ネトゲ系主人公他が大変雑に異世界に放り込まれたようです 作:ぱちぱち
あれは嘘だ。
誤字修正。赤頭巾様、あんころ(餅)様ありがとうございます!
「精霊のオカリナ? ほうほう、ダンジョンからフィールドへ戻る。これは後で森の内部で検証しなければいかんな。そしてこちらは……獣油? 油か! これは料理番のアース君が喜ぶぞ」
そこは、小さなログハウスのような建物だった。
「種類は少ないけど、どれもはっきりとした効果のあるアイテムだ。これはありがたいですね」
彼らが拠点と呼ぶ建物の中に案内されたカイトは、その中でも会議室とされている広めの部屋に連れてこられ。
「なんとか複製できないか試してみないといけませんね」
「そうですね。カイト君、すまないがしばらく君のアイテムは預からせて欲しい」
「あ、あはは。はい……」
にこやかな表情を浮かべるエルフの術者と何故かアイコンで顔文字の笑顔を浮かべる骸骨に、絶賛アイテムをむしり取られていた。
「ああ、俺もやられた。俺はちょっとだが食べ物持ってたからシロエさん大喜びだったな」
「キリトも?」
「ああ。俺は一週間前に墜ちてきたんだけど、その時にはもう今みたいに後から来た奴のアイテムはシロエさんかモモンガさんが管理するようになってたよ。まぁ、最初はムッとするかもな」
「ううん、アイテムは良いんだよ。話を聞いたら、確かにって思ったから。でも、いきなりだったからびっくりしてね」
「ああ……まぁ、説明は受けたと思うけどさ。食い物、手に入らねぇんだよ。この辺りは」
粗方のアイテムの説明と消耗品の
ふらふらと会議室から出てきたカイトに、部屋の前で待機していたキリトが苦笑しながら話しかける。
どうやらカイトがこの拠点内で落ち着けるまでの数日は、こういった形でキリトが補助に入ってくれるらしい。
「ま、俺もまだ落ちてきて間もないからあんまり力にはなれないかもしれないが」
「いや、ありがたいよ。同年代の人ってだけでも大分」
「ああ、それはわかるわ。俺はほら、ブロントが世話役だったから大変だった」
「おいィ?俺を呼びすてにするべきんじゃないさんを付けろよデコ助野郎」
思い出したくもない、と顔を手で覆いため息をつくキリト。その様子にカイトが苦笑を浮かべようとした時、背後から絶妙に特徴的な言語が繰り出される。
その声にキリトが再び深くため息をつく横で、カイトが背後を振り返る。
「あ、ブロントさん」
「カイと用事はもう終わったをか」
「はい。消耗品は全部預けてきました」
「おう。なら行くべ」
カイトの言葉にむすっとした表情を浮かべたままブロントは小さく頷くと、くいっと自分の背後を親指で指さした後にそう告げて、くるりと背を向ける。
その唐突さにキリトとカイトがきょとんっと互いの目を見合わせていると、付いて来ていない事に気づいたのかブロントは振り返り、二人に声をかける。
「ノロノロしてるとバラバラに引き裂いて死ぬ早くすべき」
「あ、はい」
「りょーかい」
バラバラに引き裂かれては堪らないと二人は苦笑を浮かべ、先行するブロントを早足で追いかける。
拠点と呼ばれる区域は、精々小さな集落位の大きさだった。
ログハウスから出て周囲を改めて見回すと、近くの木々からどうにか伐採してきたのだろう、鈍色に輝く丸太が柵代わりに周囲をぐるりと囲む形で打ち込まれており、森と拠点を隔てている。
柵がない部分は恐らく出入口なのだろう。少し大きな門のような物があり、2mは優に超えそうな巨躯の骸骨姿の騎士がいつでも門を閉じられるように控えている。
また、内部に目をやると畑作を試みているのだろう区域があり、これまた骸骨姿のモンスターがせっせと鍬のようなものを使って土を掘り返す姿も見受けられる。
ブロントの背を追いながらカイトはそれらの様子を眺め、この拠点という場所には人がほとんどいないという事に気づいた。
