鋼殻のレギオス”The edge of Army” 作:りこぴん
文章の書き方等多少変わっているかもしれませんが......ご愛嬌で。
生徒会室にはツェルニの武芸者達をまとめている各小隊長たちが集められていた。
その表情は例外なく険しく、その場の主である生徒会長へと注がれていた。
すべての視線を受け、カリアンは口を開く。
「あまり時間もないので簡潔に話させて貰う。現在、ツェルニは陥没した地面に足の三割をとられ移動不可能な状態にある」
その言葉に、全員に緊張が走る。
都市は電子精霊によって、唯一の例外を除きすべて汚染獣を避けるように移動している。
もしこのまま動くことが出来なければ、嗅ぎつけた汚染獣が襲い掛かってくる可能性も十分にあり得る。
「抜け出すことは出来ないのですか?」
その問いかけに、カリアンは首を横に振った。
「通常時ならばそれも可能だろう。しかし現在は不可能だ......これを見てほしい」
控えていた生徒によってモニターに光が灯される。
薄く光るモニターの中心に近い所に、いくつもの黒い何かが現れる。
まるで虫の如く動くそれらは......。
「っ!」
鮮明になったそこには、都市の脚部に集る汚染獣の姿が映し出されていた。
一体ではない。
何十体、何百体もの汚染獣がギチギチと体を犇めかせ、脚部を登ろうとしている。
その光景にニーナは思わず息を呑んだ。
汚染獣は差はあるものの、一様に上を目指し歩みを進めていた。
奴らは間違いなく、この都市の人間達を狙っている。
その肉を喰らい、血を啜り、自らの糧にするために。
「そんな......都市は汚染獣を避けて移動しているのだろう!?」
隊長のうちの誰かが叫ぶ。
しかしその叫びに、生徒会長は答えなかった。
「......都市が避ける汚染獣は基本的に地上を動き回っているものだけです。地下で、しかも休眠中であった汚染獣を発見することは不可能に近いのだと、実戦経験のあるうちの小隊員が言っていました」
その質問に答えたのはニーナだった。
事前にイリスがくれた助言はひょっとしてこうなることを予想していたのではないかと、いまさらながらに思う。
カリアンはその言葉に頷くと、ニーナに向き直った。
「他に聞いたことはあるかい?学園都市には実戦経験のあるものが少ない。実戦経験のあるものの意見は貴重だ」
カリアン含めその場の全員の視線を受けたニーナは、緊張に顔をこわばらせながらも口を開いた。
「はい。汚染獣の......彼女が言うにはあれは幼生なのだそうですが、幼生がいるということはどこかに母体となる汚染獣がいるということです。母体が危険を察知し他の汚染獣に救援を出す前に始末しなくてはならないと」
「ありがとう。では念威操者には母体の発見を最優先にするよう伝えよう。諸君らは登りくる汚染獣の始末を頼みたい」
圧倒的に経験値の不足した学生の集まり。
しかしやらなければやられてしまう。
自分たちだけではない、この都市にいる人達全員の命が肩に掛かっている。
隊長一人一人と目を合わせ、カリアンは一歩後ろへと下がった。
入れ替わるようにヴァンゼ武芸長が前へと進み、細かな指示を飛ばしだす。
「全武芸科生徒に錬金鋼の安全装置の解除を許可する。解除が済み次第都市西北側へと移動しろ。都市の命は我等に掛かっている!」
ヴァンゼの強い言葉にその場にいる生徒はそれぞれ頷くと、役目を果たすために散って行った。
何十もの汚染獣の幼生達が、都市の脚部を登ってゆく。
しかし急である上に引っかかりのない脚部を登るのは幼生達にとって非常に困難なことだ。
いらだたしげに体を揺らし、なお愚直に進もうとする幼生の一匹が初めて自分の体に羽があることに気付いた。
装甲のような甲殻を割り、中からグシャグシャの羽を広げ飛び上がる。
その一匹の動きに気付き、幼生達は一斉に羽を広げ始めた。
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ......
