄姿に、隊長の青年は脱帽である。

 

「本当に、俺達以上の身体能力を持っているんだな。軍学校じゃ資料だけで、コッペリアの実物は今日初めて見た」

「生は初めてなんですね。まあ力仕事は得意なので任せてください。ご褒美は何か甘い物とかで良いですよ。チョコレートみたいなので。チョコレートみたいなので」

 

 何故二回言った。副隊長は甘い物に餓えているらしい。顔色は全く変わらないが。

 それにしたって、ちょっとしつこいだろう。何なんだこのチョコレートへの欲求は。副隊長のヘルメットに本日二回目のチョップが落ちる。これは上官からの愛の鞭であり規律の修正であるので、暴力とは無関係なのだ。

 

「阿呆が。チョコは日持ちするんだから後回しだ。何日間で救助されるかもわからんのに、んな無駄遣いが出来るかよ。レトルトにしろ、レトルトに」

「普通の食事は別にいらないです。私達は飲まず食わずでも一週間ぐらいは動けますし。でも、身体を維持する為の薬は、毎日摂取しないと駄目ですけどね」

 

 便利なのか不便なのか解らない特性である。だったら、チョコレートも食べなくてもいいのではないだろうか。隊長の青年は訝しんだ。この副隊長、実はただ単にふざけているだけなのではないかと。

 そんな青年に対して、珍しく副隊長が声を掛けた。表情も口調も変わらないが、どこか試す様な感情が込められた声色で。

 

「……隊長さん。さっきから救助って言ってますけど、本当に救助なんて来ると思ってますか?」

「いや、来る訳ないだろ」

 

 即答だった。絶対に来ないと、確信している故の返答速度である。

 

「たかが士官一人。生き残ったコッペリア一人の為に、救助隊が来る訳ないだろう。金の無駄だ。俺達が待つべきなのは、次の補給部隊のヘリだよ」

「ああ、なるほど、そのヘリに拾ってもらうんですね。ヘリの周囲にこれ見よがしに積んである、あの物資の山と一緒に」

 

 ヘリの後部ハッチから表に引き摺り出された荷物の山。防水と衝撃対策の為のハードケースに包まれたそれは、中身の種類ごとに分けられてそのいくつかは解放され荒らされている。下手人は副隊長だ。

 

「何で食い物の箱も荒らしてあるんだよ。工具類の箱だけ開ければいいじゃねーか」

「たーいちょー、細かいこと気にしてると髪が伸びますよ。ちなみにチョコレートはあの箱にはありませんでした。きっと士官用の支給品ケースとかに入ってるに違いありません。後でもう一度荒らしましょう」

 

 顔色は全く変わらずに、瞳もハイライトの無い死んだ魚の様な眼なのだが、副隊長は声色だけ喜々として弾ませながらまくし立てた。はっきり言って怖い。

 そして同時に、青年隊長は呆れてしまった。まるで子供ではないか、これでは。

 

「お前のそのチョコへの執念は何なんだよ。チョコなんざ何時でも食えるだろうが」

「え、明日も食べられるかなんて、私達じゃわからないじゃないですか。こういうのは、食べられる時に食べておかないと」

 

 そんなの当たり前の事じゃないですか。そう言わんばかりの副隊長の声色に、青年隊長の背筋が凍り付いた。無表情の癖に良く喋るから忘れていたのだ。彼女達が、どんな扱いを人類から受けているのかを。

 

「たーいちょー、さては好きな物は最後まで取って置くタイプですね。エビフライとか残しておいて、ひょいっと食べられちゃうタイプですね」

「エビフライは最初に食うだろ。オカズなんだから。つーか、食い物の話してたら腹減って来たな」

 

 穴掘りのせいでずいぶん時間を取られたので、日の傾きが深くなっていた。なにより、炎天下での作業のせいでお腹がぺこちゃんである。簡易的ではあるが住処も出来た。だったらする事は一つだろう。

 

「よし、今日の夜は期限の近いレトルト食品にするか。水は節約したいから、お茶淹れるついでにそのお湯であっためるからな」

「私は今朝薬を接種したので、まだまだ補給は大丈夫です。たいちょーの食事の間も、私は引き続き周囲を警戒しますね」

 

 塹壕から這いだそうとする青年隊長と、その背中を見送ろうとする副隊長。そんな副隊長の元に戻って来て、隊長の青年はヘルメット越しの脳天にチョップを落とした。本日三回目。

 

「何言ってんだ。オメーも手伝って、オメーも一緒に食うんだよ。隊長命令だ、さっさと準備しに行くぞ」

「…………たいちょー命令じゃ逆らえないですね。陽が完全に落ちて灯りが目立たないうちに、調理を済ませてしまいましょうか」

 

 最初こそは目を瞬かせていた副隊長ではあったが、上官の命令とあらば即座に行動を開始する。顔色は表情筋が死んでいるかのような無表情で、ハイライトの無い大きな瞳の目のせいでまったく感情は見えないが。代わりに、その時の彼女の足取りは、どことなく軽やかで楽しげであった。

 

 余談だが、その日の夕食は温めた特に美味くも不味くも無いレトルト食品で済ませ。そしてデザートには、変哲もない板チョコを半分ずつ分け合った。

 




目が死んでる無表情な女の子にデカい銃を使わせたかった。
銃のリロードシーンを書けたので満足しました。
続きは書け次第と言う事で……。
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