とある魔術のボンゴレX世   作:メンマ46号

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この章、ほぼほぼノープランで始めたので、決着シーン以外ほとんど決まってなかったりする。


吸血殺し来る!

「死体……だって?」

 

 ワナワナと震え、戦慄する上条の問いに顔を青くしたツナがゆっくり頷く。ステイルは大して動揺していないようで、つまらなさそうに煙草を吸い、煙を吐き出す。

 

「施術鎧による加護と天弓のレプリカ……恐らくローマ正教の十三騎士団だろう。裏切り者の首を取りに来たは良いけど、その様子じゃ全滅みたいだね。全く、騎士団はイギリス清教の十八番だというのに、下手に盗作するからそういう事になる」

 

 手も足もひしゃげ、交通事故のようにボロボロになった金属の塊。中身は潰されて赤黒い液体……血を流している死体。鎧を着て死んでしまっているのは上条にも理解できた。

 

「……酷い」

 

「何を驚いているんだ?ここは戦場だろう?死体の一つや二つ転がっていても何も不思議じゃない」

 

 分かってはいた。敵は上条達侵入者を殺す為の罠を張っているとステイルから事前に聞かされていた。刃を向ける敵と話し合いで解決できるなんて思っていなかったはずなのに。

 

「くそ……ったれが!!」

 

「待って当麻君!この人、まだ息をしているよ!」

 

 ツナの言葉を聞いて上条は鎧の隙間に耳を当てる。すると僅かに空気の漏れる音が届く。その事実に対して幸運を噛み締めると同時にこの有り様では下手に動かせないと気付く。

 

「……救急車を呼ばねーと」

 

「で、でも周りの人はどうして反応一つしないの!?目の前で人が血を流して倒れてるのに……認識できないように魔術が働いているって事!?」

 

「やはり勘が良いね沢田綱吉。そういう結界なんだろうさ。コインで言うなら表と裏だね。ここはコインの表の住人、つまり何も知らない生徒達はコインの裏である魔術師の存在に気付く事ができない。そしてこれだけ騒いでいながら周りの人間に反応一つされない僕達もまたコインの裏扱い。何も知らない生徒達に干渉する事ができない。見なよ」

 

 説明するステイルがエレベーターから出て来た女子生徒の足元を指差すと、床を浸す赤い血が水溜りのようになっている上を彼女は極自然に歩く。

 水上歩行をしているかのように歩く彼女の靴裏にはその血は一滴も付着しない。

 

「……そんな」

 

 ステイルは冷静にエレベーターのボタンを押すなりして確認を取る。そして自分がボタンを押しても何も反応が無い事から現状を悟る。

 

「僕達もこの死体も気付かれない。救急車を呼ぶのも恐らく無理だろうね。というかそもそも僕達は自分の力でドア一つ開ける事もできなくなったらしい。建物そのものはコインの表みたいだ。出入り口の自動ドアも同義だから、閉じ込められたようなものだね」

 

「……」

 

 結界と言われても上条にはあまり馴染みのない言葉だ。しかしそれが魔術という異能の力ならばそれこそ彼の出番のはずだ。

 上条は幻想殺し(イマジンブレイカー)で結界そのものを打ち砕くべく、右拳を思いっきり床へと叩き付けた。

 

「……みぎゃあああっ!?」

 

「君は何をやってるんだ。沢田綱吉ならともかく、君が拳で床を砕ける訳がないだろう」

 

(いや俺も死ぬ気にならないと無理だけど……)

 

 硬い床で拳を痛めてのたうち回る上条にステイルは呆れて溜め息を吐く。上条が何を試そうとしたのかくらい見当が付く。そしてそれが成功しなかった理由も。

 

「恐らく僕の魔女狩りの王(イノケンティウス)と同じ原理さ。魔術の核を潰さない限り、この結界を破れない。そして定石(セオリー)だけど……核そのものは結界の外に置いてあるんだろうね。内に閉じ込めた人間が万に一つも逆転出来ないように。いや、まいったまいった」

 

「そんな……」

 

