とある魔術のボンゴレX世   作:メンマ46号

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前回の投稿からのお気に入り登録の勢いが凄え。高評価も多い。
改めてハイパーツナの人気を思い知りました。


右手の一撃来る!

「ちっ…!」

 

 ステイルの舌打ちが炎の燃え盛る音に掻き消される。そんなステイルの焦りなど知った事ではないとばかりにツナと上条はステイルを倒すべくそれぞれ死ぬ気の炎を纏う両手と幻想殺し(イマジンブレイカー)を宿す右手を構える。

 そしてステイルは上条の右手を注視する。先程炎から無傷で生還した上条とその本人の言葉から真相を暴いたのだ。

 

「……やっと分かったよ。『歩く教会』が誰に破壊されたのか」

 

 あの右手には魔術を打ち消す力がある。故に防御結界の『歩く教会』も破壊されてしまったのだと。

 

(……だが、より得体が知れないのはこっちだ)

 

 ステイルは上条からツナへと視線を移す。戦う力など微塵も感じさせなかった先程と違い、鎧のようなグローブを身に付け、額に炎を灯すその顔は驚く程に凛々しい。明らかに戦い慣れしている。

 ツナは右手の掌をステイルに向け、左手で右腕を固定するように掴み、右の掌から死ぬ気の炎の塊を撃ち出す。

 

「ちっ!考える暇も与えてはくれないか!!」

 

 ステイルはその掌に留めていた魔術の炎をツナの放った死ぬ気の炎の塊にぶつける。

 正面衝突する炎と炎。しかしツナの死ぬ気の炎の勢いとパワーはステイルの魔術による炎を軽く凌駕しており、5秒にも満たない時間で死ぬ気の炎の弾丸は魔術の炎を突き破り、ステイルへと迫る。

 

「ぐっ!!」

 

 威力を増強した新たな炎を呼び出し、盾とする事で死ぬ気の炎を防ぎにかかるステイル。しかし目の前の脅威に付きっ切りになれば背後の脅威が動く。

 

「おおおっ!!」

 

「…っ!君の相手をしている余裕など無いんだがね!!」

 

 背後から幻想殺し(イマジンブレイカー)を宿した右手で殴りかかって来た上条に応対すべく、右手で魔術を放出しながら左手で上条の拳を捌く。直接触れてしまえば死ぬ気の炎を防いでいる魔術まで消えかねない事を理解しているが故に上条の右手首を掴む。

 しかし次の瞬間、大空の七属性の中でも随一の推進力を持つ大空属性の炎で高速移動したツナの膝蹴りを横面にモロに喰らい、ステイルは階段の設置してある廊下の端まで吹っ飛ばされた。

 

「があっ…!!?」

 

 これがツナの狙い。敢えて()()()()()炎の弾丸でステイルを足止めし、その隙を上条に突かせ、ステイルの気が逸れた瞬間に飛び蹴りを叩き込んで後方へ吹っ飛ばす。

 (ハイパー)死ぬ気モードとなったツナならば死ぬ気の炎でステイルの魔術を正面からぶち破って倒す事も可能だ。だがそれをすればこのマンションの被害も大きく、何より上条を巻き添えにしてしまう可能性も高い。だからこの位置関係を修正する必要があった。

 

 上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)による盾とツナの死ぬ気の炎による矛。これらが揃い、並び立てば余計な被害を出す事なく、目の前の敵を鎮圧出来る。ツナはそう考えた。

 

「……ははっ、沢田……お前、凄いな」

 

「それは後にしてくれ。奴はまだ戦える」

 

 ツナの戦闘能力に戦慄する上条だったが、ツナはステイルから目を離さない。出来れば今の蹴りで気絶して欲しかったが、曲がりなりにも魔術師というのは精神力がそこらのチンピラマフィアとは訳が違うようだ。

 それにツナと上条はあくまでインデックスを守り抜く事が勝利条件。敵を殺せば良いステイルとは違うのだ。

 一方ステイルもツナを見る目が先程とは明確に変わっていた。少しでも気が緩んでいれば今頃自分は気を失い、最悪の場合は殺されていたという嫌な確信があった。

 

(間違いない…!優先して殺すべきなのはあいつの方だ!!)

