鋼殻のレギオス”The edge of Army”   作:りこぴん

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お気に入りの数がたくさん増えてて驚きました。ありがとうございます。
不定期になりがちですが、更新できるときは一気に更新しようと思います。


手紙

汚染獣という危機から無事逃れ、ようやく訪れた平穏。

街にはようやく普段通りの活気が戻り、人々は普段通りの日常へと帰りつつあった。

しかし第十七小隊に限ってはそうもいかなかった。

 

「見ろよこれ。イリスちゃんがでかでかと一面を飾ってるぜ」

「こちらも......"謎多き少女、イリス・ウルルに迫る"だそうです」

 

汚染獣を討伐したとき、イリスは余りに多くの武芸者に姿を見られすぎた。

崩壊しそうな戦線の中颯爽と現れ、あっという間に汚染獣を殲滅して見せたイリスの姿は、様々な所で語られることとなる。

そして当然の成り行きというか、その話には尾ひれが次々と付いていった。

曰く、白銀の翼を身に纏っていただとか、ひと睨みで汚染獣を消し去ったとか。

更に母体を殺した人間を知るのは生徒会長等ごく一部であったのが災いし、母体を始末したのはイリスなのだという真しとやかな噂が流れるほどである。

今ツェルニで、イリスは時の人と化していた。

 

しかし当の本人はあまり気にしていない様子で、フェリの持つ記事を後ろから覗き込んでいた。

 

「わ、いつの間に撮られたんだろう?」

 

僕に気配を気付かせずに撮るとはなかなか......なんてね。

遠くから取れば普通に気づけないけれど。

 

「"そうすると彼女は、まるで汚染獣が何処にいるのか分かっているかのように迷いのない眼差しで"......すごいね僕、念威操者になったみたいだよ」

 

フェリの強い希望で、今回の件にフェリが関わっていることは公になっていない。

知っているのは僕達と、生徒会長くらいかな?フェリは生徒会長にすらバレたくなかったみたいだけど、上手くいかなかったみたい。

母体の方はある意味予想通り。

あれだけ派手にやればこうなるのも想像通り、これで僕が喋らない限りレイフォンがひどく目立つことはないだろう。

決してニーナが危ない目にあった仕返しに少しやり過ぎたなんてことはない、ないよ。

 

「これはほとぼりが冷めるまで待つしかねぇな。どうせ一週間もすれば対抗試合がまた始まる。そうすりゃ少しはましになるだろ」

 

シャーニッドはそう言ってイリスの肩をぽんぽんと叩く。

 

「そうだね。そうするよ」

 

イリスは肩をすくめると雑誌から目をあげ、そして練武館の方へと目を向けた。

 

そこでは、レイフォンとニーナが互いに向かい合い武器をぶつけ合っていた。

 

 

 

 

今日は大切な話があると言われ、比較的早めの時間帯から全員が練武館に集合していた。

フェリやシャーニッドも居るのにニーナがいないなんて、不思議な気分だ。

とはいえ何をするかも知らされておらず、主にシャーニッドと雑談に花を咲かせていると、練武館の扉が勢いよく開いた。

現れたのは想像通りニーナだったが、その表情はとても険しく主に僕、そしてレイフォンに向けられている。

僕、なにかしたっけ?

レイフォンに視線を向けるも、心当たりはなさそうだった。

ニーナはそのままずんずんと、まるで掴みかからんばかりの雰囲気で近づいて来る。

そして思わず身構える僕達に向かって、勢いよく頭を下げた。

 

「レイフォン!イリス!私を鍛えてくれ!!」

 

......ええ?

思わずぽかんとなり目を合わせる僕とレイフォンだったが、ニーナは止まらない。

 

「図々しいお願いだという事はわかってる!私に出来ることならなんでもしよう!だから頼む!私を鍛えてくれ!」

「お、落ち着いて下さい先輩!」

 

怒涛の勢いで喋るニーナを、レイフォンが慌てて引き止める。

レイフォンの言葉に、ニーナはようやく幾ばくか落ち着きを取り戻した様子だった。

 

「ニーナ、どうして急に?」

 

以前から気になったことがあれば時々言うようにしていたが、ニーナから教えて欲しいと来るのは初めてだった。

その問にニーナは目を伏せ、しかしすぐに顔を上げる。

 

「汚染獣と戦っているとき、私はイリスが来なければ死んでいた。そして気づいた、いや気付かされたんだ。ツェルニを守りたいという意志はあっても、その実力が全く足りていないことに」

 

