鋼殻のレギオス”The edge of Army”   作:りこぴん

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天剣の皆様の口調が曖昧です。
小説は借りて読んでいたんですが......流石に購入すると高いし、どうしよう。


旅立ち

「お前も大概阿呆だな」

 

出発の身支度を整え、最後の一仕事の為に王宮に向かう道すがら、現れたリンテンスの第一声がそれだった。

 

「酷いな。僕を焚きつけたのはリンテンスだろ?」

「だとしても、やり方というものがあるだろうが」

「だって、あれが一番手っ取り早かったし」

 

天剣争奪戦に参加し、莫大な金と引き換えに八百長に乗り敗北する。

都市から出るのに邪魔な天剣の座と、金を手に入れる実に合理的な手段だと思うんだけど。

 

「手っ取り早さだけであんなことをされては、たまったもんじゃないけどね」

 

この声は―――

 

「女王陛下。本日もご機嫌麗しゅう」

 

振り返ると同時に、スカートの両端を掴み軽く礼をする。

国の頂点に対してと見れば相当な不敬罪だけど、彼女はそんなことを気にする人じゃない。

 

っと、そうそう。思い出した。

おもむろに女王陛下の前に歩み寄ると片膝を着ける。

 

「陛下。天剣を返却しに参りました」

 

そして腰から復元していない天剣を抜くと、両手で差し出した。

 

「......どうしてあんなことをしたのか、聞いてもいいかしら?」

 

陛下は天剣を受け取らず、静かにそう尋ねてきた。

しかし纏う雰囲気が感じさせる威圧感。答えによっては僕はただでは済まないだろうと、自然とそういう気持ちが沸いてくる。

 

「天剣が邪魔だったからです、陛下」

 

表面上はにこやかに、しかし内心は冷や汗ものだ。

言葉を選びながら、自分の過去をかいつまんで説明してゆく。

天剣になるまでの経緯、リンテンスとの取引、そして先日の戦い。

 

「その時既に僕にとって、天剣は僕をグレンダンに縛り付ける邪魔な枷でしか無くなってしまいました。どうしようか考えていた時に取引を持ちかけられたんです。お金と引換に、天剣争奪戦で敗北しろと。結果は昨日の通りです。陛下も驚く程高額なお金を貰えましたよ。どうやって集めたんでしょうね」

「......成程、良く分かったわ」

 

陛下はそう答えると、僕の手から天剣を受け取る。

先程まで向けられていた覇気は、綺麗さっぱり無くなっていた。

 

「まずは......イリス、耳を貸しなさい」

 

なんだろう、何か聞かれたら不味い話なのかな。

言われたとおり近づくと、陛下は耳元に口を近づけた。

 

「幾らもらったの?」

 

......さっきまでの少しのドキドキを返して欲しい。

厳かな女王としての雰囲気は消え去り、今の彼女の雰囲気は気安い先輩といった様子だ。

しかし陛下も驚く程、と言ったのは僕である。誰かに聞いてもらいたい所だったし丁度いい。

僕が金額を伝えると、陛下は身を仰け反らせて驚いた。

 

「そんなに!?それだけあれば、王宮の財政も......」

「残念ながら、使い道は決まっているんです」

「残念。ちなみに、どんな使い道か聞いてもいいかしら?」

 

雰囲気から、別に断ったからどうこうということじゃ無いのは感じられる。

けどまぁどの道すぐわかることだし、リンテンスくらいにならいいか。

 

「僕も孤児でしたから、この都市が孤児に対して余り優しくないのは身にしみてわかっています。ですので陛下に、このお金を資金に孤児政策の見直しを願います」

 

床に置いておいた荷物の中で一番大きなバッグを持ち上げる。

その中にはもはや数えるのも馬鹿らしくなるほど大量の金が入っていた。

 

「一市民である僕がこんなことを願い出るのは許されないかもしれません。でも僕は真剣です。どうか、御一考して頂けませんか?」

 

陛下は黙して何も語らなかった。

やっぱりダメ、か。しかし僕もここで引き下がる訳には行かないのだ。

 

「......ひとつだけ、条件がある」

 

そう言って視線を外した女王、釣られて見ればサヴァリスに連れられ昨日対戦した男が姿を現した。

 

「やぁ、サヴァリス。新しい天剣をもう虐めているのかい?」

 

立ち上がり、そう声を掛けると彼はしかしつまらなそうな表情だった。

 