「……畜生、じゃあどうすんだよ。目の前に傷付いた人がいるってのに医者を呼ぶ事も外に運び出す事もできないのかよ……」

 

 ツナはX BURNERで空間ごと結界を吹き飛ばす事も考えたが、ステイルの言葉に準じて考えればコインの裏となっているツナが何をしてもこの建物に干渉はできない。

 いや、上手くいったとしてもその瞬間に建物だけでなく、ここにいる人達までもX BURNERやその余波で吹き飛ばされてしまうだろう。

 

「別段何もする必要もない。そいつはもう死んでるよ」

 

「馬鹿言ってんじゃねーよ!ちゃんと息確かめろ!まだ生きてるだろうが!!」

 

「そうだね。心臓が動いているという一点のみならそれはまだ生きている。けれど、折れた肋骨は肺を突き破り、肝臓は潰れ、手足の大動脈はとうに破れている。……これはもう助かる傷じゃない。こいつの名前は死に体だよ」

 

 確かにこれではこの場に了平がいたとしても、晴の“活性”の力でも助けられないだろう。それ程までに複雑で深い傷だ。特に肋骨が肺を突き破っているという点が絶望的だった。“活性”はあくまでも“活性”。修繕や修復ではないのだ。

 

「「……!!」」

 

「何をそんな顔をしている?本当なら一目見ただけで分かっていただろう?特に沢田綱吉」

 

 上条にもツナにもステイルがどうしてこんなに冷静でいられるのかが分からない。どうしてこんなにも冷徹な対応ができるのか。

 

「……ナッツ!」

 

「ガウ!」

 

 しかしそれでも手は尽くすべきだ。ツナはリングに炎を注入してナッツを呼び出す。そして現れたナッツに視線を向ければナッツも頷く。

 ナッツの雄叫びで大空の“調和”をこの建物に浸透させるのだ。コインの表と裏という仕切りを“調和”で失くして、結界による認識阻害と不干渉を解除できないだろうか。

 

「GAOOOOOOOOOO!!!」

 

 波紋のように橙色の光が周囲に広がった。同時にこれまでコインの裏を認識していなかった生徒の一人が驚きの声を上げた。

 

「……うわっ!?」

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんか今……目の前に壊れたロボットがあったような……」

 

 効果が出たのは一瞬。次の瞬間には結界は正常に機能し、塾生は今見た本来の光景を目の錯覚か何かと判断してしまったようだ。恐らくはステイルの言う建物の外にある核が結界の効果を元に戻したのだろう。

 

「ツナ、今のは……」

 

「何をしたのか知らないが、今回それはもうするな。死体に気付かれたら大騒ぎになるぞ。そうしたらもう姫神秋沙の救出どころじゃなくなる」

 

「……」

 

 結局、大空の“調和”でもどうにもできない。目の前で死にかけている人を助ける事もできない。

 

「死人には身勝手な同情を押し付けられるだけの時間もない。死者を送るのは神父(ぼく)の役目だ。素人共は黙って見ていろ」

 

 妙な気迫を発するステイルに気圧されて上条もツナも一歩下がってしまう。同時に気付く。彼の背中には確かな怒りが纏われていた。普段の皮肉な態度からは想像もつかないが、それは紛れもなく魔術師ではなく、神父としてのステイル=マグヌスのものだった。

 

 それからステイルがした事は何も特別な訳でもない。ただ一言、外国語で何かを言っていた。上条にもツナにも意味は分からなかったが、目の前の『騎士』には通じたのか、ステイルに向かって右手を差し出し、彼も似たような言語で何かを言う。それに対し、ステイルが頷くと彼の全身から緊張が解けたのか、差し出された右手が落ちた。

 

 『騎士』は……息を引き取った。

 

 ステイルは神父として、最後に胸の前で十字を切った。

 

「行くよ。戦う理由が増えたみたいだ」

 

****

 

 一行は目的であるビルのあちこちにあるであろう隠し部屋を探索していた。

 先程の騎士の件で気が滅入っていたが、それはまた別の問題に直面していた。

 

「いつつ…」

 

「足が……」

 