 

 最初は魔術を無効化し、『歩く教会』まで破壊してしまう上条と得体の知れないツナで先にどちらを始末すべきかステイルは迷っていた。しかし今の攻防で確信する。どう考えても額に炎を灯すこいつの方が圧倒的に脅威だと。

 

 故に決意する。全力を以ってあの二人を消し去ると。幸い二人して甘い性格をしているようだ。あの右手と炎の力で10万3000冊は守り抜いた上で死んでくれるだろう。

 

「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ、それは生命を育む恵の光にして邪悪を罰する裁きの光なり」

 

 蹴られた痛みに耐えながら詠唱を始めたステイルにツナと上条は警戒を高める。いっそ詠唱を言い終える前に炎を飛ばすなり、高速移動で炎を纏ったパンチを繰り出すなりして阻止しようかとも思ったが、ステイルがツナを得体が知れないと考えるのと同様にツナからしてもステイルの扱う魔術は得体が知れなかった。詠唱を途中で邪魔をすれば不発で収まるのか、魔術師でさえ予想外な暴発をしてしまうのか……超直感を以ってしても何が起こるのか答えは出なかった。

 

 故に様子を見る。こちらには魔術を打ち消せる上条がいる。取り返しのつかない程の事にはならないはずだ。

 

「それは穏やかな幸福を満たすと同時に冷たき闇を滅する凍える不幸。その名は炎。その役は剣!顕現せよ!!我が身を喰らいて力を為せ!!」

 

 先程までとは比較にならない熱量。炎の勢いは増していき、近くにあった上条の部屋のドアノブや表札を一瞬にして溶かしてしまう。

 そして炎は骨格を得たかのように形を創り、獣の如く呻き声を上げる。

 

「“魔女狩りの王(イノケンティウス)”……その意味は『必ず殺す』だ……!!」

 

 熱風が吹き荒れ、火花が飛び散る。人の形をした炎は腕を振るって上条とツナを消し炭にしようとその手を差し向ける。それを上条はその右手で振り払い、幻想として殺してみせる。

 

「邪魔だ!」

 

「これは長引かせると不味いぞ」

 

 上条の右手で消し切れなかった分の炎はツナが両手から噴出させた柔の炎を広範囲にカバーして防ぎ、空気に溶かすように消し去る。

 一先ず“魔女狩りの王(イノケンティウス)”とやらは凌いだが他にどんな魔術で来るか分からないのが厄介だ。ステイルの使う魔術が炎だけとは限らない。炎が通用しないのなら他の手段で来るのはある意味当然の事。

 

(もう一度隙を作って、フルパワーのパンチで気絶させる……!!)

 

 拳に力を、炎を込めながらツナはステイルを睨む。そして“魔女狩りの王(イノケンティウス)”の炎を消した事で手応えを感じている上条を見て、口元が歪み、邪悪な笑みを浮かべたのをツナは見逃さなかった。

 その瞬間、撒き散らされた火の粉が集まり、そこから“魔女狩りの王(イノケンティウス)”が復活した。

 

「な!?」

 

「くっ!!」

 

「フッ…」

 

 三者三様に驚愕し、焦り、嗤う。

 復活した“魔女狩りの王(イノケンティウス)”は右手に炎で作られた十字架を握り締める。完全に虚を突かれた上条を燃やそうと“魔女狩りの王(イノケンティウス)”が襲い掛かる。防御するだけの咄嗟の判断が出来なかった上条を守るべく、ツナは両腕のVG(ボンゴレギア)のグローブから柔の炎を大量に噴き出して両腕を交差して軽々と振り下ろされた炎の十字架を受け止めた。

 摂氏3000℃という規格外の熱量を耐えられるのは死ぬ気の炎と(トゥリニセッテ)の力あってこそだろう。

 

「ぐうぅっ!!」

 

「沢田!!」

 

 防御手段は他にもあったが、それを使う暇は無かった。包み込む事も石化させる事も出来ない。炎の威力が先程の魔術とは別格なのだ。大空属性の死ぬ気の炎で防いでも拮抗させる事しか出来ない。いや、剛の炎に変えて出力を上げれば押し切れるだろうが、その代わりにこのマンションが崩壊し、上条とインデックスを巻き添えにしてしまう。

 

「今助ける!」

 

 上条も右手を突き出して炎を消し始める。()()()()()()()()()()()()()()()が“魔女狩りの王(イノケンティウス)”の勢いは急激に衰え、ツナは出力を上げる事なく、剛の炎にするだけで押し切り、反動で自身も少し退がりつつ、跳ね除ける事が出来た。

 

「ありがとう、助かった」

 

「助けられてるのは俺の方だ」

 

