とある魔術のボンゴレX世   作:メンマ46号

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真実への入り口来る!

 ツナと上条の前に現れた魔術師と思われる女は緊張した様子を見せず、まるで世間話でもするかのように話を振って来た。それが一層不気味さを際立たせていた。

 

「……テメェは」

 

「神裂火織、と申します。出来ればもう一つの名は語りたくないのですが」

 

「もう一つ?」

 

「魔法名とやらか」

 

「ええ」

 

 (ハイパー)死ぬ気モードになっていたツナは先程とは打って変わって冷静に神裂の言葉の意味を理解して確認を取る。それを肯定した神裂を見て上条も結論付けた。

 

「て事は何か、テメェもステイルと同じ魔術結社とかいう連中なんだな」

 

「……?ああ、インデックスに聞いたのですね?」

 

 上条もツナも答えない。10万3000冊を欲するが為にインデックスを追い回し、記憶喪失にまで追い込んだ連中に話す事など無い。

 

「率直に言って、魔法名を名乗る前に彼女を保護したいのですが」

 

 ステイル曰く、魔法名とは殺し名。敵を殺すと決めた時に名乗るものらしい。つまりこの女には今の所、自分達に対する殺意は無いのだろうか。ツナは彼女の一挙一動に気を配りながら考える。

 

「……嫌だ、と言ったら?」

 

「仕方がありません。名乗ってから、彼女を保護するまで」

 

 瞬間、強い衝撃が地震のように二人の足元を震わせた。爆発でも起きたかのような感覚。視界の隅で夜空の向こうが夕焼けのように橙色に輝き始めた。数百m先で巨大な炎が燃え広がっていた。

 

(ステイルか!!)

 

「インデックス……!!」

 

 ツナも上条もこの爆発の犯人に瞬時にアタリを付けた。あの炎を使う魔術師だ。上条は反射的に炎が燃え上がった爆発現場の方角へ視線を向ける。

 次の瞬間には神裂による斬撃が襲いかかってきた。

 

 それを“見透かす力”、超直感で察知していたツナが両腕の死ぬ気の炎を広範囲に広げ、壁を作る事でガードした。炎越しに空気そのものを引き裂くような衝撃が伝わってくる。まともに食らっていれば身体がバラバラになっていただろう。いや、自分達の後方にある建物などまでも軽く切断されていたかもしれない。

 大空属性の“調和”があるからこそ、この斬撃を空気に溶かすかのように無力化出来た。彼女の太刀筋ならば雷属性の“硬化”や雨属性の“鎮静”までも突破したかもしれない。

 

 女の細腕であんな大太刀を瞬時に振り回せるものなのか。今の斬撃が魔術ではなく、腕力によるものならばS(スペルビ)・スクアーロにすら匹敵しかねない。

 

 遅れて斬撃に気付いた上条に対し、神裂は何処までも冷静に告げる。

 

「隣に彼がいて助かりましたね。本来私から注意を逸らせば、辿る道は絶命のみでした。次からはやめて下さいね」

 

「……ッ!」

 

 上条は動けなかった。自分が今ここに立っているのはツナが死ぬ気の炎で攻撃を防いでくれたから。いや、今の口調からすればもしかしたら最初はわざと外してくれたかもしれないが、どっち道、敵の規格外さ、非常識さを見せつけられるだけに終わっただろう。

 

 刀を鞘から抜き、再び納める瞬間は上条どころかツナにも見えなかった。

 

「もう一度、問います。魔法名を名乗る前に、彼女を保護したいのですが」

 

 神裂の声には淀みが無い。この程度で驚くな。あの斬撃を防いだ程度で驚かない。そう言っているように上条には聞こえた。

 

「な、なに、言って……やがる。テメェを相手に、降参する理由なんさ…「何度でも、問います」…!?」

 

 ほんの一瞬、神裂の右手がブレる。風が唸り、恐るべき速度で上条とツナを台風の目にして巨大な竜巻が巻き起こる。地面も、街灯も、一定間隔で並ぶ街路樹がまとめて切り裂かれる。工業用の水圧カッターでも使ったかのようにあっさりとスパスパ切れる。

 

 宙を舞うコンクリートの欠片が二人に向かって飛んでくる。そして七つの直線的な『刀傷』が平たい地面の上を何十mに亘って()()()()()()()()

 

 

 

「ナッツ、形態変化(カンビオ・フォルマ)防衛モード(モード・ディフェーザ)

 

 

「GAOOOOOOOOO!!!」

 

 

