ネトゲ系主人公他が大変雑に異世界に放り込まれたようです   作:ぱちぱち

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誤字修正。酒井悠人様、あんころ(餅)様ありがとうございます!


ブラック労働は撲滅されなければいけない

「ハイスラァッ!」

 

 ブロントの雄たけびと共に放たれた剣撃が巨人の姿をしたモドキの足を切り裂き、モドキはガクリと膝をつく様に地面に倒れこむ。その隙を逃さずにキリトが逆の足を刻み、体勢を立て直そうとするモドキの動きを阻害する。

 

「おつさん!」

「あいよ。おっさん……か。とほほ」

 

 ブロントの言葉に嘆くような言葉を呟きながら、アースの指は慣れた手つきで矢を放ち続けモドキの視界と行動の起点を潰し続ける。

 

 彼ら二人がここに墜ちてきて早数週間。幾度も繰り返したモドキに対する対処法は、すでに体に染みついたと言えるレベルにまで発展している。

 

 稀に良く出る口ありの上位種――先日のごちそう()のような奴は兎も角として、ただその体のみを武器とする通常のモドキ等は全身から湧き出る触手にさえ気を付ければ怖い相手ではない。

 

 まぁ、これまでは騎士であるブロントと狩人スタイルのアースでは基本的にモドキを削り殺す事が出来ず千日手となってしまう為に、ある程度削った辺りでモモンガ等の大規模破壊が可能な人物の止めを、というのがこれまでのスタンスだった。

 

「そろそろ良いかねぇ」

「今のハメは俺のシマでも有効」

「ま、リスクは限りなく抑えるのが狩りだしね。カイト君!」

「はい!」

 

 最もそれはつい数日前までの話。

 

 カイトが落ちてきたあの日から、貴重な資源獲得手段を手に入れた彼ら墜落者達にとって、モドキは脅威から採取に手間がかかる資源へとその価値を変貌させていた。

 

 削り役二人の声に答える様に今回は控えに甘んじていたカイトの声が森を走る。ヘイトを集めないように二人への支援に徹していたカイトは完全にノーマークの状態で右手の腕輪を発動させ。

 

 一度発動してしまえば同じ能力の持ち主でなければまず回避できない、改変の砲撃がモドキを貫いた。

 

 

 

「で、出てきたのが彼ら、と」

「放置しとくわけにもいかんしなぁ」

 

 手に持つ羽ペンを悩ましそうに指で弄りながら、シロエは報告に来たアースの言葉に口をへの字に曲げながら頷きを返し、彼の後ろで震える様にこちらを見上げる毛深い犬顔の小人(推定コボルト)に視線をおくる。

 

「こぼぉ……」

「ああ、大丈夫。君の事を食べようとしてるんじゃないから」

「こぼっ!?」

 

 へらっと笑うアースの言葉に驚愕した、とばかりの声を上げるコボルト。そのやり取りを眺めながら、シロエは最近日に何十度も呟く「物資がなぁ」という言葉を呟き、小さくため息をついた。

 

 もしもこれが一人二人ならシロエもここまで悩まなかった。だが、一匹二匹で済まなかった事が現状の問題なのだ。

 

 データドレインという新たな可能性を手に入れてから彼らは積極的に周辺のモドキを狩り続けた。結果、巨人型モドキは10ちょい、四足獣のような姿をしたモドキが8、そして口ありの上位種が3、という結果になった。

 

 四つ足のモドキは良かった。馬や牛、豚。それに中には熊といった存在もおり、後々にも役立ちそうな馬や牛以外は早速彼ら墜落者達の空腹を満たす為にここにいるアースの手で食料へと姿を変えている。

 

 そう、四つ足のモドキまでは良かったのだ。

 

 問題は巨人型と……そして上位種。いや、上位種3体の内の1体の中身。未だに眠り続けている”彼”の存在。

 

「モドキに取り込まれたらどうなるか……か」

 

 目の前でシロエとアースの会話を震えながら見るコボルトに視線を向け、シロエは眉を寄せる。

 

 人手が増える事自体は歓迎すべきことだ。いつまでもモモンガの生み出すアンデッドに頼り切りというのも問題があるし、コストなしで生み出せるアンデッドは正直それほど強いものではない。

 

