鋼殻のレギオス”The edge of Army”   作:りこぴん

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衝動的に書き始めました。
不定期更新です。


天剣争奪戦

昔、孤児院の先生に連れられて見に行った試合。

記憶は朧げで対戦者の名前すら思い出せないが、一つだけはっきりと鮮明に、その時の一挙一動すら思い出せることがある。

"レイフォン・アルセイフ"。

眠たげな雰囲気にあまり手入れしていないであろうボサボサの髪。

歳は自分と同じくらいで、また出身も孤児らしい。

同じ孤児院の仲間達が賑やかに応援する中、一言も発することなく彼を見詰めていた。

運命という言葉を信じるなら、この時ほど運命を感じたことはない。

大多数の周りが対戦者の勝利を疑わない中、たった一人確信していた。

彼が負けるはずはない、相手にすらならないだろうと。

今思い出せば、あの時そう感じることが出来たのは"剄"の才能があったからだろう。

武芸者と呼ばれる存在にのみ許された人知を超えた力。

その力が彼を、只者ではないと伝えていたのだ。

予想通り、試合は一方的な展開だった。いや、あれはもはや試合とは呼べないものだろう。

試合開始と同時に彼は、相手の武芸者を場外へと吹き飛ばしてしまったのだから。

子供とは無邪気なもので、孤児院の仲間達は静まり返る会場の中思い切り騒ぎ、彼を賞賛している。

 

その時だった。

声が聞こえたのだろうか、彼は此方を振り返ったのだ。

更に騒ぐ仲間たちの姿に照れたように頬をかくと、こちらに手を振り返す。

憧れた、素敵だった、自分も彼のようになりたかった。

"レイフォン・アルセイフ"が天剣授受者に抜擢されたのは、それからまもなくたっての事だった。

 

あれから自分に出来ることは何でもした。死にかけたことなど一度や二度じゃ足りない。

とにかく彼に近づきたかった、声を掛けて欲しかった、彼の世界に入りたかった。

様々な流派の門を叩き、力を磨き技術を盗みそれらをモノにする。

禁術に手をだし破門にされたり、殺されそうになったこともあった。

しかし時が経つにつれ周りの武芸者は自分に手を出すことが出来なくなっていた。

上を歩いていた人達が地に這い蹲り、殺さないでと何度も懇願した相手が自分に殺さないでくれと叫び始める。

グレンダンの中に自分に対抗できる力を持った武芸者は日に日に減ってゆき、天剣授受者を有力視されて来たのはその頃からだった。

これでようやく彼と話すことが出来る、彼の世界に入れる。

あの試合以来感じていなかった高揚感が、身体を包み込み始めていた。嫌な噂を耳にしたのはその頃だった。

天剣授受者"レイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフ"は違法な賭け試合に手をだし、天剣を追放されたらしい。

その事を知ったのは偶然だった。少し前まで同じ流派だった武芸者達が話しているのを聞いてしまい、しかしそんなはずはないと自分に言い聞かせた。

天剣授受者に任命されたのは時をほぼ同じくした頃だった。

レイフォンの後釜として天剣に選ばれたのが自分だった、と同じ天剣であるサヴァリスから聞かされ、その話が真実であると知ってしまった。

あの時のことは今も思い出したくない。

絶望感が身体を包み込み、全ての気力を奪い去っていった。

今まで積み上げてきたもの、それが音を立てて崩れ落ちていった。

あの時、同じ天剣授受者であるリンテンスが漏らした言葉が無ければきっと自分は立ち直れなかっただろう。

気力を失いただ呆然と日々を過ごしていた所に、不意にリンテンスが現れ言ったのだ。

 

レイフォンの居場所を知っている、と。俺が認めるほど強くなったら教えてやる、と。

今になってもリンテンスの心は分からない。ほんの気まぐれだったのかもしれないし、見ていられなかったのかもしれない。

しかしその言葉は一筋の光のように自分の行く末を照らしてくれた。

身体に立ち上がる力を、剄に輝きを与えてくれた。

今までと何もやることは変わらない。技術を盗み、力を磨く。ただ相手が天剣になっただけの違いだ。

他の天剣に比べ幼い自分を警戒する者は殆どおらず、技術は簡単に見ることが出来た。

トロイアット辺りには、容姿も有効だったのかもしれない。女であることを良く思ったことは無かったが、この時ばかりは容姿の整った女に産んでくれたことを顔も名前も知らない両親に感謝した。