 互いに礼を言って再び復活した“魔女狩りの王(イノケンティウス)”、そしてその後方に立つステイルと相対する。

 

「けどアレは何だ?俺の右手でもお前の炎でも消えないなんて……」

 

「……恐らく、消せてはいる。だが消したすぐ側から復活しているんだ。どういう魔術かは分からないが、上条さんの右手で大元を消せば……」

 

「先にあいつを倒すしかないって事か……」

 

 上条の疑問の答えをツナは超直感で導き出した。ステイルを倒さない限り、この魔術は止まらない。そうアタリを付けてステイルへと狙いを定める。

 

(Xカノンで……)

 

 “魔女狩りの王(イノケンティウス)”をぶち抜いてそのままステイルに直撃させて気絶を狙う。勿論“魔女狩りの王(イノケンティウス)”はすぐ復活するだろうが、操る魔術師が気絶していれば意味が無いはずだ。ツナがその灼熱の炎を抑えている間に上条が右手で大元の魔術を消してしまえば良い。

 ステイルに照準を定め、Xカノンを撃ち出そうとした時、二人の背後から今朝聞いた声が聞こえた。

 

「ルーン……」

 

「インデックス…!?」

 

 背中を斬られた事で今尚倒れているインデックスが虚ろな目をしながらも口を開いた。

 

「神秘、秘密を指し示す24の文字にしてゲルマン民族により、2世紀頃から使われる魔術言語で古代英語のルーツとされます」

 

「目が覚めたのか…!?いや、違う……?」

 

 明らかに朝に見たインデックスとは雰囲気が異なる。口調も何処か機械的で話しているというよりただ事実の羅列を並べているだけに思える。全く感情を感じられない。

 

「“魔女狩りの王(イノケンティウス)”を攻撃しても効果はありません。壁、床、天井……辺りに刻まれたルーンの刻印を消さない限り、何度でも蘇ります」

 

 余計な情報を漏らされたステイルは舌打ちをし、上条は戸惑いながらインデックスに確認を取る。

 

「インデックス…なのか?」

 

「はい。私は『イギリス清教内 第零聖堂区 必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の魔導書図書館です。正式名称は『Index-Librorum-Prohibitorum』ですが、呼び名は略称の『インデックス』で結構です。現在、『自動書記(ヨハネのペン)』を起動しています」

 

(この状態も何かしらの魔術なのか……?)

 

 インデックスの変化も気になるが、その口調から齎された“魔女狩りの王(イノケンティウス)”の情報も気になった。彼女が語るそれは間違いなくこの状況の突破口となる。

 だからツナは迷わず叫ぶ。

 

「アレの倒し方を教えてくれ!!」

 

「先程も言った通り、辺りに刻まれたルーンを消す事です」

 

「いや君達には出来ないよ。この建物に刻んだルーンを完全に消滅させるなんて、君達には絶対に無理だ」

 

 インデックスのアドバイスにステイルが口を挟む。しかしツナにはそれが何処か虚勢を張っているように見えた。確かにそれをされない自信はあるのだろう。しかしツナと上条というある種のイレギュラーを前に絶対に出来ないとは言い切れない心情がある。

 

「灰は灰に……塵は塵に!吸血殺しの紅十字!!」

 

 “魔女狩りの王(イノケンティウス)”が再び炎の十字架を振り上げると同時にステイルの両手から交差した炎の斬撃のような魔術が放たれる。当然上条は右手、ツナは死ぬ気の炎で防ぐ。

 

「このままじゃ本当に押し切られて死ぬ……!!」

 

「早くその刻印とやらを見つけて消さないと……!!」

 

 ステイルの出した炎の斬撃は上条が右手で消したが、ツナは死ぬ気の炎で十字架を受け止め続けている。勿論先程同様に上条が右手の幻想殺し(イマジンブレイカー)で加勢して“魔女狩りの王(イノケンティウス)”を消し去る。

 

「……上条さん、少しあいつの気を引いてくれないか」

 

「え?」

 

「機動力には自信がある。このマンションに仕込まれたルーンの刻印とやらを見つける事自体はすぐにできるはずだ」

 

「分かった!頼む!こっちは任せろ!」

 

 即答。上条は詳細を聞く事なくツナの言葉を信じた。だがツナの狙いをステイルが阻もうとする。

 

「そんな事、させると思うのかい!!」

 

 “魔女狩りの王(イノケンティウス)”を差し向けてツナを抑えようとするステイル。しかしそれを上条が右手で受け止めて防ぐ。

 

「早く頼む!そう長くは持ち堪えられない!!」

 

「ああ!」

 

 ツナはそのまま横へ……腰壁を足掛けにして廊下の外側、つまり空中へと飛び出した。

 

「「!?」」

 

 上条とステイルは驚愕する。ツナが飛び降り自殺同然の真似をしたからーーーでなく、そこから炎でホバリングをして空中を浮遊しているからだ。

 

(どれだけ汎用性が高いんだ……!!)

