嵐の“分解”が組み込まれた
しかし獄寺のその抵抗をオルゲルトは鼻で笑う。
「無駄な事を。ジル様の
「レ、
「そう!ありとあらゆるものを破壊する
嵐の炎が付加された
(シールドが増えている……?雲の“増殖”か!!そしてあのシールドには嵐の“分解”と雨の“鎮静”だけでなく、雷の“硬化”も加わっている……)
SISTEMA C.A.I.の新機能を見抜き、興味深く思うが、それだけの利便性を得たという事は相応の消耗を余儀なくされるという事。
(科学技術によって再現され、嵐の“分解”の力を得た
案の定、獄寺は息が上がっており、防御に回している各属性の炎が弱まりつつある。
「マジかよ……、これの乱射に対応するだけで炎を使い切る勢いだ……!!」
(厄介だな……)
恐らくラジエルの発言はハッタリではない。獄寺の消耗具合からして本当にそれだけの威力があるのだろう。このままでは獄寺はガス欠に陥る。
零地点突破・
となると手は一つだ。マントは通用しなくとも対処法が無いわけではないのだ。ツナは地上を獄寺に任せ、空中を浮遊しながら大空のリングver.Xに炎を注いでナッツを呼び出した。
「アレは!」
「ナッツ!頼む!」
「ガウ!…GURURU……GAOOOOOOOOO!!!」
ナッツの雄叫びで大空の“調和”が浸透する。
「……ボンゴレのボス候補は揃って
あからさまに嫌そうな顔をするラジエル。彼の中でXANXUSの
幻騎士は二本目の剣を抜き、ツナを仕留める為に構える。
「上条当麻と
「当麻君とインデックスがイレギュラー?」
「そうだ。元々は上条当麻に
「……成程な。この妙なタイミングで上条の親が旅行を提案したり、外出許可が出たりしたのはお前らにとってあのウニ頭が邪魔だったからか」
恐らくは同じ理由でインデックスも排除したのだろう。インデックスの存在自体が様々な魔術師達を引き寄せる要因になる。イレギュラーの排除は任務遂行においては当然の処置だ。
だが上条はどういう事だ?異能の力を打ち消すあの右手だけならば幻騎士達にとって大した脅威にならないはずだ。
(もしかして、死ぬ気の炎は当麻君の右手で消せないけど、その性質は消せるって事か?例えば霧の“構築”……幻覚は当麻君の右手で消せる…!?)
もしこの仮説が正しいとすれば上条は対能力者、対魔術師だけでなく、対術士としても強力なジョーカーになり得るという事になる。幻騎士が上条を邪魔だと思うのも当然なのかもしれないが……。
(いや待てよ?幻騎士のあの口振り……当麻君と
確かに異能を打ち消す上条の右手があればあれだけ打たれ弱い
いや、それ以上に気になったのは……
「幻騎士、お前…
口ではジッリョネロや白蘭への憎しみを語るが、あの悍ましい『実験』を知ってて放置する辺り、結局奴も同じようなものではないか。いや、確かに幻騎士は別の人物に忠誠を誓えば自分のファミリーを当たり前のように裏切る最底辺の悪党だ。当然
信じていた者に最悪の形で裏切られる心の痛みを。
「それなのに……御坂さんも
「幻騎士だけではない。我々も貴様と
「何だと……!!」
ツナの反応を面白がるグロ・キシニアはニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら
「一番笑えたのはあんな打撃を数発食らった程度で昏倒し、痛みに喚く
「お前……!!」
「……下衆野郎が」
あの『実験』で苦しんでいた美琴の事も見ていたらしいグロ・キシニアは興奮を隠そうともせずに悦に浸る。そんなグロ・キシニアにツナと獄寺は強い怒りと嫌悪感を抱く。
「オイオイ、余所見してる暇あんのかぁ!?」
ラジエルの叫びと共に嵐の炎と
そして話に気を取られていた獄寺はシールドでの防御を取り零してしまい、咄嗟にそれを躱して転倒する。
