とある魔術のボンゴレX世   作:メンマ46号

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思ったより長くなった。分けても良かったけど、タイトル的にどうしても今回のラストシーンで区切りたかった。そうしないと次回のタイトルにも影響出るので。


妹達来る!

 -8月21日

 

 今日も今日とて上条の高校にて小萌先生から上条の補習ついでに学園都市の能力開発についての講習を受けるツナ。因みに今日は講習という事もあり、学園都市に来た日に着ていたレオン産の糸で作られた並盛中の制服を着ている。と言ってもちゃんとした学生服はこの一着のみで普段は上条から借りている私服と毎日交互に着回しているのだが。

 

「はあぁ…全然分からない……」

 

「それは沢田ちゃんが理解しようとしてないからなのですー!いくら能力開発する気がないからって、その姿勢はいただけないのです!」

 

(普通に分からないんだけど……)

 

 ツナの知能は同年代と比べて非常に低い。死ぬ気になった時の戦闘勘や戦闘センスなどはIQと直結しないのだ。なので小萌先生が丁寧に説明しても分からないものは分からないのだ。

 補習漬けで怠くなっている上条もヤケ糞気味に愚痴を溢す。

 

「小萌先生、別に無理に教えなくても良いんじゃないですか?授業聞いたからって能力(ちから)が付くわけでもないでしょー?」

 

「でもでも能力(ちから)が無いからって、諦めてしまっては伸びるものも伸びないのです!学園都市の第三位、常盤台中学の御坂美琴さんなんて、元は低能力者(レベル1)だったのに、頑張って頑張って超能力者(レベル5)まで上り詰めたんですよ?」

 

 御坂美琴の名前が出てツナは昨日の出来事を思い出す。学園都市でもトップの能力者である美琴とそれより遥かに劣るらしい双子の妹。

 その片割れは元々今の妹よりも劣る能力者だったというのが、どうにもピンと来ない。

 

「とにかく、能力開発を受ける受けないとかじゃなく、普通のお勉強にも言える事なのですよ上条ちゃん、沢田ちゃん!」

 

 それ以上におかしいと思ったのが、御坂美琴が努力して低能力者(レベル1)から超能力者(レベル5)になったのなら、同じ事をすれば少なくとも同系統の能力者なら同じ超能力者(レベル5)になれる人がそれなりの数出てくるはずだ。元々が美琴より高位の能力者ならば尚更だ。それなのに超能力者(レベル5)は学園都市にたったの七人で電気系の超能力者(レベル5)は御坂美琴ただ一人。

 

 勿論全員が全員そうなるわけではないだろう。努力したってした分報われるとは限らない。だからといって努力によって低能力者(レベル1)から超能力者(レベル5)に上り詰めた実例がある以上、同系統の能力者で同じ超能力者(レベル5)が一人もいないのは流石におかしくないか。

 

 電気系の能力者が超能力者(レベル5)に至る方法は確立されたも同然のはずなのに。

 

 そこが気になったツナは聞いてみる事にした。

 

「あの、小萌先生」

 

「何ですか沢田ちゃん?」

 

「じゃあなんで電気の能力者の超能力者(レベル5)って御坂さんしかいないんですか?」

 

****

 

 結局ツナが納得のいく回答は得られなかった。ツナが直感した指摘を聞いた小萌先生曰く、その点についてこれまで誰も考えた事もなかったらしい。詳しく調べてみるとは言っていたが、この街に黒い部分がある事は既に何となく分かっている。調べても分からず終いな気がした。

 

 魔術は元々才能のない人の為の力だとインデックスは言っていた。そして対する超能力は才能に依存する点が大きいらしい。

 

(って事は御坂さんは勿論努力はしたんだろうけど、超能力者(レベル5)ってのになれたのは才能によるところが大きいって事?……もう良いや、余計頭の中こんがらがってきそうだし……)

 

 考えても仕方のない事ではあるし、そもそも超能力に大した興味もないツナはこの考えを打ち切る事にした。

 今日は特売もないのでやる事は……昨日御坂妹に言われた殺虫剤くらいか。

 

(って、考えてれば御坂さんいたし……)

 

