「どうしよう、これ……重い……」
ツナは美琴のせいで結果的に持ち逃げする事になってしまった缶ジュースの山を運びながら辟易していた。並盛中の通学鞄だけではしまい切れず、今にも崩れ落ちそうな状態でいくつも缶ジュースを抱えている。鞄も余計なものを入れる事になってしまい、重い。
(流石にリボーン程酷くはないけど、なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだよ……。これやったの御坂さんじゃんか……)
内心で美琴に対する不満を呟いても事態は何も好転しない。
そうして歩いていると前方から何故かテニスボールが転がって来るが、運んでいるジュースに視線を集中させているツナは気付かない。そしてそのまま転がってきたテニスボールを踏み付けた事で身体のバランスを崩して転んでしまい、抱えていた缶ジュースの山もその辺にぶちまけてしまった。
「あだっ!!?」
周囲の通行人達はそんなツナを見てクスクスと笑い、「やっちゃった」と呟く者もいた。ある意味普通の反応であるが、ツナは恥ずかしさと助けてくれる者がいない悲しさから少し泣きたくなった。
獄寺や山本、了平ならば迷わず手伝ってくれただろうし、今世話になっている上条だって例え見知らぬ相手であろうとこんな状況はほっとかずに助けようとするだろう。
それは甘えかもしれない。リボーンと出会うまでこんな状況は慣れっこだった。しかし今は違う。手を貸してくれる友達がちゃんといるのだ。
だからこそ、誰も手を貸してくれないこの状況が余計に惨めに思えた。
「っ…!」
周囲の人達から笑われながらツナは黙々と缶ジュースを拾い集める。
「必要ならば手を貸しますが。と、ミサカは溜め息まじりに提案します」
ふと後ろからそんな言葉が聞こえてきた。振り向けば御坂美琴の妹がそこに立っていた。先程と違い、ゴーグルは外しており、手にぶら下げていたが無表情で感情に乏しい彼女は間違いなく、姉ではなく妹の方だった。
「君は……御坂さんの……」
「どうしますか?と、ミサカはハッキリしない貴方に問いかけます」
「あ…。じゃあその……お願い」
折角助け舟を出してくれた厚意は無碍にできないし、ツナ自身誰かの助けを必要としていた。そして御坂妹はツナの前でしゃがみ込み、近くに落ちていた缶ジュースを拾う。
「ぶっ!」
瞬間、ツナはのけぞりながら、微量だが鼻血を噴いた。目の前で御坂妹がしゃがみ込んだ際、不意に見えてしまったのだ。
御坂妹のスカートの中が。
縞パンだった。
「どうかしましたか?と、突然鼻血を出した貴方の症状は熱中症ではないかとミサカは推測します」
首を傾げる御坂妹に対してツナは顔を真っ赤にして目を逸らす事しかできない。沢田綱吉はヘタレで小学生レベルにウブなのだ。
(ま、まともに目を見れない……!!)
「な、何でもないよ!その……手伝ってくれてありがとう!」
御坂妹から目を逸らしながら礼を言って缶ジュースを掻き集めるツナ。それから御坂妹はジュースを運ぶ手伝いも申し出てくれた。
缶ジュースを運ぶ為、両手をフリーにしなければならない御坂妹は外していたゴツいゴーグルを頭にかける。そのゴーグルがなんとなく気になったツナは思い切って尋ねてみる。
「そのゴーグルは何なの?」
「ミサカはお姉様と異なり、電子線や磁力線の流れを目で追う
「そ、そうなんだ…」
相変わらずこの街の超能力についてはさっぱり分からない。まだインデックスによる魔術の説明の方が理解できる。理解度そのものにあまり差は無いが。
超能力に関する話題から別の話にしたかったツナはそういえば御坂妹の名前を知らない事に気付いた。知らなければ美琴との呼び分けにも困る。
「君、名前は?」
「ミサカはミサカですが?」
「いや苗字じゃなくて名前の方……」
「10032号です」
「えぇ……?」
何故かロボットみたいな番号で答えられた。無表情だが揶揄われているのだろうか。先程も淡々とした口調でおちょくられたばかりだ。それとも、単に教える気がないのか……。
