インパクトが足りないのだろうか?
「まずは一人」
オルゲルトを気絶させたツナはラジエルとグロ・キシニアを見据える。
「……愚鈍な奴とは思っていたがあんな単純な方法で気を取られて不意を突かれるとはとことん見下げ果てた男だ」
「未来でも結構抜けてたからなー。こんなんで良く王家の執事になれたモンだぜ」
ラジエル、グロ・キシニア共にオルゲルトをフォローするような発言はしない。これが二人の本音という事だ。本当に人数合わせ……この街の使えない能力者達よりはマシ程度の認識で戦力に加えたに過ぎなかった。
「……嵐の炎と
「やはりメインは私と幻騎士でやるべきか。しかし超直感を持つボンゴレ相手に幻覚での撹乱は無意味だな」
殺傷力が高過ぎるラジエルの匣兵器ではなく、“鎮静”とイカ足による拘束に特化したグロ・キシニアの
「渦転斬!!」
山本がネオ・ボンゴレリングを使って開匣した匣兵器から雨の炎を動力源とする水のバリアが出現し、獄寺のシールドが間に合わないであろう幻騎士の斬撃をカバーする。これは以前、未来に行った時に10年後の山本が使用していた匣兵器だ。
(やべーな。あのコウモリの技で獄寺の炎がほとんどガス欠になってる……。このままじゃ俺とツナも数で押し切られちまう……)
(あの男を倒した事で警戒して距離を取ってくれれば、その隙に一度撤退して隠れる事もできると思ったが……)
山本もツナもこの場で全員倒せるとはもう思っていなかった。獄寺が消耗した状態から二人だけで戦っても幻騎士の幻覚やラジエルの
(クソッ!!俺が10代目と野球バカの足を引っ張っちまってる……!!常に攻撃の核となり、休む事のない怒涛の嵐になる事が嵐の守護者としての俺の使命だってのに……!!)
本人が考えるように、獄寺が嵐の守護者としての使命、攻撃の核となれない現状では勝ち目は無いに等しい。あの三人を相手にツナと山本だけでは決定打だけあってもそれを確実に決められるだけの工程を生み出せないのだ。
(いや、炎がガス欠でも俺にはボムがある!!これを上手く使えばまだやれる事はいくらでもあるはずだ!!)
獄寺の武器はダイナマイトやSISTEMA C.A.I.以上にそれらの戦略性の高い武器を上手く活用し、戦闘を組み立てるその頭脳にある。本人が考えるようにダイナマイト単体でもできる事はいくらでもある。むしろヴァリアーとの戦いまではそうやって戦っていたのだから。
消耗具合とて死ぬ気の炎が全く使えないほどではない。確実に命中させられる一撃となるダイナマイトのみに死ぬ気の炎を点火すればいい。
いくつかのパターンでダイナマイトを使った戦法を考えているとそんな獄寺にグロ・キシニアが視線を向ける。
「先に潰しておくか」
たった一言。その一言で全員の視線が獄寺に向く。
「!!」
「獄寺君!!」
(ビンゴ!ビンゴ!ビーンゴ!!消耗した嵐の守護者を狙えば必ずボンゴレ
消耗して足を引っ張る要素である獄寺を今排除する必要はそこまでない。むしろ中途半端に動ける方が
タイミングと距離を計算して攻撃する事でツナに
獄寺をその地点から連れ出す為に彼の前に迫り、その身を掴む。その一瞬の隙がグロ・キシニアの狙い。一瞬だけ無防備になるその背中を狙って叩き潰す。それが分かっていても獄寺を助ける以外の選択肢はツナには無い。
(厄介な超直感もこれなら意味ねーし、この一撃で沢田を封殺できるってわけか……。やっぱオルゲルトのバカとは頭の出来が違うな……)
「10代目!!」
「ツナーー!!」
焦る獄寺と山本の叫びがグロ・キシニアには心地良い。
次の瞬間、
「……は?」
「あぁん!?」
呆然とするグロ・キシニアと顔を歪めるラジエル。ツナもイカ足の直撃は覚悟していたのか、身体を強張らせていたが、