「隙を見せたな、嵐の守護者」
敵はそれを見逃さない。オルゲルトは匣兵器に炎を注入してガラ空きになった獄寺を仕留めにかかる。
匣兵器から出て来たのは
「
「しまっ……!!」
「獄寺君!」
「させん」
獄寺を助けようとするツナの前に幻騎士が立ち塞がり、行手を阻む。捕縛というからには殺されはせずとも、あの攻撃では足を潰されるなどの重傷を負う事は間違いない。
間に合わない。そう思った時、彼は現れた。
「繁吹き雨」
回転するかのように巻き上げられた雨の炎が同じ雨属性の象の脚による一撃を防いだ。
いや、それどころか同じ雨属性でありながらオルゲルトのそれより遥かに純度の高い炎故に象の巨体を後方へと大きく押し退けてみせた。
「何っ!?」
「やっぱり来やがったか……」
怠そうに呟くラジエル。一方でツナと獄寺は雨の炎を纏ったこの太刀筋を見て希望を見出す。
「これって……」
「時雨蒼燕流、守式七の型……!!」
「間に合ったみてーだな。ツナ、獄寺」
獄寺と
「助けに来たは良いけど、いきなり訳分かんねーとこに飛ばされたから遅くなっちまった」
彼を見て幻騎士の表情が心底忌々しそうなものになる。
「あ、これ言わなきゃな」
野球のバットを肩にかけるように刀……時雨金時の峰を肩にかけ、朗らかに笑いながら彼はお決まりの台詞を高らかに叫ぶ。
「助っ人とーじょーっ!」
ボンゴレ10代目雨の守護者にしてツナ達の親友の一人、山本武。
友を救う為、世界を越えてここに今、推参した。その事実にツナは歓喜の感情を全開に彼の名を叫ぶ。
「山本!」
「テメ…来てたんなら連絡しやがれ!」
「ん?いやだって異世界でケータイ使えんのか?」
相変わらずの天然振りだがそんな山本を見てこんな状況でもツナはホッとしてしまう。
山本なら何とかしてくれる。そう思わせてくれるのだ。ツナは山本の登場で動きを止めた幻騎士の目を盗んで二人の元に飛んで行く。
「ケッ、来るのがおせーんだよ野球バカ。ま、助かったけどよ」
「ははっ、悪りぃ悪りぃ。けど霧の炎を感じたから、もしかしたら幻騎士じゃねーかと思ったらお前らもいて一石二鳥ってな!」
獄寺は山本の発言内容に引っかかる点を覚える。
「……おい山本、その口振りからすると幻騎士が敵だと分かってたのか?」
そう。山本はここに幻騎士がいる事に驚かず、それどころか既に彼との戦いを想定していたかのような言い回しをしている。そして山本自身、それを誤魔化す気はない。
「……ん。ま、それは後で話す。多分ここでこいつらを倒すだけじゃ終わりそうにねーからな」
確かに山本の言う通り、話は後回しにするべきだろう。山本が駆け付けたとはいえ、目の前に敵がいる事には変わりないのだ。
逆に敵陣営には山本の突然の登場に驚く者が一人だけいた。
「馬鹿な……!ここまで接近していたのに奴の炎圧に気付けないはずが……!!」
「馬鹿は貴様だオルゲルト。奴と貴様、そして私は同じ雨属性。奴は貴様がリングの炎を出したのと同じタイミングで刀に炎を纏わせたのだ。同じ雨属性の炎圧を隠れ蓑にしてな」
グロ・キシニアは七の型発動まで誰も山本の接近に気付けなかった理由を一早く見抜き、それを見抜けず、みすみすそのきっかけすら作ったオルゲルトを嘲笑する。ラジエルも同じ結論に至っていたのか、説明されるまで何も察していなかったオルゲルトに対して笑いを堪え切れないでいる。
そんな敵方を気にもせずに山本の視線は先程からだんまりを決め込んでいた幻騎士へと向いていた。
「で、いきなりで悪りーんだけどさ、
「山本……」
「ま、テメーはそいつと戦りてーよな」
未来でのメローネ基地での戦い以来、山本は幻騎士に強い対抗心を抱いていた。己の未熟さ故に敗北し、時雨蒼燕流の名に傷を付けてしまった事から、剣士として、幻騎士は負けられない相手となったのだ。