 下校中に上条と歩いていれば空を見上げる美琴が一人で黄昏ていた。あの様子ではまだ妹と仲直りできていないのだろう。上条も美琴に気付いたのか彼女を指さす事で軽くツナにジェスチャーして共に歩み寄る。どうやら普段攻撃されている事から一人で話しかけるのは嫌なようだ。それでも話しかけるのは昨日の御坂妹への礼を言いたいからだ。

 

「おっす。そっちも補習帰りか?ビリビリ中学生」

 

「……ああ、アンタ達か。ビリビリじゃなくて御坂美琴。今日は疲れてるし体力温存したいとこだからビリビリは勘弁していてやるわ」

 

「自分でビリビリ言ってんじゃん」

 

(……?)

 

 何だか美琴の雰囲気が昨日とはまた違うような気がする。何やら思い詰めているようだが……。

 

「そうだビリビリ、お前の妹に礼伝えといてくれよ」

 

 上条が何気なく言ったその一言に反応した美琴は血相を変えて上条に詰め寄った。

 

「アンタ達、あの子に会ったの!?」

 

「いや俺は直接会ったわけじゃねーけど、知らないところで色々助けて貰ったみたいでさ……。それをツナに聞いて……」

 

「ほ、ほら!昨日のジュース運ぶの手伝って貰ってさ……!」

 

「……そう」

 

 話題に出される事すら嫌なのだろうか。そこまで姉妹喧嘩が深刻化しているのは流石に不味いような気がする。

 上条も気不味いこの空気を何とかしたかったのか、空に浮かぶ飛行船とそのスクリーンに映し出される天気予報に話題を切り換える。

 

「おっ?明日の天気も晴れか」

 

「そういえばこの街の天気予報って100%当たるんだっけ?」

 

「ああ。ここんとこなんか調子悪いみてーだけどな。『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』だったか」

 

 ツナは以前上条に聞いた学園都市の天気予報について思い出し、上条はその天気予報を計測する機械の名前を出した。その瞬間、ツナはゾッとする程の深い負の感情を感じ取った。

 何より驚いたのが、その感情を発しているのが御坂美琴だったからだ。

 

「み、御坂さん……?」

 

「私、あの飛行船って嫌いなのよね」

 

「え?どうして……?」

 

「機械が決めた政策に、人間が従っているからよ」

 

 それだけ言って美琴はその場を後にした。最後のあの意味深な台詞は何だったのか。人間が機械の言いなりになっている……という事だろうか。

 

「何だったんだあいつ?ま、今日はビリビリされないだけでも幸運かな」

 

 歩いて行く御坂美琴の後ろ姿を見て上条は呟く。

 だが何故かツナはその後ろ姿に……自分の命を犠牲にした10年後のユニの面影を見た。

 ただそれは平和を作り出そうとしたユニと違い、何かに押し潰されそうになっているように見えた。

 

「じゃ、俺はホームセンター行って殺虫剤買ってくる。ノミを何とかしないとな」

 

 昨日の御坂妹の助言に従い、煙を出すタイプの殺虫剤を買い求めて上条も一旦別れる。ツナ一人がポツンとその場に残された。ツナは美琴が去って行った方向に目を向ける。

 

(何だろう……凄く嫌な予感がする。放っておいたら取り返しがつかなくなるような……)

 

 しかし後を追うのも気が引ける。ストーカー呼ばわりされて電撃を受けるなどまっぴらだ。

 結局ツナはさっさと帰る事にした。殺虫剤は上条が買ってくると言っていたので部屋で待っていれば良いだろう。

 

「はぁ……リボーンがいたら気になるなら追えとか言われて死ぬ気弾撃たれてもっと酷い事になってただろうな……」

 

 パンツ一丁で女の子を追い駆ける。どう見ても変態だ。そんな最悪な末路を想像していると今度は別の問題に直面した。

 御坂妹が黒い子猫の前でしゃがみ込み、蒸しパンを片手に千切った欠片を子猫に近付けようとしていた。

 

(なんか昨日から御坂さん達によく遭遇するなぁ……)

 

 しかしふと気になった。御坂妹は蒸しパンを持って子猫の前にいるが、微動だにしないのだ。

 

「それ、あげないの?」

 