 コインの裏と表に分断された影響で、床を踏んだ衝撃が全て自分達の足に跳ね返るのだ。あまりにも硬すぎる床を歩く為に普段よりも疲労のペースが何倍にも跳ね上がっていた。これは自分達が『裏』で、建物が『表』である故に起きてしまう現象らしい。

 

 するとふと上条が思い出したかのように口を開く。

 

「電話はどうなってんだろうな?」

 

「へ?」

 

「いや、コインの裏表の話。電話もやっぱ通じなくなってんのかな……と」

 

 言いながら上条はポケットから携帯電話を取り出し、迷わず電話をかける。この状況で無関係の他人にかけるわけもないから、恐らく相手はインデックスだろう。

 

「てゆーか、電話をかけたら気付かれたりしないよね?」

 

「確かに……」

 

「さあ?けど、どの道僕達の侵入にはもう気付いてるだろうね。正面突破だし」

 

「じゃあ何で連中襲って来ないんだよ?」

 

「さてね。余裕なのか一撃で速やかに必殺したいのか。ま、あの錬金術師の事だ。大方、僕達の反撃を封殺する為に色々下準備でもしてるんだろう」

 

 そんな予想が付いていて何故こんなにも余裕なのか。そして暫くコールを鳴らすとようやくインデックスが電話に出たようだ。上条はツナにも聞こえるようにスピーカーをONにする。

 

『ひゃっ、ひゃい!こちあのこちら、「Index-Libror…じゃないっ、違うです、こちらカミジョーです、あのはい!もひもひっ!』

 

 滅茶苦茶テンパっていた。いくら何でも普段のダメダメなツナでもやらかさないミスを連発していた。

 

「……一つ聞くけどらお前ひょっとして電話に出るの初めてか?」

 

『ひゃいっ!?って、あれ?この声とうまだ。あれ?電話の声ってみんないっしょ?』

 

 ごんごん、という音が響く。恐らくインデックスが不思議に思って受話器を叩いている音だろう。

 

「インデックス、機械の調子が悪いと感じたからって無闇に叩くな。何だかそれおばあちゃんがテレビとか直すやり方とそっくりだぞ」

 

『……おかしい。こんな馬鹿な台詞吐くのはとうま以外にありえないのに』

 

(インデックスって、当麻君の事どういう風に思ってるんだろう……)

 

 とにかくインデックスは電話を使うのはこれが初めてらしい。もしもしという言葉を知っている辺り、見たり聞いたりした事くらいはあったようだが。恐らくは鳴り止まない電話のコールでオロオロして、仕方なく意を決して受話器を取った……という所か。

 魔術のスペシャリストらしいが、科学方面では一般常識も分からないそのちぐはぐな姿にツナは思わず顔を暗くする。どうにも微笑ましいが、それは一年前からそれ以前の記憶が無いインデックスの歪みを垣間見た気がした。

 

『それでとうま、わざわざ電話なんて大袈裟で仰々しく面倒臭くて心臓に悪いものなんか使ってどうしたの?なんかよっぽど困ってる事でもあるの?つなは一緒じゃないの?』

 

(物凄い言い草だーー!!電話ってそんな大層なものじゃないよね!?)

 

『もしかして冷蔵庫の中にラザニア三つあったけど、もしかして二つはとうまとつなの分!?』

 

「全部食ったんかい。まあ良いけど」

 

『あっ!冷蔵庫の中にプリンがあったけど……!』

 

「食ったんかい!食ったんだな食ったんだろ三段活用!」

 

『だって一個しかなかったんだもん!』

 

「お前は家主に対する思いやりの気持ちとかないのか!?ちょっとはツナを見習えよ!ツナなんか慣れない家事を必死に手伝おうと四苦八苦してんだぞ!?その姿勢だけでお涙頂戴モノだってのに、お前ときたら寝て食って遊んでばっかじゃねーか!!それはツナへのご褒美に買っておいた黒蜜堂の一個700円のプリンだぞ!」

 

(え、俺になのー!?)

