美琴と別れた後、ツナは一日を通してインデックスを街中駆け回って探したが結果は芳しくなく、見つける事は叶わなかった。
気付けばもう夕方だ。昨日…かどうかは分からないが、並盛中での昼休みに弁当を食べてから今に至るまで何も食べていない。ツナは空腹に耐えながらも街を彷徨い歩く。
「はぁ…何やってんだろ、俺」
「あれ?沢田じゃん」
一人で落胆していると後ろから知っている声が聞こえてきたので振り向けばそこには上条当麻が立っていた。
「あ、上条さん…」
「家族や友達と連絡取れたのか?」
「いや、それがその……」
偶然自分を見つけてくれた上条にツナは朝別れてからの出来事を話した。家族とも友達とも連絡が取れなかった事、インデックスを見失ってしまった事、不良に絡まれて御坂美琴に助けて貰い、今後の方針について提案して貰った事、そしてその提案にインデックスも便乗させて貰う為に再び彼女を探し始めた事。
「……なるほどね。それにしてもあのビリビリと会ったのか」
「ビリビリ?」
「ああ、俺そいつとは知り合いだからさ。良く勝負しろーって突っかかって来るんだよ。俺の右手で電撃が消されるのが気に食わないんだとさ」
(なんだかそれだけじゃない気がする……)
美琴が多少荒っぽい性格をしているのは何となく理解していたが、話が通じる相手だ。本当にそれだけの理由で上条にそこまで喧嘩を売ったりはしないだろう。少なくともツナはそう考える。
しかし考えても結論が出ない事でもあるので、それについて考えるのはやめる。
「まぁそういう事なら仕方ねぇか。それなら暫くうちに泊まったら良いじゃん」
「え?」
「まぁちょっと狭くても良いならだけどな」
上条当麻はツナの置かれた現状を知ると何の躊躇いも無く、自分の家に泊まれば良いと言ったのだ。これには驚きを隠せない。
勿論ツナは上条の家に泊まるのが嫌な訳ではない。むしろ頭を下げて頼み込もうとすら思っていた。不良に襲われたばかりで野宿をする度胸などツナには無いし、そんな中で頼る事が出来る相手は上条だけだった。
しかし困ったら来て良いと言っても一応の線引きはあるはずだ。昨日今日知り合ったばかりの相手を家に泊めるなど抵抗があるのが普通だ。ツナの家はマフィア関連の居候が多数いるが、彼らが家に住み着いたのは大らかで来るもの拒まずな母、奈々の存在が大きい。
だが上条は躊躇わずに泊まったら良いと言ってくれたのだ。部屋の狭さを自嘲するかのようにそれでも良いならという話だが、泊めて貰う立場のツナはそんな事はとやかく言えないし、言う気も無い。むしろ右も左も分からない街の中ではかなりの好条件と言えた。
「あ、ありがとうございます!」
(なんて良い人なんだ!山本のお父さんにだって並ぶんじゃないか!?)
ツナは上条の優しさに感激して、目に涙を浮かべながら礼を言う。
「ははっ。そんなに畏まらなくて良いって」
上条は朝、インデックスを心配して彼女を追ったツナをお人好しと言ったが、彼もまたツナと同じようにかなりのお人好しだった。
「それにインデックスの事なんだけどさ、あいつ…歩く教会だっけ?そのフードを俺の部屋に忘れてったろ?だからあいつもフードを取りに俺の部屋に戻って来るんじゃないかな?」
「あ…そういえば」
「インデックスと合流したら、今後の事について話し合おうぜ。俺もあいつの事は放っておけねぇし、お前の事だってそうだ」
上条は上条で今日一日ずっとツナとインデックスを気にかけてくれていたらしい。とりあえずはインデックスが戻って来る事を期待するのと夕飯の為に上条の部屋へと向かう二人。
八階建てのマンションの七階という中々階段を登るのが面倒な階に位置する上条の部屋。一応この寮にもボロっちいがエレベーターはある。しかし不幸体質な上条がそれを使えば途中でエレベーターが停止して長時間脱出不可能……などの不幸が起こる……事もなく普通に起動した。
そして部屋のある七階に辿り着いた二人は上条の部屋の目の前で電動清掃ロボが複数稼働しているのを発見する。
「ん?清掃ロボット…?」
(あんなロボットが普通にいるなんてやっぱり凄い街だなぁ。モスカみたいなのがいなきゃ良いけど……)
「ったく…人の部屋の前で何掃除してんだ?酔っ払いがゲロ吐いたとかじゃないよな……?」