 全てが過ぎ去ろうとする前に、ツナの声が響いた。いつの間にかツナの肩に乗っていたナッツが雄叫びと共に光り輝く。そして次の瞬間、地面に襲い掛かろうとしていた『刀傷』と上条とツナにぶつかろうとしていたコンクリートの欠片も全て届かなくなった。

 

 上条は勿論、神裂までもが目を見開く。ツナの肩に乗っていたライオンの幼体は姿形を変えて、黒きマントが斬撃も飛び散る破片も全て防いだのだから。

 

 これこそが全てに染まりつつ、全てを飲み込み、包容する大空。

 

 Ⅰ世のマント(マンテッロ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)

 

 大空属性の“調和”で先程同様に神裂の攻撃を全て無効化し、炎で物理的にコンクリートを防いだのだ。この巨大なマントで上条も周囲の地面も守り、ツナは真っ直ぐ神裂を見る。

 神裂もまた、頬にタラリと少し汗を掻いてツナを見ていた。

 

「私の七天七刀が織り成す『七閃』の斬撃速度は、一瞬と呼ばれる時間に七度殺すレベルなんですがね。人はこれを瞬殺と呼びます。あるいは必殺でも間違いではありませんが……、これを防ぎますか」

 

 いくら直接二人を狙わなかったとはいえ、どんな形であろうとこれが防がれるとは夢にも思わなかったのだろう。本格的に神裂から見たツナという存在が明確な脅威となってきた。負けはしないだろう。だが目の前の少年を相手にするには魔法名を名乗らなければならないかもしれない。

 

 ステイルが負ける訳だ。この少年は強い。修羅場を潜った数も両手の指では足りないだろう。隣にいる少年も中々に厄介な能力を持っているが、この少年、沢田綱吉ならば単独でも大した労力もかけずにステイルを打倒して見せたはずだ。

 

 上条は目の前で繰り広げられる攻防を見ている事しか、いや、殆ど目で捉える事も出来なかった。この魔術師も、ツナも……上条とは真の意味での戦闘経験がまるで違う。上条は無言で右手を押し潰す勢いで握り締める。

 確かに戦闘では上条は何の役にも立てないかもしれない。だがそんな理由でツナに任せっきりにも出来ない。共に戦うと、インデックスを守ると決めたのだ。あの速度と威力、そして射程距離。恐らくあの斬撃には魔術という名の『異能の力』が関わっている。ならば、あの太刀筋そのものに触れる事が出来れば、決定的な隙があの女に生まれる。ツナならばそれを決して見逃さずに敵に決定打を与えてくれるだろう。ただ右手で殴るだけの上条には決定打は与えられない。だがツナがそれを叩き込むだけの隙を生み出す事くらいならば出来るはずだ。

 

「絵空事を」

 

「…!?」

 

「……」

 

 上条の思考が遮られた。

 

「ステイルから話は聞いています。貴方の右手は何故か魔術を無効化する。ですが、それは貴方が右手で触れない限り、不可能ではありませんか?」

 

 触れる事が出来なければ上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)は何の意味も持たない。速度もそうだが、変幻自在な神裂の七閃とやらは狙いを先読み出来なければ、七つの太刀筋によって上条の腕は輪切りにされてしまう。

 上条は知らない事だが、ツナが神裂の七閃を先読み出来たのは見透かす力、超直感あってこそだ。

 

「幾度でも問います。魔法名を名乗る前に彼女を保護させてもらえませんか?」

 

「断る」

 

 神裂のプレッシャーに押し潰されそうになっていた上条に代わり、ツナが拒絶の意を伝えた。神裂は顔色一つ変えないが、上条は呆然としてツナを見た。

 

「インデックスは俺達の友達なんだ。そのインデックスを傷付けるような奴に、彼女は絶対に渡せない」

 

「……!」

 

 マントを羽織り、眉間に皺を寄せながら断言した。上条が力の差を前に愕然としている中でツナは決して退く姿勢を見せない。戦い慣れしているから……そんな理由ではない。眉間に寄せられた皺を見て上条は分かってしまう。ツナは戦いを忌み嫌っている。それでも拳を振るうのは友達や仲間を守りたいから。これまで上条が拳を握ってきた理由と同じだ。

 

 なのに何故自分は敵が強いというだけで圧倒されそうになっているのか。自分より強い相手など慣れっこではないか。普段のツナは今の自分よりも簡単に怖がるような人間だ。それが何故この敵に臆せず挑めるのか。簡単だ。友達を守りたいから。何処までも上条と同じだ。

 

「ははっ…、そうだよ。恐れる事なんてねぇじゃねえか…」

 