 思わずツナは話しかけていた。御坂妹はジッとツナを見た。

 

「貴方は昨日の……」

 

「ああ、自己紹介まだだったね。俺は沢田綱吉」

 

「いえ、昨日のメイドさんとの会話で貴方の名前は存じています。と、ミサカは事実確認を取ります」

 

「あ、そう……」

 

 相変わらず独特な口調だ。何処となく暗いし、やはり姉である美琴とは仲直りできていないらしい。

 

「先程の質問ですが、与えていません。と、ミサカは答えます」

 

「ああ、これからあげるんだね。それじゃ俺はこれで……」

 

 猫に餌をあげるのが好きなら邪魔しちゃ悪いと思い、ツナは帰ろうとする。しかし他ならぬ御坂妹が待ったをかけた。

 

「待ちなさい。と、ミサカは静止を促します」

 

「へ?」

 

「聞きなさい。ここに一匹の猫がいます。このお腹を空かせた黒猫を前に何も与えずに去るのはどういうつもりか。と、ミサカは聞いています」

 

(なんか凄く嫌な奴みたいに言われたーー!!)

 

 そんな風に言われたら罪悪感が半端ない。しかしその猫に関しては目の前にいる……というか発言した張本人がどうにかしようとしているではないか。

 

「えっと……君が今から餌をあげようとしてるんじゃないの?」

 

「この猫にミサカが餌を与える事は不可能でしょう。と、ミサカは結論付けます」

 

「えっ?どうして?」

 

「ミサカには一つ、致命的な欠陥がありますから。と、補足説明します」

 

「欠陥って……物じゃないんだから」

 

「いえ、欠陥で適切です。ミサカの身体は常に微弱な磁場を形成します。と、ミサカは説明します。人体には感知できませんが、動物には感知できるのです」

 

 そう言って指一本を近付けただけで黒猫はビクンと身体を反応させて縮こまってしまった。

 

「そ、そうだったんだ……。じゃあ動物に嫌われちゃうの?」

 

「嫌われているのではありません。苦手だと思われているのです。と、ミサカは訂正を求めます」

 

(あ、地雷……)

 

 目に見えて落ち込んでいる。しかしこれで御坂妹の言いたい事が大体分かった。猫ならナッツやスフィンクスで慣れている。流石に犬は未だにチワワすら怖いから無理だが。

 

「そっか。じゃあ俺が代わりにその餌を猫にあげれば良いんだね?」

 

「そうではなく、どうして拾おうとは考えないのですか?と、再度問いかけます。保健所に回収された動物がどのような扱いを受けるか知っていますか?と、ミサカは例え話をしましょう。まず透明な…「ちょ!やめて!嫌な想像させないで!!」」

 

 早い話が飼えという事だ。

 

「いきなりそんな事言われたって今俺がいるところ、ペット禁止だし……」

 

「昨日は三毛猫を飼っているようでしたが?」

 

「それはインデックスが無理矢理……」

 

「………」

 

 何考えてんだか分からないハイライトの無い目でガン見してくる御坂妹。そんな目で見つめられては断りたくても断れないのが沢田綱吉である。

 

「……じゃ、じゃあ今お世話になってる人に相談はしてみるよ。でも元々ペット禁止の所だし、居候の俺じゃそんな事決められないからね?」

 

 流石に上条に断りを入れずにそんな事はできない。というか先日も上条が散々駄目だと言ったにも関わらずインデックスはスフィンクスを勝手に飼い始めたのだ。きっと上条を困らせてしまうだけだろう。

 

「……まぁ、今はそれで良いでしょう。と、ミサカはチョロい癖に使えねえと嘆息しつつ、本音を隠します」

 

「隠せてないんだけどーー!?」

 

 とにかく事情を上条に説明してその上で上条から御坂妹にこの黒猫を飼えない事を話して貰うしかないだろう。しかし御坂妹は電磁波のせいで動物に近付けないらしい。

 

「ノミに関しては三毛猫同様に先程落としておきました。と、ミサカは先に逃げ道を潰しておきます」

 

(俺に頼むって事は常盤台って学校の寮も猫は飼えないんだよな?小萌先生に頼むのも悪いし、当麻君に話した後どうしよう……?)