大地を揺るがすような振動と共に飛び上がった幼生達は、都市部めがけ移動を開始した。
「あれが......汚染獣......」
ニーナは震える手を握り締め、迫りくる幼生達を睨み付けた。
この都市は私が守って見せる。
改めて決意を胸に秘め、通信機に手を当てた。
「射撃部隊!空中にいる奴らを打ち落とせ!!」
シャーニッド率いる射撃隊が、剄羅砲に剄を送り始める。
まもなく打ち出された巨大な剄の塊は、空を飛ぶ幼生の先頭の一団に命中すると大きく爆発を引き起こした。
爆風により勢いを殺された幼生達は次々と着地し、甲殻を軋めかせ走り出す。
「シャーニッド、そのまま空中にいる奴らを狙え」
追加で指示を飛ばすと、自らの武器である鉄鞭を復元する。
ツェルニをこの手で守りたい。
イリスに告げたその時の、彼女の表情を思い出す。
絶対に勝利し、そしてレイフォンニにも謝らなくてはならない。
「全員突撃!!」
確固たる思いを胸に、ニーナは地を蹴った。
「だから、フェリには母体を探すのを手伝ってほしいんだ」
都市の一望できる建物の上、ほぼ時を同じくしてイリスはニーナにしたものと同じ説明をフェリにも行っていた。
「手伝ってくれないかな?」
イリスの問いかけに、フェリは息を吐く。
「私はまだ力を使うことに納得していません」
「そっか......じゃあ、仕方ないから」
「話は最後まで聞いてください」
あっさりと引き下がろうとしたイリスに、フェリは顔をあげ目を合わせた。
「ですが貴方は私に、新たな道を与えてくれました。ですからイリス、貴方の為に力を使うのならば、手伝うのも吝かではありません」
かすかに頬を染めてそっぽを向くフェリ。
イリスは驚いたように目を見開いた後、顔を綻ばせる。
「それで、具体的には何をすればいいのですか?」
「うん。えっとね......」
と、イリスの言葉はそこで途切れる。
それに呼応するかのように屋上へとでる扉が開き、一人の男子生徒が姿を現した。
「その話、僕も手伝わせて欲しい」
イリスは彼の姿を見、とても嬉しそうにただ笑った。
汚染獣の突進をいなし、その横腹に鉄鞭を叩き込む。
まるで金属を叩いたかのような衝撃と共に叩いた左腕が痺れるのを感じるが、ニーナはそれを無視し右腕の鉄鞭を同じ場所に叩き込んだ。
強い衝撃に汚染獣は一時的に動かなくなり、その隙を見てニーナは一旦距離をとった。
「キリがない!」
あたりには何体もの汚染獣の死体が転がっているが、それでも数え切れないほどの汚染獣が視界を埋め尽くしていた。
それに比べ、戦闘開始から休みなく戦っている武芸者達の顔には疲労の色が浮き出ている。
このままでは不味い。
しかしこの状況を打開する術など、ニーナには思いつかなかった。
他の所から援軍がこない所を見ると、どこも同じような状況なのだろう。援軍は期待できそうもない。
そして――
「戦線が下がっている......!」
最大の問題はここだった。
一人の犠牲者もなく戦えているものの、敵の数、未知の恐怖、疲れ。
様々なものに圧され、戦線はかなり後退していた。
後退、つまり街の方へと近付いている。
このまま下がり続ければ万が一突破された時、そのまま街へとなだれ込んでしまう可能性が出てくる。
刹那の判断が求められるこの状況に対応するには、彼女にはまだ経験がたり無さすぎた。
(どうする......!?)
迷いのためにニーナの動きが一瞬止まる。
その瞬間だった。
「ニーナ!!」
悲鳴のような叫びに我に返ると、ダメージから回復した汚染獣がニーナに突っ込んできていた。
「なっ!?くっ!!」
咄嗟に鉄鞭を交差させ防御するが、堅重な汚染獣の体はニーナを軽く弾き飛ばす。
「がはっ......!」
まともに喰らった体は、地面に何回もぶつかりようやく停止した。
何本か骨をやってしまったかもしれない。それほどの痛みが体中に襲いかかる。
今までの疲労も相まって視界が霞む。身体中が悲鳴をあげる。
しかし汚染獣は自分に狙いを定め、襲いかかろうとしているはずなのだ。
「ぐ......」
立て、前を向け。
しかし身体は言うことをまったく聞いてはくれない。
動かない人間など、汚染獣からすれば自ら差し出される餌のようなものだ。
思考に身体がついてこない中、思い出されるのはイリスの言葉。そして先程決意したばかりの事。
イリスに自分の力で都市を守りたいと告げ、レイフォンには謝らなくてはならないと思い。
しかしどれも達成することが出来ずにここで終わろうとしている。
やるせなさ、そして情けなさに思わず涙がこぼれた。
「私は弱いな......」
せめて最後に、自分を殺す敵の姿だけは見ていよう。
その憎しみを決して忘れることのないように。
そう思ってニーナは顔だけを起こす――――しかしそこに汚染獣の姿はなかった。
「ごめんニーナ、遅くなった」
まるで晴天の太陽の如き光が、靄のかかった視界を晴れ渡らせる。
悲鳴を無視し上半身だけを起こすとそこには、白銀の剄をその小さな身体に行き渡らせたイリスの姿があった。
危うく大切な隊長を失うところだった。
イリスは内心で胸をなでおろす。
ニーナを見れば、攻撃をまともに受けたのかそうとうダメージを負っていそうに見える。
間に合ってよかった .....本当に。
