鋼殻のレギオス”The edge of Army”   作:りこぴん

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遅くなってしまい申し訳ありません。


食事会

「うーん」

 

イリスは先程から、一見しただけでは変わりのないように見える野菜を時間をかけて吟味し、カゴに入れるという作業を繰り返していた。

 

「どれも一緒じゃないのか?」

 

ニーナは手に持った野菜を眺め、そしてイリスがカゴに入れた同じ野菜を見る。

むしろぱっと見た感じ、自分が手に持っている野菜のが大きくて美味しそうに見えた。

たまたま手に取ったにしてはなかなかの目利きじゃないか。

 

「イリス、これなんかどうだ?」

 

多少芽生えた自信と共にイリスに見せるが、イリスはちらりとそれを見ると苦笑した。

 

「ニーナがそういうのが好きならいいんだけど、僕には余り美味しくなさそうに見えるなぁ。その野菜は大きいと中身がスカスカの場合が多いし」

 

バッサリと、一刀両断される。

普段から何かと気を使ってくれているイリスの容赦ない一言は、ニーナの心に深く突き刺さった。

しかしイリスはその事に気づいていないのか、用は終わったと言わんばかりに野菜コーナーを離れ別のコーナーに向かってゆく。

 

「......隊長、私達は大人しくしていましょう」

 

肩を落としたニーナを気遣うように、フェリが近づく。

その瞳が珍しく仲間を見る優しさに満ち溢れているように見えるのは、自分の弱さが作り出した幻だろうか。

 

「そうだな」

 

大人しく、イリスに任せよう。

ニーナは持っていた野菜をそっと元の場所に戻すと、フェリと共にイリスの元へ戻るのだった。

 

「ごめんね。ついいつもの癖で時間掛けちゃって......退屈だったよね」

 

あらかた食材を揃え、ふと一呼吸置いたところでニーナとフェリが後ろを黙ってついてきているのに気付いた。

皆で食材を買いに来たはずなのに、一人の世界に入っちゃってたみたい。二人には申し訳ないことをしたなぁ。

 

「二人も食べたい物を入れてくれて良かったんだよ?作れるかどうかはちょっと分からないけどさ」

「いや。イリスに任せた方が絶対に良いと思ったんだ。なぁ、フェリ?」

「はい」

 

息ぴったり、といった様子で頷き合うニーナとフェリ。

何だかここに来る前より仲良くなってないかな?

別に良いことなんだけどいつの間に?

腑に落ちない気持ちのまま首をかしげていると、別に食器類を買いに行って貰っていたレイフォンとシャーニッドが別の店から出てきたのが見えた。

手を振ると、此方に気付いた二人が足早に向かってくる。

 

「悪い、遅れた。買わなきゃいけないもんって皿と箸で良かったよな?」

「うん、十分だよ」

 

家に誰かを招いたことが無かったから、そういう類いのものが全くなかったんだよね。

 

「っと、イリスちゃん。荷物持つぜ?」

 

と、シャーニッドがそう言って片手を差し出す。

でも僕の荷物より、シャーニッドがもう片方の手に持っている荷物の方が明らかに重そうだった。

 

「これくらい大丈夫、シャーニッドの方が重そうだよ」

「いやいや、こんなの重いうちにはいんねーって」

「僕も別にこれくらい大丈夫だよ?僕だって一応武芸者だし」

 

いつも内剄を使ってるから、これくらいならウェイトにもならないし。

しかしシャーニッドは大げさに首を振ってみせる。

 

「イリスちゃんがすげー武芸者だってのは分かってる。けどな、女の子が重そうな荷物を持ってるっていうのは良心的に余り良くない、ニーナならともかく」

「おい」

 

ニーナの声を口笛で誤魔化すと、シャーニッドは僕の荷物を受け取った。

 

「隊長のは僕が持ちますよ」

「......釈然としないのは何故だろう」

 

レイフォンに荷物を渡しながら、ニーナはシャーニッドを睨む。

 

「まぁまぁ、とにかく行こう。こっちだよ」

 

こっからなら、5分かからず着けるかな。

ニーナの背中を押しながら、イリス達は家への道を歩き出した。

 

 

 