 モドキの特性――恐らくだが他の存在を取り込む――といった物が明らかになった以上、無駄に弱いアンデッドモンスターを増やしてモドキの数を増やすのも面白い話ではないのだ。

 

 勿論アンデッドがモドキに取り込まれるかは不明であるが、可能性が出てきた以上は対処を考えておくのがシロエの性分であり、この拠点を維持している者としての責務でもある。

 

「家畜の数がもっと多ければ文句はなかったんだけどなぁ」

「そりゃあな。ま、だがこの近隣のモドキは粗方狩り尽くしたし……悪い話ばかりでもなかったろ?」

 

 そう言ってアースは手に持った”赤い木の実”をシャクリと齧り、ひょいっとシロエに向かって放り投げる。

 

 それを左手で受け取ったシロエは戸惑うことなく木の実を齧り……数週間ぶりの甘味に表情を綻ばせた。

 

「モドキをデータドレインで駆逐した周辺の木々は、鋼から普通の樹木に姿を変えていった。その木の実……多分りんごの仲間もな。そして、樹の一部だと思っていた小動物たちが姿を現した。こっからは俺の推測なんだが」

 

 戦闘班と同行する形で周辺の地形を認めていたのだろう。手書きらしき地図を手に取り、シロエの前に広げながらアースは言葉を続ける。

 

「ここと、ここ。それと、ここ。何だかわかるか?」

「いや……すみません、分かりませんね」

 

 彼の広げた地図に書き込まれたポイント。モドキが陣取っていた部分に〇のマークを付けられたそれにシロエは「後でこれ写本させてもらおう」と考えながら首を傾げる。

 

 シロエの言葉にさもありなん、と頷いてアースはその〇の近くに☆のマークを書き込んでいく。

 

「この☆のマークが入ってる所な」

「ええ」

「俺らが落ちてきた場所」

「……マジっすか」

「ああ。少なくとも俺とブロント、それにカイト君は間違いない。後の子は微妙に合流前に動いてたからわからん。あ、カイト君の場合も相手が移動してきたから正確にここかはわからんがまぁ連中の知覚範囲だったのは間違いない」

 

 現在判明している限り、連中の知覚は視力や聴力に頼っている場合が殆どである。

 

 つまり、ごく限られた範囲でしか連中はこちらの姿を確認する事が出来ていない、という事になるわけだ。

 

「連中から解放した範囲の状況を見るに、明らかにあいつらはこの世界にとって異物だ。この世界がどういった世界かは知らないが、幾ら何でもあんなのが自然に発生するとは考えられないからな。で、そのすぐ傍に俺らが墜ちてきた……と」

 

 ポリポリと頭を掻きながら、アースは小さくため息をつく。

 

「俺達がこの世界に墜ちた理由、何となくわかってきた気がしないか?」

 

 その言葉にシロエは頷きを返し――そして本日何度目かもわからないため息をついた。

 

 

 

「おまえもっと権虚さを見せるべき。こnままだと闇に塗れて死ぬ」

「いきなりどうした」

 

 シロエとの相談を終え、さてこのコボルトをコボルト達の為に立てた犬小屋と名付けられた(ブロント命名)平小屋に連れていくかとログハウスを出たら、待ち構えていたブロントがアースの行く道を遮るように立つ。

 

 眉を寄せるアースにブロントは再度同じ言葉を繰り返し、その返事を待つように彼の顔を睨みつける。

 

 態度と口調こそ悪いが、この浅黒い肌を持つエルフ?がそれほど悪意ある人物じゃない事はアースも理解している。ただ、彼の特徴的すぎる口下手とむすっとしたデフォルトの表情のせいで彼が言いたいことを理解するのは非常に難しいのだ。

 

 背後に連れているコボルトの「コ、コボォ~?」という戸惑いの声に頷きを返し、さてどうしたものか。と頭を悩ませるアースの視界の端に、特徴的なオレンジの色をした少年の姿が入ってくる。

 

「ああ、ちょうどいい所に。カイト君。ちょっと来てもらえないか?」

 

 餅は餅屋。何故か彼の言いたい事が理解できるらしいブロント係(カイト君)に間に入ってもらうとしよう。

 

 呼び止められたカイトはキョトン、とした表情でこちらを振り向き――そこに居る人間たちの姿に苦笑を浮かべて歩み寄ってくる。ええ子である。同じ状況なら他の人々は大概足早に去ろうとするだろう。

