鋼殻のレギオス”The edge of Army”   作:りこぴん

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遅くなってしまい申し訳ありません。
忙しかったのもありますが続きが思いつかなくなってしまいました。
ここで一区切りついたので次からはまた書けそうですが、この話は短めになってしまっています。
思いつけたら加筆したいと思います。


模擬戦

練武館の中心で、二人は対峙していた。

 

一人はレイフォン。普段のどこか抜けた姿は形を潜め、ただ剣を持ち瞑想するかのようにじっと立ち止まっている。

そして対峙するのはイリス。彼女は最後までこの戦いに消極的だったものの、ほかならぬレイフォンまでもが模擬戦に賛成したことでついに折れた。

しかし、その引換として一つルールが設けられた。

それは剄を使わないこと。身体を活性化させる為の剄を除き、内剄外剄一切を使わないということだ。

一度は反対したものの、

「練武館どころかここら一帯が瓦礫の山になるけど、それでもいいの?」

などと言われてしまっては賛成するしかない。

それにレイフォンの表情からして、イリスのいっていることは本気のようだった。

 

「それじゃ、そろそろ始めよっか」

「そうだね」

 

イリスの声を合図に二人は一歩前に出ると、錬金鋼を復元した。

レイフォンの剣は前に見た、反りのない片手剣。

しかし、イリスの剣は見覚えがなかった。

 

「初めて見る武器だね」

 

レイフォンの指摘に、イリスは剣を掲げる。

剣というより刀に近いその剣は、レイフォンのそれより短くしかし僅かに太い。片方にのみついた刃は本来鍔のあるべき場所にまで伸び、握りの部分を保護する役目を果たしている。

何よりの特徴は、イリスの掲げている一本に加え、腰に同じものがもう一本刺さっていることだった。

 

「割となんでも使えるんだけど、しっくりくるかどうかは別だからね。これはけっこう使ってたからしっくりくるんだ」

 

二刀流。

攻撃力の高い剣を両手に持つと言えば聞こえはいいが、取り回しの悪化や防御の低下等扱いが非常に難しい武器だ。

イリスのあの細腕にそれだけの力があるようにはとても見えなかった。

 

「それじゃ、このコインが地面に落ちたらスタートね」

 

イリスの声にハッと我に返る。

彼女がどのようにして戦うかなど、今から分かることだ。

しっかりと見、分からないことは聞き、盗めるものは盗む。

それくらいの貪欲さがないと彼女達の元にたどり着くなど出来はしない。

 

「いくよ?せーのっ」

 

空を舞うコインに、ニーナは一瞬たりとも見逃すものかと目を見開いた。

 

 

 

まさかレイフォンと戦う事になるとはなぁ。

コインが落ちると同時にレイフォンに斬りかかる。

武芸者として、レイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフと戦ってみたいと思ったことはないとは言えない。

けれどいつの間にかそんな感情は消え失せ、レイフォンに近づきたい、話したいという気持ちになっていた。

だから正直に言えば、この戦いにはあんまり乗り気じゃない。

 

とはいえ、手を抜くなんて無粋な真似はしないけどね。

牽制はあっさりと防がれ、逆に押し返されそうになった剣の軸をずらす。

レイフォンの剣を刀身に滑らせながら二本目を抜くと、空いた脇腹目掛け斬りつける。

常人なら一撃貰いそうなこの状況でも、レイフォンは冷静だった。

僕が流していた剣に従うように踏み込み、入れ違いになるようにして剣を躱す。

っとと、危ない。

槍のように突き出された剣を受け、そのまま勢いに逆らわずに距離を取る。

そのまま来ると思ったけど、来ないね。

考えていた追撃は来ず、レイフォンは突き出した剣をゆっくり戻すと軽く振るった。

 

「今まで戦ってきたどんな人とも違う、まるで風に向かって剣を振ってるみたいだ」

 

感心したようなレイフォンの声。それだけで勝手に嬉しさが込み上げてくる。

 

「ありがと。憧れのレイフォンとの模擬戦だからね、がっかりされないようにしないと」

 

そう返事をすると、レイフォンは照れたように頬を赤くした。

照れ屋なところは戦闘中でも相変わらずだね。

ちらりとニーナのほうを向くと、彼女は驚きを顔に浮かべつつも貪欲に僕達を見続けていた。

まるで昔の僕を見ているみたい。いや、僕の場合はこんな綺麗なやり方じゃなかったかな。

あの貪欲さがあれば、ニーナはもっとずっと強くなれる。

彼女の決意があれば、間違った道へ進んでしまうこともないだろう。

だから今は。

 

「さっきは先手を貰ったから、つぎはレイフォンから来なよ」

 

少しでも多く、彼女が盗めるように。

僕が武器を構え直すのに合わせて、レイフォンも武器を構えた。

一瞬とも永遠ともとれる時間の中、レイフォンの呼吸が一瞬変わる。

瞬間、再び僕とレイフォンの剣が交錯した。

 

 