見るのは簡単だったが、習得するのは非常に大変だった。

今までに積み上げてきた努力なんて笑えてしまうくらい、鍛錬に鍛錬を重ねた。覚えられた技術は決して多くはなかったが、それでも日に日に高まる自分の力を信じてがむしゃらに努力した。

やがて天剣の中で警戒される程、自分の力は増していた。しかしもう関係ない、彼らの中で自分に役に立ちそうな技術は盗み終わってしまったのだから。

そしてついに先日死闘の末、致命傷に近い傷を負いながらもリンテンスに認められることが出来た。

 

曰く、彼はつい最近遠くの学園都市へと留学したらしい。

そこに行くのはそんなに難しいことではない。しかし、邪魔なものと懸念が1つずつ存在していた。

 

 

それを片付けるために、今僕はこの場所に立っている。

 

『それでは、これより天剣授受者"イリス・ヴォルフシュテイン・ウルル"対"ゲオルク・ローラント"の天剣争奪戦を行います。両者、前へ』

 

控えから舞台に上がると、掘りの深い顔に傷を負った武芸者が現れる。

しかし相手に興味はない。これから戦う相手が誰であろうと、結果に変わりはないのだから。

 

「短い間だけど、よろしくと言っておくよ」

「......ふん」

 

『試合、開始!』

 

男が不快そうに顔を顰めた瞬間、アナウンスが入る。

全く、もう少しタイミングを考えて欲しい。

錬金鋼を復元し相手の方を向くと、男は既にガンドレット型の錬金鋼を復元し此方に走り出していた。

......遅い、遅すぎる。

同じタイプの天剣を持つサヴァリスと比べても、その速度は半分行っているかどうか。

武芸者で見ればかなりの上位かもしれないが、生憎と天剣は化物の集まりだ。

サヴァリスなんか、興味が無くなったのか会場から出ていこうとしているくらいだ。

ようやく目の前に来た男が、剄を手甲に集中させ振りかぶる。

放たれる技は気縮爆といったところか。

これからやることを考えれば、丁度いい。

剄を足に凝縮し、推進力とする。ちらりと上を見れば、僕の勝利を確信しているのか各自思い思いのことを始めようとする天剣達の姿があった。

 

待っててよ、もうすぐびっくりさせてあげるからさ。

男が拳を振り下ろすと同時に、剄が爆発する。

 

――――外力系衝剄化錬変化"気縮爆"。

                            

爆発がその場を支配するのと同時に、足に集中させた剄を爆発させ"後ろに向かって"全力で飛ぶ。

凄まじい速さで空を駆けた身体は、とんでもない轟音を立てて壁に激突、壁を大きく崩した所でようやく停止した。

観客も、天剣すらも動きを止めてその場で起こった事実を処理しようとしている。

見ていて少し面白い。

 

『しゅっ、瞬殺―――!ゲオルク選手、イリス・ヴォルフシュテイン・ウルル選手を一撃で場外まで吹き飛ばしました!!規定時間内にイリス選手が戻らない場合は失格となりますが......』

 

視線が此方に集中する前に目を閉じる。

戻るわけがない、ここで戻ったら全てが水の泡になってしまうのに。

それから十数秒後、喧騒と共に天剣授受者イリス・ヴォルフシュテイン・ウルルとしての僕の生命は終了した。

 




やってしまいました。
完結していない小説2つを同時投稿......。
久々にレギオスのオープニングを見てしまったら衝動で出来上がってしまいました。
3/5追記.
時系列についてです。
この小説では、レイフォンが天剣を失ってからツェルニに旅立つまでが原作と比べて長めになっています。
つまり原作より年齢が若い頃に天剣を失ったことになります。
ご指摘して下さった方々大変ありがとうございます。
違和感を感じさせてしまい大変申し訳ございません。
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