あの時のニーナはどこか様子がおかしかった。

死にそうな目にあったからだろうと思いながらあの場を離れたけど、ニーナは僕が思っているより強く、前を向いていたようだった。

 

「だからこそ私は強くなりたいんだ。強くなってこの手でツェルニを守りたい。そして、お前達が安心して戦えるような隊長になりたいんだ」

「先輩......」

 

レイフォンは驚き、しかしどこか嬉しそうな様子だった。

だからレイフォンが次にいう言葉は、なんとなく予想が付いていた。

 

「わかりました。僕で良ければお手伝いさせて頂きます」

「本当か!」

 

ニーナは手を取らんばかりの様子で喜ぶ。

レイフォンとニーナも最初こそギクシャクしていたけど、今じゃすっかり......というか、前より仲良くなっているくらいだ。

 

「イリスは、駄目か?」

 

そんな二人を観察していると、ニーナがこっちにも振り返った。

普段の強気な様子はなりを潜め、僕が何を返すか不安そうに待っている。

何だか、悪いことをしちゃっているような気分になるよ。

 

「レイフォンが居れば僕なんていらないと思うけど......いや、受けたくない訳じゃないんだよ?」

 

僕に出来てレイフォンに出来ないことなんて、まぁ無いだろう。

しかし、ニーナは首を横に振った。

 

「そんなことはない。例えば同じ技術だとしても、会得する過程は人によって違うだろう?それに......個人の感情として、イリスからも教えてもらいたいんだ」

 

ニーナはそういって頭を下げる。

なんだか不思議な気分だった。

天剣になる以前、天剣になってからはより僕に教えを乞う人なんていなかったのに。

ニーナは武芸者として、隊長として。僕達に食らいつこうとしてくれている。

 

「分かった、受けるよ」

「本当か!」

 

嬉しそうに笑うニーナに頷きレイフォンの方を向くと、彼も何処か嬉しそうに見えた。

でもまだ受けるかどうか確定はしてない。

僕やニーナのやる気以前に、少し困った問題があるのだ。

 

「でも僕の剄はちょっと特殊なんだ。だからニーナに教えられることがあるかどうか......だから、まずはそれを確かめたいな」

「特殊?」

 

不思議そうな表情をするニーナはひとまず置いておいてレイフォンへと耳打ちする。

レイフォンは迷った後、頷き返してくれた。

最悪の場合自分でやることも考えていただけに、それはとてもありがたい。

指をあげ、その指にニーナが注目した瞬間にレイフォンを指差す。

 

「だから、レイフォンと模擬戦をしてみてよ」

 

ニーナは表情を引き締め、武器を握った。

 

 

あれから20分程度がたっただろうか。

二人は変わらず武器をぶつけ合っているが、ニーナの方は遠くからでも疲労の色が見て取れた。

見てて思ったけれど、レイフォンはなかなかに教えるのが上手い。

ニーナの行動によって、注意が疎かになりがちな部分を的確に突いた攻撃をしている。

その為ニーナは全ての部分に気を払っていなければならず、結果疲労の蓄積がはやい。

でも得られることもきっと多いはずだ。

けれど、そろそろ潮時かな。

ニーナの疲労も相当なものだろうし、怪我をしてしまっても困る。

シャーニッドやフェリも思い思いのことを始めちゃったしね。

 

立ち上がると、それを横目で確認したレイフォンがニーナに一言二言話しかける。

するとニーナは錬金鋼を待機状態に戻し、そのまま地面に突っ伏した。

 

「ニーナ、お疲れ様。どうだった?」

 

水を差し出しながら尋ねると、ニーナは礼をいいつつ浴びるようにそれを飲み干した。

そして上半身を起こし、ほぅと息を吐く。

 

「まるで......壊れない壁のような感じだった。どんな手段を使っても、少しも勝てる気がしなかったよ......」

「でも先輩、とてもいい動きでしたよ。途中何度かひやっとしました」

 

ニーナの独白にレイフォンがそうフォローを返す。

確かに、途中けっこう良い動きをしている場面が何度もあった。

それを置いても、ニーナの動きは悪くない。

でも。

 

「結論から言うと、ごめん。訓練には付き合うし基礎的なことなら教えられるけど、本格的なことはレイフォンから教わって欲しい」

 

そう言うと、ニーナは悲しそうな様子で目を伏せた。

 

「どこがダメだったんだ?レイフォンも認めるくらい良い動きだったし、イリスちゃんも時々褒めてたじゃねぇか」

 