 

「はぁ……不幸だ」

 

 この猫をどうするかを決める為にもツナは黒猫を抱えて歩き出す。御坂妹はツナが途中で猫を捨てないか見張る為なのか、普通に着いてきた。

 

「でもどうしてこの猫捨てられてたんだろう…。スフィンクスもそうだけど」

 

「みゃー」

 

「何故鳴いているのですか?と、ミサカは問いかけます」

 

「うーん、お腹空いてるんじゃないかな?そのパンもあげられてないんでしょ?」

 

「ですが、餌をあげる事は不可能だとミサカは再度答えます」

 

 取り敢えず、目下は黒猫の空腹を何とかしないといけないようだ。ツナは少し考え、両手で猫の脇の下を持ち、猫の体勢を固定してみた。

 

「とりあえずあげてみてよ。ちょっと可哀想かもしれないけど、固定しとけば電磁波に反応しても避けたりはできないし……」

 

「ですが……」

 

「ものは試しって言うじゃない?」

 

 少し困ったような笑顔で言うツナ。御坂妹は渋々蒸しパンを少し千切って黒猫の口元に近付ける。そして黒猫は御坂妹が指で摘むパンの欠片の匂いを嗅いでからパクりとそれを食べた。

 

「!」

 

「食べた!良かった!」

 

 戸惑う御坂妹と喜ぶツナ。黒猫は御坂妹の指先をペロペロと舐める。まるで彼女から発せられる電磁波など気にしていないかのように。

 

「……これは?」

 

「餌をくれた君が好きになったんじゃないかな?電磁波でびっくりしてもだんだん気にしなくなるのかも……」

 

「気に…しなく……?」

 

 何か思うところがあるのか御坂妹はジッと黒猫を見つめる。そしてツナはふと気付く。

 

「この猫の名前どうしよっか?この猫を助けようとしたのは君だし、君が付けるのが良いと思うけど」

 

「名前……ミサカが……」

 

 御坂妹は数秒間考え込むと驚きの名を口にした。

 

「ではミサカはこの黒猫に“いぬ”と命名します」

 

「何でーー!?」

 

 別の動物の名前である。センス云々以前の問題じゃなかろうか。いや三毛猫に“スフィンクス”も大概だが。

 

「猫なのに、いぬ……ふふ」

 

「笑うポイントそこなの……!?もうちょっと良い名前があるんじゃないかな?」

 

「威厳のある名前が良いという事でしょうか?」

 

「そう…なのかな?」

 

「では、沢田家康…と」

 

「だから何でーーー!?」

 

 沢田家康。ツナの先祖であるボンゴレⅠ世(プリーモ)、本名ジョットが日本に帰化して改名した名前である。

 まさかの名前が出てよりにもよって猫に付けられるという事実に愕然とするツナ。御坂妹はちょっと誇らしげに命名の理由を述べ始める。

 

「最初は威厳という意味では徳川家康にしようかと考えましたが、沢田綱吉という人物が飼う以上、同じ苗字にするべきであり、徳川の将軍の名前繋がりでも丁度良いとミサカはドヤ顔を抑えつつ、胸を張ります」

 

 確かに物凄い威厳のある名前ではあるが、それは色々と不味い。猫へのその名前の命名を許容した事がリボーンに知られたらまたネッチョリとスパルタ指導が待っているだろう。

 

「そ、それはちょっと……一応俺のひいひい……いくつだっけ。とにかくご先祖様の名前だからさ」

 

「残念です。と、ミサカは案外心の狭い貴方への不満を抑えつつ、命名を諦めます」

 

(結構堂々と嫌味言うよこの子!顔は同じでも御坂さんと全然性格違うし!!)

