「……ッ!!ガァァァァァァァッ!!!」
痛い。痛い。殴られた顔の痛みが引かない。ジンジン響く激痛に耐えられるだけの頑強な肉体と忍耐力を彼は持ち合わせてはいない。
故に年甲斐もなくのたうち回り、みっともなく喚く。大声で痛みを訴える。
「お前の力はこんなものか?まだ序の口だぞ」
ツナは確信した。
「……クソが!!」
ようやく痛みに慣れて覚束ない足取りで立ち上がる。冷静になれ。奴に反射が効かないのなら、こちらから攻撃すれば良いだけだ。足元のベクトルを操作して己のスピードを飛躍的に上昇させる。
「ハッ!遅ェンだよ!!」
「遅いのはお前だ」
ツナの背後に回り込んでも一瞬でツナの姿は目の前から消えて、逆にツナが
「ガッ!!?」
殴られてまたも簡単に倒れる。フラフラと揺れながらも立ち上がり、
「面白ェ……最っ高に……面白ェぞ三下ァァァァ!!」
「面白いもんか……」
「ア?」
「人が死んでもおかしくないような危険な戦いが、面白いわけないだろ!!」
戦いを楽しむ旨の発言をした
大空属性の死ぬ気の炎を纏った拳が一方通行の頬を捉えて殴り飛ばす。当然、“調和”によって反射膜は機能しない。膜そのものが自然な空気と“調和”されてしまえば機能はしない。結論、大空属性の死ぬ気の炎を反射で防ぐ事は不可能だった。
この炎には自然の摂理を捻じ曲げるベクトル変換は作用せず、反射膜も空気と“調和”されて消えてしまう。ならば後は単純な実力勝負だ。
だがしかし、格闘戦になればツナ相手に
かと言って遠距離攻撃も通用しない。鉄骨を飛ばしても真正面から砕かれるか避けられる。衝撃波を起こしてもあの炎で防がれる。一旦距離を取ろうと超速でツナから離れても、次の瞬間には既に背後に回り込まれる。
痺れを切らした
避けてくれと言っているようなものだった。
容易く
「がはっ……!!」
「クローンだって、みんな生きているんだ。殺して良い命なんて、一つもない!ましてやこんな実験の為に……なんで殺されなきゃいけないんだ」
「生き……てる?」
(だってあいつら……人形だって……そォ、言ったじゃねェか……)
殴られた痛みとツナの一言から受けた衝撃が過去の出来事がフラッシュバックする。学園都市最強の座を狙って下剋上を仕掛けてきた馬鹿共を常に返り討ちにしながらも、それと研究者以外に人との繋がりが
最強故に恐れられ、妬まれ、疎まれ、孤独だけが付き纏った。
『「最強」止まりでは君を取り巻く環境はずっとそのままなのだろうね』
『遠慮はいらんよ。相手は薬品とタンパク質で合成された、ただの人形なのだから』
****
御坂美琴は沢田綱吉と獄寺隼人が炎を噴射して飛び立ってから暫くその場から動けなかった。
止められなかった。止めなきゃいけなかった。
あの
それなのに止められなかったのは……あの優しい言葉に、暖かい炎に不思議と希望を感じたから。
でもそんなものに何の根拠もない。美琴には
「みゃー」
思考の渦に呑まれていると美琴は鳴き声からツナが連れて来た黒猫の存在に気付いた。学園都市最強の
「……アンタ、ひょっとしてあの時の猫だったりする?」
あの時…とは御坂美琴が初めて
「みゃー」
「ゴメンね。私には見分けがつかないや」
この猫同様に
「……他人任せにできない理由がある。まずは自分の気持ちと向き合わなきゃね」
流石にこんな所に放置はできないので黒猫を抱き上げ、美琴はツナと獄寺が向かった次の実験が行われる場所へと走る。
その途中、実験が行われているはずの場所から爆発が上がり、妹の救出に向かってくれたツナ達の身を案じる。
しかし現場に辿り着いた御坂美琴が見たのは驚きの光景だった。
「うそ……!?」