イリスの後ろからついてきていたシャーニッドが言う。

その口調がどこか非難的なように感じるのは、実際にそうなのか僕の罪悪感からなのか。

でも僕だって、教えられる物なら教えたいんだよ。

 

「ニーナに問題はないよ。むしろあるのは僕の方......見て」

 

右手を掲げ、剄を放出する。

レイフォンは気付いたみたい。でも、とりあえずは最後までやっておこう。

手のひらから放出された剄は空中で形を変え、少しのブレもない綺麗な球体へと変化した。

レイフォンを含めた天剣でも僕しかできない、ちょっとした芸当だ。

女王陛下は底がしれないし、出来るかもしれないけど。

 

「僕は剄の量はあんまり多くない。勿論普通の武芸者から見れば多いんだろうけど、僕やレイフォンのような武芸者から見ればびっくりするくらい少ないんだ。けれど僕はそこにいる......答えが、これなんだ」

 

球体はまるで手品のように空中で自在に形を変える。

剄を体から完全に切り離して動かすだけでも、普通は凄まじい集中力が必要なのに。

皆は一言も喋らないまま、球体を注視している。

 

「僕の剄は普通じゃ考えられないくらい密度が濃い。普通、剄に密度なんて概念はないんだけどね。みんなが剄技を放つ為に圧縮に圧縮を重ねたような剄が、そのまま体中を流れてる」

 

まるで流動する金属の如く。

とは言っても、僕からすればこれが普通だから良く分からないのだけれど。

実際、サヴァリスに言われてリンテンスに確かめられるまで僕も知らなかった訳だし。

 

「だから必然的に僕は剄をコントロールするような戦い方になる。でもニーナには、そういう戦い方より攻防はっきりした戦い方の方が合ってるみたい。そうなったら、概念だけわかってる僕より実際に使ってるレイフォンのほうが教わりやすいでしょ?教科書を読み上げる授業より、演習を交えた授業の方が理解しやすいのと一緒だよ」

 

概念を理解するより、実際にやってみた方が身に付けやすい。

特に武芸は経験がものを言うからね。

 

「勿論放っておくつもりはないよ?レイフォンがメイン。僕は補佐的なものだと思ってくれれば嬉しいな」

 

そう言うと、ニーナは納得顔で頷いて頭を下げた。

 

「ありがとう、十分だ。正直私にはこれをどうすれば出来るのか全く分からないからな......」

「僕もわかりません......」

 

剄の球体を見ながら苦笑するニーナに、レイフォンが同意する。

剄の塊は最後に小鳥の形をとると、イリスの手から飛び立って行った。

 

「剄の量が多い方が長く戦える場合も多いし、考えものだけどね」

 

コツを掴むまでは何度も倒れたし。

あの頃は辛かったなぁ。

 

「......では、早速で悪いが明日から頼む。シャーニッド、お前もやるんだからきちんと来るんだぞ」

「うへぇ、まじかよ」

 

物思いにふけっていると、いつの間にか話が纏まっていた。

明日から......ひとまず、どんな訓練をするかレイフォンと話さないとね。

 

 

 

明日からということで本日は解散となり、イリスとレイフォンは共に帰り道を歩いていた。

話してる内容は専ら、明日からの訓練の内容についてとニーナとの戦いのことだ。

 

「今日は面白い日だったね。レイフォンから見てニーナはどう?」

「うん。先輩はきっと強くなると思う。グレンダンの武芸者ともすぐに渡り合えるようになるよ」

 

そう答えて笑うレイフォン。何だかとても嬉しそうに見える。

何だろう。何か......もやもやする?体調でも悪いのかな。

 

「イリス?どうかした?」

「ううん、ちょっとボーッとしちゃっただけ」

 

まぁいいや。寝れば治るよね。

それから別れるまで、レイフォンと二人で特訓メニューについて話し合うのだった。

 

 

 

 

レイフォンは扉を潜り、ツェルニに来てからお世話になっている寮へと入った。

先程のイリスの様子が気になってはいたものの、本人が平気といった手前何かをするわけにも行かず結局そのまま別れてしまった。

 

(やっぱり......何か声を掛けるべきだったかな?)

 

しかし何と声をかければよかったのだろう。

そんなことを考えながら自分の部屋の扉を開こうとすると、ドアに何か挟まっていることに気づく。

それが手紙だということに気付いたレイフォンは、慎重にドアからそれを抜き取った。

そして送り主を見てみると案の定、グレンダンで幼馴染であったリーリン=マーフェスの名が刻まれている。

既にリーリンとは何度か手紙をやり取りしており、イリスが切り開いてくれた武芸への道をそっと後押ししてくれたのも彼女であった。

 

(確か、その時の続きでイリスについて話したんだっけ)

 

記憶を探りながら扉を閉め、ベッドに寝転がると慎重に手紙の封を切る。

相変わらずの綺麗な字。

思わず笑みを零しながら、レイフォンは手紙を開いた。

 

 

"こんにちは、こんばんは。かな?変わらずお元気ですか?

