アウレオルス=イザードはかつてのインデックスのパートナー。その事実を聞かされたツナは最悪の予想を直感してしまった。
ステイルと神裂は忘れられてもインデックスを大切に想っていた。ならばアウレオルスもそれは同じはず。そしてインデックスとの関係の修復を望むはずだ。
「じゃ、じゃあ姫神さんに頼んで吸血鬼を呼び寄せる目的って……」
ツナが彼の目的を察した事に気を良くしたのか、アウレオルスは少々得意気に語る。
「吸血鬼にはあるのだよ。どれだけ多くの記憶を取り入れても、決して自我を見失わん『術』が。仮にそれが人の身に不可能であるのなら、人の身から外すまで」
「……インデックスを吸血鬼にするつもりなの?」
やっぱりだ。アウレオルスはあの残酷な真実に気付いていない。だからインデックスを吸血鬼にして無限に記憶してもパンクしない身体にしようとしているのだ。
「待てよ!そんな事をしてもインデックスが喜ぶわけねぇだろ…!テメェの我儘をインデックスに押し付けてんじゃねぇ!!」
「くだらん。それこそが偽善。この子は最後に告げた。決して忘れたくないと。教えを破ろうがこのまま死のうが、胸に抱えた思い出を決して忘れたくないと。指先一本動かせぬ体で、溢れる涙にも気付かずに、笑いながら告げたのだ」
アウレオルスは僅かに歯を食いしばった。
しかしだからといってインデックスを吸血鬼にはさせない。上条とステイルはアウレオルスからインデックスを奪還する為に走り出そうとする。
「話は終わりだ。
劇的な変化が起きた。インデックスを取り戻そうと走り出した上条とステイルはアウレオルスとの距離を詰められない。走っても走ってと目の前の距離が縮まらないのだ。
上条は咄嗟に右手に視線を向けた。
(それで……一体、何を殴れば良いってんだ!?)
ステイルと上条はアウレオルスに近付けない。
そんな彼らの真横を熱い熱風が駆け抜けた。それはアウレオルスも例外ではなく、その腕に抱えていたインデックスの姿がそこから消えた。
そしてアウレオルスの背後では再び死ぬ気の炎を額に灯したツナがインデックスを抱き抱えて立っていた。
「……!?」
アウレオルスはあり得ないものを見る目でツナを見る。インデックスを奪われた事に憤る前に、ツナのやった事が彼は信じ難いものだった。ツナはそれよりもインデックスの身を案じる。
「しっかりしろ!インデックス!」
「つ…な……?」
身体を軽く揺さぶられてインデックスは目をゆっくりと開き、意識を覚醒させる。そしてツナの姿を確認したら辺りを見渡して上条の姿も発見し、ふわりと笑う。
「とうまも……いるんだね。良かった」
「インデックス、何があったんだ?どうして奴に捕まっていたんだ?」
「ステイルの魔力を辿って……三人を探しに来たら、あの人に見つかったの。……つな、あの人の使ってる術……金色の、アルス=マグナなんだよ」
「何だと!?」
インデックスの助言聞いて驚愕するのは錬金術に関する知識のないツナや上条ではなく、それを十分に知るステイルだ。
「な、何だよ…そのアルス、マグナ…ってのは」
「この塾に来る道中に話しただろう。自分の頭の中に思い描いたモノを、現実世界に引っ張り出すのが錬金術の究極的な目的だと」
「はぁ!?時間かかり過ぎてできないんじゃねぇのかよ!?」
要は世界の自分の思い通りに動かす術という事だ。道中でのステイルの説明を思い出し、上条とツナは戦慄する。もし本当にこの話が本当なら勝機が見出せなくなる。
何より先程、いや今尚アウレオルスに近付けない理由もこれで説明できてしまう。
「ふん。
「馬鹿な。
「意外に気付かんものだな。100年や200年では儀式を完成できない。確かに一人で行えばな。伝言ゲームのように儀式が歪む。道理だが、何も一子相伝にする必要もあるまい」
インデックスは忌々しそうに回答する。
「『グレゴリオの聖歌隊』だよ。2000人もの人間を
「実際には呪文同士をぶつける事で更に相乗効果を狙ったがな。僅か120倍程度の追加速度では成功とは言い難い。この三沢塾の中でしか効果も発揮できん」
「120倍……半日で済ませたのか!?だがここは能力者達の集まりのはずだ!『グレゴリオの聖歌隊』などを使えば回路の違う奴等は体が爆砕して……」
「だから何故気付かんのだ。
空気が凍り付いた。インデックスは軽蔑の眼差しをアウレオルスに向けた。アウレオルスはその視線に心を痛めながらも今は雌伏の時だと己に言い聞かせる。