「ん、ここだよ」

 

それから大体5分、イリスは小奇麗な庭のついた建物の前で立ち止まった。

 

「へぇー、立派な寮だな」

「でも、僕以外誰も住んでないんだ」

 

とっても綺麗だし管理人さんも優しいんだけど、ここは校舎からだいぶ遠いんだよね。

部屋数が少ないこともあって、去年まで先輩が入っていた以外は今は僕以外誰もいない。

 

「確かに、こんなとこで寝坊したらその日はサボり確定だ」

 

シャーニッドは僕の説明に納得したように頷くと、中へと入っていった。

 

「今日は共用キッチンを借りるから、荷物は全部そこのテーブルの上へ置いていいよ」

 

この寮には部屋とは別に大きなキッチンがある。

今年は僕しか住んでないから、実質貸切みたいなものだ。とはいっても、普段は自分の部屋で料理するんだけどね。

テーブルの上に積み重なった袋は食品だけで三つ分。

これは随分と大きな戦いになりそう。

 

「じゃあ皆、ちゃっちゃと作るから好きにしててよ」

「手伝うぞ?」

「気持ちはありがたいけど、せっかくだからゆっくりしててよ。料理するのは好きだし、仮にやってもらうとしても材料を切るくらいしかないしね」

 

料理をたくさん作るなんて天剣になる前の孤児院以来だし、実はちょっと楽しみなんだよね。

 

「わかった、すまない。正直、料理は余り得意ではなくてな......」

 

ニーナは苦笑して椅子へと座る。

ニーナってわりとそつなくこなすイメージだったから、ちょっと意外だ。

さてと。

料理に取り掛かろうと材料を取り出すと、レイフォンが立ち上がった。

 

「僕、材料を切るよ。孤児院では幼馴染の手伝いをしてたし、それくらいなら出来るから」

「レイフォンが?」

「個人じゃ年長だったから、自然と覚えたんだ。といっても余り手の込んだことは出来ないけど」

 

孤児院じゃ年長の子が家事をやるのは不思議じゃない。そういう意味じゃ全然意外じゃないんだけど......。

 

「レイフォンって武芸以外のこと出来るんだ」

「イリスって、時々僕の評価低くない?」

 

レイフォンが傷ついた様子で立ち止まる。

隣ではシャーニッドが堪えきれない、といった様子で笑いながらレイフォンの肩を叩いた。

 

「ははっ!すっかり手玉に取られてるな」

「うぅ......」

「ふふ、冗談だよ。じゃあ、これを適当に切っちゃってくれる?包丁はそこの引き出しにあるから」

 

レイフォンはしょげた様子ながらも包丁を取り出すと、材料を切り始める。

その手つきは僕が思っていたよりずっと馴れていて、正直少しびっくりした。

これなら思っていたよりもずっと早く作り終われそうだし、もうちょっと手を掛けちゃおうかな。

それにしても.......ふと、レイフォンの方を見る。

誰かと一緒に料理をするなんて、まともに料理をするようになってから初めての経験だなぁ。

孤児院では僕だけ少し年が離れていたこともあって、料理をするときはいつも一人だった。

さっきレイフォンは幼馴染を手伝ってと言っていたし、もし僕にも幼馴染が居たらこんな感じだったのかな。

あるいは幼馴染じゃなくて――――

 

「イリス、材料切り終わったけど......って、どうかした?」

 

顔を上げたレイフォンとばっちり目があった。

自分の意思と関係なく、顔が熱を持ち始めるのを感じる。

う、あんなことを考えていたせいかレイフォンと目を合わせるのが無性に恥ずかしい!

