鋼殻のレギオス”The edge of Army”   作:りこぴん

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審査

どうしてこんなことになったんだろう?

 

目の前の現実から逃げ、殻に引きこもり考える。

ニーナが喋る言葉も今は耳に入ってこない。

"彼"に出会うことを、世界に入ることを切望し今まで生きてきた。

天剣になり、そしてこのツェルニにまで追いかけていた。

同じ都市に居ればいずれ見えることもあるだろう、そこから少しずつ仲良くなっていきたい。そう思っていた。

だというのに。

 

「僕はレイフォン・アルセイフです。同じ学年になるのかな?よろしくね、イリス」

 

目の前で笑顔で手を差し出す彼に答えるには、僕のちっぽけなキャパシティでは少し足りなかった。

 

 

 

 

「イリスー?迎えに来たぞー?」

 

身支度を整えていると、寮の外からニーナの声が聞こえてきた。

まだ約束の時間まで10分近くあるのに、せっかちだなぁ。

ピアスを付け、それに陛下から頂いた錬金鋼を太ももにベルトで巻きつける。

持ってるのがバレたら刃引きの加工をされちゃうだろうし、それで感覚が変わるのは好ましくない。本当に緊急の時だけ使うことにしよう。

最後にペンダントを胸の間に落とし込むと、寮の外に出た。

 

「全く。遅いぞ?」

「まだ5分前でしょ?隊長はせっかちだなぁ」

 

欠伸とともに伝えると、ニーナは不満げな表情になった。

 

「昨日は少しは可愛げがあると思ったが......勘違いだったようだな」

「堅苦しいのは苦手なんだよね」

 

向こうでも、敬語を使っていたのは陛下に対してくらいだった。

そう返事をすると、今度は呆れ顔になる。

 

「普通その言葉は私が言うものなんだが。......まぁいい、時間も押しているし行くぞ?」

「はーい」

 

先導するニーナに従い、訓練場への道のりを歩き出した。

 

 

それから電車も使い、二十分程度の所の建物の前で彼女は立ち止まった。

 

「ついたぞ。ここが第十七小隊の練武館だ」

 

なんだか、外見だけ見れば普通の建物のように見える。

しかし中に入ると、整備されたグラウンドのような訓練場と、訓練室まである。

なかなかに整った素敵な場所だった。

 

「小さいけど綺麗に纏まってるね。気に入ったよ」

「......おかしいな、他のメンバーにも集まるよう言っていたんだが、誰もいない」

 

他の小隊メンバーにも招集を掛けていたらしい。

もしかして人望が......っと、そんなことはないようだ。

 

「居るよ、訓練室の中」

 

ニーナの視線が其方に向かうと同時に、訓練室の扉が開いた。

 

「お、ニーナ。流石に早いな」

「シャーニッド。お前程じゃないぞ?」

 

「俺はシャワー浴びてたからな、今回は特別だ」

男性にしてはかなり長髪の髪に、なんとなく軽そうな雰囲気。天剣で例えるならトロイアットが近いかもしれない。

 

「それで、そちらのお嬢さんが今回のニーナの虐め相手って訳か?」

 

視線がこっちに移動したのを感じ、軽く前に出る。

 

「初めまして。イリス・ウルル。1年生だよ」

「俺はシャーニッド・エリプトン、4年だ。個人的には綺麗どころは大歓迎だからな、ぜひ合格してくれ」

「まぁ、頑張るさ」

 

なんとなく、彼とは気が合いそうな気がする。

それと彼の言葉から、どうやら僕達が早く来すぎたのがメンバーのいない原因だということがわかった。

 

「やっぱり隊長が早すぎたんだよ。僕、もう少し寝てたかったのに」

「10分前行動は基本だろう?全く、弛んでいるな」

 

と、そこで練武館の扉が開く音がした。

振り向けば、銀髪を腰まで垂らした少女が立っている。

背格好は自分と同じくらいだろうか、良く武芸者に見えないと言われるが、彼女は自分以上に武芸者に見えない。

 

「フェリちゃん。珍しいな、練習にこんな早くから来るなんて」

 

どうやら名前はフェリというらしい。

言葉を一言も話さないまま此方まで歩いてくると、僕のことをちらりと見てシャーニッド先輩へと視線を戻す。

 

「兄の命令で。試合を見て結果を報告しろと」

 

簡潔にそれだけ言うと、備え付けのベンチに座り込んだ。

 

「彼女はフェリ・ロス、二年生だ。フェリ、こっちはイリス、一年生だ」

「イリス・ウルル。まぁイリスって呼んでよ。フェリ先輩はもしかして、念威繰者だったりするの?」

 

その質問に対し、フェリは初めて僕に視線を合わせた。

 

「......そうですが、それが何か?」

「ううん、何となくそう思っただけ。よろしくね」

 

そう返すと、暫く視線を合わせてくれていたがまた目を落とす。

念繰威者は頭の中で莫大な情報をやり取りする為、感情表現が希薄になりがちというのはグレンダンの念繰威者、デルボネの言葉だ。

余り振り回すのも良くないだろうけど、過度に気を使う必要もないだろう。

 

「えっと、これで全員なの?」

 

「いや。もう二人いるんだが......あぁ、ほら来た」

「ごめんニーナ!レイフォンに荷物運ぶの手伝って貰ってたら時間を忘れちゃってて......」

 

......レイフォン?