……大丈夫だ。全てを思い出せば、彼女は必ず振り向いてくれるはずだ。
つまりは『グレゴリオの聖歌隊』として操り、
「直せば良い……?そういう問題じゃないだろ……!お前には人の痛みが分からないのか!?どうしてこんな酷い事ができるんだ!?」
吐き気を催す程に邪悪で醜悪なアウレオルスの性根にツナはかつて骸に抱いたものよりも遥かに強大な怒りを抱く。
しかしアウレオルスにツナの言葉など届かない。そもそもツナの意見など聞くつもりもない。そしてそれ以上に気になる事もある。
「悄然。何故君には何も影響がない?」
そう。ツナには何の影響も出ていないのだ。上条とステイルには出た影響がツナには無い。アウレオルスは近付かせないように
「……」
ツナはその瞬間に出た直感を無視してアウレオルスの質問にも答えない。こんな男の疑問に答えてやる義理などない。真面目に取り合う気にもなれない。
だがこれではまるで
「ならば質問を変えよう。何故私を止めようとする?ステイル=マグヌス、貴様がルーンを刻む目的、それこそ
「さっき僕が言っただろう?インデックスを救うのに今更君は必要ないと。ああ、君はそれがどういう意味か聞かせてほしいと言ったな」
そんな事はあらゆる意味で分かり切っている。一つはこんな非道を許せないから。そしてもう一つは……。
ステイルは煙草を吸い、一息吐いてから呆れたように告げる。インデックスに関するもう一つの残酷な真実を。
「簡単だよ。インデックスは既にここにいる二人……上条当麻と沢田綱吉の手によって救われている」
「は…?」
アウレオルスにはステイルの言葉の意味が分からなかった。いや、分かりたくなかった。
「だから、インデックスはとっくに救われているんだ。君ではなく、今代のパートナー達によってね。君にはできなかった事を、こいつらは成し遂げてしまったんだよ」
アウレオルスはツナと上条を交互に凝視する。インデックスを抱き抱える沢田綱吉という存在が、どうしようもなく癪に障った。
「ほんの10日程前だったかな。ああ、君が分からないのも無理ないね。何せ三年もあの子の側を離れていたんだ。今の彼女が実は既に救われてるだなんて情報、伝わるはずもない」
「馬鹿な…」
「ああ、信じられない気持ちは分かるよ。何せ僕は直接それを見たのに未だ信じられない。いや、信じたくない、かな。その前に全ての真実を打ち明けたにも関わらず、あの子はこっちを振り向かずに今のパートナーと共にいる事を選んだ。その事実を叩き付けられたからね」
そうだ。インデックスは目を覚ましてすぐに沢田綱吉と上条当麻の事を確認した。二人を見て、ふわりと笑った。自分が捕まっていた事も気にせずに。
アウレオルスはそれを認めたくないが故に必死で否定する。
「馬鹿な!ありえん!一体いかなる方法にて彼女を、
「それはイギリス清教の沽券に関わるから黙秘するけど、そうだね…こいつ…上条当麻の右手は
愕然とするアウレオルス。これまでの全てを彼は否定された。
意味なんてなかった。ローマ正教を裏切り、世界を敵に回した事も。自分の目標の魔法名を捻じ曲げて、吸血鬼を探す為に地位と名誉を捨ててまで世界中を放浪した事も。
何もかも無意味な事だった。彼のした事全てに意味なんてなかった。
そしてステイルは決定的な一言を述べた。
「ご苦労様。君はローマ正教を裏切って三年間も地下に潜っていたらしいけど、全くの無駄骨だよ。努力が報われなかった痛みは分かるが気にするな。今のあの子は
「ーーーーは、はは」
乾いた笑いが虚しく響く。
「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
狂った笑い声が廊下に響く。上条は悟った。もうこいつは戻れない。自分を支えてきた全てを破壊されたのだから。
アウレオルスの狂い振りに怯えたのか、インデックスは自分を抱えてくれているツナに身体を寄せて、彼の服を強く掴む。その瞳に映るアウレオルスにはもう決して向けられる事のない感情と共に。
「つな……」
「っ!ぅう、うぅうううううううっ!!」
それがアウレオルスの砕けた心を刺激する。自分の全てを失い、かつての仲間達を全て敵に回してまでたった一人の少女を助けようとした。そんな少女は既に赤の他人に助けられていた。彼女の為に全てを捨て去った自分はただの一度も視野に入れずに。