 

「な、なんでもないよ!次はそっちを切ってくれるかな、これは僕が調理するから!」

「う、うん。わかった」

 

レイフォンからひったくるようにして切り終わった材料を受け取り、鍋に勢いよく放り込む。

ふう。なんとか誤魔化せた、よね。かなり強引だったけど。

ちらりと盗み見ると、レイフォンはまた材料を切る作業へと戻っていた。

余計なことを考えるのはやめよう。

首を思い切り振って雑念を振り払うと、イリスはコンロの火を付けた。

 

「出来た」

 

あれから少したって皆が思い思いに時間を潰している頃、ようやく最後の料理が出来上がった。

あんまり時間のかかる料理は選ばなかったけれど、それでも結構時間かかっちゃったな。

 

「運ぼうか?」

「ありがと。僕は盛り付けるね」

 

レイフォンと協力して、食卓に料理を並べてゆく。

こうして見ると、孤児院にいた頃を思い出して懐かしいなぁ。

天剣になってから会うことも減り、ご飯を作ることなんてなくなっちゃったけど皆は元気にしてるんだろうか。

 

「イリス?」

「ごめんごめん、ぼーっとしちゃった。皆座って座って、食べよう」

 

レイフォンは何か言いたげな様子だったけど、何も言わずに庭を見に行ったフェリを呼びに行った。

レイフォンがフェリを連れて戻ってきた時には、ニーナとシャーニッドは既にテーブルに着いていた。

 

「これ全部イリスちゃんが作ったんだろ?凄いな」

「レイフォンも手伝ってくれたけどね」

「僕は材料を切ったりしただけだから、殆どイリスだよ」

 

レイフォンは本気でそう思ってそうだけど、実際はこの人数分の料理の為に相当下拵えをしてくれた。

後で何かお礼しなきゃ。

 

「まぁ、とにかく食べよっか」

「ああ、イリスありがとう」

「それじゃあさっそく」

 

シャーニッドが手を伸ばしたのをキッカケに、皆思い思いの料理に手を伸ばし出す。

適当に料理を選んで、とりあえず一口食べてみる。

うん、大丈夫。孤児院で作ってた味と一緒だね。

材料が良いからむしろ美味しいと言ってもいいくらい。

そう思って顔を上げると、皆は笑顔で箸を進めてくれて--いや,レイフォンだけ一口食べた体勢のまま固まっていた。

 

「レイフォン,もしかして不味かった?」

「う,ううん!そんなことないよ!ただ......」

「ただ?」

 

レイフォンは手元に目を落とすと,ぽつりとつぶやいた.

 

「何だか,僕が孤児院で食べてたご飯と味が似てるような気がして,懐かしくて」

「レイフォン......」

「あ,違うよ!もちろん良い意味で,久々に食べられて嬉しくなっただけだから」

 

どう受け取ったのか,レイフォンはぱたぱたと手を振ると料理に手をつけ始めた.

 

「うん,美味しいよイリス.作ってくれてありがとう」

「こんなので良ければ、何時だって作るよ。レイフォンが嬉しいと思ってくれるなら、尚更ね」

 

それでレイフォンの寂しさが紛れてくれるなら、僕も嬉しい。

それに、久々に作るご飯は結構楽しかった。

 

「あぁ、そういえばデザートも作ったんだった。ちょっと取ってくるね」

 

ご飯を食べ始めてから暫く経ったし、そろそろ固まってる頃かな。

ちょっと行って取ってこよう。

 

 

 

手伝いを断って歩いていったイリスを、レイフォンはぼんやりと眺めていた。

 

「いやー、レイフォンは随分と大切にされてて羨ましい限りだぜ」

 

シャーニッドのからかう様な声に食卓の方に視線を戻せば、皆が概ね同意するような表情でレイフォンを見ている。

 

「そうですね、イリスには感謝してもしきれません」

 

料理に目を落とす。

並ぶ料理は前に聞いたのを覚えていてくれたのだろうか、皆の好みの料理がいくつも並んでいる。

 

「気をつけろよ。イリスちゃんは多分、真っ先に自分を犠牲にするタイプだぜ。勿論、俺らも気をつけるけどな」

「......はい」

「もちろんだ」

「お待たせー。ん、皆してこっち向いてどうしたの?」

 

器用に皿を持って現れたイリスを見て、レイフォンは決意を新たにするのだった。

 

 

 

窮屈な暗闇の中、ソレはじっと身を潜めていた。

目覚めた時から酷い空腹が訴えてくるが、ただひたすらに欲求を抑え続ける。

もうすぐ、もうすぐたくさんの食料が近くまでやってくる。

だんだんと近くなってくる地面の揺れに歓喜を震わせ、ソレは目覚めの時を待ち続ける。




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