鋼殻のレギオス”The edge of Army”   作:りこぴん

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久々の投稿となってしまい申し訳ありません。


訓練開始

第十七小隊の練武館は普段とは様子が違っていた。

整備されたグラウンドには拳大のいくつもの硬球が転がり、光を受け鈍い輝きを放っている。

そして皆はそれぞれ、その硬球の上に乗って訓練を行っていた。

 

「へぇ、面白い訓練だね」

 

イリスは片足で硬球に乗り、その上で一人組手を行っていた。

軽いジャンプで硬球に乗る足を変え、そのまま蹴りを繰り出す。

かと思いきや乗る硬球を変え、連続して突きを放つ。

 

「昔、重心の訓練によくやっていたんだ」

 

そう答えるレイフォンは自然体。

まるで大地を踏みしめているかのように少しの緊張もなく、たった一つの硬球の上に立っている。

そしてそんな二人を、ニーナは尊敬半分悔しさ半分な視線で見ていた。

 

「やはり格が違うな......」

 

さっきから硬球の上に立つのがやっと。

イリスのように飛び回ったり、レイフォンのように立つことなどとても出来はしない。

天才とはここまで違うものかと内心気落ちさえしてしまう。

 

「これは基礎訓練だから、才能とかはあまり関係ないよ。出来るようになれば自分でも驚くくらい強くなれると思う。だから頑張って」

 

硬球から降りたイリスはニーナに近づくと、ニーナのお腹に軽く手を当てた。

それだけで幾分揺れが落ち着いたのを感じる。

 

「ニーナは重心が前過ぎるんだよね。攻撃の時は良いけど、普段や特に防御の時はもっと後ろに重心を置いたほうがいい。そういう意味で、重心制御は役に立つよ」

「防禦の時は加えて、しっかり重心を落としたほうが安定します。防御と攻撃、それぞれで使い分けるだけで大分変わりますよ」

 

二人からの連続したアドバイス兼ダメ出し。

きちんとやってるつもりでいた、しかし二人からすればまだまだということだろう。

いつか必ず、二人に認めさせるくらいになってみせる。

終わらないダメ出しとアドバイスに、ニーナは闘志を燃やすのであった。

 

 

 

 

なんだかレイフォンの様子がおかしい。

訓練も中盤に差し掛かり、思い思いのことを始めた頃。

気付かせようとしてるのか気付いてないのか分からないけど、レイフォンが時々ちらりと此方を見ることがあった。

それだけならいいけれど、思い詰めたような表情をしているのが気になる。

昨日は普段通りだったし、心当たりはないんだけどな。

言いたくないならいいんだけど......どうなんだろう。

 

「レイフォン」

 

目があった時を見計らい声をかける。

まるでイタズラがバレた子供のように、レイフォンの体が跳ねた。

 

「な、なに?」

「僕に話したいこと、ない?」

 

視線が露骨にそらされる。

レイフォンは本当に嘘が付けないなぁ。

何となく、ニーナ達の注意もこちらに向けられたのを感じる。

 

「言いたくないならいいけど......僕になんて遠慮する必要はないんだよ?本当に」

 

天井に目をやり、困ったような表情で頬をかく。

何を言うか考えてるのか、何度も口を開きかけては閉じる。

 

そして、やがて再び視線があった。

 

「イリスは......グレンダンでは、何をしていたの?」

 

言ってから後悔したように伏せられる表情。

しかし視線だけはずっとこっちを見たまま。

もしかして.......たぶん、そういうことだよね。

 

「一つだけ聞きたいんだけれど......誰から?」

 

ツェルニには僕の正体を知る人はいなかったはずだし、グレンダンから伝わったはず。

また少し迷うような素振り。

けれど今度は割とすぐに返事が返ってきた。

 

「直接そうだと言われた訳じゃないけれど、幼馴染からの手紙でもしかしたらそうなのかなと」

 

確定だね、レイフォンはもうわかってる。

言い切らないのは僕が否定できるようにかな。ニーナたちも聞いているし。

遂に、といっても隠してるつもりはなかったけれど。

でもこのことでレイフォンを悩ませちゃったのなら、もっとはやくから言っておいたほうが良かったのかもしれない。

 

「ニーナ、それからシャーニッドとフェリもちょっと来て欲しいな。話したいことがあるんだ」

 

後でレイフォンには謝るとしていい機会を貰った、と今は考えておこう。

何となく会話が耳に入っていた3人は、すぐに集まってくれた。

誰でもいいけど......とりあえず、シャーニッドの方を向く。

 

「回りくどい言い方になっちゃうけど......シャーニッド、僕のフルネーム覚えてる?」

「勿論。イリス・ウルルちゃんだろ?可愛らしいいい名前だと思うぜ」

 

さらりと自然に褒められる。流石、というかそういう所素直に尊敬できるよ。

 

「ありがとう。でも実は、僕の本当の名前は少し違うんだ。ううん、違うというより足りないといったほうがいいのかな」

 

いつの間にか背筋を伸ばし、拳を握っていた自分に気づく。

柄にもなく緊張してるみたいだ。

下を向き、少し息を吸う。

 

「僕の本名はイリス・ヴォルフシュテイン・ウルル。レイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフの後釜として選出された、現天剣授受者のうちの一人だよ」

 

言い切ってから顔を上げ皆を見る......ってあれ?