 

 どうやら上条はツナに労いの意味を込めてちょっとお高いプリンを用意してくれていたらしい。その気遣いは嬉しいのだが、世話になりっぱなしの身としてはとても申し訳なく思えてしまう。家事手伝いだって他にできる事がないからやっている事であってご褒美や見返りを求めての事では断じてない。そこまで神経図太くないのだ。

 

「……あー、すまねぇなツナ。折角のプリンが」

 

「い、いや!俺は気にしてないから!それより…」

 

「そ、そうだな。まぁ良いや。完全に脱線してた。とにかく電話が繋がるなら良しとしとく」

 

『?とうま、なんか用事があったんじゃないの?つなも一緒なんでしょ?』

 

「うんにゃ、電話が繋がるか確かめただけ。切るぞ」

 

『???』

 

 何がなんだかよく分かってないのだろう。インデックスが首を傾げているのが目に浮かぶ。上条はちょっと彼女をからかいたくなったのか、少しニヤリと笑ってから口を開いた。

 

「あ、そうそう。知ってるかインデックス?電話って1分話すと一日寿命が減るらしいぞ?」

 

 ぎゃわー!という叫びと共にいきなり電話が切られた。最後の音から察するに受話器を叩き付けたらしい。

 

「……単純な奴」

 

「当麻君、今のはちょっと……」

 

「良いんだよ。それより……って何だよステイル」

 

 ジトリ…と物凄く何か言いたそうな顔をしてこちら見ている魔術師が一人。和解しているとはいえ、かつて今上条やツナがいた場所にいたステイルからすれば何気ないこのやり取りも複雑な気持ちになってしまうのだろう。

 

「いや別に」

 

 そこからステイルは仰々しく、これから戦うのに女の子と電話していた事に対して嫌味を長ったらしく述べてくるが、彼の事情を知る二人は甘んじてそれを受ける事にした。

 

****

 

 それから三人は五階の食堂付近で隠し部屋の捜索を始めた。しかしコインの裏表で仕分けられている以上、部屋を移動するのだって、『表』に属する塾生達が扉を開け、通る時に一緒に潜り込むしかない。

 

 幸い学生食堂にドアの類いはないが、人の波に呑まれないように気をつけなければならない。どうやらぶつかったりしたら、こちらが一方的に押されてしまうらしい。

 

 学食をはじめとして調理室なども覗いてみたが、特に怪しい所はない。仮に隠し部屋が見つかっても干渉できない以上、入れないのだが、場所だけでも確認はしておきたい。もっと広範囲を捜索するべく三人は食堂を出ようとしたが、その瞬間事態は動いた。

 

 食堂にいる80人近い生徒達全員が上条へ視線を集中させた。

 

「「え?」」

 

「ま、ずいかな。……第一チェックポイントを通過したようだ」

 

「あ、え?」

 

「どういう…事?」

 

「二人共呆けるなよ。コインの表にいる人間に、コインの裏にいる魔術師が見えるはずがないだろう。隠し部屋の近くにはこんな具合に自動の警報を設置しているのか」

 

 ツナは辺りを見回し、違和感を感じた。80人程の生徒達は間違いなく上条を眺めている。先程まで受験生らしく勉強に関する会話をしていたが、それらしいものは一切が消え、棒立ちして無機質な瞳で上条を見ている。

 同様の事に上条も気付いたのか、ぐるりと辺りを見回した。

 

「まさか……!」

 

「この人達……全員が魔術師!?」

 

 コインの裏を認識できるのは同じコインの裏の存在。そこに属するという事は魔術師である事を意味する。

 そしていきなり生徒の一人が意味の分からない詠唱を始める。80人もの人間がそれに続いてバラバラの詠唱を口ずさむ。それがどういうものかは分からないが、かつてステイルも似たような流れで炎の魔術を行使していた。

 

 生徒の一人の眉間からピンポン球程度のサイズの青白い光球が発生した。それが宙を舞い、床に落ちるとまるで強酸のように煙を上げた。

 

「そら、最強の盾(イマジンブレイカー)!君の出番だ!!」

 

「はぁ!?こんなもん、いちいち相手にしてられっか!?」

 