「あ…」
嫌な想像が上条の脳裏に過ったが、その直後に清掃ロボが取り囲む人影を発見する。ツナもそれに気付いたようで少しだけ嬉しそうな表情を浮かべた。
複数の清掃ロボが取り囲んでいたのは廊下で眠るインデックスだったのだ。やはり上条の予想通りに忘れたフードを取りに来たか、腹を空かせてやって来たかだろう。
「やれやれ……何というか、不幸だ」
そんな事を呟く上条だったが、表情だけでもう世話を焼く気は満々で、それが不幸だとこれっぽっちも思ってなどいない事は超直感など無くてもツナには分かった。
(……やっぱり凄く良い人だ。上条さん)
上条とツナは眠るインデックスの元に歩き、取り敢えず起こそうと話しかける。
「おいインデックス、こんな所で何やってるんだよ?沢田がお前の事心配してずっと探してたんだぞ?」
「こんな所で寝てたら風邪引いちゃうよ?ほら、起きて……」
眠るインデックスの身体を揺さぶって起こそうとする上条とツナ。しかし二人ともインデックスに触れた瞬間にその手に違和感を感じた。生暖かい液体がその手にべっとりと付着した感覚に襲われたのだ。
「……何だよ、これ…!!」
「血……!?」
真っ赤に濡れた自分達の手を見た後、すぐにうつ伏せに倒れるインデックスの姿を確認してみれば背中に大きな切り傷が刻まれ、少なくない量の血が流れ出ていた。
「しっかりしろ!インデックス!!」
(こんな時……お兄さんがいれば……!!)
インデックスの容態を見て上条はとにかく話しかけ、ツナの脳裏には想い人、笹川京子の兄であり、ツナの晴の守護者である笹川了平の存在が浮かぶ。彼の持つ波動、晴属性の死ぬ気の炎の性質、“活性”の力…それも彼の
しかしここに了平はいない。ツナは晴属性の炎は使えない。今インデックスを助ける手段がツナには無かった。
「どうしたんだよ!?一体、どこのどいつにやられたんだ!?お前!!」
上条の叫びに答えたのはツナでもましやてインデックスでもなかった。
「うん?僕達『魔術師』だけど?」
答えたのはいつの間にか二人の後ろに立っていた男だった。煙草を咥え、2mをも超える長身、神父を思わせる漆黒の修道服、赤い髪に、左右十本の指に嵌められた銀の指輪、耳には毒々しいピアス。極め付けは右目の目蓋の下に刻まれたバーコードの刺青。
その男を見た瞬間、上条もツナも息を飲んだ。何もかもが異質だった。神父とも不良とも付かない異質な男を見て理解してしまった。名乗らなくても分かる。
これが……『魔術師』だと。
魔術師の男は背中から血を流して倒れ伏すインデックスを見て呟く。
「うん?うんうんうん、これはまた随分と派手にやっちゃって……神裂が斬ったって話は聞いたけど、まぁ、血の跡がついてないから安心安心とは思ってたんだけどねえ」
魔術師の言動からインデックスは別の場所で斬られて、ここまで逃げて来た。そしてこの場で力尽きてしまった事が分かった。
「なんで…!」
「ここまで戻って来た理由?さあね?忘れ物でもしたんじゃないのかな?」
「「!」」
上条とツナは魔術師の言う忘れ物……『歩く教会』のフードを連想する。魔術師も同じ考えだったのか、二人に問うように話す。
「昨日はフードがあったはずなんだけど、あれってどこで落としたんだろうね?」
二人は悟る。つまり魔術師はフードに残った魔力をサーチしてここに来たのだと。上条が右手で触れていないあのフードには魔力が残っている。だからインデックスは赤の他人である二人をーーー正確には上条を巻き込まない為に危険を冒して戻って来た。
その結果がこれだと。
「……バッカ野郎が…!!」
上条かインデックスに向かってそう言うと同時にツナは怒りを滲ませた瞳で魔術師を睨んだ。
「何でこんな酷い事を……!!」
「うん?うんうんうん、やだなぁ、そんな事を言われても困るんだけどね。ソレを斬ったのは僕じゃないし、神裂だって何も血塗れにするつもりなどなかったんじゃないかな。『歩く教会』は絶対防御として知られているからね。本来ならあれぐらいじゃ傷一つ付かないはずだったのさ。……全く、何の因果でアレが砕けたのか。聖ジョージのドラゴンでも再来しない限り法王級の結界が破られるなんてあり得ないんだけどね」
