-8月22日 早朝
「……ん」
御坂美琴は病室の待合室のソファに座った状態で目を覚ました。
(あいつが……
ツナが
御坂妹をカエル顔の医師に任せて、本格的な治療が終わるまで三人でこの待合室で待っていたのだが、結局三人共疲れてここのソファで眠ってしまったのだ。美琴は連日実験の関係施設を襲撃した疲れと寝不足、実験による精神的苦痛と疲労。獄寺は学園都市に来てから丸一日一睡もせずに飲まず食わずでツナを捜索し、そのままあの実験に関わる事になった。ツナは言わずもがな
「本当に学園都市の第一位を倒しちゃうなんて、どんだけ滅茶苦茶なのよ……」
しかしここで美琴はある事に気付く。
「……あれ?二人共いない……」
一緒にこの病院に来たツナと獄寺の姿がそこにはなかった。二人を探そうと美琴は待合室を出て辺りを見回す。しかし近くにはいないようだ。
ならまずは御坂妹の容態を確認するべきかと美琴はカエル顔の医師がいるであろう診察室に向かう。その途中で後ろから声をかけられた。
「お姉様」
****
学園都市の病院の一室の扉を沢田綱吉は恐る恐る開く。開いた先の部屋は個室であり、備え付けのベッドの上には白髪で痩せ型の少年、
「……俺がやった事だけど、後遺症とか残ったりしないよな?」
「だったらそもそも怪我をさせないで欲しかったね?」
「うひゃあああっ!?」
ボロボロの
「心配いらないよ。そもそもそこまで重い怪我でもない。この街の医療技術なら二、三日もすれば完治して退院できるね。というか、一応その辺は配慮して攻撃したんだろう?」
普通に
「……君は相当変わってるね?上条君よりもお人好しなんじゃないかい?」
「え?」
「僕は別に彼を責めるつもりはないけれど、今回、
「……」
「まぁ僕からすれば彼も僕の患者だ。生きているなら必ず治すだけだけどね」
そう言ってカエル顔の医師は病室から立ち去って行った。ツナは医師に言われた事を思い返す。骸と戦った後も
仲間を傷付けた骸も
「……何やってンだクソチビ」
「ひいぃぃぃぃっ!?」
考え込んでいると丁度目を覚ましたらしい
「……なンで散々俺をボコったオマエの方がビビってンだ」
「え、えっと……その、大丈夫?俺が殴ったところとか……」
「最悪の気分だクソッタレ」
質問の答えにはなっていないが、大丈夫そうだとツナは目に見えて安堵する。
どうにも調子が狂う。目の前のチビが戦っている時と今とで性格が違い過ぎるし、何故自分は完膚無きまでに叩きのめされた相手と普通に会話できているのか。
「なンで寝起きからオマエなンかのムカつく面を見せられなきゃならねェンだ」
「んなっ!?」
ここまで言われるとツナもそこそこショックではある。まぁ敵対関係からいきなり分かり合えるなんて流石に思ってはいないが。というか敵対してたのにいきなり打ち解けようとして来る者などそれこそ白蘭くらいだろう。
下手に機嫌を損ねてまたバトルに発展しても困る。ここは病院だし、これ以上
「あ、じゃあ俺もう行くね!獄寺君や御坂さんも待ってるだろうし」
しかし
「……なンで、オマエは
「俺よりもとンでもねェ力がありながら……俺とオマエで何が違う?」
正しく世界を滅ぼせる力を持つ
「それは違うよ」
ツナは迷う事なく答える。昨夜のようにまっすぐ
「俺も昔はひとりぼっちだった」
「!」
「でもそれはお前みたいに凄い力があったからじゃない。むしろ逆だよ。何の取り柄もなくて、勉強も運動も何をやってもダメダメで、馬鹿にされて、いじめられて……ちゃんとした友達なんて一人もいなかった」
「……」
ツナが語る彼自身の過去は
「でも、そんな俺を変えてくれた奴がいるんだ」
世界最強の殺し屋と名乗る赤ん坊が家庭教師となってツナをマフィアのボスにすると言ってそれまでの日常をぶち壊した。
それからは滅茶苦茶だ。いきなり裏社会に放り込まれ、銃声や爆発音が聞こえるなど日常茶飯事だし、友達をそれに巻き込む事態にすらなってしまった。
「やる事全部滅茶苦茶で、どれだけ酷い目に遭ったかなんて数え切れない。ムカつく事も多いし、あいつがいつも正しいなんて俺は思わない」
「……」
「俺が関係ない周りの人達を巻き込むなって言ってもお構いなしで、引き摺り込んだ事だってある」
半ば愚痴を聞かされているような気もしたが、
「でもあいつのおかげで俺は変われた。それは間違いないんだ」
リボーンが来るまでは馬鹿にされていじめられて誰かに頼る事もできずに泣き寝入りするだけだった。
力を貸してくれたり一緒に遊んで笑ってくれる友達なんてツナにはいなかった。
その一点においてだけはかつてのツナと今の
「あいつが俺を友達と引き合わせてくれた。あいつと出会ったから俺は友達を守りたい、その為に強くなりたいって思えるようになったんだ」
「……」
それは
一通り話し終えてからツナはハッとして
「って、そうだ!もうこの『実験』をやる気はないんでしょ!?だったらどうやったらこの『実験』を止められるか教えて欲しいんだ!!」
「……知らねェよ」
「え?」
「俺はこの実験を主導してる奴らから指示貰ってやってただけだ。具体的な計画や諸々の事なンざ何も知らねェ」
「そんな……」
「分かったらとっとと出てけ。そのムカつく面見てるだけで傷口に障るンだよ」
(引き止めたのそっちなのに!!)
