美琴達に連れられて学園都市の中を歩くツナを遠くから観察する者がいた。その人物はツナの姿を見るとギリ……と歯軋りをして、己の右手の指に嵌めてあるリングに左手を添えた。
「ボンゴレ10代目……沢田綱吉……!!!」
その人物の目には強い敵愾心が宿っていた。まるで自身とツナが不倶戴天の敵であるかのように。
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「ここのクレープ美味しいのよ」
「お姉様、本当はこの間のストラップに続いてゲコ太シールがお目当てでは?」
「そ、そんな訳ないでしょ!?」
(……何やってんだろ、俺)
ツナは美琴に連れられて黒子や初春達と共に学園都市のクレープ屋に来ていた。
あの後、仲間達がこの街の上層部に狙われている事を知り、顔面蒼白になったツナを気遣い、美琴の発案でまだこの街の事をあまり知らないツナを案内しようという事になったのだがそれがツナの気晴らしになるかと言えば微妙なところである。因みに黒子と初春はパトロールも兼ねている。
しかし言われれば無下にできない……というより断れない性格のツナはズルズルと引き摺られて学園都市の移動クレープ屋のある広場まで連れて来られていた。
お金は(かなり気が引けたが)上条や小萌から少しだけ貰っている為、クレープを買うくらいなら問題は無い。
「特典のゲコ太シールです!」
「げ、ゲコ太…?何それ…?」
適当にチョコとクリーム、苺をトッピングしたクレープを買ったら『ゲコ太』なるカエルのキャラクターのシールをおまけで貰ったツナだが、当然こんなキャラクターの事は知らない。明らかに幼児向けのキャラクターだし、ツナの趣味ではない。
(ランボにあげたら喜ぶかな……?)
一瞬ランボにあげるという選択肢が浮かんだが、自由奔放で破茶滅茶な彼の事だ。そこら中にシールをベタベタと貼り付ける迷惑行為をするだろう。よってその選択肢はすぐ様排除。イーピンは興味を持たないだろうからフゥ太にでもあげる事にした。それまで失くしていなければの話だが。
「ゲコ太シール、終了でーす」
ツナがクレープとシールを受け取り、美琴の番が来た瞬間、店員が列に並んでいる子供達(美琴含む)にシールの品切れを告げる。瞬間、美琴は膝から崩れ落ちた。
「うわっ!?何!?」
「あぁ…あ………」
絶望したような表情の美琴を見てツナは仰天するも、その視線がクレープ屋の看板にある『ゲコ太キャンペーン』なる文字に向けられている事に気付いた。
(……もしかして、御坂さんはこのキャラが好きなのかな?)
このキャラクターについて知らない自分が適当に他の誰かにあげるより、それが好きだという人に渡した方が良い。そう思ったツナは美琴にゲコ太シールを差し出す。早速フゥ太にあげるという予定は崩れた。
「はい」
「え?」
「あげるよ。俺このキャラの事、良く知らないし……御坂さんは好きなんでしょ?」
「良いの!?」
凄まじい速さでツナの手にあるシールを掴む美琴。それに驚きながらも頷くツナ。美琴は感極まった様子でシールを受け取り、キラキラした目をツナに向けて礼を言う。
「ありがとーーー!!」
「……何だかデジャヴですね」
「佐天さんとストラップの時と同じですの」
ゲコ太のシールを手に入れてルンルン気分になっている美琴を眺めていたが、ツナは美琴に対して抱いていたイメージが少し崩れていた。
「なんか……思ったよりも……」
「常盤台のエースともあろうお姉様が、このようなお子様趣味なのはわたくしもどうかとは思うのですが、一向に聞き入れては貰えず……」
「ああ、そうじゃなくて……」
「?」
「俺、御坂さんは良い人だけど、もっとこう……怖い人だと思ってたんだ。初めて会った時も助けて貰ったとはいえ、凄い電撃を容赦なく不良達にお見舞いしてたし……。でも全然そんな事なかったよ。超能力が使えて、少し荒っぽいところがあるだけで……マスコットキャラが好きな、全然普通の女の子だった」
ついでに言えば上条から聞いていた彼を追いかけ回して電撃をぶっ放すという話が怖い人というイメージを後押ししていたのだが、そんなのは御坂美琴のほんの一面に過ぎないのだと分かった。
その本質は可愛いものが好きで、心優しい何処にでもいる普通の女の子だとツナは思った。
「沢田さん……」
学園都市の外から来たとはいえ、能力者に対して『普通の人』という認識を持ったツナも大概変わった価値観の持ち主と言える。高位の能力者は嫉妬や憧れなどの感情を抱かれやすく、周囲の人が遠巻きにしてしまう事も多い。
その上
美琴だけは
故に初春も黒子も周りに近寄り難く思われがちな美琴を学園都市の人間ではない、つまり能力開発を受けていないツナにそういった一面を見た上で『普通の人』だと言って貰えた事が嬉しく思えた。
能力ではなく、美琴本人を見て貰えたのだから。
「あ、そういえばこの街の学生って、皆超能力者なんだよね?白井さんと初春さんはどんな超能力を持ってるの?」
「その認識は少々誤りがございますの。超能力者と呼ばれるのはこの学園都市に七人しかいないお姉様含むレベル5のみで、他は
(なんかいきなり授業みたいになったーーー!!)