「……?」

 

「……覚悟は決まったようだな」

 

「ああ。死ぬ気でこんな幻想をぶち殺してやる!」

 

 友達を守る。それだけで良い。それだけで上条を奮い立たせてくれる。

 

「何が貴方達をそこまで駆り立てるのかは分かりませんが……」

 

 一連の様子を見ていた神裂は呆れ…いや、むしろ哀れみの色が込められた溜め息を吐き出し、静かに七天七刀の柄に触れる。

 

 七閃。

 

 風の唸りと共に砂埃が上条とツナの眼前で八つに切断される。地面が砕かれ、コンクリートや木の欠片が細かく二人に飛び掛かる。

 ツナは再びマントを翻し、全てを包み込み、“調和”と柔の炎で無力化する。どれだけ速かろうがやっている事は魔術を使った居合斬りのはずだ。右手の幻想殺し(イマジンブレイカー)でその速度をどうにかすれば良い。そう考えてツナのマント越しに上条は隙を窺う。しかしその前にツナに右手首を掴まれ、止められる。

 

「!?ツナ、どうして止め……」

 

「良く見てみろ。これはあの刀を振ったからでも魔術の効果でもないようだ」

 

「!?それって…どういう……!!」

 

 ツナの言葉に従い、目を凝らして神裂のいる方を見る。するとツナの死ぬ気の炎に照らされた事で初めて見えるようになった、光を反射している糸のようなものがあった。蜘蛛の糸のようにも見えるそれは、七本の鋼糸(ワイヤー)

 

「……見抜きましたか」

 

「なんてこった……魔術なんて使ってなかったのか、あいつ」

 

 あの馬鹿長い刀は飾り……いや、こちらを騙す為のもの。幻想殺し(イマジンブレイカー)であれを消そうとしても消えはしない。あの鋼糸(ワイヤー)が上条の右手に食い込んでバラバラにしていただろう。

 

「ワイヤーの使い手には覚えがある。奴とは全く違う用途での使い方だったが、お陰で気付けた。それにステイルはともかく、他の魔術師が全員魔術一辺倒で戦うとは思えなかった。当麻君の右手は例外だとしても、他の魔術で自分の魔術を無効化された場合も考えられる」

 

「貴方は戦いというものを嫌という程理解しているようですね。先程も言いましたがステイルから話を聞いていたので、そちらの少年を相手にするには魔術ではなく、別の力を使うのはある意味当然です。重要なのは力の量ではなく、質。ジャンケンと同じです。グーはパーには勝てませんから」

 

「……」

 

「それから、私は自分の実力を安いトリックで誤魔化している訳でもありません。この七天七刀は飾りではありませんよ。七閃を潜り抜けた先には真説の『唯閃』が待っています。それを何となくでも理解しているから貴方は七閃を防いでも反撃には来ない。違いますか?」

 

 神裂は己の実力と語ると同時にツナが今一踏み込んで来ない理由を推測する。上条もツナも相手取るには相当厄介な相手であると認めている。だからこそ話を続ける。唇を噛んで。

 

「それに私はまだ魔法名を名乗ってすらいません。名乗らせないで下さい、少年達。私はもう二度とアレを名乗りたくない」

 

 殺したくない。そう言っているに等しかった。悲しそうに告げる彼女を見て上条の握った拳が震える。目の前の魔術師はステイルとは違う。敵を殺すのを躊躇っている。その気になればツナはともかく上条などすぐに殺せるのに、躊躇っている。()()()()()()()()()()()()()()()()()』だ。

 

「何でだよ?何でこんな事してんだよ?そんな事が言えんなら、分かってんだろ?寄って集って女の子が空腹で倒れるまで追い回して、刀で背中斬って……そんな事、許されるはずないって、分かっちまってんだろ?」

 

「……」

 

「知ってんのかよ。アイツ、テメェらのせいで一年ぐらい前から記憶がなくなっちまってんだぞ?一体全体、どこまで追い詰めりゃそこまで酷くなっちまうんだよ……」

 

 返事はない。だが彼女の瞳は一層、悲しみが増していた。

 

 その時ツナはある違和感に気付いた。上条が指摘した通り、神裂の言動と行動は口封じや目的の為なら非の無い人間を殺す事も良しとするステイルとは明らかに違う。

 神裂は上条の右手の弱点しか突いていない。上条には無理でもツナが防げる攻撃しかしていない。

 

「……違う」

 

「…?」

 

「さっきはインデックスを傷付けるような奴に彼女は渡せないと言ったけど、それは違う。違ったんだ」

 