 

「遅刻だぞ。レイフォン、ハーレイ」

 

またレイフォン。

パズルのピースがはまるように、頭の中で昨日の会話の意味が繋がってゆく。

生徒会長が彼処でレイフォンの名前を出したのは、ただ僕がグレンダンの出身だからだけというわけではなかったのだ。

緩慢な動作で振り返る。

いかにもメカニックといった風貌の男。

そしてその隣には――――

 

「レイフォン・アルセイフ......」

 

――見間違えることのない、幼い頃から憧れ続けていた"彼"の姿があった。

 

 

 

 

もうひとりの彼はハーレイというらしい。錬金科の三年で、この小隊の錬金鋼の整備をしていると言っていた。しかし、今の僕に彼について深く考える余裕はなかった。

何か喋らなきゃ、手を握らなきゃ、笑わなきゃ。

思考だけがぐるぐる回って結果どれ一つとして行動に移せない。

彼の表情が怪訝なものに変わってゆくのだけが、視界に強く映っていた。

 

そこでニーナが気を使ってくれたらしい、しかしこの場においては最悪とも言える言葉を発した。

 

「イリスはグレンダン出身らしい。レイフォンと同郷だし、何処かで会っているんじゃないか?」

 

瞬間、レイフォンの表情が一変した。笑顔は消え、差し出された手は引っ込む。

剄が漏れ出し、表情には警戒とも何ともとれないものが浮かんでいた。

しかしその剄を感じたおかげで多少冷静に戻ることができた。

引っ込みかけた手を強引に握ると、にこりと微笑む。

 

「イリス・ウルルだよ。初めまして、レイフォン」

 

ひねくれているとか良く言われる僕に出来る精一杯の素直な笑顔を浮かべ、手を離す。

少なくとも今どうこうされる訳ではないと思ってくれたらしい、彼の表情には多少ぎこちないながらも笑顔が戻ってくれていた。

 

「さて、顔も合わせたところで早速だが、私はまだイリスを小隊のメンバーとは認められない。だから私と勝負をしてもらうぞ」

「いいよ、望むところだ」

 

予想外過ぎだけれど、レイフォンがいるなら尚更第十七小隊に入りたい。

とはいえ、全力でやってはニーナ程度簡単に消し飛ばしてしまえる。

どうしたものかな。

 

 

 

 

「そこに武器がある。どれでも好きなのを使うといい」

 

何やら考え込んでいる様子のイリスに告げると、彼女は本当に無造作に剣の一本を取った。

あまり選ぶのに時間をかけるようだったら注意しようと思っていたが、全く適当に選ぶというのもどうなのだろうか。

 

「よし、君の名前はカトリーヌだ」

 

何やら武器に名前を付けたらしいイリスを尻目に、両手に自分の武器である鉄鞭を復元する。

 

「さぁ、始めるぞ。私に一撃入れることが出来たら、審査は合格だ」

 

カトリーヌと呼んでいた剣を軽くす振りするイリスに向けて告げると、鉄鞭を構えることなく試合の開始を告げる。

相手は1年なのだ、これくらいの容赦はあって然るべきものだろう。

 

「あれ、構えなくていいの?試合開始を聞いた気がしたんだけど」

「先手は譲ってやる。何処からでもかかってくるがいい」

 

そう告げると、彼女は再び考え込むようすを見せる。

戦闘中にあるまじき行為に思わず声を掛けようとすると、イリスは剣を大きく掲げた。

 

「いい?ニーナ。このカトリーヌから目を離しちゃダメだよ?」

「何を言っている?」

「いいから」

 

彼女の今までとは違う強い口調に押され、思わず黙り込む。

 

「目を逸らしちゃ、ダメだよ?」

「......あぁ」

 

私の答えに満足そうに頷くと、彼女はまるで剣を投げては受け止め、手の上で弄び始める。

 

何をしているんだ、と言いたかった。

しかし彼女の先ほどの様子がどうしても引っかかり、武器を持つ手に無意識に力が篭る。

 