この街と能力者について詳しく知らないツナに黒子は補足を入れ始める。この街で生活していくにはその辺の知識も必要だろう。ツナからしたらいきなり過ぎて訳が分からないが。
それからクレープを頬張りつつ、美琴達はツナに街中を案内して回る。美琴行きつけのゲームセンターだったり、花の綺麗な公園だったりと中学生として割と飽きないチョイスではあった。
「あ、私ジュース買ってくるわね」
「……ではわたくしはちょっとお花を摘みに行ってきますの」
「え!?どうしたの急に?てか、花壇の花って勝手に取っちゃ駄目なんじゃ……」
「違いますよ沢田さん、女の子がお花を摘むっていうのは……「初春、余計な事は言わない事をお勧めしますわ」きゃん!?」
美琴が
ポツン…とツナ一人が残された。だが、色々と考える時間を貰えなかったツナとしては今一人になれたのは少しだけ有り難かった。
(獄寺君や山本……お兄さんに雲雀さんに骸、クロームとランボと炎真まで……皆がこの街に狙われてる。多分あの匣兵器がいずれ皆の元にも……リボーンからそれで俺がいなくなった事は聞いてるだろうから、罠だと分かってても絶対開いて来ちゃうよな……)
仲間の誰かと立場が逆ならツナだって迷わずそうするだろう。仲間の為なら命だって懸けられる。だが今この立場にいるツナだからこそ、まずは仲間達自身の安全を優先して欲しいと思ってしまう。
魔術師との戦いでは獄寺達に加勢して欲しいと思ったが、この学園都市が敵ならば話は別になってしまう。
「……ハァ」
思わず溜め息を吐いてしまう。帰る方法も分からず、仲間達が罠と知ってこちらに来るのを止める手立ても無い。守りたい仲間を守れない。
どんよりと沈んだ気持ちになる中、近くから子供の泣く声が聞こえて来た。
「うわあぁぁん!ゲコ太風船がぁ〜!!」
「しょうがないよ。諦めなよ、届かないもん。取れる能力も無いし」
「いやいやいやだあ〜!!」
ぼろぼろと涙を溢して泣きじゃくるランボとそう変わらない歳であろう少年とその兄らしきフゥ太と同じ位の年齢と思われる少年がいた。どうやら弟がゲコ太の風船を何かの拍子に離してしまったようで、そのまま浮いて木に引っかかってしまったらしい。
兄に宥められるもぎゃあぎゃあと泣く弟。
ツナにはそれが何だかリボーンにボコボコにされて泣くランボと、それを仕方なさそうにあやすフゥ太に見えた。
「……ん?」
泣いていた弟の方がその様子を眺めていたツナの姿を見つけると何故か一直線にこちらに駆けて来る。少年はツナの元に来るとぼろぼろと泣きながらツナの服の裾を掴んで、木に引っかかる風船に指差し、泣きついて来た。
「風船取っでえええ!!」
「うええ!?な、何で俺!?」
「こ、こら!……ごめんなさい、いきなり……」
近くに自分よりずっと身長の高い(同年代と比べたら低いが)ツナが現れた事により、風船が取れるのではないかと思ったようで、必死になって縋り付いてきたのだ。兄の方にいきなりこんな頼みをした事を咎められるも涙目で「取って欲しい」と訴える弟の視線に耐えられず、結局ツナは風船回収を引き受ける事になってしまった。頼まれたら断れないランキング1位は伊達ではない。
風船の引っかかった木をツナはどうにかよじ登る。運動も勉強もダメツナと呼ばれる程にできないツナだが、以前ヴァリアーとの戦いに備えてリボーンの指導による崖登りの修行を死ぬ気でこなした彼にはこのくらいの木ならある程度は普段のダメダメ状態でも登れるようにはなっていた。あまり使いどころのないスキルだが、こういう時にはそこそこ役に立つようだ。