別に
ツナは項垂れたまま
「……どォせオマエは諦めねェンだろォが。精々勝手に足掻けクソヒーロー」
****
前提が崩れてしまった。
ツナは獄寺と合流する為、重い足取りで歩く。
「どうしよう。もしかして
「それについてはミサカが答えます」
こうなってしまってはどうして良いか分からなくなってしまったツナの背後に現れたのは身体のあちこちに包帯を巻かれた御坂妹だった。病院の廊下だが何故かその腕には昨日の黒猫が抱えられている。
「い、妹さん!?って、もう傷は大丈夫なの!?」
「はい。貴方とあの少年のお陰でどうにか、とミサカはまだ言えていなかったお礼を言います」
あの少年……とは獄寺の事だろう。彼が晴の活性を利用した治療をしなければ御坂妹は本当に死んでいたかもしれないのだ。
「『実験』についてなのですが、
物凄くあっさりと告げられた。
ツナは一瞬呆然としながらも慌てて聞き返す。
「そうなの?」
「はい。
「良かった……」
御坂妹から受けた説明を聞いた事でツナはホッと胸を撫で下ろす。あの戦いは無駄ではなかった。これで
「しかしまだミサカの身体には問題が残っています」
「問題?」
「はい。元々ミサカの身体は
「そんな……」
あんまりではないか。勝手な都合で作られて、何度も命を奪われて、やっとそれから解放されたというのにそこからの寿命が更に限られているなんて。
目の前が真っ暗になった気がした。ツナは震えながら尋ねる。
「どうにも……ならないの?」
「いえ、なります。と、ミサカは話は最後まで聞けと思いつつあっさり返答します」
「なるの!?」
思わずずっこけたくなるようなシリアス台無しの台詞に間髪入れずに突っ込むツナ。
「だから一時的に研究施設のお世話になって個体を調整する必要があるのです」
「調整?」
「はい。急速な成長を促すホルモンバランスを整え、細胞核の分裂速度を調整する事である程度の寿命を回復させる事ができます、とミサカは答えます。……もしもし?貴方はひょっとしてここで物語が終わると勝手に解釈していませんか、とミサカは問い質します」
「……良かった。まだ生きられるんだね。本当に良かった」
まるで自分の事のように安心して、御坂妹の命を案じるツナを見て、御坂妹は昨夜ツナが自分を友達だと言った事を思い出す。あの言葉に偽りは一切ないのだと。
それだけ確認した御坂妹は歩いて来た方向へとUターンしてまた歩き出す。
「え?もう行っちゃうの?」
「はい。あの銀髪の少年にも報告しなければいけませんので」
「獄寺君なら朝ごはん買いに行ってるからすぐ来ると思うけど……」
「いえ、自分で探して伝えたいのです、とミサカは意気込みを露わにします」
「そ、そう……」
よく分からないが、自分で獄寺を見つけて話したいらしい。歩き出す御坂妹の後ろ姿を見てツナは言い知れぬ不安を覚える。目を離したらまた酷い目に遭ってしまうのではないかと思ってしまう。
そんなツナの気持ちを感じ取ったのか御坂妹はそれを否定する。
「大丈夫。すぐにまた会えます、とミサカはここに宣言します」
御坂妹は振り返らず、猫を抱えていつもの日常のように何でもない風に去って行った。いつか今日の日が何でもない思い出になるぐらい、これから先にも続いていくのだと告げているようにツナは感じた。
****
病院の中庭のベンチにてツナと獄寺は並んで腰掛ける。しかし二人の表情は何とも言えないもので、その視線は間に置いたものに注がれていた。
「10代目……何なんスかね?この街の食い物に飲み物は……」
「……うん。やっぱり変なのばっかり」
病院の売店で適当にパンなどを買った獄寺だが、その商品名からして頭のおかしいものばかりで、比較的まともそうなものを買ってきたものの、一抹の不安を拭えないでいた。
例えばあんぱんなどは練乳、きなこ、黒糖などが混ぜられているらしく、必要以上に糖分を詰め込んだと思われ、正直気持ち悪い。飲み物に関しては『ムサシノ牛乳』なるまともそうなものを買ったが。
「「ハァ……」」
腹は減っているが、食べ物は食欲が失せるものばかりだ。これでまだマシなラインナップなのが困る。
「あ!いたいた!どこ行ってたのよアンタ達!」
「あ、御坂さん」
そうしていると目覚めたら既にいなかった二人を探していたらしい美琴がツナと獄寺を見つけてこちらへやって来た。折角なのでこの街の食べ物はどうなってるんだという質問も兼ねて三人で朝食を摂る事にした。