骸骨はすべてモモンガと呼ばれる骸骨の魔術師が作成したモンスターで、足りない人力の穴埋めは彼がほぼ行っている。
彼が一日に生み出せるアンデッドモンスターは中々の数にわたるそうで、周辺の見回りや先ほどの巨躯の骸骨騎士のように警備・農耕などの力仕事に重宝しているそうだ。
「拠点というか……中世の農村みたいだね」
「陽ロッパをど田舎であるかもしうぇん」
「昔の名残でってのは確かにそうですね。後は、外周に堀とか作っても良いかもしれませんね」
「それだつサとルの胃がマッハな目に合うことは火を煮るよりも確定的に明らか」
「サトル……?」
「モモンガさんのリアルの名前だよ。というか何で会話成立してんだお前ら」
取り留めのない話を行いながら3人の歩みは進み、出入り口に近い場所に立つ小屋の前でブロントが足を止める。
入り口に掛かっている暖簾のようなものに大きく【飯】と書かれたそこは、恐らく食事処なのだろう。
ブロントはちらりとカイトやキリトを見ると、そのまま小屋の中へと入っていく。ついてこい、というのだろう。
「ここは食堂?」
「ああ。そういや俺も今日は何も腹に入れてなかったな」
隣に立つキリトにカイトが尋ねると、キリトはそう答えてカイトを促しながら暖簾をくぐっていく。
キリトの後に続く形でカイトが暖簾をくぐると、そこは思っていたよりも食堂らしい、それこそ日本でも良く見かけるような内装の場所だった。
四角く切りそろえられたテーブルに合わせて作られたのだろう椅子。それらが2列4卓程並んでおり、調理場だろう場所とはカウンターのような物で仕切られている。
小屋は切り出してきた材木で出来ているらしく、全体的に鋼鉄の鈍色で違和感があるがこれは仕方のない事だろう。それと、少し寒い気がする。
ブロントは並ぶテーブルの一つにドカリッと自分が持つ剣を置くと、調理場へと足早に歩いていく。
恐らく席を取った、という意思表示なんだろうが、他に客は見えない。まぁ一々別の場所に座る意味もない。キリトとカイトはおとなしく彼が指定した席に座った。
「俺を奢りだ飲め」
「あ、ありがとうございます」
「いやそれ、モモンガさんの無限の水差しだろ。ここの備品じゃねーか」
「黒。お前には心を広くすることが必要不可欠」
「意味わかんねーっつってんだろうがっ」
「まぁまぁ少し落ち着きましょう。今日は色々あって……うわ、この水美味しい」
険悪なムードになりかけた二人の間に割り込むようにカイトが入り、二人の会話を途切れさせる。
そして、カイトは水差しからコップに注がれた水を一口口に含み……あまりの水の美味しさに驚きの声を上げる。
カイトもリアルでは様々な水を飲んできた。カルキ臭のある水道水やすっきりとした味わいの天然水。それに少し硬質なミネラルウォーターといった物も。
だが、今この水差しから注がれた水はそれらのどれとも違う。ただの水に豊穣な味わいを感じたのは初めての経験であった。
「ああ、俺も最初は驚いたよ。ここの主食だからしっかり味わってくれ」
「シマの命水よりも美味いおれもそう思います」
「主食って……」
カイトの反応に毒気を抜かれたのか。先ほどまでの一触即発な空気を霧散させたキリトとブロントの言葉に、カイトが苦笑いを浮かべる。
「あながち間違ってないから困るね。ここ、食材が取れないから」
そんな3名に、厨房側から声がかけられる。
そちらに目を向けると、料理着のような物を身に着けた黒髪の青年が人の良さそうな笑顔を浮かべてこちらに目を向けていた。
「アースさん」
「ブロント君。水差しは持っていったら戻してくれよ。ここには他に水源がないんだから」
「すいまえんでした;」
「うん」
アースと呼ばれた青年が一言ブロントに苦言を言うと、存外ブロントは素直に頭を下げる。