何故貴様らなのだ。そこに立つべき者は自分以外にありえない。あって良いはずがない。
悪いのはインデックスではない。私からインデックスを奪った……こいつらだ。ならこいつらがいなくなれば思い出さずとも全てを知ったインデックスは私の元に帰ってくるはずだ。
身勝手な結論を出したアウレオルスはこれまた身勝手な決断を下した。上条当麻と沢田綱吉が死ねば良いと。
そんな事をすればインデックスは悲しみ、そして自分を絶対に許さないという事すら今のアウレオルスには分からなかった。
「倒れ伏せ!侵入者共!!」
アウレオルスの怒号と共に上条とステイルは凄まじい重力に身体を押さえ付けられ、床に叩き付けられた。
「とうま!ステイル!」
「当麻君!……やめろアウレオルス!」
「……何故貴様には効かぬ?まぁ良い。まずはこちらだ。……は、はは、あはははっ!!簡単には殺さん!!じっくりと私を楽しませろ!!私は
八つ当たり。自分でそう言ってるようなものだ。アウレオルスは懐から細い鍼を取り出して首筋に当て、突き刺した。そして鍼を横合いに投げ捨て、上条を睨む。
ツナはこのままでは上条がやられる事を察し、掌をアウレオルスに向けて死ぬ気の炎の塊を射出しようとした。
「待って」
ツナとアウレオルスの間に姫神秋沙が立った。それはツナとアウレオルス双方への静止。
上条は右手を如何にか動かして自身の身体の何処かに触れさせようてする。
「姫神さん……」
姫神はこれ以上アウレオルスに道を間違えさせない為、自分を心配してくれた上条達を助ける為に対話を求めようとした。
しかしアウレオルスが求めたのは姫神ではなく、
次のアウレオルス=イザードの一言が時間を止めた。
「邪魔だ女。ーーーー死ね」
その一言で姫神秋沙は死んだ。
傷はなく、出血もなく、病気ですらない。この場にいる者達が知りうるあらゆる死因のどれにも該当しない。ただ、死んだ。悲鳴すら上げずに魂がない抜け殻になって死んだ。
「姫神さん!!」
「っけんじゃねぇぞ、テメェ!!」
その瞬間、パキン…と何かが壊れた。
そして弱々しくも姫神秋沙の鼓動が再び右手から上条に伝わってきた。蘇った。そうとしか表現できない現象だった。意識はないがじき目覚めるだろう。
「な、我が金色の錬成を、右手で打ち消しただと?ありえん、確かに姫神秋沙の死は確定した。その右手、聖域の秘術でも内包するか!」
上条は答えない。そんな理屈なんてどうでも良い。単なる偶然だ。『死ね』という命令を右手で殺しただけの話なんて本当にどうでも良い。
上条当麻は目の前の男が許せない。
アウレオルスのやった事は全部許せない。だが何より一番許せないのは自分を大切に想ってくれた人を殺した事だ。
同情する点はある。インデックスに忘れ去られ、インデックス以外の全てを切り捨ててまで彼女を救う手段を探しても先を越され、何もかも全てが台無しになった。
例え一番大切な人を目の前で奪われても、行き場のない自分を責める事すらできない怒りに苛まれても、自分の事を本当に想ってくれた人に対して、その怒りを押し付け、自分一人だけ満足しようだなんて思考回路は絶対に認められない。
姫神秋沙はアウレオルスに協力しなくても『歩く教会』を手に入れる方法を得たにも関わらず、最後までアウレオルスに協力しようとしていたのだ。それが彼に果たすべき義理であり、返すべき恩だったから。
「良いぜ、アウレオルス=イザード。テメェが何でも自分の思い通りにしなきゃ気が済まねえってんなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!!」
前回のツナとインデックスで倒せちゃうってのはこれが理由です。ツナを黄金錬成で気絶させて追い出せないから。後はインデックスのアドバイスを素直に聞いて大空の“調和”と組み合わせて倒すだけです。
ただし姫神は死ぬ。上条さんいないから。それとも時間経っても右手触れれば蘇生可能?
Q.結局何故ツナに黄金錬成効かないの?
A.そもそもこの世界の人間(正確には物質)じゃないからアウレオルスのシミュレートの対象外。ツナと死ぬ気の炎についてシミュレートし直せば効くんじゃない?詠唱以外に具体的に何やるのか知らないけど。
仮に窒息しろと言ってもツナの首を絞める感じに考えると作用しない。ツナの体内にある酸素が消えるように考えれば酸欠に陥る。つまりは直接作用させるのではなく、別の物を介してやればOK。やり方次第。