鋼殻のレギオス”The edge of Army”   作:りこぴん

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ニーナとお話する回になります。


隊長

あの後、ニーナは生徒会長室に怒鳴り込んだらしい。

そして最終的に生徒会長は、レイフォンの過去をニーナに話してしまったそうだ。

事前にフェリがそう教えてくれていたけど、まさかここまで露骨に変化があるとは思わなかったな。

今は放課後、小隊の訓練時間だ。

試合のあったあの日からフェリは前に比べ訓練に来ることが多くなった。

それはとっても嬉しいことだけど......問題はニーナだ。

ベンチで一人座り、何かを見ているニーナを盗み見る。その表情は険しく、そしてここ数日見慣れた表情でもあった。

結果だけ言えば、ニーナはレイフォンを拒絶した。直接聞いた訳じゃない。

レイフォンとニーナは同じアルバイト先で働いていて、その時のことをレイフォンから聞いたのだ。

レイフォンが全てを話し、それを聞いた上でニーナはこう言った。

"お前は卑怯だ"、と。

正直に言えば気に入らなかった。今すぐにでもニーナの所に文句を言いに行きたいくらいだった。

でもレイフォンに気にした様子は無くて、毒気を抜かれちゃった感じがある。

イリスが近くにいてくれるから別に大丈夫なんて言われちゃって、怒りなんてどっかに吹っ飛んじゃったよ。

だから僕自身は何もしていない。直ぐに過去のことになるだろうと思っていたし。

だけど、あれからしばらく経ったけど状況が改善する様子はない。

レイフォンは気にしていない様子だし、どちらかといえばニーナがレイフォンを避けているように感じられる。

お互いに歩み寄る気も無さそうだし......どうしようかな。

このまま解決しないなら小隊が解散に、なんて話もちらりと兄が口にしていたと、フェリが教えてくれた。せっかくレイフォンが手に入れた居場所がまた奪われるのだけは避けたい。

とは言っても、レイフォンに歩み寄る余地はない。仲間を助ける為にやった行為を卑怯だったと認めろなんて言えないし、そもそもそんな気持ち僕には分からない。

だから話すなら......ニーナの方だね。

 

「ニーナ。ちょっと話したいことがあるんだけどいいかな?」

 

ニーナはちらりと此方を見て、そして微妙そうな表情で頷いた。

まぁきっと何を話されるかなんて分かってるんだろうね。

 

「じゃあ......そうだな。訓練室に行こうか」

「......分かった」

 

フェリが此方を見ているのを背中で感じつつ、訓練室へと入る。

適当なトレーニングマシンの上に腰掛けると、ニーナが急かすように切り出した。

 

「レイフォンのことだろう?」

「流石、良く分かってるね。まぁちょっと聞かせてよ、レイフォンのことどう思ったのか」

 

それによって僕も何を話すか決めたいし。

ニーナはベンチへと座ると、黙って目を閉じた。

 

「私はあの男を卑怯者だと思ったし、本人にもそう告げた。どういう感情を抱いたのかと聞かれればそう......軽蔑だ」

「どうして軽蔑するの?」

「当然だろう?奴がした事は武芸者としてあってはならないことだ」

 

あってはならないこと。そう、彼女は強く断言する。

 

「どうして?仲間の為に、仲間の力になる為に大変な想いをしてお金を稼ぐ。それって、そんなに悪いことかな?」

「手段なら別にもあっただろう!」

 

ニーナは強く僕を睨みつける。

 

「確かにあったかもしれないね」

 

そう認めると、彼女の視線に困惑の色が混じった。

てっきり、頭ごなしに否定されるとでも思ってたんだろう。

 

「でも無かったかもしれない。何人もの孤児を助ける為にはたくさんのお金がいる。一度にたくさんのお金を稼げる手段なんて限られてるでしょ?それこそ、人殺しでもしない限り」

 

たかが一人の人間が稼げるお金なんて知れている。

ましてはレイフォンは孤児だ。

孤児がお金を稼ぐことの難しさは、僕も良くわかってる。

 

「だから賭け試合に手を出しても許されるというのか!?」

「許される、なんて言わないさ。でも軽蔑するようなものじゃないとは思う。仲間の為に全てを捨てて戦っていた。例え間違っていた方法だったとしても、その想いは決して軽蔑するようなものじゃない」