私は学校で日々、勉強する毎日です。でもとっても充実してて、毎日が楽しいよ。

レイフォンが小隊に入ったという事に凄く驚いたと前回話したけれど、うまくいっているということにさらに驚きました。"

 

 

「ひでぇ......」

 

上手くいくとは思われていなかったのか。

何げに酷い評価に思わず内心苦笑する。

 

"イリスさん、という女の子が居てくれて良かったね。私達と同じ孤児だということで、今度少しお父さんに聞いてみようと思います。でもね、私イリスという名前に聞き覚えがあるんです。ううん、私だけじゃなくて殆どの人は聞いたことがあると思う。レイフォンが武芸に前向きになったということで、レイフォンにも話そうと思います。"

 

「......?」

 

思わず上半身を起こす。

軽い気持ちでイリスについて聞いてみたが、もしかしたらとても重要なことがわかろうとしているのかもしれない。

先を読むかどうか少し迷った挙句、背筋を伸ばして続きを読み始める。

 

"レイフォンが天剣を失って少しした後、天剣になった人がいます。レイフォンにはいい話じゃないと思って黙っていましたが、その方の名前がイリス様というんです。あまり見たことはないけれど、氷のように冷たい瞳が印象的な方でした。レイフォンの手紙から伝わってきたイリスさんの雰囲気はとても柔らかく暖かい方に感じられたので、同じ人かどうかは分かりません。"

 

気付けば身を乗り出し、食い入るように手紙を読んでいた。

 

「イリスが天剣授受者......?」

 

驚き、しかしそれ以上に納得の感情がレイフォンを支配する。

イリスの力が自分の想像している通りだとしたら、それは明らかに普通の武芸者を逸脱していた。

それこそ天剣授受者か、そうでなくてもその内任命されるであろうほどだ。

加えてあのピアス。

あれは、サヴァリスが好んで耳につけていたピアスと同じものだ。

あれにはサヴァリスが天剣授受者であることを示す印が刻まれている。

偽物でない限り、あれを入手するのは不可能に近いはずだ。

それこそ、サヴァリスから直接貰い受けない限りは。

そして、その話にはまだ続きがあった。

 

"でも、イリス様から孤児政策について多額の寄付が女王様に送られたっていう話もあったので、本当はとても優しい人なのかもしれません。そのお金の出処について悪い噂が広まって謹慎処分が発表されていましたが、もうとっくに都市にはいないんじゃないかと学校の先輩も言っていました。もしかしたらツェルニに居るのかもしれません。"

 

間違いない、イリスだ。レイフォンは確信する。

イリスとの学園生活で気付いたこと、それは彼女が自分のことを軽視する傾向が強いということだ。

過程より結果を。自分のことを二の次に仲間を最も早く救う方法を考え、その為だけに行動する。

かつて自分がやったように、しかし自分よりよほど大勢の人を救った。

 

「かなわないな......」

 

思わず苦笑がこぼれる。

彼女は自分のことを目標にしていると言ってくれているが、レイフォンからすればイリスは自分よりよほど先を進んでいた。

むしろ目標にしたいくらいだ。

そんなことを考えながら手紙を読み進め、終わりまで読み切ると返事を書くためにペンを取る、しかしふとレイフォンの動きが止まる。

 

「......そういえば、イリスは何で天剣だと黙っていたんだろう?」

 

もしかすると、誰にも知られたくなかったのではないだろうか。

もしそうなら知ってしまったことを言うべきか、言わずにずっと黙っているべきか。

だがイリスに隠し事をするのは悪い気もするし、そもそもすぐに見破られてしまいそうな気がする。

ならば自分はどうするべきか。

手紙から生じた思わぬ問題に、レイフォンは頭を抱えるハメになるのだった。

 




話を具体的な訓練まで持っていく予定でしたが、日付も変わり区切りがいいので一旦ここで。
余談ではないような余談ですが、筆者が作品を書く上で一番の原動力になるのは感想だったりします。
どんな些細なことでもいいので書いていただけるととても喜びます。勿論、読んでくださる方々が増えることもやる気につながっていますが。

誤字脱字の報告、感想等お待ちしています。
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