 

 双子の姉と妹でどうしてこうも違うのか。センスも趣味嗜好も全然違うようだ。それでもどちらにも強く苦手意識を持ってしまうのは何故なんだか。

 

「ところで、何処に行くのですか?昨日ジュースを運んだ時と道順が異なります。と、ミサカは指摘します」

 

「確か向こうの方に風紀委員(ジャッジメント)の支部ってところがあったでしょ?そこで白井さんとかにこの猫の新しい飼い主を探せないか相談してみようかと思って。次の飼い主が見つかるまでの期限付きなら当麻君もOKしてくれるかもしれないし」

 

「白井さん?」

 

「うん。同じ学校に通ってるでしょ?御坂さん…お姉さんと仲良くて風紀委員(ジャッジメント)の人。御坂さんと双子なら……君の後輩かな?御坂さん繋がりで会った事あるでしょ?」

 

「いえ、面識はないので存じ上げません。と、ミサカはバッサリ言ってみます」

 

「え?」

 

 同じ学校に通っていてもお互いを知らないなど別に珍しくもないが、姉である美琴を介しててっきり知り合っているものだと思ったが。

 

「それから、この時間ではもう風紀委員(ジャッジメント)の支部は閉まっています。と、ミサカは補足します」

 

「えっ!?今やってないの!?」

 

 しかし明日も上条の補習と一緒に講習がある。それが終わってから支部を訪ねても閉まっているだろう。

 

(とにかく当麻君に相談してみよう……。もしかしたら当麻君の知り合いとかなら飼えるかもしれないし……)

 

「お、俺ちょっとさっき言った今お世話になってる人に電話してみるね!その間この猫お願い!」

 

 ツナは御坂妹に子猫を押し渡して、距離を取って携帯電話を取り出して上条へと連絡する。そんなツナの後ろ姿を眺めながら御坂妹は溜め息を吐いた。

 

「ミサカでは電磁波のせいで子猫が……と、ミサカは……」

 

 電磁波の事を忘れたのかと呆れる御坂妹。しかし抱き抱える黒猫の様子はそれ程御坂妹を嫌がっていない。先程指を舐めたように、顔を御坂妹の腕にスリスリさせるくらいだ。

 

「………本当に、気にしないのですか?」

 

 黒猫を見てそう呟く御坂妹。しかし次の瞬間、まるで固まったかのように身体が停止した。そして車道の向こう側の路地裏に二つの人影が入って行くのを目撃する。

 

「……確認しました。これより、10031、10032号共、所定の行動に入ります」

 

 そう言って黒猫を足元に置き、餌の蒸しパンをその前に置くと上条に電話するツナを背にその場を後にした。

 

 

 

「……うん、分かった。じゃあ今日一旦連れて帰るね。ごめんね、こんな我儘言って。ありがとう。それじゃ」

 

 上条は最初ペット禁止の寮にまた猫を連れ込む事に難色を示したが、事の経緯を説明すると渋々期限付きで了承してくれた。明日からは今回の子猫の新しい飼い主になれる人間を探す事になった。

 上条はインデックスと違い、滅多に我儘など言わないツナの頼みなら……という事でも了承したのだ。

 

「ごめん、いきなり……その猫を連れて帰る許可は貰ったから……あれ?」

 

 電話を切って振り向くとそこにはもう御坂妹はいなかった。御坂妹がいたはずの場所には蒸しパンを食べる黒猫だけ。

 

「……何処、行っちゃったんだろう?」

 

 帰った……とは考え辛い。あれだけ捨て猫を飼う事を強要してきた彼女が猫を途中で放り出して先に帰るとは思えない。

 ()()()猛烈に嫌な予感がしたツナは蒸しパンとそれを食べる猫を拾い、抱き抱えながら走り出した。

 

 それから15分程ツナは御坂妹を探して近場を走った。そして建物の隙間……路地裏の入り口の前を通ろうとした時、ここに行くべきだと超直感が告げた。

 

 不良に出くわさないかビクビクしながらツナは御坂妹を探す。ふと、足に何かぶつかる。

 

「な、何だ……!?」

 

 常盤台中学のものと思われるローファーが落ちていた。御坂妹のものだろうか。履いている靴を落とすなど普通はあり得ないが、それ以上におかしな点があった。

 

 血がベットリと付着していた。

 

「え……!?」

 

 ツナは血相を変えて再び走り出した。

 路地裏の奥へとその足を運び、目の当たりにしたのは……

 

 血達磨になって倒れ伏す、御坂妹だった。

 

「し、しっかりして!」

 

 ツナは迷わず駆け寄って御坂妹に呼び掛ける。まるで血管が破裂したかのように全身から血が噴き出た後だと分かってしまう。助かるような傷でない事も。いや、もう既に……

 

(酷い…!誰がこんな事を……!?)