 上条はツナの腕を引っ張り、出口へ走る。上条を盾にする気満々だったステイルは少し慌てながら遅れて二人の後を追って食堂を飛び出した。

 

「おい、逃げるな!何の為の盾なんだ!その右手ならどんな魔術だって防げるだろうに!盾を使わず無防備な背中を見せるだなんて気が触れてるのか君は!?」

 

「人を盾にして良くそんな事言えるなテメェ!大体質はともかく量が絶望的なんでせうよ!あんなもん右手一つで対処できるか!!…って、来たあぁぁぁっ!?」

 

 上条の右手は多対一ではとことんまでに不利だ。故に逃げの一手なのだが、どうやら敵の魔術には追尾性能があるらしく、光の球体は大量にこちらへと押し寄せてくる。

 

「ナッツ!形態変化(カンビオ・フォルマ)防御モード(モード・ディフェーザ)!!」

 

「ガウッ!!」

 

 しかしこの劣勢はすぐに覆された。上条に引っ張られながらいつの間にか死ぬ気丸を呑んで(ハイパー)モードになっていたツナがナッツを呼び出し、上条の手を振り解いて光球の大群の前に立つ。

 

「ツナ!!」

 

「猫がマントに変化しただと!?」

 

 Ⅰ世のマント(マンテッロ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)にナッツを変化させ、襲い来る魔術全てをそのマントで受け止めて大空の“調和”で空気と一体化させ、ゆっくりと消し去る。何度もマントを翻してそれを繰り返し、攻撃の雨が止むまで“調和”し続けた。その光景をステイルと上条は絶句して見ていた。

 

 攻撃が終わるとツナはマントをナッツに戻し、ナッツをVG(ボンゴレギア)の中へと戻らせた。

 

「……終わったぞ」

 

「さ、サンキューツナ。助かったぜ」

 

「……そういえば、そんなのもあるんだったね。うっかりしていたよ」

 

 神裂からマントの事は聞いていてもナッツの詳細を未だ知らないステイルは形態変化(カンビオ・フォルマ)を初めて見る為、驚きを隠せないがそれ以上に先程の生徒達の事を思い返して舌打ちをする。

 

「ちっ、それにしてもレプリカとはいえ『グレゴリオの聖歌隊』を作り出すなんて、少しアウレオルス=イザードを見縊っていたかもしれない」

 

「それはどんな魔術なんだ?」

 

「元はローマ正教の最終兵器さ。3333人の修道士を聖堂に集め、その聖呪(いのり)を集める大魔術。太陽の光をレンズで集めるように、魔術の威力を激増する事ができるんだ。ここにあるのはレプリカとはいえ

生徒の数は2000人程度だったか。この国には塵も積もれば山となるって言葉があるけど、これは正にそれの具現だね」

 

 その言葉に上条はギョッとする。魔術に関してはあまり深く理解できないが、要は多勢に無勢。2000以上の敵にたった三人で立ち向かうという事。完全にリンチである。

 

「そんなもん、まともにやって勝てるはずねーじゃねーか!建物の中で2000人相手の鬼ごっこなんて捕まるに決まってんだろ!」

 

「それはまだ決まっていない。『グレゴリオの聖歌隊』は2000人もの人間を同時に操らなければ成功しない。その同調(シンクロ)の鍵となる核を破壊すれば『グレゴリオの聖歌隊』は食い止められる」

 

 相変わらず上条には分からないがとにかく核とやらを破壊すれば良いらしい。それは恐らく魔術だろう。ならば幻想殺し(イマジンブレイカー)で何とかできるはずだ。

 

「行くよ」

 

「待て」

 

 ステイルの言葉に従い、歩き出そうとする上条。しかしツナが待ったをかけた。見れば(ハイパー)モードを維持したままだ。いつ襲われるか分からない事から(ハイパー)モードのままでいるのは分かるが、何故彼はここで引き止めるのか。

 

 何故汗を流しながらゾッとした表情をしているのか。

 

「ステイル、『グレゴリオの聖歌隊』は2000人を()()()()()()()()()んだな?」

 

「……ああ」

 