 

 一方でツナはマンションの外側から他の階に目を向けると上条達がいる真下の階の廊下にはそこら中に妙な文字が記された大量の白いカードが雑に貼り付けてあるのを発見した。

 

「……なんて杜撰な仕込みなんだ」

 

 ステイルがルーンの排除はツナ達にはできないと言ったのは見つけられないからではなく、この量をどうにかできるはずがないという事だったのだろう。だからと言ってここまで丸分かりにするのは杜撰という他なかった。でも正直助かったとも思う。壁にナイフか何かで直接ルーンを刻まれていたら、そこを一つずつ破壊するしかなかった。人が住む以上、迷惑以外の何物でもない。

 だがこれだけの数だ。他の階にもカードはあるだろう。

 

「ルーンは見つけた!今破壊する!」

 

「頼む!」

 

 上条にルーンの発見を伝え、ステイルに右手を向けて炎を纏う事で牽制する。ルーンを排除しようとしてもその途中に魔術で遠距離攻撃されては溜まったものではない。

 

 ツナはそのルーンが刻まれたカードを纏めて処理する為に己のVG(ボンゴレギア)、大空のリングver.Xに死ぬ気の炎を注ぎ込む。

 

「頼む…!ナッツ!!」

 

「ガウッ!」

 

 ツナの左腕の上にちょこんと現れたのはツナの相棒とも言える天空ライオン(レオネ・デイ・チエーリ)のナッツだ。

 

「……何だ?アレは?」

 

「猫…?」

 

 ステイルと上条はツナの左腕の上に現れたナッツを見て怪訝な顔をする。ツナと同じ色の炎を纏ってはいるが、ライオンと言うには子供でビジュアル的なインパクトも無い。ライオンではなく猫だと勘違いするのも無理はないだろう。

 だがその小さな体に恐るべき力を秘めているのが(ボックス)アニマルなのだ。

 

「GURURU……GAOOOOOOOO!!!」

 

 ライオンとしての呻きの後に来た遠吠え。もはや咆哮と言っても過言ではないその叫びば大空属性の死ぬ気の炎を帯びている事で“調和”の性質を持つ。それによってステイルのローブと各階に貼り付けられたルーン魔術のカードまでもが一斉に石化した。石化した事でカードに書いたルーンも消えてしまった。

 その影響で“魔女狩りの王(イノケンティウス)”は目に見えてその燃え盛る炎も熱量も衰え始める。

 

「なん…っ!?だと……!!?」

 

 あんな猫の叫び一つであれだけの数のルーンのカードを全て処理したというのか。驚愕と焦りがステイルを支配する。

 

 そしてそれを見た上条の行動は早かった。即座に幻想殺し(イマジンブレイカー)を以って“魔女狩りの王(イノケンティウス)”を消し去り、ステイルに向かって行く。

 

「イノケンティウス…!!いのけん…てぃうす…!!い、いや…は、灰は灰に、塵は塵に…!!」

 

 上条が振り上げようとした右拳をガードしようと構えるものの、石化したローブが重く、固まっているが故に腕を動かせない。何より、今この瞬間になってツナに蹴られた痛みで表情が歪む。詠唱して魔術で上条を迎撃しようとしても全てが遅い。

 

 上条の中で今朝インデックスに言われた拒絶の言葉がフラッシュバックする。

 

(地獄の底まで着いて行きたくねぇなら、地獄の底から引き摺り上げてやるしかねぇだろ!!)

 

 そして上条はステイルの顔面目掛けて、思いっきり右手を振り抜いた。

 

 上条は思う。

 

 幻想殺し(イマジンブレイカー)なんて右手があったって『異能の力』しか消せず、不良の一人も倒せず、何の役にも立たない。

 

 テストの点も上がらず、女の子にもモテない。

 

 だけど、右手はとても便利だ。何せ、目の前のクソ野郎を思いっきりぶん殴る事が出来るんだからーーーー…。




ところでナッツなら大空属性の“調和”があるから美琴の電磁波の影響を受けないと思うんですが、どうでしょう?

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