魔術師の言っている事の殆どはツナには分からなかった。『歩く教会』の事は上条の
「何でだよ…!俺は魔術なんてメルヘン信じらんねぇし、てめーら魔術師みてーな生き物は理解できねぇよ。けど…お前達にだって正義と悪ってもんがあるんだろ!?こんな小さな女の子を寄って集って追い回して、血塗れにして…!!これだけの
「……言いたい事が済んだならどいて欲しいなぁ。ソレ、回収するから」
上条の言葉に眉一つ動かさない魔術師はインデックスを指差し、まるで物を扱うかのように言い切った。
「回…収……?」
「そう。回収だよ、回収」
「い、インデックスを物みたいに!!」
「……正確にはソレの持っている10万3000冊の魔導書だけどね。ああ、注意したまえ。君達程度の人間だったら、一冊でも目を通せば廃人コースは確定だから」
ツナの非難する声にも耳を貸さずにマイペースに話す魔術師。目の前の脅威からインデックスを守るべく上条とツナは立ち塞がる。
「ふざけんな!大体、そんなもんどこにあるってんだ!!」
「そうだよ!本なんて一冊も持ってないじゃないか!追い回す理由なんて…「あるさ。ソレの頭の中に」……!?」
ツナの言葉を遮り、魔術師は語る。10万3000冊の魔導書の正体を。
一度見たものを一瞬で覚え、一字一句を永遠に記憶し続ける能力、完全記憶能力。インデックスは世界各地に封印され、持ち出す事の出来ない魔導書をその目で記憶してその頭の中に保管している生きた魔導書図書館。それがインデックスの言う10万3000冊。
あまりにスケールのデカい話にツナは絶句する。覚えた記憶のせいでその身柄を狙われる。それも恐らく自分の意思ではなく、強制的に覚えさせられたもの。こんな理不尽があって良いはずがない。
「ま、ソレ自身は魔力を練る事ができないから無害なんだけど、その10万3000冊は少々危険なんだ。だから魔術を使える連中に連れ去られる前に……こうして保護しにやって来たって訳さ」
「ほ……ご……?」
「そうだよ。そうさ。保護だよ。保護」
魔術師の言い分にツナは怒りを抱えながら叫ぶ。
「こんなに酷い事をする奴が保護なんて言っても、そんな話信じられる訳ないだろ!?」
「君、頭悪いね。さっきも言っただろう?僕達もそこまでする気は無かったって。『歩く教会』がそんな事になっていたのは僕達にとっても予想外だったんだ。それさえ無事なら結果は違っていた」
今度はツナの言葉に淡々と答えながら魔術師は咥えている煙草を強く吸ってからまた視線をインデックスに向ける。
「……話を戻すけど、ソレにいくら良識と良心があったって、拷問と薬物には耐えられないだろうしねえ。そんな連中に女の子の身柄を預けるなんて考えたら、心が痛むだろう?」
どの口が言っているのか。ツナはそう思った。
そして魔術師の話を黙って聞いていた上条は遂に怒りを抑えられなくなり、拳を握り締めて右手で魔術師に殴りかかった。
「てめえ…!何様だあぁっ!!」
しかしその拳は簡単に躱され、上条の叫びの答えと言わんばかりに魔術師は名乗る。
「ステイル=マグヌス。と名乗りたいところだけど、ここはFortis931と言っておこうかな。日本語では『強者』といったところかな。ま、語源はどうだって良い。魔法名だよ。聞き慣れないかな?」
魔術やそれを扱う魔術師の存在を今日知ったばかりの上条とツナにそんな質問をするのは意地が悪いだろう。だがそんな事はステイルという魔術師には関係ない。
「僕達魔術師って生き物は名前を名乗ってはいけないそうだ。古い因習だから理解できないけど。重要なのは魔法名を名乗り上げた事でね……」
ステイルの視線が上条に向いている間にツナは自分の鞄に手を伸ばし、必要なものを取り出す。流石にコンタクトディスプレイをセットする余裕は無いが。
この魔術師からインデックスを守る。今すべき事はそれだけだ。
「僕達の間ではむしろ……
魔術師の纏う雰囲気が変わった。確かな殺気が込められた雰囲気の中、ステイルは火の点いた煙草を廊下の外……空中へと投げ捨て、詠唱を始める。
ーーー炎よ、
途端に凄まじい熱気と共に巨大な火炎が燃え上がる。その全てがステイルの掲げた右掌に収束し、渦巻、巨大な火球として爛々と輝いている。
((これが……魔術……!!?))