「当麻君、この街の学生はみんな能力の開発を受けている。そうだな?」

 

「あ、ああ。けどそれが……っ!?」

 

 ツナの確認に二人は肯定の答えを出す。何故そんな質問をするのか上条には分からなかったが、気付いてしまった。

 この塾にいる学生は全員学園都市の能力者のはずだ。魔術を行使していたから魔術師だと思ったが、()()()()()()()()()()()なのだ。

 

「ま、まさか……!?」

 

 その知識は禁書目録(インデックス)の少女から。能力者は魔術を使えない。かつて告げられた事実を思い返す。回路が違うだのなんだのと詳しい理屈は未だ良く分からないが、魔術を無理に使用した能力者には激しい肉体の損傷と死のリスクが伴う事は知っている。

 

「ああ……。つまりアウレオルス=イザードは、()()()()()()()使()()()()()()んだ……!!」

 

 自分で言っていて血の気が引いた。下手をすれば他人の肉体を乗っ取り、傀儡とする六道骸の行いを上回る非道ぶりにツナは思わず歯軋りをして下唇を噛む。

 同時にワナワナと震える上条の怒りが爆発する。

 

「ふざけやがってド外道が!!!」

 

「これ以上、彼らに魔術を使わせてはいけない。幸い向こうもコインの裏という扱いになるなら、当麻君の右手で解除したり、打撃で気絶させる事もできるはずだ」

 

 上条とツナは頷き合い、引き返そうと走り出す。ステイルはそんな二人を止めようとはしない。元々存在が発信機になる上条を囮にするつもりで連れて来たのだ。ツナを盾に使えそうにないのは惜しいが、向こうから『グレゴリオの聖歌隊』の対処に向かってくれるなら構わない。

 

「なら僕は僕で好きにやらせて貰おうか」

 

****

 

「罪を罰するは炎。炎を司るは煉ご…」

 

 詠唱の途中でツナが少女の首筋に手刀を叩き込む。そして上条が右手で頭に触れると、パキン……と何かが砕ける音が鳴る。これで解除はできたとは思うが、『グレゴリオの聖歌隊』には核があるとステイルは言っていた。もしかしたら核を破壊しない限りは何度でも『グレゴリオの聖歌隊』として操られてしまうのかもしれない。

 

 だが気絶させる事はできた。ならば暫くは大丈夫だと思いたい。

 

「……くそっ!!」

 

「酷い……!!」

 

 二人の顔は晴れない。今気絶させた少女は能力者なのに無理に魔術を行使したからか、頬がまるで皮膚の裏に爆竹を仕込み、爆発させたかのように抉れていたからだ。

 

(とにかく、操られている人達を全員止めないと……!当麻君の右手で核を壊さない事には安心できないが……)

 

 少女を廊下の隅で仰向けに寝かせる。もっと安全な場所に運びたいが、それは結界のせいで叶わない。

 それを歯痒く思っていると何かが迫ってくる感覚を二人は感じ取った。振り向けば例の光の球の魔術が洪水のように二人へと迫っていた。

 

「クソが!考える時間もくれねぇってか!!」

 

「あの魔術を凌いだらその先にいる人達を気絶させる!行くぞ!」

 

「ああ!」

 

 上条が右手を前に出し、ツナがマントを構える。魔術を迎え撃とうとしたその時、理解し難い光景が目に映った。

 

 時間が止まったかのように光球の魔術が空中で停止したのだ。

 

「……あ?」

 

「これは……?」

 

 そして停止した球体は次々まっすぐ床へと落ちてそのまま消えてしまう。訳が分からないでいたら、近くの階段下から足音が聞こえてきた。もしやステイルが核を破壊したのかと思い、振り向いて階段下を見てみれば予想外の人物がそこにいた。

 

 まるで井戸の底から外の光を見上げるかのように、救出対象である『吸血殺し(ディープブラッド)』と呼ばれた少女、姫神秋沙が立っていた。




やってる事は黒曜編の骸もある意味似たようなもんですが、人数の規模が違い過ぎる……

実際に気絶させられるかはちょっとアレですが、大空の“調和”って事で……
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