「……すいません、10代目」
「気にするな。それよりもアレは……」
「……幻覚か?それも実体がある」
「「!!」」
真っ先にそれが幻覚だとアタリを付けたのはやはり同じ術士である幻騎士だった。続いてグロ・キシニアもそれに納得し、同時に結論付ける。この自分をも騙せる術士など敵方にはたった一人しかいるまい……と。
「このレベルの幻覚……いや、有幻覚。……遂に来たか」
ビキビキと目の端が嫌な音を鳴らす。その瞳には強い憎しみが宿っており、その姿を現す時を今か今かと待ち構えている。今こそ報復の時だ。
そしてグロ・キシニアはその怨敵の名を呼ぶ。
「六道骸!!!」
霧属性の炎圧を感知した方向へと目を向ける。幻騎士の出す霧の炎との識別は済んでいる。
いつの間にか周囲に漂っていた藍色の霧が晴れ、
「
否定の声はイタリア語で囁かれた。
「
初めて出会ったあの日もまた、彼女は六道骸と間違えられ、それをイタリア語で否定しながらツナ達の前に現れた。同じ髪型をして右目に眼帯を着けた女術士。
「
クローム髑髏。ツナの霧の守護者代理であり、黒曜の一員でもあるファミリーの中でも少々特殊な立場にある少女。しかし彼女はツナの仲間だと断言できる。それだけの信頼に足る時間を共に過ごし、笑い合ってきたのだ。
「クローム!」
「お前も来たのか!」
「頼もしい援軍が来たのな!」
ツナも獄寺も山本も三者三様にクロームの登場に驚くものの、それ以上に頼もしく思っていた。
一方、グロ・キシニアはクロームが現れた事にある意味ツナ達以上に驚愕していた。あの有幻覚をクロームが作り出したという事実に。
あのレベルの有幻覚は六道骸クラスでなければあり得ないと思い込んでいたのだ。
(骸ではなくクロームだと!?)
無意識に女性を見下す傾向があるグロ・キシニアは未来の記憶を受け取っていてもクロームを過小評価していたのだ。それに加えて高度な幻覚を作り出すのであればそれは六道骸の仕業だと思い込む程度には未来での有幻覚を駆使した骸の戦法に強い影響を受けていた。
だが実際にはクロームの幻術が
(馬鹿な…!クローム如きが幻覚でこの私を騙しただと……!?)
しかしグロ・キシニアは本質を理解していない。未来において、彼はあくまでクロームに敗れたのだ。骸によるお膳立ては確かにあった。しかし、その結果を掴んだのは紛れもなくクロームの幻術なのだ。
女性を見下す彼はそこに気付かない。あくまでも骸ありきの敗北だと……いや、己は骸に負けたのだと思い込む。
「クローム髑髏……!!」
右目の端がビギビキと音を立て、クロームを凝視するグロ・キシニア。客観的に見てもハッキリ言って気持ち悪い。クロームもまた、正直彼の顔はもう見たくなかったようで、少しその視線に困っていた。
しかしグロ・キシニアは冷静になるのが早い。すぐに思考を切り替えて目の前のクロームに集中する。
「……正直言って骸に雪辱を晴らすつもりだったのだがな……。まぁ良い。お前をズタボロにしてひん剥いてから骸を倒すのもまた一興だ」
「誰だろうと、負けない……!!」
相変わらずの下衆振りに特にコメントする事もなく、その手に握る槍を構えるクローム。グロ・キシニアの視線は槍を握る右手の二本の指に向けられる。
クロームの右手の中指にはツナ、獄寺、山本と並ぶ霧のネオ・ボンゴレリングが嵌められていた。霧の
そしてもう一方の人差し指には銀色のフクロウを象ったリングが嵌められていた。
クロームは彼の視線を意に介さずに人差し指のリングに霧の炎を注いだ。
「ムクロウ!」
真っ先に結論を出したのは獄寺だった。
(ボンゴレ匣……いや、アニマルリングの