「フェリ、各部隊に前線から引くように伝達。人がいない方が広い範囲をカバーしやすいから、お願い」
『了解しました』
「ニーナ、お疲れ様。あとは僕に任せて休んで。大丈夫.....」
ちゃんと殲滅するから。
錬金鋼を復元させ握る。剣は一対多には余り向いてるとは言えないんだけど、そんなことはどうでもよかった。
剣に剄を込め、振るう。
もはや技ですらない剄の塊は、それだけで汚染獣の一角を地形の一部ごと消し飛ばした。
絶対に、許さない。
まるで体温が下がったかのような感覚と共に、イリスは地を蹴った。
「ニーナ!大丈夫か!」
もはや必要のなくなった射撃部隊から離れ、シャーニッドはニーナへと駆け寄る。
「あぁ.....幸いイリスのお陰でな」
そう答えるニーナの視線は、正面へと固定され動く事はない。
その様子を察したシャーニッドは、黙ってニーナの隣へと腰を下ろした。
どこか達観した様子で前を見据えていたニーナは、やがて口を開く。
「.....遠いな。イリスのいる場所は」
先程まで目の前にいたイリスはもういない。
今は恐らく、ばらけた汚染獣を始末しに向かっているのだろう。
目の前には、あれだけ苦戦した汚染獣の無残な死骸が散乱するのみとなっていた。
これをあの小柄な少女がほんの数秒でやってのけたとは俄には信じられない。
だがそれを目の前でやられたとあっては、信じる他無かった。
「私は無力だった。覚悟は出来ても、実力が何も伴っていなかった。これでは、お前達がついて来てくれないのも当然だな」
ニーナの弱々しい独白に、シャーニッドは黙したままなにも答えない。
「だが、だからこそ」
しかしその言葉は、今までの声を断ち切るかの如き力強い声だった。
「私は強くなる。這いつくばってでも教えを請い、自分が、皆が誇りを持って第十七小隊だと言えるような、そんな隊長になってみせる。だから、もし私が隊長に相応しいと思えるようになったら、背中を預けるに足る人間だと思えたら......ついてきて欲しい」
振り返ったニーナの瞳は、中身ある意志の光を宿していた。
「......あぁ」
シャーニッドは眩しげに目を細め、やがて頷く。
ニーナは嬉しげに笑うと、鉄鞭を支えにして立ち上がった。
『母体の死亡を確認。汚染獣の反応全て消滅。諸君の健闘をたたえる』
宙に浮かぶ念威端子から会長の声が響き渡る。
その言葉に各方面から歓声の声が上がり、空気の緊張が緩むのを感じていた。
汚染獣の群れはイリスが消し飛ばしてしまったのだろう、しかし母体は誰が倒したのだろうか?
ニーナのその疑問はしかし、すぐに解決される事となった。
都市を支える脚部から、都市外装備に身を包んだレイフォンが飛び上がってきたのだ。
「レイフォン!」
彼はニーナの姿を認めると、心から安心したように笑った。
そして勢いよく此方へと駆けてくる。
「先輩!無事で良かった......!」
一方的に罵り拒絶した自分のことを、責めるでもなくただ心配してくれているレイフォン。
思わず目頭が熱くなる。
しかし泣くのは後でもいい。
今は、それよりも大切なことをやらねばならなかった。
「レイフォン......すまなかった。お前の事情を良く知りもせずに一方的に罵り、拒絶し。どんなに謝っても許されるものではない」
突然頭を下げられ困惑した表情を見せていたレイフォンは、やがて困ったように笑った。
「いいですよ、気にしてません。それに隊長の言う事は正しいですから」
「いや違う。私は何も理解出来ていない子供だった......イリスに言われて、気付かされたよ」
「イリスが?」
レイフォンは驚いたような、納得がいったような表情を浮かべる。
「今更何をと思うかもしれないがひとつだけ言わせてほしい。レイフォン、ありがとう。お前とイリスのお陰でツェルニは救われた、大勢の武芸者達もだ。本当に......ありがとう」
多くの人を傷つけてきたこの力。
だが傷つけるばかりではない。自分はちゃんと人を救うことが出来たのだ。
瞳を潤ませる隊長の姿に、レイフォンは深い喜びを感じていた。
「此方こそありがとうございます」
顔を上げたニーナと視線があい、どちらともなく笑顔になる。
先程までの喧騒など無かったかのような穏やかな空気がそこには流れていた。
そして。
「......ねぇ、シャーニッド」
「なんだい、イリスちゃん」
「汚染獣を殺して、ニーナが心配で真っ先に戻ってきたら何だかいい雰囲気なんだけど。ちょっと僕の予想を超えてて良くわからないんだけど......どうすればいいのかな?」
「暖かい目で見守ってやればいいと思うぜ?」
聞こえてきたそんな言葉に、ニーナは勢いよく顔を逸らした。
そしてそのまま慌てた様子で後ろを振り返る。
「いやっ、違うぞイリス?今のは決してそういうのではなくて......」
「いやいや、良いんだよニーナ。ほんと、邪魔しちゃってごめんね?」
「うああああ!!」
シャーニッドと共にニコニコと笑うイリス。
それを見たニーナは顔を真っ赤にさせ頭を抱えた。
「え......?どういうこと?」
唯一レイフォンだけはそのやり取りが理解できず、クエスチョンマークを頭に浮かべているのだった。
誤字脱字のご報告、感想等お待ちしています。