額と拳に炎を灯して
あり得ない。全ての攻撃を反射する
「あいつ……あんなに強かったの?あの
ツナが美琴よりも強い事はもう分かっていた。だけど
いや、いくら
(何の関係もない赤の他人なのに……逃げ出したって、誰も責めないのに……)
見れば
「本当に……あの約束を……?」
呆然としながらもそのすぐ近くで妹の応急処置を施し終えて、彼女を背負いつつもツナの戦いを見ている獄寺を発見し、その視線をツナへと向けつつもそちらへ走る。獄寺の周囲には何かのパネルのようなものがある。それで己と妹の身を守っているのは何となく分かった。
そしてこちらに気付いたツナと一瞬だけ……目が合った。
駆け付けた美琴と一瞬視線が交差するものの、ツナは目の前にいる
「がァアアアアアアッ!!」
ブンブンと手を大振りに振り回しても擦りもしない。むしろそうして隙が生まれる事で次々と拳が叩き込まれていく。
「クソが!!ウネウネと……!ごぶァッ!?ガッ!?ぐっ!?」
殴られる度に激痛が走る。それでも意識が途切れないのは間髪入れずに叩き込まれ続ける痛みが意識の暗転を阻害しているからだ。
ここで気絶させるのでは意味がない。この男に自発的にこの実験をやめさせなければならないのだ。
「なンっなンだよ、その炎はァァ!!?」
「お前に教える必要なんて無い」
死ぬ気の炎を纏ったアームハンマーが振り下ろされ、一方通行の顔面が砂利に叩きつけられる。
「ゴアァァ…!?ぐ、チョーシ乗ってンじゃねェぞ三下ァァ!!!」
しかし一方通行もタダではやられるつもりはない。手を地面に叩きつけて、ベクトル操作で衝撃波を起こし、それと一緒に石や砂も凄まじいパワーで叩き込む。
だがそれすらもツナは腕を振るい、死ぬ気の炎で即席の壁を作り、防ぐ。それを見た一方通行の顔に焦りと苛立ちが走る。そしてそのまま炎が一方通行に向けてぶち込まれた。
「アアアアアア!?あ、熱ィィィィ!!!……ごぱっ!?」
死ぬ気の炎が直撃し、熱さと痛みに悶えていると顎に容赦なくアッパーカットをぶち込まれる。
「負けた事が無いだけで、最初から最強でも何でもなかったんじゃないのか?」
ツナからすれば
「そんな程度で学園都市最強を名乗っていたなんて、拍子抜けだぜ」
反射という優位性が崩れてしまえば脆いものだ。筋力は禄に無いし、喧嘩の腕前も素人以下。これまでまともに殴られた事すら無い為に感じる痛みも過剰に感じてしまっている。
ベクトル変換の能力が無ければ『ダメツナ』にすら力負けしてしまう程に脆弱だった。
「なンなンだ……なンなンだよその炎はよォォ!!」
「別に炎がなくてもお前に攻撃する方法はあるぞ」
そう言うとツナは両腕に纏っていた死ぬ気の炎を消し、〝右手〟を握りしめて
「「!?」」
美琴は目を疑い、
しかしツナは今、それを使わずに
まるで、御坂美琴を苦しめる残酷な幻想を殺すかの如く、相応の
ボンゴレの超直感が導き出したもう一つの反射攻略法。無意識に展開する反射用の保護膜に触れる寸前に攻撃を止める事で反射を逆に利用し、
勿論簡単な事ではない。それを成すだけの修練と戦闘経験があって初めてできる事だ。ツナに限って言えば超直感がその寸止めをする判断の補助を果たしているが、その条件さえ満たせば例え
ミシミシと骨が軋む音を聞きながら
「チョーシ乗ってンじゃねェぞ三下ァァ!!体内の血流なり生体電気なりこっちで操作すりゃあオマエなンざ簡単にぶっ壊せンだよ!!」
「……」
必死に手を伸ばし、何とかツナに触れようとする
しかし、何を思ったのかツナは敢えて動きを止めて
「「!?」」
ツナが急に止まって
(触った!!これで今度こそ血を逆流させて……っ!?)
