-7月25日
神裂の襲撃とリボーンとの連絡から約一日が経過した。
あの後、しっかりと休養を取った上条とツナはインデックスに事情を悟られぬように入念に注意を払い、彼女を病院へと連れて行き、上条と何かと縁があるらしいカエルのような顔をした医師に完全記憶能力と人間の脳について詳しく尋ねた。
結果はリボーンの話と同じ。インデックスが生きていく上で記憶を消す必要は無い。彼女の命を脅かしているのは完全記憶能力ではなく、彼女の10万3000冊を使った反逆を恐れた
だがインデックスの何処にそんな魔術が仕掛けられているのかが分からない。故にツナも上条も神裂の訪問を待っていた。
現在インデックスは夕飯を食べて眠くなったのか、布団の上でウトウトしている。というか眠りにつく寸前だ。
(あと二日ちょっと……それまでにインデックスを縛ってる魔術を何とかしないと……)
(けど、俺の右手で何処に触れれば消せるのか皆目見当がつかねえ……)
やはりそういったものを見つけるのは魔術師の領分なのだろう。それに最悪なパターンとして考えられるのはインデックスの命を脅かす魔術が、ステイルの“
だからこそ、
徐ろにツナは並盛中の制服のセーター(レオン産)の内ポケットに入れていた御守りを取り出した。赤い糸で『安全必勝』と綴られており、中央にはデフォルメされたマグロが刺繍してある。
ヴァリアーとのボンゴレリング争奪戦の際、想い人である笹川京子(と友人のハルなど)がツナの身を案じて、ツナの為に手作りしてくれた御守りだ。尤も、ツナの為だけではなく、山本や獄寺にも作ってはいたが……。何かしらの大きな戦いの度にツナはこれを内ポケットに入れて願掛けする事で心の支えとし、戦い抜いて来た。今回も同じだ。
(京子ちゃん…!インデックスを助ける為に……力を、気持ちを貸して……!!)
「上条ちゃーん、沢田ちゃーん!お客さんですよー!」
そんな中、この部屋の家主である小萌の声が響いた。その瞬間、二人の表情は強張る。この学園都市において上条とツナの共通の知り合いなど数える程度しかいない。インデックスと小萌の他には、例の魔術師二人くらいだ。厳密にはもう一人いるが、今回の件には関係無いのでそれはどうでも良いだろう。
「……来たか」
玄関に向かえばそこには小萌の他に
「えーと、このお二人は上条ちゃんと沢田ちゃんのどういうお知り合いなんです?」
「悪い、小萌先生……ちょっと話し込んで来るから、インデックスの事頼みます」
「あんまり遅くならない内に戻りますから……お願いします」
小萌の質問に答える訳にはいかず、上条とツナは真剣な表情で魔術師達を見ながら、部屋で眠るインデックスを彼女に託し、場所を変える為に歩き始めた二人の魔術師の後をゆっくりと着いて行くのだった。
****
場所を変え、とある高校の学生寮、上条当麻の部屋に彼らは来ていた。話し合いの場としてここを選んだ理由は特に無い。強いて言うならばこの街の学生などに魔術の事を聞かれる訳にはいかないので、屋内が望ましい。それだけの理由だった。
最初に口を開いたのは神裂だった。
「……貴方達の言う通りでした。人の脳は私達が聞かされ、思い込んでいたよりもずっとスペックが高く、140年もの記憶が可能であり、これまで生きてきた『経験』と魔導書の『知識』を格納する場所は全くの別……私達は間違った認識の元、消す必要の無いはずの彼女の記憶を消し続けていたんです」
これについては上条とツナも調べがついていたので、驚きはしない。しかしこの事実によってインデックスを救おうとしていたのに逆に見たままの通りに傷付け続けていただけだった事を一層自覚してしまった神裂とステイルの顔は悲惨なものだった。
「……」
ツナはそんな二人の顔を見て何も言えなくなってしまった。ツナもこの二人がインデックスの記憶の問題のように、アルコバレーノの世代交代という問題に直面した。しかしツナは頼れる仲間達と共に全てを解決した。解決出来た。
だからこそ何も言えない。悲劇を自力で回避出来た人間では、悲劇を避ける事が出来ず、己の手で実行してしまった人間にかける言葉を見つけられないのだ。
「……僕達は何の為に、嫌われ役を引き受けてまで彼女を苦しめていたんだろうね。それが彼女の命を守る為だと自分に言い聞かせて来た。だがそれすら偽りだった」
初めて出会った時の見下した態度は見る影もなかった。これまで自分達がしてきた事は何だったのか。インデックスを傷付け、追い回し、関わってきた者達を理不尽に傷付け、殺し、挙げ句の果てに一年ごとに記憶を消して、『殺して』きた。
「あの子の記憶を消せば、
「
ステイルの言葉に堪忍袋の尾が切れた上条は彼の胸倉を掴み、顔を少し近付けて怒鳴り散らした。
「ふざけやがって!そんなつまんねえ事はどうでも良い!理屈も理論も後悔もいらねえ!!たった一つだけ答えろ魔術師!!」
打ち拉がれるのも、奪ってきた記憶と命を悔やむのも後回しだ。今ステイルや神裂がするべき事、心から望む事は上条の言う通り、たった一つだけのはずだ。
「テメェはインデックスを助けたくないのかよ!?」
魔術師の吐息が停止した。
****
それからの彼らの行動は早かった。インデックスを救う為、彼女を縛る術式の正体を暴く為に小萌のアパートにとんぼ返り。