続いて同じく未来でのチョイスでは見事にリベンジを果たしたが、それで因縁の全てが消えたわけではない。
「一勝一敗……三度目の正直といこーぜ、幻騎士」
「……お前が戦った俺は、俺であって俺ではない。故にこの『俺』には無関係だがな」
時雨金時の切っ先を空中浮遊する幻騎士へ向けて宣戦布告する山本は己の首に下げた犬と燕のネックレスに炎を注ぐ。
これが山本の
「次郎、小次郎。
山本の服装が武士らしい袴の和装へと変わり、両手にはそれぞれ柄に燕と犬の像が造形された刀が備わる二刀流となる。
「先に言っておく。俺はあくまでお前達三人を纏めて相手するつもりで戦う。お前が俺一人に集中するのは勝手だが、俺がお前と
「オイオイ、そりゃいくら何でも舐めすぎじゃねーか?ま、すぐにそんな余裕はなくなると思うけどな」
そのやり取りを見てツナと獄寺はラジエル達に視線を向ける。幻騎士打倒は山本に任せる事にした。
ツナと獄寺はあくまでタッグを組んで戦う。奴らからすれば各個撃破が理想的だろう。ラジエルとオルゲルトが組み、先程の要領で獄寺を仕留め、グロ・キシニアがその間個人でツナを抑えるという形が望ましいはずだ。だからこそタッグを維持すれば三対二でも勝機を見出せる。
ツナと獄寺は前衛後衛に分かれながらラジエル、オルゲルト、グロ・キシニアの三人と対峙し、山本は幻騎士にタイマン勝負を挑む。
両陣営、睨み合う膠着状態が続く。
徐ろにスッ…とツナが左腕を上げた。次の瞬間には掌から死ぬ気の炎を圧縮した弾丸を放ち、空を撃ち抜いた。
確かな衝撃と共に空を覆っていた幻覚を吹き飛ばし、霧の炎が散り、ツナの炎に撃ち抜かれた
「気付いていたか」
「ま、超直感のあるボンゴレだしな」
幻騎士の幻覚で隠した
そして
「「「行くぜ!!」」」
****
山本は宣言通り幻騎士に向かっていく。しかし幻騎士もまた宣言通り三人同時に相手取るつもりなのか、まずは幻覚で己の姿を眩ませた。
だが問題はない。山本には幻騎士打倒の為の対幻覚奥義がある。
「時雨蒼燕流、特式十二の型・左太刀」
犬の次郎が変化した左手の打刀を握り、幻騎士が消えた地点へと斬撃を飛ばす。
「霧雨」
今の斬撃は幻騎士を斬る為のものではない。犬の嗅覚で彼を嗅ぐ為の太刀筋。太刀の通った空間を刀に変化した次郎が匂いで完璧に把握する。幻覚で身を潜める幻騎士の本当の位置もこれで見抜く事ができる。
そうなれば今度は燕の小次郎の出番だ。右手で握る打刀を手に山本は構える。
「特式十二の型・右太刀」
山本の足元から膨大な炎圧の雨の炎が噴き出てその先端部分が何羽もの燕の型を創り出す。そして山本の周囲で殺気と斬撃のイメージの通りに舞う。
「斬雨」
一瞬で山本は幻覚で隠れていた幻騎士との距離を詰めた。
燕を象る雨の炎が山本の太刀筋に
だが幻騎士はそんな急襲にも即座に対応してみせた。両手に持つ二本の剣に霧の炎を流し、山本の燕型の斬撃を全てその刃で正確に受け止め、的確に弾き、完璧に受け流す。そしてお返しと言わんばかりに最後の突きを右手の剣で弾いた直後に左手の剣を振り上げてカウンターを仕掛ける。
凄まじい動体視力と剣技と言えるだろう。山本もそのカウンターの剣を左手の刀で弾いて後ろへ飛び退いた。
「マジか…。結構自信あったんだけどな、この特式……」
「それが対幻覚用の奥義か……。かの
「そんな事まで知ってんのか……」
敵の情報収集能力にも驚くがそれ以上に山本は現代の幻騎士の実力に驚愕していた。
幻騎士に関してはラジエルのように新たな武器を得たわけではない。山本のように新技を披露してもいない。
幻騎士はただ単純に“強く”なっている。術士としての技量は
(やっぱ強えな。そうこなくちゃよ!)