(ったく、こっちの気も知らないで……泣きたいのは俺の方だってのに……)
心の中で悪態を吐きつつも、やはり泣いてる子供の頼みを無下にはできない。ツナは風船の引っかかっている枝に向かって慎重に渡っていく。これで枝で引っ掻いてしまい、風船が割れてしまうなんて事態になってしまえば最悪だ。あの子供は更にギャン泣きするだろう。
「ん……あとちょっと……取れた!……うひゃああっ!?」
木の枝と葉に阻まれながらもどうにか身を乗り出して手を伸ばす事で風船の糸を掴んだツナ。しかし身を乗り出してやっていたが故に取れた拍子に足を滑らせて地面に真っ逆さま。そのまま背中を打ち付けてしまった。それでもツナは風船の糸を離しはしなかった。
「いてて……」
「お兄ちゃん、だいじょうぶー?」
「う、うん…。何とか……ほら、風船取れたよ……」
「わ!ありがとぉ!」
「あ、あの……弟がいきなり我儘言ってごめんなさい。それと……ありがとうございます」
ツナが取った風船を受け取り、無邪気に喜ぶ弟と、申し訳なさそうにしながら礼を言う兄。ツナは気にしないでと優しく言って、改めて礼を言って去っていく兄弟を見送った。
そしてドジを踏んで自分が痛い目に遭いながらも、子供の風船を取ってあげたツナの様子を初春と美琴、黒子は遠くから温かい目で見守っていた。
「……沢田さんって優しい人ですね」
「そうね。初めて会った時から思いやりのある奴だったし」
「素行に問題は無さそうですわね。まぁチキンでしたからあまりその辺の心配はしてませんでしたけど」
三人は少しだけツナへの『チキン』という評価を改める。沢田綱吉という人間はとても優しい人物だと。そうしてまだちょっと身体が痛いであろう彼に手当てをする為、駆け寄って行った。
「まだまだ他にも面白いところは沢山あるけど、今日のところはこの位で良いかしら」
「そうですわね。いきなりそう多くの物を見せても混乱してしまうでしょうし」
「今度は佐天さんも誘って行きましょう!」
「……ありがとね。学園都市の案内までしてくれて」
半分は彼女達自身が遊びたい気持ちもあったのだろう。しかしそれでもこの学園都市に実質閉じ込められてしまったツナの今後の為に手を尽くしてくれたのは有り難かった。
そして日は暮れ始め、周りには他に誰もいない。黒子と初春の
黒子と初春がいなくなったのを見計らい、物陰に隠れてツナ達の様子を伺っていた人物が炎圧を感知できるツナにすら気取られぬ一瞬の間にリングに炎を灯し、匣兵器へと注入し、開匣した。
「じゃあ、俺もここで。待ち合わせもあるし」
「そう?じゃあまたね」
「うん。また……」
ドオォォォン!!
突如ツナと美琴の真後ろに何かが落下し、アスファルトを砕いた。凄まじい轟音がした事で思わず咄嗟に二人は振り向いた。
「……え?」
ツナはその姿を視認した時、思わず目を疑った。しかし同時に超直感は“アレ”は己の知る“それ”だと伝えていた。
それは、2m越えの体躯。全身真っ黒な重装備。
初めてそれを見たのはヴァリアーとのボンゴレリング争奪戦での事。10年後の未来においてもあらゆる種類が立ちはだかり、道を塞いだ。ツナの中でトラウマにならなかった事の方がおかしい程の存在。旧イタリア軍によって開発された人型兵器。
(モスカ……!?)
