不良隊長と表情筋が死んでる副隊長ちゃんのハートフル戦場談話   作:ネイムレス

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これにて一応の閉めとなります。
続きを書くかは私にもわかりません。


デブリーフィング

 そこは、灯りの消された真っ暗な闇の中だった。部屋の中の詳細も解らぬほどに闇に染まったその中に、たった一筋だけ光の当たる場所がある。部屋の中心にスポットライトのように光が当てられて、その光の中に直立不動のシルエットを照らし出す。

 

「以上が、今回のヘリ墜落を装った特務実験の報告となります」

 

 眩い光の中で、一人の少女が背筋を伸ばしながら声を張り上げていた。黒髪黒瞳の小柄な姿で、身体の上下を深緑色の軍服で包んでいる。他に特徴と言えば、瞳が周囲の暗闇を吸い込みそうな位に光が無く、死んでいる様な眼であると言う事だろうか。

 

「はい、全てはご命令通り速やかに。対象には、実験に気付いた様子は見られませんでした」

 

 彼女の口からは、ヘリの墜落から救助されるまでの詳細が語られたばかりだった。瀕死状態のコッペリアを速やかに処分し、命令通りに計器に頭を打ち付けて死亡したパイロットの焼失も見届けた。それからも、実験対象の一番近くで、唯一の生き残りを演じ続けた。何時も通りに、ただ只管の無表情で。

 彼女は人類の味方として、忠実に上官の命令を守り通したのだ。

 

「了解しました。これより次の作戦に備え、待機任務に戻ります」

 

 全ての報告を終えた少女は、暗闇の中に潜む人物に敬礼し退出の為に踵を返そうとした。それを、暗闇の中から不意に掛けられた言葉が静止させる。

 

「え……? 隊長さ……いえ、実験対象の人となりですか? 率直に言えば、勤務態度としては不真面目至極。とても軍属の人間として、規律をおもんぱかるとは思えない性格でした。ですが、私達の指揮官としては過保護さを見せず、私達を信頼して任せてくれる優秀な存在だと思えます。差し出がましい事を申せば、人権派の疑いはまったく無いと言って差し支えは無いでしょう」

 

 暗闇の中に苦笑が放たれ、そこまで言えとは言っていないと呆れ声が零れる。それを拾い上げた少女は、改めて背筋を伸ばし暗闇の中の相手に対して敬礼の姿勢を取り謝罪を口にした。 

 

「勝手なる意見具申、大変失礼いたしました!!」

 

 その様子に更に苦笑が増え、もう退室してよろしいと一方的に告げられる。光の中の少女は最後に大きく頭を下げてから、暗闇の中にも拘らず真っ直ぐに出入り口へと向かい部屋を後にするのだった。

 

 

 少女が退室した後の室内に、唐突に室内灯の光が灯る。闇を払われた室内は、乱雑なほどにファイルケースが詰まれた執務室の様相をあらわにして行く。そして、今まで暗闇の中に潜んでいた二人の人物が照らし出された。

 

「ふふっ、ずいぶんな言われ様だったね、隊長さん? それとも、たーいちょーって言った方が君は嬉しいのかな?」

「勘弁してください、特務大佐殿。自分はその様な特殊性癖、持ち合わせてはおりません」

 

 一人は背の高い女性であった。長い黒髪を無造作に頭の後ろで束ねて、黒縁の無骨な眼鏡で整った容姿を隠している。服装は着崩した軍服の上に、これまたヨレヨレの白衣を重ねて着ると言う奇抜な物だ。全身から、残念美人と言う色のオーラを放っていた。

 彼女は室内に一つだけ備えられた執務机に着いて、長い脚を組みくつくつと意地の悪そうな笑みをもう一人に向けている。

 

 そしてもう一人の人物は、鍛えた体を深緑色の軍服に包んだ精悍な顔つきの青年であった。そう、遭難生活から救出された青年隊長その人である。

 

「あいつ、絶対俺が居るの解ってて言いやがったな……。夜目まで効くとか、どんだけ高性能なんだよコッペリアってのは……」

「いやいや、流石に逆光の中に居る君の姿までは見えなかったと思うよ。私の後ろに誰かが潜んでいる位は、あの子なら察知してはいただろうけどね」

 