 

「いえ……前の仲間達でこういった事は慣れてますんで」

「それ慣れちゃダメな奴じゃないかな?」

「ハァ? ナイトはさらに憧れられるぞんざいだから」

「勝っちゃダメな勝負だぞ!?」

 

 無駄に対抗心を出そうとするブロントに言葉を返して、アースははたと気づく。

 

 今のやり取り、普段は理解するまで時間がかかるのにするっと自分の頭の中に入っていった。これがブロント係(カイト君)の力という事か。

 

 自身も無駄に戦慄しているアースを尻目に、カイトはブロントに話しかけ彼に対してブロントも一言、二言といった形で返事を返す。

 

 やがてブロント側から必要な事を聞いたのか。「成程」と小さく頷いて、カイトはアースに視線を向ける。

 

「アースさん」

「うん?」

「アースさんの今の受け持ちの仕事って、お伺いしても良いですか? 食堂と、後戦闘班の補助は僕も分かるんですが」

 

 言いづらい事を尋ねるようにカイトはそう尋ね、上目遣いでアースに視線を向ける。

 

 その言葉に正気に返り、アースはぽりぽりと顎下を指で掻きながら宙に視線を這わせる。果て、食堂と戦闘班の補助。それ以外の仕事、というと。

 

「鍛冶スキル持ちが居ないから鍛冶師だろ、それに木工スキルもあるから大工もやってるな。あ、あと森の状況が戻ってきてるから群生してる薬草の種類によっては薬剤師の手伝いも」

「わかりました。ちょっとシロエさんに文句言ってきますね」

「待った待った待った!」

 

 拳を握りしめてずんずんと歩き始めるカイトを背後から羽交い絞めにしてアースはそう叫ぶ。

 

 その叫びに周辺を歩いていた人々が何事かと彼らに視線を向けているが、ヒートアップしたカイトは止まらない。

 

「いやいや待ったじゃないですよ。一人に振られる役割が余りに多すぎる。アースさんが倒れたら何もできなくなるじゃないですか!」

「あー、うん。いや、俺元々一人で何でもできる器用貧乏型でロールプレイしてたからそういったスキルがあるけど、他の皆は難しいだろ。こういうの」

「それなら今から覚えていけばいいじゃないですか。少なくとも戦闘班の補助は削って、後の仕事も適性を見て少しずつ覚えれば」

「それは勿論俺達も考えたよ。でも、出来ないんだ」

 

 カイトの言葉に、アースではなく別の方向から声が飛んだ。

 

 その場にいた全員の視線がそちらに向き、そしてその場にいた人物の名をカイトが口にする。

 

「シロエさん!」

 

 その声に右手を軽く上げて答えて、さて困ったぞ。とばかりにシロエは苦笑いを浮かべる。

 

「いや、うん。カイト君が言いたいことも分かるし、俺達だってただ時間を過ごしていたわけじゃないんだ」

「でも!」

「失敗するんだよ。スキル持ち以外がやると」

 

 シロエに食って掛かるようにカイトが声を上げるが、アースの言葉が響く。

 

 再び周囲の視線を集めたアースは眉を寄せて言葉を続ける。彼にとっても今の現状――生産能力を持った人物の少なさは問題だと感じているのだ。

 

 だが、彼らもここまで遊んでいたわけではない。カイトが来る前、人員の割り振りに関しては何度も彼ら全体で話し合っていたし、何ならここで問題提起をしたブロントだってその話し合いには参加していた。

 

 だが、それらの話し合いを何度持っても結果は同じだったのだ。

 

「スキル持ち以外が料理を行おうとしても味は変わらない。精々塩を上からかけて塩味にするくらいだし、塩だって貴重品だからそうそう試せない。鍛冶はマジックハウス内の簡易炉で行っているが、こっちは良くて武器が劣化。悪ければ壊れちまう。大工に至っては材料を切り出す以外の作業を行えば材料自体が壊れちまう」

 

 ハハハ、と乾いた笑いを浮かべるアースは少し疲れた顔でそう言いながら一つ一つの理由を指折り数え、そして最後にため息をついた。

 

「おまえそれでいいのか? このmま寿命がマッハするのは火を見るより確定的に明らか」

「いいわけないだろ。こんな日本のブラック企業並みの状況ごめんだっつーの……どうしようもないんだよ」

 