紛う事なき、モスカがそこにいた。種類はツナの知るもののどれとも異なるようだが、それは間違いなくあのモスカだった。
モスカの機体から発せられる機械音と共に起き上がり、こちらに向いてきた。
「いきなり何?ロボット…?何だか知らないけど……襲って来るなら、ぶっ壊して……っ!?」
美琴が電撃を放とうとした瞬間、モスカの機体に備えられていたスピーカーから少し小煩い程度の高音が鳴り響いた。以前ツナが戦ってきたモスカにはこんな雑音はなかった。
愕然としながらツナはモスカを見据える。
(な、何でモスカがここに…!?)
少々耳障りなノイズを発しているが、そこは大した問題ではない。問題は何故ここにモスカがいるのか。何故このタイミングでここに来たのか。目的は何か。
次の瞬間、美琴が顔を苦痛に歪めて膝を突いて頭を抱え始めた。
「み、御坂さん!?」
「な、何よこれ……!?頭が……!!こ、これじゃ演算……できな…い」
息も荒い。明らかに異常事態だった。この場で体調が正常なのはツナだけ。どう見てもあのモスカが美琴の不調に影響しているが、どうすれば良いのか分からない。
するとモスカの首が動き、こちらに視線を向けてきた。そして右手を美琴へと向け、パカリと指から射撃口が開いた。そこから藍色の炎を纏った弾丸が連射された。
(霧属性の炎……!?)
「このっ……!!」
美琴も自分が狙われている事に気付いたのか、己の周囲に電磁波を発生させて即席の防壁を作り出した。普段の彼女からは考えられない程に弱々しい電撃であるが、隣にいたツナもその盾の範囲内に入る程度の規模はある。
しかし霧の炎の弾丸はそれをいともたやすく貫通して爆破。美琴はその炎圧によって後方へと吹き飛ばされる。身体を何度も地面に打ち付ける。
「きゃあああっ!?」
「御坂さんっ!」
それでも美琴は頭痛に悩まされながらも足が覚束なくとも立ち上がり、駆け出してモスカに立ち向かう。その手にはやはり弱々しいが、電撃を迸らせ、モスカに向けてぶっ放した。
「あんたね……!私を狙うだけじゃなく……私の友達まで巻き込んでんじゃないわよっ!!」
しかしその弱体化した能力ではモスカを破壊するのに充分な威力には到底届かず、放出された霧の炎と衝突し、押し負けて消失してしまった。本来霧属性の炎は炎による直接的な攻撃ではなく、その特徴である“構築”の力で幻覚を生み出して戦うという使い方が正しい。勿論死ぬ気の炎である以上、霧属性の炎にも熱や物理的な破壊力は備わっているが、この使い方は大空や嵐、雨といった属性での戦いに良く見られるものだ。
モスカは美琴の電撃を防ぐだけに留まらず、背中と足に装備されていたターボを起動して彼女を押し潰さんと超速でタックルを仕掛けた。
(やられる……っ!?)
あまりの速さに避けられない事が分かってしまった。電撃で防げるだけの威力も出せない。衝突を覚悟し、美琴は目を閉じて身体を強張らせる。生物がダメージを受けると分かった時に本能的に取る行動だ。
何もしないよりはマシだが、それでも大怪我は免れられない。誰もがそう考えるだろう。
しかしいつまで待っても衝撃は来なかった。美琴は恐る恐る目を開けると目の前には異様な光景が広がっていた。
「……え!?」
ターボ全開でこちらにすっ飛んでくるモスカと、そのモスカを左手のみで受け止めて微動だにせず、額に橙色の炎を灯すツナがいた。いつの間にやら両腕に赤い鎧のようなものまである。
美琴の視点ではツナはこちらに背を向けているが、後ろからでもよく見ればツナの額部分に炎があるのがチラリと見えた。
しかし炎の有無に関係なく、美琴にはツナが先程までとはまるで別人に見えた。
ツナは困惑する美琴に構う事なく、凛々しく目の前のモスカへと告げる。
「お前の相手は俺だ」
そう告げたツナは大空属性の死ぬ気の炎を纏った右拳を無理にでも前に進もうとするモスカへと叩き込んだ。
なんか、佐天さん出せませんでした。
時系列的に美琴、まだキャパシティダウンの詳細、知らない…よね?