ステイルがそれを上条に向けようとしている事は分かり切っていた。上条は異能の力を打ち消す己の右手に視線を向ける。
この右手が魔術などという得体の知れないものに通用するのか……その答えが出なかった。超能力を消した事は何度もあっても……自分は今日魔術の存在を知ったばかりなのだ。
ーーー巨人に苦痛の贈り物を
考えている間にステイルの炎の魔術が上条を襲い、上条はその火炎に呑み込まれた。
「か、上条さん!!」
「やり過ぎちゃったかな?まあ良い、次は君だ」
ステイルは上条の死を確信したようだが、ツナは違う。上条は死んでなどいない。そう超直感が告げていた。そもそもあの一撃で死んでしまうなら、ツナが先に割り込んで助け出していただろう。
「勝手に殺した気になってんじゃねーよ…!」
「!?」
黒煙の中から響いた声がステイルを驚愕させる。そこから出て来たのは無傷の上条。上条は自分の右手を眺めながら一人納得する。
「そうだよ。何をビビってやがんだ…。インデックスの修道服をぶち壊したのだってこの右手だったじゃねえか……」
「くっ!ならば…!!先に君だ!!」
あの炎を無傷で乗り切った上条を見てステイルは上条をただの能力者ではないと理解した。ならば得体の知れない上条よりも先に本当に大した事なさそうなツナに狙いを定める。
(この学園都市の人間ならば何らかの能力を持っているはず…!組まれたら厄介だ……!!)
さっさと片付けておくに越した事はない。その考えは戦う上では間違ってはいないだろう。だがツナからすればそもそも根底からこの魔術師は間違っている。
ステイルの炎の魔術がツナに向けられる。ツナの真後ろにはインデックスがいるが、それを理解していないステイルではないだろう。インデックス
「沢田!!」
だがステイルも上条も気付いてはいなかった。いつの間にかツナの両手には、27という刺繍が施された毛糸の手袋が嵌められている事に。
「お前達に……これ以上、好き勝手はさせない」
その瞬間、ツナの額に橙色の鮮やかな炎が灯った。ステイルの魔術による炎よりも遥かに鮮やかで美しい炎。
そして毛糸の手袋は赤い鎧のような装飾のグローブへと変化し、ツナがその左手をステイルの放った炎の魔術に向けると……
それを押し返すかのように橙色の……大空属性の死ぬ気の炎が噴出され、炎の魔術と衝突した。
「「!?」」
驚愕するステイルと上条。そんな二人に構う事なく、ツナは炎の出力を上げ、まるで受け止めるかのように死ぬ気の炎が魔術の炎を包み込み、
これこそが大空属性の死ぬ気の炎の持つ性質、“調和”の力。周囲にある物体や地形に同化させる性質。
ツナは剛の炎を右手に纏い、石化した炎を拳で木っ端微塵に砕く。
「な、なんだ……?お前!!何をした!!?」
「何の事だ」
「とぼけるな!!何だその炎は!?僕の炎を打ち消し、石化させた……!?お前は一体何なんだ!?」
「お前に教える必要はない」
ツナの変化に戸惑っているのはステイルだけではない。上条もだ。今日会ったばかりの相手だが、ツナの人柄は短い時間だけで窺い知れた。臆病で優柔不断で……それでいて優しく温かい。
だが今目の前にいる額に炎を灯すツナは違う。それらが失われた訳ではないが、雰囲気がまるで違う。まるで二重人格であるかのようにーーー違う。
「さ、沢田……お前……」
「どうした。インデックスを助けるんだろう。だったら俺達のするべき事は一つだけだ」
「あ、ああ!!」
口調も雰囲気も顔付きも違うが、他者への思いやりは変わっていない。ツナに今自分がやるべき事を示された上条はステイルを睨む。
「何者なんだ…!こいつら……!!」
一人の魔術師は己を挟んで前後に立つ上条当麻と沢田綱吉を見て確かな焦りと脅威を感じていた。
最初は敢えて今回の
武器そのものを過去のスペックにしてXANXUSとの戦いからの成長振りを今一度示したいと思ったので。
けど流石に人の命がかかっている状態でツナが不完全な装備で挑むかと言われたら絶対にあり得ないので結局普通に