(そっか……。御坂さんと友達だからって、自分まで仲良くする気はないって事なのかな……)
御坂美琴がフレンドリーで誰に対しても近い距離感で接するとしても、姉妹でそれが同じとは限らない。
御坂妹の考え方に物寂しさを覚えながらツナは上条の学生寮に辿り着く。
するとツナの帰宅に合わせて見知った人物が清掃ロボの上に正座しながらすっ飛んで来た。清掃ロボを自家用車感覚で乗りこなす事にはツッコまない。初めて会った日に散々ツッコミを入れたから。
「おーい!沢田綱吉〜!」
「あれ、土御門さん?」
「だから舞夏でいいぞ。兄貴と同じ呼び方じゃ分かり辛いからな〜。今日はエアコン壊れたから兄貴の部屋に泊まりに来た。今晩は兄貴共々騒がしくなるけど堪忍な〜」
土御門舞夏。上条の部屋の隣の住人であり、クラスメイトの土御門元春の義理の妹でメイドの育成学校に通っているらしい。
(やっぱり学園都市って変なところだよな……。超能力の開発してたりメイドの学校があったり……)
「時に沢田綱吉、その両手に抱えた戦利品は福引き大作戦か?上条当麻に比べて運があるように見える」
「えーと……、これはちょっと色々あって……」
運があるならそもそもこんな盗品持ち運んではいない。
「それより上条当麻に伝えといて欲しい事があるぞ」
「当麻君に?」
「家出少女を匿うコツその1。都会なら平時は外をブラブラさせておいて、夜になったら回収という餌付け法が一番楽チン。あのシスター、部屋ん中でドタバタ騒ぎ過ぎだろ」
「あはは……」
インデックスは見た目はツナと同年代に見えるが、実年齢はよく分からない上に性格は見た目以上に子供っぽい。小学校にも碌に通った事などないだろうし、そういった情操教育を受けていないのも本能に身を任せて動く理由なのかもしれない。
「……貴方の友人にはそういう趣味があるのですか?と、ミサカは少々真剣に尋ねてみます」
「そういうわけじゃないんだけど……」
エレベーターで上条の部屋がある七階まで上がり、ツナと御坂妹はジュースを持って歩く。すると部屋の前でインデックスは何故か姫神と二人でコソコソと何かしていた。
「インデックスに……姫神さん?」
「あ!つなだ。おかえりなんだよ!」
「……ツナ君」
「ただいまインデックス。って、何してるの?」
ツナの質問にインデックスは三毛猫のスフィンクスを抱き上げ、ツナの目の前に突き出して答える。
「スフィンクスがノミだらけだからとってあげてたんだよ」
「ノ、ノミーー!?じゃあ部屋中ノミだらけ!?もしかして当麻君が痒い痒い言ってたのって!?」
ツナは特に身体に痒みを感じた覚えはないが、最近上条が身体中に痒みを訴えていたのはスフィンクスのノミが上条にひっついていたという事だ。
「大丈夫だよ、つな。とうまのノミもあとでとってあげるんだから!」
そう言ってインデックスは大きな薬草を取り出す。既に嫌な予感しかしない。
「インデックス、それ…何?」
「“セージ”っていう薬草だよ。これに火を付けてスフィンクスの身体の中にいるノミを燻し出すの。あとでとうまにもやってあげるんだよ。つなもやっとく?」
「んなっ!?燻すって、そんな事したら火災報知機鳴るよ!それで怒られるの当麻君なんだよ!?」
やはり少し自由奔放が過ぎる……というより常識が足りないらしい。因みに御坂妹はスフィンクスを見て少し顔を赤らめている。猫が好きなのだろうか。
「姫神さんも止めてよ……って何出してるのーーー!?」
ツナは姫神に助けを求めて声をかけるも、姫神は姫神で懐からスプレー缶を取り出していた。どう見ても殺虫剤だ。
「魔法のスプレーと答えるしか」
「いや思いっきり科学の技術じゃん!てゆーか猫に殺虫剤吹きかけないでーー!!」
殺虫剤にはピレスロイドという成分が含まれ、簡単に言えば猫や犬などにとっても毒なのだ。勿論毒性は低いがそれでも吹きかけて良いものではない。動物虐待になる。