「ご冗談を。貴方が居なくなると聞いて悲しみに暮れていた所ですよ」

「うわっ、冗談でも君にそう言われると変な気分だよ」

「それにひとつ間違いがあるわ。彼は天剣ではない」

「え?」

 

陛下の言葉に釣られて男を見ると、その顔は屈辱に歪んでいた。

 

「何故だ!天剣争奪戦で勝てば、天剣に任命されるのではなかったのか!?これはどういうことだ!!」

 

殺したいというほど強い視線で此方を睨みつけてくる。

僕にそんなことを言われても......ちょうど今、同じことを思ったばかりだ。

 

「天剣争奪戦で天剣の座を奪い去ることが出来るのは、実力で相手を倒した時だけ。どんな取引があったのか知らないけど、そんな小細工で天剣に本当に成れると思っていたのかしら?」

 

疑問に答えてくれたのは陛下だった。

天剣になったとしてもあの実力じゃ汚染獣に殺されるだけと思っていたけど、まさか天剣になることすら出来ないなんて。流石に少し、申し訳なさが湧いてくる。

 

「ぐっ.......」

「イリス、条件というのはこれよ。この男、ゲオルク=ローラントともう一度戦いなさい。今度は八百長なしで全力でね」

「......いいんですか?」

 

この許可は戦うことに対してじゃない。

全力で戦うとは、下手をすれば殺してしまう可能性があるということだ。

しかし陛下は首を縦に振った。

 

「もし彼女をもう一度倒すことが出来たら、天剣に任命してあげるわ」

 

男――ゲオルク=ローラントに向かってそう言うと、陛下は後ろへと下がる。

 

「......また戦うとは思ってなかったけど、これも運命ってやつなのかな。先手をどうぞ、譲ってあげる」

「っ!舐めるな!!」

 

此方に向かって走り出す男、しかしやっぱり遅い。

とはいえ、剣は先程陛下に返してしまったから丸腰だ。

辺りに何かないかと視線を動かせば、退屈そうに佇むサヴァリスと目が合った。

......そうか、その手があった。

 

「恨まないでよ、ね!」

 

その場で軽く飛び上がると、同時に強く蹴りを撃ち出す。

 

――――外力系衝剄化錬変化"風烈剄"。

サヴァリスから見て盗んだ、蹴り足から真空の刃と化した剄弾を放つ技だ。

男の突進と合間り、剄弾は相当な速度で男に向かって襲いかかる。

 

「チッ......!」

 

おお、やるね。あの不安定な体勢からあれを弾くなんて。

でも。

 

「ダメだよ、僕から目を逸らしちゃ」

 

あんな対応をした時点で、結果は決まったようなものだ。

剄を打ち出した時点で移動を開始していた僕は男の頭を後ろから掴むと、地面に叩きつける。

そして行動を起こされる前に素早く剄を撃ち込み、男を無力化した。

 

「優しいですね、わざわざ殺さないように戦うだなんて」

 

薄ら笑いを浮かべるサヴァリス。どこか言葉に刺があるような気がする。

 

「そんな怒らないでよ。君の技を使ったのを気にしてるの?」

「いえ。ただもう少し貴方の実力が見えると期待していたので、失望しただけです」

 

どうやら気に入らなかったのは僕ではなくてこの男だったようだ。

天剣になれず気絶させられ暴言を吐かれる。流石に少し同情するよ。

せめてもの償いに男を仰向けになるように優しく寝かせ、陛下へと歩み寄る。

 

「約束通り、政策の見直しを行うわ」

 

陛下は開口一番にそう言ってくれた。

場合によっては口撃戦になることも覚悟していただけに、その言葉は非常にありがたいものだった。しかし、今の戦いには何の意味があったのだろう?

 

「ありがとうございます。しかし今の戦いには何か意味が......」

 

言い始めて後悔した。

陛下の表情が、悪戯に成功した子供のようなものに変化したからだ。

 

「確かに、一市民の言葉が私のところまで届くことは殆ど無いかもしれない。でも、流石に天剣の言葉となれば無視できないでしょう?」

「ですが、僕は天剣ではありませんよ」

「ふふ。イリス、天剣争奪戦の条件は何?」

「それは、陛下の御前で......そういうことですか」

 

女王陛下の監視のもと、天剣に勝利した者が天剣を継ぐ。

もしゲオルクを天剣授受者だと仮定した場合、天剣を継ぐ条件をたった今満たしたことになる。

また、ゲオルクを天剣授受者ではないとした場合先日の戦いは無効となり、継承はされず僕は天剣授受者のままだ。

 