 先程まで少女を照らしていたスポットライト――ならぬライトスタンドの向きを戻しつつ、白衣の女性は自分の背後からぶつくさと言いながら移動して行く青年を視線で追い続ける。追われる側は独り言を聞かれた気まずさに顔を顰め、しかし部屋の中央に佇む頃にはすっかりと表情を飄々とした物に戻していた。

 

「それで、特務大佐殿の目論見は成功したんであらせられますか?」

「今は二人っきりなんだ、その糞みたいな敬語は使わなくてもいいんだよ? 何ならタバコの火でも付けてあげましょうか、たーいちょー?」

 

 すんごい嫌そうな顔をした青年でしたが、タバコは咥えさせてもらいました。基地内は全域禁煙です。

 部屋の中央で咥えタバコのまま腰に手をやり、休めの姿勢をとる青年に対して、白衣の女性はにんまりと笑みを浮かべて返答を述べる。先程の糞みたいな敬語での質問への返答だ。

 

「僕の実験が成功したかどうかで言えば、当然の如く大成功の一言だよ。あの子の生存能力は、他の追随を許さないレベルだった。知識を得て、経験を重ねて。そしてそれ以上に、人を守ろうとして。あの子は成長している」

「他の連中と何が違うのか俺には解らんが。そんなにアイツは特別視されるほど優秀なのか?」

 

 半分呆れた様な声の青年の表情を見て、白衣の女性は眼鏡がずり落ちる位に肩を震わせてクツクツと笑う。幼少のころよりの長い付き合いながら、相変わらず気持ちの悪い奴だと青年はこっそりと思った。

 

「君はワン・オブ・サウザンドと言う言葉に聞き覚えは――どうせ君の事だから無いだろうね。これは、機械的に量産された製品の中に、極稀にカスタム品を上回る性能の産物が生まれる現象を指して使われる言葉だよ。まあ、実証はされていないいわゆる都市伝説って奴だね」

「千分の一の高性能品? お前さんともあろう数字の宇宙の信奉者が、そんな在るかどうかも分からない都市伝説の産物を信じるって?」

 

 青年に訝しんだ表情で見られた白衣の女性は、そこでずり落ちた眼鏡を人差し指でクイッと押し上げる。自信に満ち溢れた表情だが、青年にはその瞳の奥に渦を巻いている様にしか見えなかった。狂気の色が見え隠れしている様に。

 

「無論、都市伝説なんてものは信じないさ。でも、実際にああして目の前にある現状は、事実として受け止め検証する必要性があるだろう?」

「……生みの親としても、解明したくて堪らないってか。いやだねぇ、根っからのマッドサイエンティストじゃねぇか」

 

 生みの親。そう、生みの親だ。青年の目の前に居る女性は、その有り余る頭脳を使い画期的な戦争の道具を作り上げた。稀代の天才であり、同時に大量殺戮者でもある。まるで雑草が毟られる様に死んでいく、大量の人形たちの生みの親なのである。

 

「くふっ、うふふふふふっ! 正気で戦争なんて出来る訳ないじゃないか。君は相変わらず面白い事を言うなぁ。だから色々な実験に使いたくなるんだよ」

「相変わらずぶっ飛んでんな。幼馴染じゃなかったら、ぶん殴って逃げてる所だよ」

 

 それは怖いなと言いながら、白衣の女性はニイイっとねっとりした笑みを浮かべる。確かにこの女は狂っているのだろうと青年は思う。でなければ、自分自身の体細胞から兵器を作り、それを毎日何万と殺そうなどとは思わないだろう。

 むしろ、コッペリアと言う存在を容認したこの世界こそ、何よりも狂っているのだろうと青年は思っていた。自分自身も、無論含めて。

 

 

 狂人には付き合って居られないとうそぶいて、青年隊長は幼馴染にして上官の執務室を後にした。そうして青年は、前線基地からとんぼ返りしてきた本国の基地内をあてどなく歩む。

 名目上は報告とメディカルチェックの為の帰国だが、元より前線基地での任務など存在しないので問題は無いのだ。

 

「何が『危機的状況での生存能力確認実験』だよ。くっだらねぇことに巻き込みやがって……」

 