「だが奴のやったことは武芸者としてあってはならないことだ!例え仲間の為だったとしても、武芸者として守らなくてはならないものがあるだろう!?」

 

激昂し、僕のことを怒鳴りつけるニーナ。

 

武芸者が悪を行うなんてありえないという心が、何も知らない子供のような発言が、段々と自分から冷静さを奪ってゆくのを感じる。

しかし高ぶる気持ちを無理やり押さえ込む。

僕は彼女を否定しに来たんじゃない、説得しに来たんだ。

 

「この先を話す前に一つだけ言っておくことがある」

 

やるべきことと過程を明確に、極力感情を排除する。

でもどうしても、これから先冷静に話すためにどうしてもこれだけは言っておかなきゃならない。

 

「仲間の為だとしても武芸者として守らなきゃならないものがある、って言ったよね。つまり、その守りたいものはニーナにとって仲間の命より大切なんだね?」

「それは......!」

「レイフォンが、ニーナの言う守るべきものを捨てて仲間の為に戦った結果僕や他の孤児達は生きている。勿論守ったままお金を稼ぐことも出来たと思う。でもそうした場合、確実に僕達の周りにいた孤児達のうちの何人かは死んでいたさ」

 

清く真っ当にお金を稼いで。

そうしていたら間に合わなかったくらい、孤児院の財政は厳しいものだった。

そもそもそうなったら僕達の孤児院までお金が回ってきたかどうかも怪しい。

 

「その上でニーナに聞きたい。武芸者として守るべきものって、何?」

「それは.......」

 

ニーナは迷いのある声を上げ、しかしすぐに毅然とした表情で言い放った。

 

「誇りだ。武芸者が武芸者としての誇りを忘れてどうする?」

「誇り......ね。じゃあ誇りって何?真っ当に生きること?都市を守ること?」

「そうだ。武芸者は天から力を授かり、汚染獣を倒すべく生まれた存在だ。そんな武芸者が罪を犯して......悪に染まっていいはずがない」

 

ニーナは言う。

武芸者が悪になるなどありえないと。無邪気に正義を振りかざし、それを誇りだと口にする。

分かり合えないのも当然だ。彼女と僕やレイフォンとでは、住んでいる世界が違うのだから。

しかし言わなきゃならない。言葉にしなければきっと、彼女は僕やレイフォンのことを理解することが出来ないだろうから。

 

たとえ、それがニーナの価値観を崩してしまうと知っていたとしても。

 

「......ニーナはこのツェルニを守りたいんだっけ?武芸者としての誇りを忘れない、立派な生き方だと思うよ。あぁ正しく、ツェルニにとっては正義の味方だね」

「......何が言いたい?」

 

言葉の端に困惑の色を覗かせ、彼女は尋ね返してくる。

 

「思ったことを言っただけさ。ニーナはツェルニの為に戦争に望み、勝ち、鉱山を手に入れる。皆が君を賞賛し、正義だと、誇り高い武芸者だと認めるだろうね」

 

他の学園都市の所有する鉱山を奪い取り、その結果。

 

「その過程で他の学園都市が滅びたとしても、ニーナには関係のないことだよね」

「......っ!!」

 

息を呑む音が聞こえる。でもここで辞めるつもりはない。

 

「ニーナは誇りを守っただけ、つまり正義だ。だから何の問題もないもんね?......まぁ」

 

一瞬間を置き、少し声を落とす。

 

「相手の学園都市からしたら、君は悪以外の何者でもないと思うけど」

 

瞬間、僕たちに激しい揺れが襲いかかった。

 

 

 

 

私はレイフォンの過去から、奴は武芸者として相応しくないと思い軽蔑した。

武芸者としての誇りを捨て、賭け試合に出場していた彼奴を卑怯者だと罵った。

イリスに呼ばれた時、どうせレイフォンの話だということは分かっていた。

彼女はレイフォンと親しいようだし、レイフォンが何をしたかも知っているようだったから。

だからこそ分からなかった。同じ武芸者としてレイフォンのやった事に何も感じない理由が。

しかし彼女と話しているうちに、だんだんと分からなくなってきた。

当たり前だと思っていたことが、考え方が。

彼女の言葉はまるで毒のように心を蝕み、全てを壊してゆく。

 