「じゃあ、遠慮なく先手を貰うよ」

 

一際大きく剣を放り上げ、その剣が落下を始めた所でイリスはそう言った。

その瞬間だった。

剣を上部で受け止めたイリスの腕が一瞬"ブレた"。

それを脳が認識したとほぼ同時に風切り音、そして直後に轟音。

 

「あれ、外れちゃったか」

 

能天気な声に我に返り、轟音をあげた場所を振り返る。

そこには、一瞬前まで彼女の手に収まっていた錬金鋼が、壁の一部を破壊し突き刺さっていた。

 

 

 

 

反応できなかったか。これでも加減をしたんだけどな。

万が一を考えて、あらかじめ当たらないようにしていて正解だった。

ニーナはゆっくりと私の手、そして壁に突き刺さった剣を見る。

 

「......今、何をした?」

 

視線をこっちに戻したと同時にそう尋ねてくる。

聞かなくても理解出来るだろうに......いや、理解したくないのかな。

 

「何って、"投げた"だけだよ。見てたでしょ?」

「投げた、だと?」

 

ニーナはかすれた声で呟く。

ふと横を見れば、シャーニッド、そしてフェリまでもが驚きに目を見開いている。唯一レイフォンだけは、驚く程鋭い眼光で剣を見ていた。

見えたのはレイフォンだけ、か。

 

「だからあれ程、カトリーヌを良く見ておいてって言ったのに。外見が強そうに見えない自覚はあるけど、本当に外見通りだとは限らないでしょ?」

 

言いつつ、手に巻き付いた糸を思い切り引っ張る。

瞬間、剣は壁から引き抜かれくるくると宙を舞い手元まで戻ってきた。

糸のように細くした剄をあらかじめ剣に貼り付けておき、手元を離れた武器でも回収可能にする。

リンテンスの鋼糸を見ていた時に思いついたちょっとした小技だ。

 

「よしよし、いい子だねカトリーヌ。さて、一撃入れることが条件だったよね。もう一回行こうか」

「いや......合格だ」

 

そう言ったニーナの表情に、ちらりと畏怖の色が浮かんだのを見て取る。

少しやりすぎちゃったかな。

 

「本当に?ありがとう。それじゃあこれからよろしくね。ニーナ隊長、シャーニッド先輩、フェリ先輩、レイフォン」

「......うん、よろしく」

 

言葉を返してくれたのはレイフォンだけだった。

ニーナは黙ったまま動かず、フェリは会釈し無言のまま練武館を出てゆく。

本当にやりすぎちゃったかな、幾ら何でもこんな空気にしてしまうつもりはなかったんだけど。

 

「イリスちゃんだったよな、すげぇじゃねぇか!全く見えなかったぜ」

 

そんな暗い空気を吹き飛ばすように、シャーニッドが近寄ってきてくれる。

場の空気を察してくれたのだろう、とても有難い。

 

「不意打ちみたいな感じだったからね。ちょっと卑怯っぽかったかもしれない」

「いやいや、そんなことはねぇよ。それに手元に剣が戻ったあれ、どうやったんだ?」

「ああ、あれはね.....」

 

と、そこでニーナが訓練室の方に向かっているのに気づく。

 

「......少し着替えてくる」

 

彼女はそういって扉を開けて中に入っていった。

やっぱり、あれは不味かったかなぁ。

 

「気にすんな。イリスちゃんが注意したのにそれでも構えず剄もろくに練らなかったニーナが悪いんだ。お前さんが気にすることじゃねぇよ」

 

気持ちを察してくれたのか、シャーニッドは優しく言葉を掛けてくれた。

 

「それにしても、イリスちゃんは強いんだな。もしかしてグレンダンの武芸者はみんなこんなに強いのか?」

 

その言葉に、ちらりとレイフォンを見る。

 

「んー......そうだね、一応武芸者の本場だからね。強い人は多いと思うよ」

「なるほどな。おいレイフォン、お前さんももうちょっと頑張ったほうがいいんじゃないのか?こんな可愛いお嬢さんに負けるようじゃ男が廃るぜ?って、それは俺もか」

 

「あ、あはは......」

 

茶化すようなシャーニッド先輩の言葉に、レイフォンは誤魔化すように笑った。

やっぱり、実力を隠しているんだ。

何故かはわからないけど、ここじゃ余計なことは言わない方が良さそうだね。

 

「さっきから思ってたんだけどシャーニッド先輩の髪留め、お洒落だね。僕も髪を縛りたいんだけど、いいのがなくて」

 

とりあえず話を逸らすついでに、そう声をかける。実は気になってたんだよね。

僕の髪はサヴァリスより少し短いくらい。髪型にこだわりもなく、伸びるままにしていたらなんだか長くなってしまった。

 