アース、という名前には心当たりがあった。彼がここの料理担当者という事だろう。
彼はブロントの謝罪に一つ頷くと、すっと目をカイトに向ける。
「君が新しく落ちてきた子かな?」
「あ。はい、カイトです。よろしくお願いします」
「よろしく。俺はアース」
にかっと笑ってアースは軽く手を振り、そのまま振り返ると厨房へ引っ込んでいった。
そういえば先ほどからいい匂いがする。もしかしたら調理中だったのかもしれない。
「いい匂いだな。今日は何のスープだろ」
「スープは確定なんだ……」
「少しでも嵩増ししないとあっという間に食材が尽きちまうんだよ」
今日何度目かも分からない苦笑をカイトが浮かべると、キリトは渋い表情のままそう答えてコップの中の水を飲みほした。
「俺も29日間スープしか飲んでないしなんなら半分は水を飲んでいた」
「それは流石に……ご飯とかは食べなくても、大丈夫だったんですか?」
「ナイトは高確率で最強だからご飯も我慢できるし水も美味い」
「水、美味しいですよね」
「うみ」
ずずっとコップの水を啜り、3人は無言で頷きあう。そのまま数杯お代わりをして水差しを厨房に返した後に外に出る。
これが大体のお昼替わり、らしい。
「食材……なんとかしないといけませんね」
「ああ。せめて3食食べてーよ……」
「30日スープしか飲まにいのは空腹が鬼なるし腹がはじけて死ぬ」
口々に腹が減ったと呟きながら彼らは拠点の外周部沿いに歩き始める。
食堂から少し歩いて到着したそこは、レンガで作られたのだろう小さな小屋だった。
ここが彼らの寝床であり、これからカイトが寝泊まりすることになる宿舎だという。
「中は広いから安心してくれ。マジックアイテムなんだって」
「メガトンパンチでも壊れにい最高のナイトの寝床も最強だというのは分かり切った事ですね(実話)」
「……あんた、モモンガさんが見逃してるからって大概にしろよ」
「お前調子ぶっこき過ぎると怒りのパワーの力が全快になって隠された力を発揮する披露宴となる」
「あはは……二人とも落ち着いて」
口元をひくつかせたキリトの言葉にブロントが普段と変わらないむすっとした表情で返すと、二人の間に一触即発の空気が流れ始める。
間に挟まれる形になったカイトは引きつった笑みを浮かべたまま空を見上げ――そこで上空を飛ぶモモンガの姿を発見する。
「あ」
何やってるんだあの人、とカイトが半ば現実逃避気味にそちらを見ていると、向こうもこちらに気づいたのか手を振り上げ。
カイトの周囲を確認したのだろう、上げた手をそっと降ろして両手を合わせ「ごめんね」とでも言うかのように頭を下げた。
「いやいやいやいや」
その様子に思わず口に出しながら首を横に振って助けてくれとジェスチャーのように手を振ると、無理無理とモモンガもジェスチャーで手を横にバタバタと振り始める。
流石にその様子に気づいたのだろうブロントとキリトはカイトが手を振る方角へ目を向ける。
二人に気づかれた事にモモンガは慌てたのだろう。わたわたと遠目で見ても分かるほどに慌て始め。
背後から高速で飛んできた何かに激突されて大きな音を立て、そのまま墜落していった。
「……えっ」
1秒から2秒の間の出来事だった。それこそ、少しゆっくり瞬きをする程度の時間。
その間に激変した状況に、カイトとキリトが意識を一瞬飛ばした時。
「ちょとこれはsYレにならんでしょ」
傍にいたブロントの一言で二人は我に返った。
「そうだ、モモンガさんは」
「サとルは頑丈だkら不安が鬼なるのはわかるがまずは自分を心配しる」
「でも、ブロントさん!」
「おまえもし化して言葉が、理解できない馬鹿ですか? 上、狂ぞ!」
いつの間にか盾と剣を身に着けたブロントの言葉にカイトとキリトが身構える中。
ドンッと上空から落下してきた何かが地響きを立てて地面に大穴を開ける。
ピィーッ!