ツナの意図など知るわけがない
(まただ!ウンともスンとも言わねェ!!なンで能力が作用しねェ!?)
死ぬ気の炎で腕を焼かれる寸前と同じ。血も生体電気も極自然な流れを維持し、彼の能力にちっとも左右されない。その様子を見て獄寺はその明晰な頭脳と死ぬ気の炎に関する知識によって結論を導き出した。
「そ、そうか……!」
バミューダと戦った時の死ぬ気の到達点やラル・ミルチが未来で全身から死ぬ気の炎を出したのと同じだ。ツナは全身の細胞を死ぬ気にする事で自身の大空属性の炎を身体の内側で張り巡らせているのだ。
それならば
言わば死ぬ気の到達点の一歩手前という事だ。体外に死ぬ気の炎を放出こそしていないが、全身の細胞が
(クソが!!だったら先にその炎を解析して……!!)
反射が通用せず、ベクトル操作そのものすら無効化する得体の知れない炎。目の前にいるチビ曰く能力じゃないらしいが、ただの炎というわけでもないはずだ。解析さえしてしまえば反射はできる。
「……は?」
彼の能力の真髄は解析能力。その獄寺を上回る明晰な頭脳を以ってすれば死ぬ気の炎の本質を掴む事など容易い。これが能力ではなく、生命エネルギーを圧縮したものだと理解した。
だからこそ分かってしまった。どんなに死ぬ気の炎用のフィルタを組んでも大空の“調和”で反射膜を無力化されてしまえば全てが無意味なのだと。例え大空の炎を解析できたとして、その性質を変えられる訳ではない。反射膜を死ぬ気の炎を対処出来るように設定したとしても、他の属性の炎ならともかく、“調和”の特性を持つ大空属性だけは絶対に反射できない。
(ふざけンなよ!?こンなモン、反射しよォがねェじゃねェか!?)
彼はその対象に合わせて反射を組むのであって、向こうのものを自分の反射に合わせたものに変質させる事など決してできない。いや、できたとしても“調和”によって大空属性の炎だけはそれは叶わなかっただろう。
どうしようもない事が分かってしまい、固まってしまう
「あ……がァ……!!」
腹部に走る激痛で
(あの炎は……反射できねェ……!!)
この戦いの中であの炎を解析したからこそ、それがどういうものか分かってしまった。分かったからこそ、どうしようもないと理解してしまった。反射のフィルタを組み直しても関係ない。保護膜が空気と“調和”されて無力化されてしまう。
このままでは焼かれる。
しかしツナは腕に溜めた炎を突如胡散させると諭すように
「……やめだ」
「……!?」
「これ以上お前を殴っても、死んでいった
こいつは今何と言った。捕まえるだと。罪を償わせるだと。ふざけるな。自分が相手にしてきたのはボタン一つで作れる模造品だ。そんなものの為に何故自分が裁かれる必要がある。
「それからこの実験を止める方法、関係者、知っている事も洗いざらい……っ!?」
力が要る。目の前のクソを黙らせ、叩き潰す力が。理りやルールすらも……全てを支配する、絶対的な力が!!!