そしてクロームの
何にせよ、クロームの参戦によって形勢逆転と言っても過言ではない。彼女の幻術とヴェルデの装置をフル活用して連携を取れば勝機は十分に見出せる。それこそ炎を消耗した獄寺でも戦力になれる。
ボンゴレ側の士気が上がったその瞬間、幻騎士が口を開く。
「退くぞ」
幻騎士の口から告げられたのは撤退の意。その方針に対して気に入らなそうにラジエルは顔を顰める。
「あ?」
「流石にこれ以上続ければ任務の達成は不可能になる。確実に最低一人は殺してしまうからな。生きて捕らえるには一度態勢を立て直す必要がある」
獄寺隼人だけを徹底して消耗させ過ぎた。ツナと山本はまだまだ余力を残しており、クロームも今来たばかりで万全と言える。ボンゴレ側の消耗バランスがチグハグなのだ。
攻撃としてはツナの火力と高速移動、山本の対幻覚用奥義。隠蔽、撹乱としてクロームの幻覚。しかし防御は獄寺のSISTEMA C.A.I.が上手く機能しない以上、クロームの幻覚で姿を隠された状態では幻騎士以外迂闊に攻撃ができなくなる。他二人が勢い余って加減できずに獄寺辺りを仕留めてしまうかもしれない。
「……あー、あくまで捕縛だからなぁ。ダリーなもう」
相手を殺す分には申し分ないが、生け捕りにする場合、威力が高過ぎるのが難点か。こんな事態を招く事もある。
「……チッ!」
ラジエルもグロ・キシニアもそれを理解して取り敢えずは幻騎士の判断に賛成するようだ。グロ・キシニアは非常に不本意そうだが。
「……そういう事だボンゴレ。時を改めて次こそ捕らえる」
「く……!」
深追いはできない。向こうが自分達を殺すわけにはいかないにしてもここで勝利を優先して獄寺に無理を強いるような事はツナにはできない。
幻騎士が真っ白で濃厚な霧そのものの幻覚を作り出す。浮遊して後ろへと下がっていく幻騎士達6弔花の姿はそれに呑み込まれていくかのように霧の中へと消えていった。
6弔花が姿を消し、気配も消えて炎圧も感じ取れない。それはつまり完全に撤退して行った事を示す。
しかしそれはツナ達が奴等を撃退した……とは口が裂けても言えなかった。
「……ちっくしょー」
消え入りそうな声で悔しがる山本の呟きが他の誰かに聞かれる事はなかった。
****
「すいません10代目!俺があんなヘンテコな光線に後れを取ったばかりに消耗して、足を引っ張り10代目を危険にさらしてしまい!!」
「い、いや獄寺君のせいじゃないよ!むしろあのビームを獄寺君が防いでくれたから何とか戦えたんだし……!!」
いつもの如く己の失態を恥じてツナに土下座する獄寺とそれをやめさせようと慌てるツナ。そのいつも通り過ぎる光景を見て山本は笑い、クロームはどうして良いか分からずにモジモジする。
その後、気絶したオルゲルトの姿もなく、幻騎士達が上手く彼を回収して行ったのがすぐに分かった。
6弔花と戦った現場にいつまでもいては気が休まらない事もあり、ツナ達はすぐに移動した。幸い幻騎士の幻覚はそこまで広範囲に広げられてはおらず、時間もかかる事なく人通りの多い場所に出た。
それからツナ達は御坂美琴が良く自販機を蹴ると思われる公園に場所を移した。周囲には適度に人がいるのですぐに6弔花や学園都市上層部から狙われる事もないだろう。……少なくとも6弔花は獄寺が回復するまでは手出しはしないと思いたいが。
「それにしても山本もクロームも久しぶりだね!助けに来てくれて嬉しいよ!ありがとう!」
「ハハッ♪ま、ダチなら当然だ!」
「……私も。ボスもみんなも……友達、だから……」
クロームは自分で言ってて照れたのか、元々赤面しやすい顔を赤くさせる。しかし目を逸らす事なくしっかりとツナの目を見ている分、彼女が本当にツナ達に心を許しているのが読み取れる。