上条とツナが帰って来たタイミングで小萌は銭湯に向かうつもりだったらしく、その準備をしていた。今が小萌を巻き込まないチャンスだと察知した上条達は怪しまれないように快く彼女を送り出した。
その後すぐに上条達は布団で眠るインデックスの身体を揺さぶって起こす。意識を覚醒させたインデックスは少し眠そうに目元を手でゴシゴシと掻くと上条とツナ、そしてその後ろにいる魔術師二人の姿を視認する。
「……とうま!?つな!?何で魔術師と一緒にいるの!?」
当然、上条とツナがこれまで10万3000冊を目当てに自分を追い回していたと認識している相手と行動を共にしている事に驚愕するインデックス。ステイルも神裂も心苦しそうな表情になってしまう。
どう説明したものかと思い悩む上条だったが、真っ先にツナがインデックスの前にしゃがみ込み、目線を合わせて口を開いた。
「あのね、インデックス……落ち着いて聞いて欲しいんだ」
彼女が大怪我をした時、ツナが癒しの魔術を使う時と一緒だった。ゾッとする程に真剣でありながら、優しく暖かく、安心させてくれるツナの瞳の前にインデックスは黙って頷いた。
全ての真実を打ち明けた。インデックスが一年前から記憶喪失になってしまっていた理由。神裂とステイルがインデックスの親友だった事。記憶を消さなければ生きていけなくなっていた事。それらが全て教会の上層部に仕組まれていた事。インデックスを救う為に力を合わせる事にした事。証拠として過去に撮影したと思われる神裂とインデックスのツーショット写真も見せた。端が所々ヨレていた。神裂がインデックスとの思い出を馳せては握り締め、泣いていたのが見て取れてしまう。
一気に許容範囲をオーバーする情報を次々と告げられた事でインデックスは困惑していた。しかし次第に呑み込めてきたのか、話の途中からチラチラとステイルと神裂に視線を向け始めていた。
優しく諭すように話すツナの口調によって大分落ち着いていられたのか、全てを話し終える頃には表情に陰りこそあったが、全部受け止められていた。
話が終わると同時にインデックスは神裂とステイルに向き合い、しどろもどろになりながらも、頭を下げて開口一番にこう言った。
「ごめんなさい……」
「「……え?」」
「覚えてなくて……ごめんなさい……」
神裂火織の目からぼろぼろと涙が溢れ出た。
心から申し訳なさそうに謝るインデックスを見て、堪え切れなくなって嗚咽を漏らして泣いていた。彼女には何の罪も無いのに、記憶を消したのは……酷い事をしたのは自分達なのに。なのに彼女に謝らせてしまった。
ステイルもまた、煙草を吸う事すら忘れて俯いていた。彼の胸中もまた、罪悪感と悲しみでごちゃごちゃになってしまっているのだろう。彼の足元に一筋の雫が落ちたのをツナは見逃さなかった。
神裂を泣かせてしまった事でインデックスはオロオロしている。
上条は怒りに震える。右の拳を握り締め、インデックスとステイル、神裂の仲を引き裂き、数え切れない程の悲劇を生み出した
一刻も早くインデックスを解放しなければならない。こんな事はもう二度と繰り返してはならない。
一通り泣いて神裂が落ち着いたのを見て、上条達はインデックスを縛る術式を調べ始めた。
主に身体チェックをする事になったが、そこは同性である神裂が風呂場に彼女を連れてチェックする。
とはいえ、昔から一緒にいた彼らが気付かなかったのだ。そう簡単に分かる場所に仕掛けられてはいないだろう。
「………ありました」
暫くしてインデックスを連れて風呂場から出て来た神裂は、三人に術式発見の報告をする。どうやら元々アタリは付けていたようで、脳に魔術を仕込む事と、普通に生活していれば人がまず見る事が無いという条件を満たした場所はほぼ一箇所しか無かった。
「インデックス、口を大きく開けて下さい」
「……うん」
あーん、と口を開くインデックス。神裂に促されて順番にインデックスの口内を見る上条達。ツナもまたインデックスの口の中を見て、喉の奥にある刻印を確認した。
「……これが、インデックスを……」
神裂は怒りで歯を軋ませる。親友を苦しめていた元凶が自分達の頭であり、当の本人は何食わぬ顔でインデックスにこんな仕込みをしていたのだ。
「後はこれを壊すだけだな……」
上条がインデックスの目の前に立つ。上条の右手、
インデックスは少しだけ不安そうに上条の顔を見る。
「とうま……」
「そんな顔すんなよ……。これが終わったら、皆で焼肉でも食いに行こうぜ」
「……うん」
大きく開いたインデックスの口の中へ上条はその右手をねじ込む。男子高校生の手の大きさ的に少しばかりインデックスは苦しそうだが、耐える。もう何一つだって忘れてやるもんか。そんな想いを抱いて、耐える。
そして彼女の喉奥にあった刻印に
バギン!と上条の右手が勢い良く後方へと吹っ飛ばされた。右手は強い衝撃を受けてジンジン痛むが、そんな事は気にはならない。
目の前の異質な光景に目を奪われていたから。
先程まで意識がハッキリしていたはずのインデックスの両目が静かに開き、その眼球は赤く光る。眼球の中に浮かぶ、血のように真っ赤な魔法陣の輝きによって。
(……意識が、ない…?)