「くか……くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけこきくかくけけこかくけきかこけききくくくききかきくこくくけくかきくこけくけくきくきくきこきかかかーーーーーーーーー!!!!!」
巨大な暴風が巻き起こる。辺り一帯の大気を全て巻き込んだかのような大規模なものだ。地球に穴が空いたような大気の渦。周囲のコンテナも簡単に舞い上げ、ツナに襲い掛かった。
「ぐっ!?」
「きゃっ!?」
二人の戦いを観ていた獄寺と美琴もその衝撃波に吹き飛ばされそうになりながらも、どうにか死ぬ気の炎や能力を駆使して耐える。ここで吹き飛ばされてしまえば自分達だけでなく、満身創痍な御坂妹まで吹き飛ばされてしまう。
「空気、風、大気……あンじゃねェか。目の前のクソをブチ殺すタマが!!ここに!!」
仰向けに倒れながらも咄嗟に行った演算による威力に興奮する。咄嗟に考え付いた事とはいえ、想像以上の破壊力だった。しかしそれが齎した結果は期待外れの一言だった。
「……チッ、大したダメージにもなってねェのかよ。つくづくバケモンだなァ、オマエも」
ツナは暴風で巻き上げられながらも、大空の炎を周囲に振り撒いて盾を作る事で竜巻や副次的に発生した衝撃波を防いでいた。竜巻が一旦晴れれば空中で死ぬ気の炎を噴出して飛行するツナが悠然と
近くにいた獄寺達には竜巻は直接襲い掛かる事はなく、衝撃波やそれによって飛ばされた物体等は彼のSISTEMA C.A.I.やダイナマイト、美琴の電磁波で処理が間に合っていた。
「……クソが」
これだけの規模の攻撃すら対応されてしまう。だが反撃の糸口は掴んだ。
反射ができず、能力も通用しないのなら、奴の炎を上回る圧倒的な力で叩き潰せば良い。
「……この手で大気に流れる風の『向き』を掴み取れば、世界中に流れる風の動き全てを手中に収める事ができれば……世界を滅ぼす事だって可能」
学園都市最強?
(世界はこの手の中にある!!)
ツナの方を見やれば今の暴風を警戒しているのか、明らかに
「……圧縮。空気を圧縮。圧縮、圧縮ねェ……。イイぜェ、愉快な事思い付いた!!もうちょっと付き合えよ!すぐにギネスに載っちまうぐれェ愉快な
叫びと共に新たに演算を開始する
再び巨大な暴風が巻き起こる。
流石にこの規模の攻撃を見ては如何に奴を圧倒できていたとしてもツナが殺されてしまう。そう感じた美琴は青褪めた顔をしながらコインを取り出す。
「
「テメー何やってんだ!!10代目が何の為に戦ってると……「獄寺君、だっけ?その子を連れて離れて。反射されて巻き込まれるわよ」…!!」
ツナが殺される前に自分が死ねば実験は終わる。そうすればツナがこの一撃で殺される事もない。そう思って
演算に夢中になっているのか、ツナ以外に興味はないのか。故に美琴の存在に気付いてすらいないのではないか。
恐る恐る
(何よ……コレ……)
風を一点に凝縮して生み出した
(どうすれば……!?)
美琴がどうにかしてあの
「御坂さん……俺を信じてくれ」
「……!」
ツナの視線は
その上で信じて欲しいと言われた。
「獄寺君、御坂さんを頼む」
「……!分かりました!おい御坂!とっとと離れるぞ!!」
ボスであるツナに美琴を守るように頼まれた獄寺はSISTEMA C.A.I.のシールドを前方に集めて正面からの防御のみに割きつつ、御坂妹を背負いながらも美琴の腕を引っ張る。
「で、でも……!!」
「心配いらねぇよ」
美琴の不安を払拭するかのように御坂妹を背負う獄寺は告げる。何処かこの後の展開を期待するかのような表情でまっすぐにツナだけを見ていた。
「出るぜ……10代目の大技がな」
巨大な
「オペレーション
説明
一応理屈としては一方通行の能力が先に死ぬ気の炎に干渉しています。しかし大空の炎の特性が“調和”……全体のバランスが保たれていて矛盾や綻びのない状態である為に自然の摂理を捻じ曲げるベクトル操作が効かないのです。そして大空の炎が一歩遅れて一方通行の能力に干渉し、一方通行の周囲にある保護膜を空気と調和させて消しているのです。
複数の属性なら一方通行の保護膜を破壊して攻撃できるなどの意見も出ていますが、私の考えとしてはそれより先に一方通行の能力が死ぬ気の炎に干渉する方が早いので大空以外の属性の炎は解析されてしまえば普通に反射されるというのがこの小説における設定です。
よって真正面から反射を破れる死ぬ気の炎は大空属性のみです。
例外として霧の炎や砂漠の炎を使う術士ならば炎に干渉させずに幻覚を見せるといった限定的な戦い方をすれば一方通行相手に勝機を見出すこともできるでしょう。
あとは空間移動の他にも使い手の肉体を異形のものに変質させるといった未だ謎の多い夜の炎なら可能性はあるかな……?