獄寺はその辺で適当に買ったペットボトルのお茶を飲み干した後、先程挙げられた疑問をぶつける。
「それで山本、なんでお前は幻騎士が敵って事を知ってたんだ?……俺が学園都市に行った後、何があった?」
「……それは」
『山本、クローム。そこからは俺が話す』
ややエコーのかかった可愛らしい声がツナの耳元から響いた。ツナが戦闘時に使用するヘッドホンからだ。
直後ヘッドホンから光が照射され、あるホログラムが四人の前に投影された。その正体は当然ツナの家庭教師を務める世界最強の殺し屋である赤ん坊。
「リボーン!?」
そう、ツナの持つX BURNER用のヘッドホンに通信が入り、上条と共に魔術師と戦った時と同様にリボーンのホログラムが投影されたのだ。
それ以降も何度かリボーンと連絡を取ってはいたが、やはり敵との戦いがある中、この赤ん坊の姿があれば安心感が段違いと言えるだろう。しかし周囲の人の目があるので慌てて物陰に隠れて話す。
『ちゃおっス!大分苦戦したみてーだなツナ。幻騎士達も未来の記憶と経験を受け取ってるとはいえ、相当にパワーアップしてやがるな。山本、お前から見てもそうだったか?』
「ああ。やっぱアイツ強ぇよ。ま、だからこそ勝ちてーんだけどよ」
「何呑気に山本に感想聞いてんだよ!?あの幻騎士だぞ!?ミルフィオーレ最強の剣士だぞ!?また敵になっちゃったんだぞ!?それに今のアイツ絶対トリカブトより強いよ!!」
呑気に見えるリボーンに文句を言いつつも何気に幻騎士の実力をしっかり測れているツナ。しかし今把握すべきは幻騎士の実力ではなく、リボーン達が知っている情報だ。
「それでリボーンさん、話というのは……」
『獄寺が学園都市に行った後、並盛町に一度幻騎士が現れたんだ。つっても俺と山本は直接会ったわけじゃねーがな』
恐らくは幻騎士は敢えてリボーンと山本には接触しなかったのだとリボーンは推測する。リボーンは単純に幻騎士では勝てないから。山本に関してはその時点で挑まれるのは時間を割くのが面倒だった為。
「で、でも何の為に並盛に行ったんだろ……?あの匣兵器で俺達をこの世界に呼んだって事は、アレを俺の鞄に仕込んだのは幻騎士って事?」
『さぁな。それは分からねー。少なくともあいつが見つかった時はあの匣兵器を誰かに届ける目的じゃねーみてーだったがな』
「そ、そうなの?」
『ああ。その時は了平と紅葉、炎真、クローム、そして雲雀が奴を倒しにかかったが奴もあの転移する匣兵器を持っていた事もあって逃げられたんだ。……最悪の形でな』
「最悪の形……?」
「ボス……それは……」
クロームは顔を俯かせて暗くしている。その目には強い自責の念が宿っており、辛そうだ。山本もまた、拳を握りしめて震わせている。強い怒りを感じ取れる。
一方で俯き、帽子で目元を隠してギリリ…と歯軋りをするリボーン。彼のこの様子からして相当に腑が煮えくり返っているようだ。
『いいかツナ、落ち着いて聞けよ』
リボーンは告げる。告げなくてはならない。
ツナにとって絶望に等しい残酷な事実を。あの未来での一件から固く決めていた事をぶち壊して台無しにした幻騎士の絶対に許されざる悪行を。
何が何でも彼女達を助け出す為にも。
『京子とハルが幻騎士に捕まり、お前達のいる学園都市へと連れ去られたんだ』
はんたーさんからファンアートを頂きました。私は全然絵心がないので素直にすげえと思いました。特に気に入ったのはツナと上条さんがメインで肩並べてるところですね。後は背景で黒幕感漂う幻騎士とか。
はんたーさん、どうもありがとうございます!!
【挿絵表示】