 あの遭難していた三日間は、すべてが演出された物であった。副隊長と呼ばれていたコッペリアには、人権派の疑いのある司令官への監視実験だと欺いて。その実、観察されていたのは副隊長の側であったのだと言う。要するに全ては茶番であったのだ。

 

「……たいちょー。独り言を呟きながら歩いていると、はっきり言って不審者にしか見えませんよ」

「もう隊長じゃねぇよ。つーか、何でこんな所に居るんだよ副隊長」

 

 茶番の主役である所の副隊長と呼ばれていた個体――黒髪黒瞳の彼女が、基地内の廊下から殺風景な窓の外を眺めていた。待機任務中なので敷地内に居れば問題ないとは言え、ろくに植え込みも無い様な軍基地の灰色の風景など見ても何が面白いともあるまいに。

 

「それを言えば、私だってもう副隊長ではありませんよ。何故こんな所に居るかと言えば、久々に見る無機質な景色に嫌気がさしていたから、でしょうかね」

「嫌気がさしてんならわざわざ見んなよ。本当は甘い物の事でも考えて、ボーっとしてたんじゃねえのか?」

 

 ほんの少し前まで、当たり前のように繰り返していたやり取り。だがもう、二人の間にはそれを続けるだけの理由が無い。偽りとはいえ過ごして来たあの三日間は、もう既に過ぎ去った後の残響に過ぎなかった。

 

「そう言えば、上層部から本当に人権派の容疑を掛けられていたようですが、安心してください適当に誤魔化しておきました」

「露骨に話題を反らしたな。あー……、糞親父の影響で上には覚えが悪いままなんだ。まあ礼は言っとく、ありがとうよ」

 

 あの三日間での会話の内容には嘘は無い。ただ、全てを話ていないだけだ。そしてそれは、お互い様なのでことさら追及する様な事でも無い。

 だからもう、二人にはこれ以上に固執する理由は無いのだ。

 

「私達は人の味方ですからね。生まれた理由を果たす為に、当然の事をしたまでです」

「真顔で言ってるから、冗談なのか本気なのか分かんねぇよ。ったく、戻って来ても表情筋死んでるのは変わらねぇんだな」

 

 今後同じ部隊に配属されるとは限らず、むしろ特務を受けた後ならばバラバラにされる可能性の方が高い。ここでの会話を終えて別れれば、もう顔を合わせる事は無いだろう。そして、戦場に駆り出されれば、生きてまみえる可能性など微々たる物だ。

 

「食堂にでも行ってなんか食うか? 士官用の方ならマシなもんがあるだろうし、入れなくても買って来てやる位はしてやるぞ」

「せっかくのお心遣いですが、今回はご遠慮させていただきます。私達は一週間程度なら補給無しで過ごせますので。待機命令中でもありますし、割り当てられた待機所に戻ろうと思います」

 

 最後に何か与えようとしたのは未練だろうか。たかが数日を共にしたに過ぎない間柄だと言うのに、青年は自身の女々しさに気が付いて内心で苦く笑ってしまった。

 

「そうか、それじゃあ。次の任地でもがんばれよ。また会えたら、チョコ位なら奢ってやるぞ」

「はい、そちらも武運長久を。またお逢い出来たら、その時は是非に」

 

 そうして、特に何の変哲も無く二人は別れる。もう、お互いが傍に居る理由も無い故に。立ち去って行く副隊長の背中を見送って、青年は何とは無しに窓の外を見上げるのであった。

 きっと明日も、この空の下で彼女達は人を守り続けるのであろう。きっと、命ある限り。

 

 

 

 

 

「あ……」

「おや……」

 

 そして、二人は次の日に同じ部隊に配属されて再会した。滅茶苦茶気まずかったけれど、奢りの約束は直ぐに果たせそうである。これが腐れ縁の始まりとなるとは、二人はもちろん誰にも解らない事であった。

 




勢いだけで書き切ったエピローグ。
今回分かった事は、前作がヒットしたからって次回作を見てもらえるとは限らないって事ですね。
次は一話から読んでもらえるような作品になる様に精進しましょう。

それでは、ご観覧ありがとうございました。
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