ここでスフィンクスに見惚れていた御坂妹が口を開く。
「その猫についての対処法ですが、要は薬物を使わずに猫の体表面からノミを落とせば良いのですね?と、ミサカは確認を取ります」
「そうだけど……どうやって?」
「こうやって。と、ミサカは即答します」
御坂妹がスフィンクスに手を翳すと、すぐに効果は現れた。御坂妹の手から微弱な電気が流れ、スフィンクスの身体からポロポロとノミの死骸が零れ落ちた。御坂妹は能力による電磁波でノミだけを始末したのだ。
「特定周波数により、害虫のみを殺害しました。と、ミサカは報告します」
「電磁波……やっぱり姉妹なんだね。御坂さんと能力も似てる」
「お姉様には遠く及びません。お姉様のは
そう言った御坂妹の声は少しだけ暗く感じた。
御坂美琴はこの学園都市でも七人しかいない能力者の頂点、
「ところでその女の子は誰?つなの友達?」
「あぁ、うん。今日知り合って友達になったんだ。ちょっと荷物運ぶのを手伝って貰って……」
「……ミサカと貴方は友達なのですか?と、ミサカは疑問を呈します」
「全否定!?」
御坂妹はツナを友達と認識していなかった。あくまで姉の友達という認識だったようだ。いや、まさか姉の方もツナを友達とは思っていないのではなかろうか……。
不安に思う中、御坂妹はノミに関しての対処法を挙げていく。
「室内の方は煙が出るタイプの殺虫剤を使えば簡単に駆除できるかと思います。と、ミサカは助言を与えておきます」
「あ、ありがとう……」
そして御坂妹は運んできた缶ジュースを何故か縦に重ねて置く。淡々とノミの駆除をやってのける御坂妹に圧倒されてその事にツッコミを入れられない。
「それでは、用が済みましたからミサカはこれで」
「あ、あれこそクールビューティなんだよ!」
インデックスが何やら興奮しているが、ツナはハッとして御坂妹を呼び止めた。
「待って!そ、その…ありがとね!ジュースの事やスフィンクスの事も……本当に助かったよ!」
「礼を言われる程の事ではありません。と、ミサカは暗に気にするなと告げます」
去ろうとする御坂妹を呼び止めて礼を言うツナ。御坂妹は相変わらず無表情だが、それでもツナは続ける。
「それとさっきの事だけど、俺はとっくに君は友達だと思ってるよ!だから君も何かあったら相談して!俺にできる事があるなら力になりたいし、昼間の事も御坂さん……お姉さんと喧嘩してるならちゃんと仲直りした方が良いから!」
「………とても有難い言葉ではありますが、それには及びません」
有難い言葉。それが友達である事を指しているのか、それとも美琴との仲直りの事を指しているのかは超直感が働かず、ツナには分からなかった。
しかしそれが気にならなくなる程に衝撃的な言葉を御坂妹は口にした。
「お姉様にとって、ミサカは否定したい存在ですから」
「え……?」
「では」
御坂妹の最後の一言に呆気に取られたツナは何も言えず、ペコリと頭を下げてから去って行く彼女の後ろ姿を眺める事しかできなかった。
否定したい存在?実の姉妹でそんな言葉が出るのだろうか?能力で劣るらしい御坂妹が美琴にコンプレックスを抱くのなら分かるが、美琴が御坂妹に対してそんな感情を抱くだろうか?確かに昼間はどうにも妹に強く当たってはいたが。
思考の渦に呑まれていると横からツナを呼ぶ声が何度も何度も聞こえてきた。
「ナ君。……ツナ君」
「……あれ?な、何?姫神さん?」
「やっと気付いた。……上条君は?」
「当麻君は青髪さんの下宿してるパン屋さんに……ってそうだ!特売!」
姫神に上条の事を話題に出され、ツナはスーパーの特売の為の上条との待ち合わせを思い出す。インデックスと姫神に手伝って貰いながら缶ジュースを部屋に運び、そして慌てて上条が待っているであろうスーパーを目指して駆け出した。足の遅いツナでもまだ十分間に合う時間だ。
(そう言えば姫神さんって当麻君の事好きなのかな?)