(不味い…!)
毛糸の手袋を嵌めたツナと右手を構える上条はそれぞれ別の点に注目する。インデックスの意識が既に無い事を悟るツナと魔術を察知する上条。上条は本能的に右手を前に突き出し、それと同時にインデックスの両目が真っ赤に輝いて爆発が巻き起こった。
「ーー警告、第三章第二節。Index-Librorum-Prohibitorumーーー
のろのろと人間らしくない動きで立ち上がるインデックス。神裂とステイルは愕然としているが、ツナも上条もこの状態には覚えがある。アレは初めてステイルと戦った時の変化だ。確か『
爆発自体は上条の右手の力で打ち消された。しかし問題はそこではない。
「な、何故……インデックスが魔術を……!?」
「あの子は魔力を練れないはず……!!」
そう。神裂とステイルが呟く通り、魔術を使えないはずのインデックスが魔術を行使している。上条とツナに初めて出会った時も彼女は魔力が無いから魔術を使えないと述べていた。だが目の前で彼女は魔術を使っていた。
「……そういやぁ、聞いてなかったっけか。能力者でもないお前が一体どうして魔力がないのかって、理由」
「……教会の嘘。インデックスの記憶の秘密を知った人間がそれを解こうとしたら抵抗するように魔術を仕込まれていたんだ。インデックスの魔力は……全部それに使われていた……!!」
ツナが直感した仮説に上条も頷く。付け加えるとすれば『口封じ』も兼ねているのだろう。
インデックスを弄ぶ上層部の魔術師への怒りに燃える中、ツナは冷静にポケットから死ぬ気丸を取り出した。
次から次へと新たな真実が明らかになり、呆然とする魔術師二人に上条が一喝する。
「ボサッと突っ立ってんじゃねえ!!これで全部分かっただろ!!インデックスを助けるにはお前達の力も必要なんだ!!」
いくら異能の力を、神の奇跡すら打ち消す右手があっても全ての魔術に的確に対応する事は出来ない。専門家の知識と助言が必要だ。
「テメェら、ずっと待ってたんだろ!?インデックスの記憶を奪わなくて済む、インデックスの敵にならなくて済む、そんな誰もが笑って誰もが望む最っ高に最っ高な
インデックスの顔の前に現れた魔法陣から魔術が発動され、不規則な起動の弾丸が発射される。しかしそれは吸い込まれるように上条の右手へと次々と着弾しては砕けるように消えていく。
「ずっと待ち焦がれてたんだろ、こんな展開を!英雄がやってくるまでの場繋ぎじゃねぇ!
凄まじい反射神経で襲い来る魔術を
「ずっとずっと
必死の防御を続けていても語るのをやめない。例え上条が一人でインデックスを救い出せたとしても、それでは意味がないのだ。彼らが自ら立ち上がらなければ。
「手を伸ばせば届くんだ!
魔術師二人の瞳が揺れる。上条の必死の訴えにこれまで押さえ付けてきた激情が刺激される。カードを手に取った。刀の柄を握り締めた。
「ーーーーFortis931!!!」
「ーーーーSalvere000!!!」
我が名が「最強」である理由をここに証明する。
救われぬ者に救いの手を。
魔法名を名乗った。だが名乗った理由はこれまでとは違う。相手を殺す為でも、友達の記憶を消す為でもない。たった一人の女の子を救う為に。
だが魔術や技を行使する前にインデックスが先手を打った。魔法陣から放たれた魔術は複数の曲がる光線を穿つ。上条の右手で打ち消し切れないようにする為の範囲攻撃だ。
それらが三人に着弾する前にそれを阻むべく橙色の炎が燃え盛った。
壁のように立ち塞がる炎と衝突した事で魔術の光線は空気に溶けるかのように自然に、極自然に消えていく。まるで空気そのものと『調和』したかのように。
「当麻君…」
暖かい熱気が上条達の周囲に漂う。この熱が…熱を放っているものーーー死ぬ気の炎が彼らを守っているのだと気付くのにそう時間は掛からなかった。
「俺もいる」
「ツナ!」
上条の隣には初めて共に戦った時のように、額に大空属性の死ぬ気の炎を灯し、
「助けよう。インデックスを」
「……ああ!!」
上条当麻と沢田綱吉。二人の
原作禁書より二日程早く決戦開始。
ラストは原作REBORNの
REBORNキャラと禁書キャラでペアを組ませてみるのも面白いかも。上条さんとツナみたいに。