キリトが指笛を吹き鳴らす中、剣を構えたブロントはカイトとキリトを守るように盾を構えて二人の前に立つ。
土煙が薄くなり、やがて晴れた後。それは、地面の中からもぞもぞとした動作で這い上がってきた。
言葉にするならば、それは蝙蝠だとか、そういった存在が元になっているのかもしれない。
恐らく元は翼なのだろう肉で出来た細長い骨のような物をぐしゃぐしゃと再生させながら、うじゅるうじゅると全身から生える肉の触手を手の代わりに使って、這い上がってきたそれは豚のような顔をしていた。
前回遭遇した巨人モドキのように失った目の部分から伸びる触手をキョロキョロとさせ。大きくあいた口から声とも呻きともつかない音を響かせながら。
「ブロント、あいつ口がある」
「なにいきなり話しかけてきてるわけ?」
「口があるとどう変わるの?」
「統一性はないけど厄介な能力を持ってたりする。鳴き声で体が動けなくなるとか、口から高速の毒玉を吐くとか」
「ダイアモンド・パワーの精神力を持つおれれでもストレスで寿命がマッハなるんだが」
軽口を叩きながらキリトは両肩に担いだ剣を構える。
「増援はすぐに来る。なんせ拠点内だからな、むしろ俺たちはあいつを他所に行かせないように引き付けておかないと」
「惹きつけるんじゃない惹きつけてしまうのがメイン盾圧倒的な戦力を見せせやう」
「……よし、触手は出来るだけ削いで、移動を邪魔しよう!」
「オッケー。正面は頼む、ブロント!」
「黒あとで屋上誤っても時すでにおすし(激怒)」
「喧嘩は後にして!」
「「hai!!」」
二人に指揮を飛ばしてカイトは懐からスクロールを取り出す。
生活物資になりえるアイテム以外は一部を見本として渡しただけでほぼ返してもらっており、こういった魔法使用のスクロールは戦闘時に惜しむことなく使用しても良いと言われている。
ここでの最優先事項は生き残る事。そして、仲間を死なせない事。ここの指導部であるモモンガとエルフの術師シロエはカイトに対してそう伝えた。
アイテムを惜しんで人を死なせてはいけない。この世界では、それがどういう結果になるかが分からないのだから。
「爆炎の魔法を撃ちます。その後に、キリトと僕で左右から触手を削いで移動手段を潰します。ブロントさんは相手の注意をひき続けてください!」
カイトのスキルは使用時に若干の硬直時間がある。
前回の戦闘ではこの世界で初めての戦闘に気が動転していたのとその硬直時間を気にして使用できなかったが、今は目の前に優秀なタンクが居る。
この世界で自分の持つスキルが通用するのか。それを確かめる意味も声に含めて、カイトは爆熱地獄の巻物を開く。
【オラバクローム】
カイトがアイテムを使用しそのスキル名を唱えた瞬間に、モドキの体の周囲に小さな炎が出現する。
その小さな炎にキリトとブロントが怪訝そうな顔をした瞬間。
ギュオオオオオオオオォ!
小さな炎が回転し、そしてどんどんと規模を増していき。大きな炎の竜巻となってモドキを包み込むと、焼き尽くさんとモドキの全身を炎で削り始める。
絶叫のような声をその醜く開いた口から垂れ流すモドキにカイトは手ごたえを感じてぐっと拳を握りしめた。
少なくとも、彼自身の持つアイテムやスキルはこの敵に対しても有効である。これを確認できたのは大きい。
「キリト、油断せずに散開。ブロントさん、返しに気を付けてください!」
「あいよ!」
「黄金の鉄の塊で出来ているナイトが皮装備のジョブに遅れをとるはずは無い」
「それでも気を付けて!」
「ありあとu;」
モドキが炎の竜巻に囚われている間に二人の剣士は左右に分かれ、攻撃の機会を伺うように剣を構えた。
正面に一人残されたブロントはジリジリと距離を詰めるように近寄りながら、いつ何が起きても対処できるようにすっと剣を引き盾を構える。
変化は、竜巻が晴れる前に訪れた。
キュインッ
という甲高い音が響いたと思った瞬間。
一筋の閃光がブロントの構えていた盾に直撃する。
その圧力に見る間に押されていくブロント。光というよりも高圧縮された何かだろうか。周囲に飛び散る液体のような物がカイトやキリトの目に入る。