悔しくはあるがそれ以上に嬉しく思う。剣士としてライバル視している相手に新技が簡単に通用してしまうのも拍子抜けなのだから。
その一方でそれだけの成長を遂げた幻騎士もまた、予想を遥かに超える山本の実力を評価し、舌を巻いていた。
(幻覚と本物を嗅ぎ分ける……か。思ったよりも厄介だな。だがそれでも俺の勝利は揺るがん)
その上で己の勝利を確信する。
「山本武、俺はまだ残り二本の剣を抜いていないぞ」
「なら、抜かせてやるぜ!」
一方でツナと獄寺のタッグもラジエル、グロ・キシニア、オルゲルトを打ち破るべく、連携して仕掛ける。
「まずはその邪魔くせーのから片付けてやる!!」
獄寺は身体中に巻き付けていたダイナマイトを取り出し、次々とパイプ型の着火装置で導火線に嵐の炎を着火させてばら撒く。
「ロケットボムver.X!!!」
ラジエルの
「させんぞ」
それをグロ・キシニアの声と共に先程の触手が地面から這い出て阻む。雨の炎を纏いながらロケットボムを叩き落とし、嵐の炎を“鎮静”させ、威力と数を減らしていく。
「またその触手か!!」
「それも学園都市の新型匣兵器か!?」
「いいや、確かに多少の強化はしたがこれは元々私が持っていたものだ」
無数のダイナマイトに対応する為か、コンクリートの地面を内側から砕き、触手の主ーーー巨大なイカが這い出て来た。
「イ、イカ!?」
「デカ過ぎんだろ!?ハッ!?まさかUMAの一種……クラーケンか!?」
「その通りだ!と言っても普通のイカの遺伝子を元にミルフィオーレの科学力で巨大化させただけだがな!!」
「くそっ!」
「……試運転もそこそこ上手くいったし、正統王子はしばらく高みの見物といきますか。ししっ♪」
グロ・キシニアに苦戦するツナと獄寺を玉座から見下ろすラジエル。目的はあくまで捕縛である為、
しかしだからと言って安心はできない。
「俺は三人同時に相手取る。そう言ったはずだ」
山本と相対していた幻騎士の姿が複数に増え、その内四人が獄寺とツナを取り囲む。四人の幻騎士は一斉に剣を振るい、霧属性の斬撃を飛ばして来た。斬撃は獄寺のシールドの守りを潜り抜けて迫る。
それをツナが獄寺を庇いながら
「そこだ!
久々に使われた嵐の火炎放射は幻覚の分身達とは別方向に向かって放たれた。そこに本物の幻騎士がいたからだ。
「お前の相手は俺だぜ!」
「それはお前が決める事ではない」
山本が幻騎士を抑え、再びツナがラジエル達に迫ろうとし、獄寺はダイナマイトを使ってツナを援護する。やはり攻撃の核である獄寺の消耗故に攻め切れないでいる。
グロ・キシニアはそんな獄寺を分析する。先程獄寺は幻覚の看破は苦手だと言っていた。なのに幻騎士の位置を見抜いた。となると強化したというSISTEMA C.A.I.の方に秘密があるはずだ。
(恐らくはあの眼鏡型ディスプレイには
「どうやら時間の問題のようだな…… ぬうっ!?」
余裕をこいていたオルゲルトは横面に小さな爆発を喰らい、彼は真横に吹き飛ばされる。爆発の規模の割に彼が受けたダメージは思いの外大きく、ドクドクと血を流している。
オルゲルトが喰らったのは当然獄寺の嵐の炎によるダイナマイト。しかしそれはただのボムではなく、通常のものよりも小さなサイズのチビボムであり、本来ならば遠近法のトリックを駆使して相手に命中させる為のもの。それをロケットボムと連携させて不意打ちとして喰らわせたのだ。追尾機能に加え、ミニサイズ故に視界に上手く捉えられないのが強みだろう。
「い、今のは……」
「新しく作ったチビロケットボムだ。まずはテメーが果てな!
「フン!不意打ちを喰らえど、そんなものでやられる私ではない!!」
獄寺の連続攻撃に対してオルゲルトは冷静さを失う事なく匣兵器を開匣。出て来た匣アニマルが雨の炎による防御を展開する。
「
オルゲルトの
「フ……ジル様の新匣兵器に相当絞られたようだな」
「馬鹿オルゲルト!後ろだ!!」
「ぬっ!?」
「はあああっ!!」
「ぐあああああああっ!!?」
墜落と同時に砂煙が舞い、風に吹かれて砂煙が晴れれば砕かれたコンクリートの上で瓦礫に埋もれながら白目を剥いて仰向けに倒れるオルゲルトの姿が見えた。
ラジエルはまんまと油断してやられたオルゲルトに悪態を吐く。
「クソッ!役に立たねーなぁ!簡単にノックアウトされやがって!!」
一方で獄寺と連携してオルゲルトを倒したツナはラジエルとグロ・キシニアに向かって告げる。
「まずは一人目だ」