『三沢塾』での一件、思えばあの時上条が姫神に言っていた内容はまともに考えれば惚れてもおかしくはないようなものだった。
それだけじゃない。初対面の人間にも手を差し伸べる優しさや誰にでも分け隔てなく接する事ができる器のデカさ。どれもこれまでツナが会った中で一番と言って良いかもしれない。
上条は自分でモテないと公言しているが、実は自覚していないだけでそれなりにモテているのではないだろうか。少なくともダメツナと呼ばれる自分とは雲泥の差だろう。
そんな事を考えながらツナはスーパーへと走った。
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「当麻君ってさ、兄弟とかいる?」
上条と合流し、スフィンクスとノミの件を話し、不幸だと上条が叫び、夕方の特売で本日の夕飯の食材を買った帰り道、ツナは上条にそんな質問をした。
「え?いや、いねぇけど……いきなりどうした?」
「さっき御坂さんとその妹さんに会ってさ。何だか御坂さんが妹さんにピリピリした態度だったから……俺も兄弟はいないから、兄弟喧嘩とか良く分からなくて……」
「成る程なぁ。ていうか、あいつ妹いたのか」
上条には従妹はいるらしいが、特に喧嘩をした事はないらしい。これでは手詰まりだ。何の解決策も考え出せない。
ランボやイーピン、フゥ太といった弟分や妹分はいるが、彼らが何かやらかしたら叱る事はあってもツナの性格上、幼い子供相手に喧嘩などできるわけもない。だから歳の近い兄弟がいないツナには兄弟喧嘩の感覚が分からないのだ。獄寺がランボと喧嘩しているところは何度も見ているが大抵ランボが泣かされて終わるので、ひでぇと思うだけで兄弟喧嘩への理解にはならない。リボーン曰く嵐と雷は兄弟みたいなものらしいが。
上条にも兄弟はいないようだから、その辺はツナと同じだろう。かと言って一年前からの記憶しか持ち合わせていないインデックスにこんな事は聞けない。
ツナの周りにいる兄弟姉妹も了平と京子は仲睦まじい兄妹であり、お互いが強い妹想いと兄想いだ。喧嘩などする訳がない。ビアンキと獄寺は色々と特殊ではあるが、ビアンキは腹違いでも獄寺の事を弟として彼女なりに最大限の愛情を注いでおり、獄寺はポイズンクッキング関連で強いトラウマこそ持っており、多少避けてはいるが、本気でビアンキを嫌ったりはしていない……はずだ。
ヴァリアーには全てが気に喰わないという双子の兄を殺した感覚が忘れられなくてボンゴレに入ったという何処かの王子がいるが、流石にこんなものは参考にはならない。できるかそんなもん。実は生きていたらしいその双子の兄にツナは会った事が無い上、未来で結局XANXUSに殺されたと聞く。
ツナの親友には幼い頃に妹を殺された人物がいるが、流石にそんな相手に兄弟喧嘩について聞く事はできない。
つまりツナはまともな兄弟喧嘩などした事もなければ見た事もないのだ。そんなツナが御坂姉妹の喧嘩を上手く解決するなんて夢のまた夢なのだ。
『お姉様にとって、ミサカは否定したい存在ですから』
あの一言がどうしても頭から離れない。血の繋がった兄弟姉妹でそんな言葉が出るとはどうしても思えないのだ。前述した王子は例外。
(本当に喧嘩してるなら、仲直りして欲しいけどな……)
そんな風に考えながらツナは上条と共にお腹を空かせたインデックスの待つ部屋に帰宅した。
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深夜、学園都市の路地裏にて、
真っ白で眩い光が何処からともなく発せられ、その光が止むと同時に中学生くらいの人影が姿を現し、地面にべしゃりと落ちた。
叩き付けられた痛みに悶えながら突然現れた銀髪の少年はフラフラと立ち上がる。
「くそっ!んだよここ……路地裏?」
よろめきながら路地裏を出ると眼前に広がるのは都会の景色。並盛のような地方都市と比べると遥かに発展しており、渋谷や新宿などよりもあらゆる点が進んでいる街並みを見て、少年は確信を持つ。
「ここが学園都市か……!」
その一言は暗に彼は学園都市の人間ではない事を示していた。
「まずはあの人を探さねえと!!待っていて下さい……!!」
荷物を見て、紛失した物はないと確認する。
少年は街中を警戒しながら歩き出す。全ては忠誠を誓い、生涯を共に生き抜くと決めたボスを見つける為。
「今行きます、10代目……!!」
並盛町ってアニメだと東京扱いだけど原作じゃハッキリとどの辺なのかは明言されてないんだよな。