「ありがとな。じゃあ今度良い店を紹介するぜ」

「ありがとう」

「イリスちゃんはそのピアス、片耳だけなのか?それに、随分と大きいな。勿論、にあってるけどさ」

 

自然とそう言う言葉が出てくる辺り、やっぱり女性の扱いになれているみたい。

軽く首を動かし、サヴァリスのピアスを揺らす。

レイフォンの目が、わずかに見開かれるのが視界に見えた。

 

「故郷を出てくるときに友人に貰ったものなんだ、片方投げて寄越されてね。大きいのは男性用だからかな」

「なるほどな。もしかして、想い人って奴か?」

「ううん、全然。向こうも全くそのつもりはないと思う。ただお互いに話す機会も多かったから、多少は気に入って貰えてたんじゃないかな」

 

サヴァリスが僕に恋......うわぁ、いやないない。

 

「そういう所から恋に発展していくのが燃えるんだが......まぁ、相手のことも分からないしな。さて、俺も着替えてくるとするかね。髪留め、欲しかったらいつでも言ってくれな」

「うん、ありがとう」

「それじゃあな、お二人さん」

 

シャーニッド先輩は軽く手を振り、訓練室の中へと消えていった。

 

「それじゃ、僕達はどうしようか?」

「イリス......ちょっと、話が有るんだけどいいかな」

「ん、いいよ」

 

思ったより早かったね。

ここでは話しづらいというレイフォンの言葉に従い、僕たちは喫茶店に向かうことにした。

 

 

 

 

「......くそっ!」

 

強く壁を殴りつける、これで何度目だろうか。

先程の戦いのことを、彼女は不意打ちだったと言っていたが全くそんなことはない。

あの時私は彼女の注意を聞き、剄こそ本格的に使ってはいなかったものの視力や反射神経はきちんと強化していた。

 

それでもほとんど見えなかったのだ、イリスの一撃は。

彼女は外れちゃったと言っていたが、きっとあれもワザと外したのだろう。

もしまともに命中していたら、私がただではすまないことを分かっていたから。

 

「荒れてんな、ニーナ。まぁ無理もないか」

「......シャーニッド」

 

扉が開くと同時にあらわれたシャーニッドに、視線を向ける。

彼は普段と変わらない調子で服を整えると、となりへと座った。

 

「完敗だったな。破壊力に速度、どれも一級品だった。それに、本気ってわけでもなさそうだったしな」

「......何が言いたい」

 

睨みつけるようにして尋ねると、シャーニッドは肩をすくめ笑った。

 

「別に?そんな力を間近で感じた隊長さんは、どうするのかなと思ってさ。もう一週間もないうちに対抗戦が始まる。無茶な訓練でもして倒れられた日には、俺達もたまったものじゃないだろ?」

 

全て読まれている。相変わらず、人の心の動きに聡い男だ。

肩に入れていた力を抜き、大きく息を吐く。

 

「大丈夫だ、そんなことはしない。ただ、彼女は何者なのかと思ってな」

「それについては、レイフォンが何か知ってそうな様子だったけどな」

「レイフォンが?」

 

その言葉にさらに驚く。あの後残って会話していたのは知っていたが、そんなところまで見ていたのか。

とはいえ、レイフォンに聞いて答えてくれるかどうかは微妙。聞くならむしろ直接の方が簡単だろう。案外、あっさりと答えてくれるかもしれない。

 

「ま、それより今は目の前まで迫った対抗戦だ。全てはそれからでも遅くない。今は戦力の増加に素直に感謝しておこうぜ」

「そう......そうだな」

 

私一人軽くあしらえる程度の実力。

これはあの生徒会長すら知らなかったことだろう、もし知っていたら第十七小隊に入れてくれたかどうか分からない。

つまり、彼女は切り札になり得る。

 

「作戦の練り直しだ。シャーニッド、付き合ってくれるか?」

 

シャーニッドはそれを聞いてにやりと笑った。

 

「やっとらしくなってきたな。しゃーねぇ、付き合ってやるよ」

 

まずは対抗戦に挑んでから。すべてはそれからでも遅くない。

それから私達はシャーニッドが根をあげるまで、ひたすらに戦略会議に没頭することとなった。




シャーニッドは上手い感じに立ち回ってくれるので、書いててとても楽しいです。
そのうち描写すると思いますが、イリスは茶色がかった黒髪に暗紫色の目、肌色は白めで身長は平均に比べてだいぶ小さい感じです。どちらかといえば可愛いの方面ですね。
この辺り、原作よりも展開が進むのが遅くなっています。
時系列を合わせようとした結果このようになり申し訳ありません。

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