「……?何が違うというのですか?」

 

 ツナは相変わらず眉間に皺を寄せながら神裂を見つめる。額に灯っていた死ぬ気の炎は次第に鎮火していき、橙色に輝いていた瞳も元の鮮やかな茶色に戻っていた。

 

「貴女はそんなに悪い人じゃない」

 

「…!」

 

 弱々しくもまっすぐな瞳で見つめられた神裂は何故か……一歩だけ、後ずさった。ずっと押し込めていた感情の檻が壊れてしまう。そんな気がした。

 

「貴女はインデックスの背中を好き好んで斬り付けるような人じゃない。ステイルの言った殺し名を名乗りたくないって言ったのもそうだけど……」

 

 ツナの中では既に神裂はある人物と重なっていた。顔は怖いけど、暖かくて、子供に好かれて、他人を傷付ける事に罪悪感を抱いて、目を閉じてしまう。本当は誰よりも優しい用心棒。

 

「ステイルから話を聞いていたのなら、貴女程強い人なら……俺の炎なら貴女の技を防げる事くらい、最初から分かってたはずだ。攻撃を受けている中でおかしいと思ったんだ。冷徹ぶってて、ちょっと怖いと思ったけど、貴女は本当は俺の友達やうちにいる子供みたいに、あったかい人だ」

 

 ツナの言葉に上条もハッとする。ステイルから話を聞いた上で、神裂はツナの炎で防げる攻撃しかしてこなかった。穏便に済ませたいからでもあったのだろうが、そもそも彼女が本当に目的を…インデックスの保護という名目の拉致を優先するのならば交渉なんかしない。彼女が離れたこの隙を狙って攫えば良い。

 

 インデックスの背中にしたって、アレは『歩く教会』がインデックスを守ると確信していたはずだ。ステイルはインデックスが傷を負ったのは予想外だった。『歩く教会』がインデックスを守れなかったのは上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)というある種のイレギュラーがあったから。

 

 彼女は……初めからインデックスを傷付ける気など無かった。

 

「貴女は最初から見たくなかったんだ!敵とか味方とか関係ない……人が傷付くところなんて、見たくなかったんだ!!」

 

 ツナの言葉で神裂の本心を完全に理解してしまった上条は先程よりも遥かに悲しそうに、悔しそうに感情を彼女へとぶつける。

 

「……何でこんな事してんだよ?俺はさ、自分(テメェ)の命張って、死にもの狂いで戦おうとして、たった一人の女の子を守るどころか、別の誰かに守られてばっかの負け犬だよ!インデックスがテメェらに連れ去られようとしてんのをツナが止めようとして、それを指咥えて見ている事しか出来ねー弱者だよ!」

 

 神裂は何も言わない。否、何も言えない。ただただ己の心へと迫って来る二人の少年を前に困惑し、決壊しそうになる心を抑えようと必死で胸に手を当てる。

 

「だけどアンタは違うだろ!?そんな力があれば誰だって守れるのに、何だって、誰だって…救えるのに!!何だってこんな事しなくちゃならねぇんだよ!!?」

 

 上条は悔しかった。守りたいものを守り抜ける力がある人間が、望まずに女の子一人を追い詰めなきゃならない事が。追い詰められている女の子も、そうしなきゃならない目の前の女も……誰も救い出せない自分が……

 

 

 

 悔しかった。

 

 

 

「……」

 

 沈黙に沈黙を重ね、神裂は漸く口を開いた。震える声が上条とツナの心を揺るがす。

 

 

「……私だって、私だって本当はこんな事したくなかった!!!!!」

 

 

 ツナに胸の内を見透かされ、上条の言葉が胸に刺さった事で神裂の瞳が潤んだ。泣きながら膝から崩れ、縋るように告げる。

 

「けど、こうしないと彼女は生きていけないんです!死んでしまう!!」

 

「「!?」」

 

 泣きながら神裂は二人に告げる。

 

「私の所属する組織の名は、あの子と同じ、イギリス清教の……必要悪の教会(ネセサリウス)……」

 

 残酷な真実への入り口を。

 

「あの子は……インデックスは私の同僚にして、大切な親友なんです……!」




勝てんのかとかどう退けるのかとかそんな事ばっか考えてたけど、そもそもツナが間に割って入れば会話とか流れ次第では誰も怪我しない面子じゃね?と思ったからこうなった。

というか、ねーちんはなんかランチアと似てるような気がしたので、初見では無理でも攻撃を防いでいるうちにツナはそこんとこ気付きそうだなーって。
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