 

「きゅ、救急車……」

 

 震える手で携帯電話を開き、119番へと通報しようとする。

 

「その必要はありませんよ。と、ミサカは巻き込んでしまった貴方の手を止めます」

 

 背後から物凄く聞き覚えのある声が聞こえた。というか、今探していた人物の声だ。しかしそれは目の前で倒れている人物。一体どういう事なのか。ツナは恐る恐る振り返る。

 

「え……?」

 

 そこには目の前で血達磨になって倒れているはずの御坂妹がいた。いや、目の前に御坂妹が二人いるのだ。ツナの前で無傷で立つ者と、血塗れで横たわる者が。無傷で立つ方は大きな黒い袋を持っている。

 

「申し訳ありません。作業を終えたら戻る予定だったのですが。と、ミサカは初めに謝罪しておきます」

 

「え……嘘。え……?げ、幻覚……?」

 

 ツナは真っ先に術士の仕業かと疑った。しかし霧の炎も砂漠の炎も感じない。何より超直感が目の前のコレは現実だと告げていた。

 

「いえ、ミサカはここに実在します。と、ミサカは錯乱している貴方に説明します」

 

「ど、どうなってるの……?君は本物なの?こっちにいるこの子は一体……いや、正体がどうとかじゃなくてこのままじゃ……」

 

「そのミサカは既に死んでいます。と、ミサカは報告します」

 

 ストンと何かが落ちたような気がした。必死に目を背けた事を直視させられた。

 

「回収するのでそのミサカの前から退いて下さい。と、ミサカは暗に邪魔だと告げます」

 

「一体……何をしてるの?そのミサカって何?」

 

「……念の為、パスの確認を取ります。と、ミサカは有言実行します」

 

 それから御坂妹は何かのパスワードと思われる英字と数字の羅列を口にする。ツナは錯乱状態である事と、いきなり訳の分からない事を言われた事でそのパスワードとやらを聞き取る事もできない。

 

「今のパスをレコードできない時点で貴方は実験の関係者ではなさそうですね。と、ミサカは確認します」

 

 そう言うと御坂妹はツナを押し退けて持っていた黒い寝袋にもう一人の御坂妹の遺体を収納し始める。その光景に呆気に取られていたツナだが本当の驚きと衝撃はここからだった。

 

「血痕の除去はミサカが担当します」

 

「戦闘の痕跡はミサカが……」

 

 ぞろぞろと御坂妹が一人、また一人と姿を現し、周囲の掃除を始めた。ツナはあまりの光景に何も言えなくなってしまう。

 

「……!!」

 

 一通りの作業が終わってから、御坂妹達はツナの前に並び立つ。

 

「黒猫を置き去りにした事については謝罪します。と、ミサカは告げます」

 

「ですが無用な争いに動物を巻き込む事は気が引けました。と、ミサカは弁解します」

 

「どうやら本実験のせいで無用な心配をかけてしまったようですね。と、ミサカは謝罪します」

 

 そして御坂妹の一人が入っている黒い寝袋を抱えた御坂妹が代表してツナの前に立った。

 

「貴方が今日まで接してきたミサカは検体番号(シリアルナンバー)10032号。つまりこのミサカです」

 

 10032号。昨日ツナが御坂妹に名前を尋ねた時、そう言っていた。あの質問にそう答えたのは本当に10032号が彼女個人の名前だったから。

 

「ミサカ達は電気を操る能力を応用し、互いの脳波をリンクさせています。他のミサカは10032号の記憶を共有させているに過ぎません。と、ミサカは追加説明します」

 

 御坂妹の説明はステイルの錬金術の説明よりもずっとすんなりツナの頭の中に入ってくる。言っている事が何となくでも理解できてしまう自分が嫌だ。

 

「き、君達は……一体何者なの?」

 

「学園都市で七人しかいない超能力者(レベル5)御坂美琴(おねえさま)の量産軍用モデルとして製造された体細胞クローン、『妹達(シスターズ)』ですよ。と、ミサカは答えます」

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