「ふっ!」
押されるままになっていたブロントが息を吐き、そして少しだけしゃがみ込むように体勢を入れ替える。
彼の姿勢変化に合わせて盾も少しだけ上向きに変わり、横合いから噴射されていた何かは上空へとその力を逃がされ上空へと飛び散っていく。
一瞬の盾捌き。妙技ともいえる技だ。
「上手い!」
「カイト、竜巻が途切れるぞ!」
思わず感心の声を上げたカイトにキリトの声がかかる。その声に頭を切り替えてカイトはモドキへと意識を集中させる。
竜巻が晴れたそこにいたモドキは、先ほどまでとは随分と様変わりをしていた。
恐らく完全に削げ落ちたのだろう羽のような部位が焦げ落ちて、モドキの全身は芋虫のように細長い肉の塊のような姿になっていた。
いや、一部分、顔の部分だけは先ほどと同じ形で、若干の焦げ跡はあるが豚の顔のような形を維持している。
先ほどまで大きく開いていた口からは噴射口のような細長い管が伸びていて、そこからは未だに何か液体のような物が圧縮され、ブロントに向けて発射されている。
「あの口から出ているあれ。当たると不味い気がする!」
「完全鎧装備のブロントが一瞬で押し込まれたんだ。俺らじゃ貫通してもおかしくない」
「俺の寿命がストレスでマッハなんだがあやく助けてください;;」
「わかってる! スターバーストッ」
ブロントの声に答えるようにキリトがモドキに向かって間合いを詰める。目にあたる部分の触角を再生させたモドキはそれに気づいたのか、その細長い体をくねらせてキリトへ頭を向けようと蠢き。
ヒュンッと飛んできた一本の矢が、噴射口を打ち抜く形でその動きを食い止める。
「おっさん! 後でジュースをおごってやろう!」
「水ならいらないよっ!」
ブロントは弓が飛んできた方角を見ずに盾を構えたまま真っすぐに突き進み、それを援護するように数発の矢がモドキの頭に突き刺さる。
ちらりとカイトが矢が飛んできた方角を見ると、料理人風の衣装を着たアースが弓を持ち、飯どころの屋根の上に立っているのが目に入る。
カイトがこちらを見たことに気づいたのか。彼はウィンクを一つするとまた矢をつがえて弓を射る。
「ストリームッ!」
モドキの攻撃をカウンターでアースが潰した瞬間。
キリトの斬撃の嵐がモドキを16度に分けて削ぎ落す。
肉が触手となって自身を襲う前に斬り落とす。魔法を使えない、使わない剣士がモドキを狩る上で最もオーソドックスな対処方法。
手数の多さでは恐らく拠点でも最速に近いキリトの斬撃は、モドキに反撃を許すこともなくモドキの右半身を刻んだ。
痛覚はあるのか悲鳴を上げるモドキ。噴射口に矢が刺さったままゆらゆらと揺れる頭。
「魔双邪哭斬!」
「ハイスラァッ!」
そんな好機を見逃すはずもなく。ブロントのグラットンソードがモドキの頭に叩き込まれ、間髪入れずにカイトの魔双邪哭斬が左半身を切り刻む。
叩き潰された頭。刻まれた全身。再生する間もなく寸刻みにされ続け一撃必殺の威力を持つ一撃も弓矢に封じられた。
モドキは足掻く様に全身から触手を伸ばして彼らから逃げようとするも、それらの動きは全て輝く糸のような魔法で防がれる。
「《アストラルバインド》。間に合ったか、良かった」
「シロエさん!」
「皆、助かったよ。モモンガさん、迎撃に出るって飛び出してったんだけどね……」
「あっちの森に……落ちてきました」
「ははは……後で探しに行かないと」
頬をひくひくとさせながら笑うシロエ。雑談に興じるようにしながら、彼の指と杖は淀みなくモドキを拘束するように魔法を飛ばしていく。
継続ダメージのある魔法を使ったのだろう。再生する度にダメージを与えられ、触手を生やす事も出来ず。
剣士たちからの追撃も受け、モドキはどんどんその体積を削られていった。
「このまま削り切って、カイト君の魔法で終わらせるのがベストだね」
「そうですね……いえ、待ってください」
「うん?」
詰んだ。そう確信したシロエの言葉に周囲が安堵する中、一つある事を思いついたカイトが己の右手を見る。
或いは、もしかしたら。この体はアバターであるカイトの物である。その服装や所持品から、それは間違いないと彼は確信していた。