「一本取られた、という訳ですね?」

「安心しなさい、別に引き止めるつもりはないから。貴方は天剣争奪戦において八百長を行った。だからそのお金を没収し、一時的にグレンダンから追放する。天剣は一旦返してもらうわ」

 

天剣授受者でありながら、外部へと一時的に追放する。僕の希望をほぼ全面的に通している形ではあるが、同時に天剣である為に何時かは戻らねばならず、完全な自由には慣れない。そして天剣が手元にあるのだから、例えば僕以上に優秀な人間があらわれた場合には僕から天剣の地位を剥奪するだけで再び十二人の天剣が揃う。剥奪する理由など幾らでもあるだろう。都市に居ないのだ、文句を言えるはずもない。

何処まで考えて言っているのか分からないが、おそらくはそういうことなのだろう。

 

「分かりました。寛大な処置に感謝します」

 

しかし現時点では全く問題ない。

全てを踏まえたうえでそう返事をすると、陛下は満足げに頷いた。

そして、そばに控えていたリンテンスから何かを受け取る。

 

「とはいえ流石に身一つでグレンダンのエースである天剣を外に放り出すのは忍びないわ。ましてやイリスは年頃の女の子だしね。だから、これは餞別よ」

 

差し出されたのは中くらいの大きさのケースだった。

受け取ってみると、見た目に反してずっしりとした重みがある。

 

「開けてもよろしいですか?」

「うーん......喜ぶ顔は見たいけど、これは女の子二人の秘密。向こうに着いてから誰にも見られないところで開けてくれる?」

 

あ、今サヴァリスが鼻で笑った。

間髪を入れず、陛下に勢いよく蹴られる。全く、結果が分かってるんだからやらなければいいのに。

 

「わかりました、ありがとうございます」

「それじゃ、道中気をつけてね。サヴァリス、送っていってやんなさい。か弱い乙女の旅立ちよ」

 

陛下は僕の肩を叩くと、そのまま王宮へと戻っていった。

続いてリンテンスも、せっかくセットした髪の毛をぐしゃりと崩し陛下について行く。

人嫌いの割に僕には構ってくれるのは嬉しいけど、せっかくの髪がぼさぼさだ。

しかし彼にも陛下にもサヴァリスにも、暫く会えないとなると少し寂しいな。

 

「か弱い乙女が見当たりませんが、どこにいるんでしょうね」

「サヴァリス、その喧嘩買うよ?」

 

人がせっかく感傷に浸っている時に、失礼な奴め。

やっぱり寂しい人リストから、サヴァリスは消しておくことにしよう。

 

 

 

 

停留所は、普段のグレンダンからすれば比較的賑わっていた。

 

「それじゃ、見送りありがと」

 

なんだかんだいいつつ、停留所まで送ってくれたサヴァリス。

仕方ないから寂しい人リストに追加しておくことにする。

 

「いえ。まぁ貴方なら問題ないと思いますが道中お気を付けて」

 

荷物をバスに積み込み、指定席に座ると窓から顔を出す。

 

「まぁ、着いたら皆に手紙くらい送るよ。こっちに届くのはいつになるか分からないだろうけどさ」

 

「ええ、待っています。......そうですね」

 

サヴァリスはおもむろにピアスの片側を外すと、放り投げてきた。

 

「私からも餞別です、どうぞ」

 

「ありがとう」

 

本当に珍しい。軽口を叩き合えるくらい仲は良いと思われていると信じていたが、案外自分が思っているよりもずっと彼は僕のことを良く思っていてくれたのかもしれない。

 

発車時刻を示す音と共にドアが閉まる。ここから長い長いバス旅の始まりだ。

 

「それじゃ、またいつか」

 

「はい、また」

 

窓が締まり、バスが動き出す。

サヴァリスにむけ手を振っていたが、バスは角を曲がりすぐに彼の姿は見えなくなった。

 

「待っててね、レイフォン・アルセイフ」

 

髪をかき上げサヴァリスのピアスを右耳に付け、彼がいる場所―――ツェルニに思いを馳せる。

バスはフィルターを抜け、荒野へと旅立っていった。




サヴァリスは好きです。
戦闘狂な彼ですが、認めた者にはそれなりに優しく接してくれる。そんな想像から生まれた感じの話になりました。
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