甘過ぎるあんぱんを三人で並んでモソモソと食べながら中央に座るツナが話を切り出す。
「さっき、妹さんに会ったよ。レベル6の実験、中止になったんだって」
「……うん」
美琴も既にその話は聞いていたようだ。頷きつつも何処か表情は暗い。
「だけど私のせいで沢山の
確かに『実験』は止められた。一万人近くの
美琴が不用意に提供したDNAマップによって二万人もの、殺される為だけの命が生み出された。彼女に落ち度はないだろう。病気で苦しむ人を助けたいだけだったのだから。しかしその事実はこれから一生美琴の背中に重くのしかかる。誰もが美琴を許しても、誰一人彼女を責めなくても、生涯彼女はそれを背負うだろう。
「御坂さんのせいじゃないよ。悪いのはこの街の科学者達だよ。それに……御坂さんがDNAマップを提供しなかったら妹さん達は生まれてくる事もできなかったんだよ?」
「!」
「苦しいとか辛いとか……妹さん達にはまだよく分からないかもしれない。……妹さんは猫が好きでさ、その好きって気持ちも良く分かってないと思う。でもさ、その猫を可愛がったりする事とかだって生まれてこなきゃ絶対にできなかった事なんだ」
「
「あの『実験』は酷い奴らが始めたものだったけど、それを御坂さんが全部背負い込んで責任を感じるってのはちょっと違う気がするんだ。
ツナはあまり言葉で考えての説得が上手い方ではない。自分の感情をそのまま言葉にする傾向が強いし、そもそも言葉よりも死ぬ気での行動で示すタイプだ。しかし今はそれができないので口下手なりに必死に言葉を探す。ある意味今のこれが行動で示すと言えるかもしれない。
「だからその…… 何でもかんでも自分一人でやろうとするっていうのは……違うと思って。一人でできないなら、友達の力を借りれば良いと思うんだ。その考え方はもしかしたら甘えかもしれないけど、とても大事な事だと思う」
「……」
ツナの話を聞き終えた美琴は何か思う所があったのか俯く。ツナに会う前にも美琴を心配してくれる人はいた。しかし自分の起こした厄介事には巻き込めない。そう思って協力を拒絶した。それは間違ってはいないだろう。しかし絶対に正しいとも言えない。何が正しくて何が間違っているのか。美琴のこの行動には答えなんてないのかもしれない。
「えっと、上手く言えないけど……俺達に何かできる事があったらいつでも言って欲しい!俺達は友達の……御坂さんの力になりたいから!」
「……うん。ありがとう」
昨日の夜と比べて頼りない雰囲気で本人が言うようにあまり上手く言えてはいないが、その気持ちは十分に美琴に伝わっていた。だからこそ、美琴は少しだけ寂しそうに微笑み、心から感謝の意を述べた。
ここで黙って話を聞いていた獄寺が昨日からずっと感じていた疑問を述べる。
「……そういや、結局あの胸糞悪い実験の演算をしていた『
「確か7月26日の夜に正体不明の光源体が直撃して大破したらしいけど……詳細は分からなかったわ。学園都市から打ち上がったんじゃないかって話だけどね」
「7月26日……?」
確かその日は
「あっ……」
「どうしました?10代目?」
「あ、いや…なんでもないよ……(超心当たりある…!!)」
あの時、
(まさかあの時のインデックスの魔術がそのツリーダイアグラムってのを壊したんじゃ……!?)
だとすれば色々と不味いのではないか。いや、今回に限っては
(もしかしたら俺と当麻君がイギリス清教に全部の責任を擦りつけられるんじゃ……!?ああもうやっぱり不幸だぁーーーーーー!!)
顔を青くして頭を抱えて膝から崩れ落ちるツナを見て獄寺も美琴も頭上にクエスチョンマークを浮かべながら首を傾げるのだった。
ツリーダイアグラム大破についてはインデックス戦が二日程前倒しになっているので同様に。
ツナは怪我してないし、上条さんじゃないから御坂妹とのラッキースケベはなくてもいいよね。
絶対能力進化計画編は多分次話でラストです。
それに関してちょっとアンケート。
美琴とナッツ、会わせる?
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会わせる
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別に良い
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どーせ怖がるだけ