目まぐるしく入れ替わる攻防を、ニーナは必死に目で追っていた。

イリスは決して正面から攻撃を受けず、どこかに逃げ道を作り攻撃を流す。

返す剣でイリスが反撃に転じれば、今度はレイフォンが迫り来る両剣を綺麗にいなす。

辛うじて見える状況であるため何とも言えないが、状況はレイフォンが優勢であるように見えた。

イリスの一度の攻撃に対し、レイフォンはその数倍攻撃をしているように見える。

段々とイリスの動きに対応し動きを変えてゆくレイフォンには驚く他ない。

しかし。

 

「......っ!」

 

次の瞬間、襲い掛かるレイフォンの剣をイリスは剣を交差させ完全に受け止めた。

流される事を前提に放たれていた攻撃が止められた事で、レイフォンの体勢が僅かに崩れる。

隙とも言えない小さな乱れ。しかし、イリスがそれを見逃すはずはない。

回避行動をとったレイフォンの眼前を、イリスの剣が貫いた。

イリスは大きく後退したレイフォンを追い、追撃を繰り返す。

先程とは逆に、レイフォンが防戦に徹する展開となった。

ようやくそこで気付いた。

今まで同じように攻撃を避け攻められていたのは、全てレイフォンに回避パターンをミスリードさせる為の布石だったのだと。

そこからは混戦となった。

レイフォンが動きに対応すれば別の戦い方に。

ブラフやミスリードを混ぜて戦い、レイフォンが完全に攻めきれない状況を作り出す。

そしてレイフォンは、その全てに剣一本で対応する。

お互いの技と技のぶつかり合い。

何度目かの交錯の後、お互いに距離をとった二人の額には汗が浮かび、肩は足りない酸素を補うかのように上下していた。

普段全く息を乱さない二人がこうなっているという事だけで、戦いのレベルの高さを感じさせる。

イリスは汗を袖で拭うと、軽く息を整えた。

 

「次で、最後にしようか」

 

その言葉に時計を見れば、既に戦闘開始から十分以上が経過していた。

剄を使っていない状態で全力に等しい戦いをしていたのにも関わらず、息を乱しているだけの二人には驚く他ない。

イリスはレイフォンが頷くのを確認すると剣を構えた。

 

「いくよ」

 

瞬間、イリスは両手に構えていた剣を投擲した。

虚をついた攻撃に、レイフォンは踏み出しかけた足を止める。

剣は一本は真っ直ぐに、もう一本はレイフォンの側面に向かって弧を描くようにしてレイフォンに襲いかかる。

しかしレイフォンは冷静だった。

全く同タイミングで襲いかかるそれを、踏み込む事でタイミングをずらし弾き飛ばす。

一瞬のうちに一本は空へ、一本は地へと叩き落とされた。

そこでふと気付く。

剣を投げたのはほかならぬイリス。しかし剣に目を向けた一瞬のうちに彼女は居なくなっていた。

一体どこに?

その答えはレイフォンが教えてくれた。

レイフォンの顔が空へ弾き飛ばした剣に向く。

そこには、弾き飛ばされた剣を握ったイリスの姿があった。

 

「はぁっ!」

「っ!」

 

瞬間、振り下ろすイリスの剣と斬り上げるレイフォンの剣が交差する。

慣性のかかった一撃に、流石のレイフォンの表情も歪む。

押し切られるか、と思った矢先、何故かイリスは剣を返し弾き飛ぶようにして元の場所へと着地した。

そのまま攻撃するわけでもなく、イリスはただ力を抜く。

 

「......あーあ、負けちゃった」

 

そう言って掲げた剣は、大きな亀裂が走っていた。

そしてすぐに、刀身の半分を残し折れてしまう。

白金錬金鋼ゆえの耐久のなさが、イリスの一撃に耐えられなかったのだ。

 

「いや、そんなことはないよ」

 

対するレイフォンも、自分の剣を掲げる。

折れるまでには至っていないものの、大小の亀裂が走っている。

あのまま剣を振るえば、折れるのは時間の問題に見えた。

 

「イリスがもう一本を拾いに動いていたら、僕が負けてたよ」

「二本目は囮で拾うつもりは無かったけど......じゃあ、引き分けって所かな」

 

イリスはそう言って錬金鋼を戻すと、中央へと歩み寄る。

そして同じく歩み寄ったレイフォンと握手すると、笑みを浮かべた。

レイフォンもそれに答えるように、自然に笑う。

健闘をたたえ合うその姿は普通の武芸者と変わり無い。

しかしこうして二人の実力をはっきりと見た今、二人が一線を画す存在であることも分かっていた。

そして、その域まで達するのには並大抵の努力では不可能だということも。

しかし、ニーナの瞳に諦めの色はない。

今の戦い1つとっても勉強になる所は山程あった。

諦めるのは自分の限界を知ってからでも遅くない。

 

「やれやれ、うちの隊長は随分と熱血だな」

 

早速何かを聞きに行ったニーナを見て、何処か楽しげな表情でシャーニッドは呟くのだった。




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