だったら。出来るはずだ。
己のアバターに宿るイリーガルスキル。TheWorldの女神アウラから託されたもの。一度は失い、そして再び授けられた腕輪の力。
そして、現状をもしかしたら打破できるかもしれない。恐らく自身がここで行うべき役割。
「シロエさん、そのまま、拘束していて貰えますか」
「……カイト君、それは」
「もしかしたら、皆の助けになるかもしれない。試したいんです」
輝く様に現れた巨大な”腕輪”を右手に宿し、カイトはシロエを見る。
そんなカイトの様子。そして”腕輪”の存在にシロエは少し考えるように口元に手をやり、すぐにカイトに頷く形で返事を返した。
「なら、任せよう」
「おいぃ真っ黒クロエ」
「拘束はそのまましておくよ。後今度それ言ったら飯抜きって約束したよね」
「ごえんあさい;」
黄金の鉄の塊が物凄い勢いで折れ曲がっているのを尻目に、カイトは”腕輪”の感触を確かめるように右腕を見る。
予想以上に違和感がない。まるで元から自分に備わっている器官であるかのように腕輪が彼と一体化しているのを感じる。
これなら、恐らくは問題なく使える。
後は、結果次第だろう。
右腕を拘束されたモドキに向ける。巨大化し、広がる腕輪の端末。
周囲の人々が何事が起きるのかと息を呑む中。カイトの呟くような声が響く。
「データドレイン」
右腕から青い電脳の奔流が放たれた。それはレーザーの様にモドキを貫き、そして何かを引きずり出すようにモドキの中を駆け巡ると、今度は逆流してカイトに向かい迸る。
「カイト!」
キリトはその光景に焦りの声を上げた。そんな彼の声にカイトは笑みを浮かべて、心配ないと目で答える。
事実、痛みはなかった。ただ、力。流れ込んでくる純粋な力の塊の扱いに苦慮しながら、カイトは右腕の腕輪を操る。
少しずつ、青い電脳の奔流は腕輪の中に消えていき。やがて全てが腕輪に納められたとき、カイトの右腕には一振りの剣が握りしめられていた。
少し残念に思いながら手の中の剣を見る。これはモドキから力――データを抽出し作り出したアイテムだ。
場合によってはこれで食料が手に入らないかと思ったのだが、そう上手く事は運ばなかったらしい。
「カイト君」
「シロエさん。すみません、思った結果が」
「素ん晴らしいっ!」
「へ?」
シロエはカイトに駆け寄って両手を握ると、ぶんぶんと上下に振り回す。握手なのだろうか、やたらと大仰である。
「こんな事が出来るなんて君はなんて素晴らしいんだ! ブロント係が出来そうなだけで大当たりだというのに」
「おいぃ」
「あ、いえ。喜んで貰えたら……いや、でも結果食べ物じゃ」
「十分すぎるよ、あれだけ大きな豚なら!」
「へ?」
叫ぶシロエの言葉に呆気にとられたような顔をするカイト。
シロエが指さす方を見ると、そこには先ほどデータドレインを行ったモドキ……ではなく、大きな体躯の豚が一匹横たわっていた。
その首筋には一本の弓矢。アースの技が光る光景である。
「豚は食べられる個所がたくさんあるんだ。油も取れるし骨もトンコツスープに使えるし何よりも肉が食べられる!!! 久しぶりに!!!」
「待て、まずは血抜きだ! 処理を怠ったら折角の新鮮な肉が駄目になってしまう!」
「キリト君、ブロント、急いで飯所に運ぶぞ!」
「「アラホラサッサー」」
駆け寄ってきたアースの指示に従い、剣を収めたキリトとブロントが豚を抱えるようにして急ぎ足で去っていく。
その後ろをスキップするような足取りで歩いていくシロエとアース。いや、実際に途中からスキップしていたのかもしれない。
後に残されたカイトは事態が飲み込めずにぱちくりと瞬きをし、自分が持っている剣を見て――難しい事を考えるのは一先ずやめておこうと結論を下し、シロエ達の後をついていった。
完全に忘れ去られた形になるモモンガが戻ってきて早々祭り状態になっている食堂で盛大に機嫌を損ねる事になるのは、また別のお話。
記憶の底から引きずり出しているので各キャラの口調やアイテムが出てこなくて困る(白目)
情報提供してくれた皆さん、ありがとう!ありがとう!