勿論驚いてはいるものの、皆の表情には納得の色が強く浮かんでいた。

 

「もっと、びっくりするか怒られると思ってたんだけれど」

「いや、勿論驚いてるさ」

 

内心が漏れた言葉に、シャーニッドは肩を竦めて苦笑する。

 

「だが......何というか、納得しちまった。強さは勿論だが、雰囲気、って言えばいいのか?それがレイフォンと似てるんだ、イリスちゃんは」

 

シャーニッドが顔を向けると、ニーナやフェリも頷く。

 

「イリスはレイフォンの技量を見ても、驚きも羨望も畏れも何も感じていなかったように見えた。だから、レイフォンより強いか同じような実力なのではないかという気はしていた」

 

シャーニッドに同意するかのようにニーナは言う。

凄いなぁ。そんなとこで分かられるなんて思いもしなかったよ。

 

「何だ、じゃあみんな分かってたんだ。僕、黙ってたことを怒られると思ってちょっと緊張してたのに」

「怒る?何故だ?」

「なぜって......散々色々言っておいて、結局僕も隠し事をしていたからかな?」

「ああ」

 

そんなことか、といった様子で彼女は頷いた。

 

「信頼できない人間に、自分の秘密を話す気になど私だって無理だ。......だが、今イリスは切掛があったとは言え自分から私達に明かしてくれた。それは、私たちが以前に比べ多少なりとも信頼できるようになったということだろう?嬉しく思うことこそあれど、怒る訳が無い」

 

冗談なんて一欠片もない大真面目な表情でニーナは答える。

......何ていうか、もう。

不意打ちにも程がある。

 

「ニーナって時々、平然と恥ずかしいこと言うよね」

「そ、そうか?思ったことを言っただけだったのだが」

 

微かに頬を染めるニーナを尻目にそっぽを向く。

きっと僕の頬は、ニーナなんて比べ物にならないくらい赤くなっているんだろう。

 

まさか、ニーナがこんなにも深く考えていてくれたなんて思いもしなかった。

からかっちゃったけど、本当は凄く嬉しい。

でもそれを今伝えるのは、僕の素直さじゃ到底無理だった。

 

いつか必ず、ありがとうって伝えよう。

そう気持ちを固め視線を戻すと、ニーナは恥ずかしさを隠すかのように頬を掻いていた。

もしかして照れてるのバレちゃったかな......。

 

「さ、さて。練習に戻ろう。次は......模擬戦だな」

 

ニーナは仕切りなおすように咳払いをすると、ボードに目を通し声をあげる。

あのボードはレイフォンが、訓練項目を書いておくために置いたやつだ。

 

「ちょっといいか」

 

各自ばらけようとしていた中、シャーニッドが声をあげる。

 

「純粋に気になっただけなんだけどよ、イリスちゃんはレイフォンが居なくなった後に天剣とやらになった訳だよな?」

「うん、そうだよ」

 

レイフォンの後釜として選ばれたわけだから、おおむね間違いじゃない。

 

「ってーことはやっぱり、イリスちゃんよりレイフォンの方が強いのか?」

「それは勿論だよ」

 

武器の性質で相性の有利不利はあるけど、先に天剣に選ばれたレイフォンの方が強いに決まってる。

それに僕個人としても、レイフォンに勝てるなんてこれっぽっちも思えないし。

 

「そんなことはないと思います」

 

けれどレイフォンはそう口を挟む。

 

「天剣は一度なったら、何か起こらない限りそうそう代わるものじゃありません。だから、僕よりイリスの方が強くてもそれをイリスが誇示しない限り、そして戦わない限り天剣が入れ替わることはないはずです」

 

なるほど、とシャーニッドは頷く。

 

「それに僕が居なくなってすぐに天剣に任命されたってことは、既に天剣になれる実力を持っていた事になります。天剣になった後のことも考えれば、イリスの方が強くても不思議じゃない。いや、むしろ僕はイリスの方が強いんじゃないかと思ってます」

 

レイフォンがそんなにも僕のことを評価してくれているのはすごく嬉しい。

僕はほかならぬレイフォンを目指して努力してきたんだから。

けれど。

 

「レイフォンの評価は嬉しいけど......でも、僕にはそんな力はないよ。レイフォンより強いなんてある訳が無い」

「そんなことは」

「ちょーっと待った、よくわかったぜ」

 

そのまま押し問答が始まりそうな雰囲気を察してか、シャーニッドは再び声を上げる。

 

「お互いの実力を、後は二人の実力を俺らが知る意味でも丁度いいのがあるじゃねえか」

 

シャーニッドの指先を目で追う。

光を受けて白く輝くボードには、先程ニーナが読み上げた"模擬戦"の文字が刻まれていた。

 




短めとなってしまいましたがここで一旦刻んでおこうと思います。
更新は遅くなってしまっていますが読んでくださる方がいる限り書き進めていこうと思っていますので気長にお待ちいただければ幸いです。
誤字脱字等ありましたら教えてください。
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