 ブロントの言葉に苛立ちながらアースがそう返すも、その言葉には力がない。アースの体は現実の彼の体よりも体力にあふれた肉体だが、それとて限界がある。割と初期に墜ちてきた彼はそろそろひと月、この自転車操業のような状況を走り続けているのだ。

 

 いつか自分にだって限界は来る。多少余裕が出来た今こそ対策をしなければいけない。だが、その対策を打ちようがない。

 

 どうしようもないという危機感と閉塞感だけが彼らの胸を満たしていく。

 

 

「だが、ブラック労働は根絶せねばいけない!」

 

 

 ただ一人を除いて。

 

「モモンガさん!」

 

 うつむく一同の頭上から響き渡る力強い声。見上げると、そこには周辺の見回りから戻ってきたのだろうモモンガの姿がある。

 

 小脇に少女を抱えたモモンガは自身に視線が向かっているのを見回して確認すると、小さく頷いて自由な右手を天に振り上げ、大きく声を張り上げる。

 

「くたばれブラック企業! ホワイト労働万歳!」

「え、えっと。ば、バンザーイ」

「バンザイすればいいのか?」

「トラウマ掘り返されてるだけだからカイト君もそこの君も付き合わないで良いよ」

 

 稀に良くあるモモンガの奇行にやれやれと首を振りながら、シロエは付き合い良く両手を掲げる二人に言葉をかける。

 

 そしてモモンガの連れてきた少女に目をやり、それが自分の知らない人物だと気づいたシロエはパチクリと眼鏡の奥の目を瞬かせると未だに演説を行う骨に声をかける。

 

「モモンガさん。いやさサトルさん。少女を誘拐してくるなんて見損ないましたよ」

「ちょおおおっとシロエ君外聞が悪すぎるなぁその言い方は」

「俺この骨に誘拐されたの?」

「いや違うからね!?」

 

 慌てたように少女を地面に下し、モモンガはあたふたと手を振って自分の無実をアピールし始めた。

 

 まぁこの何だかんだで人間味を捨てきれないアンデッドがそういった犯罪チックな行為を行う事はないだろうと、ここにいる面々は理解しているのだが。

 

 とはいえ落ち込んだ空気を入れ替える良いタイミングでの乱入だったため、シロエはモモンガの存在を最大限生かす方向に舵を切り。結果モモンガは少女誘拐の濡れ衣を全力で弁明する羽目になった。

 

 勿論誤解はすぐに解けるのだが。

 

「酷いよ皆。一生懸命仕事して帰ってきたのに……」

「すみません、つい乗ってしまって」

「権力者にはへたにさかららない方がいいとおもう」

「俺一応ここのリーダー格だよね?」

 

 自分の扱いにモモンガが疑問符を上げる中。少女があのぉ、と小さく手を上げて周囲に声をかける。

 

「モモンガさんから、軽くお話を聞いたんですが」

「あ、ああ。君もどこかのゲームのPCかな。ええと、僕はシロ」

「生産職が足りないんですよね。俺、状況はまだ理解できてませんが料理とかお役に立てると思います」

「総員、全力で確保だっ!」

「落ち着け。お前さんが犯罪者になってどうする」

 

 飛び掛かろうとしたシロエを背後から羽交い絞めにしてアースが落ち着くようシロエに声をかける。

 

 尚もわめきたてるシロエに「彼も追い詰められていたんだなぁ」と後でコーヒーでも差し入れてやろうと決意し、アースは少女に視線を向けた。

 

 成程、パッと見では分からなかったが、恐らく魔法を付与された武具を身に着けているため彼らと同じ墜落者だろうか。生産職という事はこれらも自作の可能性がある。期待できそうだ。

 

「ええと、俺が今ここの拠点の生産関係を一任されてるアースだ。まだ状況を呑み込めてないと思うが、よろしく」

 

 自身のブラック労働状況を改善できる可能性にアースの声も少しだけ弾ませて少女に声をかける。

 

「あ、はい。俺の名前はユン、です。よろしくお願いします!」

 

 シロエとアースのやり取りに若干引いた様子を見せながら、少女――ユンは、そう元気よく名乗りを上げた。

 




若干尻切れトンボな感じですがここでいったん区切り。

ユン:オンリーセンスオンラインの不遇スキルマニア(違)
   尚中身は男。

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