「その過程で他の学園都市が滅びたとしても、ニーナには関係のないことだよね」

 

その言葉は、自分の中の大切な何かを打ち砕いた。

学園都市同士の競技という言葉に隠された戦争。

人が死ぬことなど殆どないが、それは紛れもなく戦争なのだ。

戦いあい、勝利し鉱山を手に入れる。

そうすることでツェルニを守ることが誇りだと、正義だと疑っていなかった。

しかしその結果として他の都市の所有する鉱山は減り、もしかしたらその都市は滅びてしまうかもしれない。

そこに存在する電子精霊もろとも。

 

「相手の学園都市からしたら、君は悪以外の何者でもないと思うけど」

 

正しくそうだろう。

自分達の所有する鉱山を奪い、都市を滅ぼそうと襲いかかる自分達の姿は相手にとっては悪以外の何者でもない。

そしてそこに住む電子精霊をも殺しかねない、犯罪者ともなり得る。

こんな事も考えずに正義だと、誇りだと口にしていた自分が酷く愚かに思えた。

たった一人、自分より幼い少女の言葉で自分の中にあった価値観が崩れ去っていくのを感じた。

 

だったら正義とは、誇りとは何なのか。

正義という主観めいたものを振りかざし戦う、それは悪と何ら変わりないのではないか。

瞬間、まるで地面が崩れ落ちたような錯覚を受けた。

 

「おっと、大丈夫かい?随分と大きな都震だね」

 

イリスに抱き留められて初めて、それが自分の錯覚なのではなく実際に都市が揺れているのだということに気付く。

しかし例え揺れがなかったとしても、立ち続けられていたのかは分からない。

これまで自分をおしてきた風が、剄の輝きが。

全て重力に変わってしまったかのように、自分を押し潰そうとしているように感じられた。

 

「......でも僕は、ニーナは間違ってないとも思うんだ」

 

彼女は私の背中へと手を回し、優しくあやす様に撫でて来た。

先程までとは打って変わった優しい声。先程まで話していた人物とはとても思えない。

驚くくらい小さな手が背中から温もりを伝えてくる。

 

「正義とは、誇りとは貫くものだと僕は思う。他人の言うことに耳を貸さず、自分の行いは正義だと信じる。迷わず、ただ一心に自分の信じる道を進んでゆけばいい。後悔するのは、全てが終わってからにすればいいさ」

 

ただ迷わず、自らの信じる誇りを貫いてゆくこと。

彼女はこれまでもそのようにして生きてきたのだろう、そしてこれからも。

諭すように語られる、イリスの一言一言が耳を通して心に入ってくる。

目の前の小さな少女は、自分よりもずっと大人で確固たる考えを持ち合わせているんだと気づかされた。

 

「そしてそこに置いて、レイフォンは変わらず誇りを貫いているんじゃないかな」

 

孤児の仲間たちを救うため。

例え何を言われたとしても耳を貸さず、仲間の為に戦ってきたレイフォン。

褒められるようなやり方ではなくても、そこには確かに彼の誇りが、正義があったのだ。

 

―――胸につかえていたモヤモヤが、スッと消えたような気がした。

レイフォンは卑怯者なんかじゃない。

不器用だが、彼も誇り高い武芸者なのだ。

 

揺れはいつの間にか収まっていた。

イリスの手から離れ、自分の足で地を踏み締める。先程感じた重力は、もはや存在していなかった。

彼女はにこりと笑うと、真剣な表情に戻る。

 

「改めてニーナに聞くよ。君の誇りは、正義は何処にある?」

 

私の正義。

周りの反対を押し切り小隊を立ち上げた理由。

武器を手に取り、戦っている理由。

ツェルニを、守りたい。自分のこの手で、あの可愛らしい電子精霊の住むこの街を守りたい。

その為に強くなり、都市戦に勝たなくてはならない。

想いのままに伝えると、イリスは再び笑顔になった。

 

「じゃあ、まずはこの状況をどうにかしないとね?」

 

どういう意味かを聞こうとした瞬間、都市中に緊急事態を知らせるサイレンが響き渡った。




正義とは何か?という話でした。
一方から見た悪が、他方から見た正義であるというのはよくある話ですね。
誤字脱字のご報告や感想等いつでもお待ちしています。
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