RELEASE THE SPYCE:ツキカゲアゲイン   作:Lycka

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オリジナルカレーはちみつ抜きガラムマサラ増し増しを食べてみたいものです。


3話、ご覧下さい。


SPYCE 3#記憶

 

 

 

 

 

 

学校の準備も終わり空崎高校へ向かう。雪の道場から二人並んで歩いて俺達の通う高校へと到着。登校途中では何かと見られることの多い雪を隣に連れているお陰か俺までチラチラと見られる始末。そりゃ雪はカッコいいと可愛いを兼ね備えてるから人気なのは分かるけど、隣の俺にまで期待してもらっても困る。

 

 

 

「おはよう雪ちゃん」

 

「おはよう初芽」

 

「咲斗君もおはよう」

 

「初芽は変わらないんだな」

 

 

 

前と変わらず接してくれる事に少し驚きを隠せない。驚きというか何というか、嬉しさが勝ってるという方が正しいのだろうか。それとも俺の気にしすぎなのだろうか。どちらにせよ初芽の完全友愛主義は何も変わってなくて安心する。

 

 

 

「咲も挨拶くらいしなさい」

 

「おはよーさん」

 

「おはよーさっくん!」

 

「うおっ!......命かよ、ビックリさせんな」

 

 

 

初芽におはようと言ったら命からおはようが返ってきました。いきなり後ろから中々の音量でおはようと言われるとビックリします。これテストに出るらしいから覚えておくように。

 

 

 

「......おはようございます」

 

「おはよう、確か楓ちゃんだっけ?」

 

「そう!メイの弟子の楓だよ!可愛いっしょ?」

 

「ちょ、師匠何言ってるんですか!?」

 

「えー、いーじゃん別に!」

 

 

 

命が来ると一気に会話がうるさくなった気がする。雪とかさっきから一言も話してないし。今も命と初芽が話してるだけだし。ずっと前もこんな感じだった気もするけどな。まぁあの時とは面子が全然違うけど。

 

 

 

「メイ、2年生はあっちでしょう」

 

「はーい、じゃあまた放課後にねー!」

 

「んなら俺らも行くか」

 

「はい♪」

 

 

 

 

 

遅くなって担任に叱られるのも嫌なので少し急ぎ足で教室へ向かう。雪や初芽とは同じクラスで席も近い為なんだかずっと一緒にいる気分だけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

キ-ンコ-ンカ-ンコ-ン

 

 

 

「やっと終わったぁ〜!」

 

 

 

本日最後の授業もチャイムの音でやっと終わりを告げる。学生にとってチャイムとは初まりであり終わりであるのだ。俺レベルになるとその違いが分かってくる。主に朝一時間目のチャイムとさっきの6時間目の終了のチャイムだな。退屈な数学の授業が終わって大満足である。

 

 

 

 

「Wasabiに行くわよ、初芽も呼んで」

 

「へいへーい。初芽〜、帰るぞ〜」

 

 

 

だらしなく間延びした声で前の方に提出物を出しに行っている初芽に声を掛ける。すると初芽からはハッキリとした返事が返ってくた。周りのクラスメイトは少し不思議、というか多分動揺しているんだと思うけどまぁ良いや。そりゃあ昨日まで全然話してなかったのに急に名前呼びだからな。変に勘繰りする奴がいないと良いけど。

 

 

 

 

「それで今日の予定は?」

 

「モモの受け入れと貴方についての説明ね」

 

「あれ?でも試験受けないと入れないんじゃなかったっけ?」

 

「勿論試験はするわ。今のところメイに相手をしてもらおうと思ってる」

 

 

 

俺がいない間に制度云々が変わったのかと思ったぞ。まぁ俺はツキカゲ入るのに試験も何も受けてないんだけどな。別にツキカゲの中じゃ誰の師匠でもないし、ましてや誰かの弟子になる事もないし。

 

 

 

「因みに初芽は俺の事どこまで思い出してる?」

 

「ん〜、同じツキカゲメンバーだったとかそんなところですね」

 

「......流石は初芽と言ったところかしら」

 

「え?私ですか?」

 

「まぁそこらへんも今日説明してくれるらしいぞ」

 

 

 

あらやだ、説明して思い出したら怒られそうで怖いわ。今のうちに保険でもかけとこうかしら。

 

 

 

「っと、そんな事言ってる内に到着だな」

 

「ささっと入るわよ」

 

「師匠、お邪魔しま〜す♪」

 

 

 

"Wasabi"と書かれている看板の下から三人順番に中に入っていく。久しく来れていなかったのだが内装とか全然変わってねぇのな。多数の人が置物だと思ってるモノミもいるし懐かしいなぁ。

 

 

「あら、いらっしゃいみんな」

 

「そういやカトリーナさんって俺の事思い出してんの?」

 

「今からそれを確かめるのよ」

 

「雪ちゃん?」

 

 

 

命や初芽は昨日の時点で簡単な情報は思い出してるみたいだから良いけど、Wasabiの店主であるカトリーナさんはどうなんだろうか。これで思い出してなかったらただの不審者なんだけど。

 

 

 

「この人に見覚えはありますか?」バシッ

 

「っとと、えーと......どうも?」

 

「......も、もしかして咲斗君?」

 

「今思い出しました?」

 

「ええ、でも何で忘れていたのかしら......」

 

「そこはこれから説明するのでカトリーナさんも一緒に来て下さい」

 

 

 

 

こうして実際に経験してみるとマジで初芽は凄いんだなって実感するな。俺なんて最後まで説明してもらっても理解出来なかったからなぁ。これからの説明でも理解出来るかどうか分からんけど。

 

 

 

 

 

 

~ツキカゲ基地~

 

 

 

 

 

「おぉ〜」

 

「何驚いてるのよ」

 

「いや、やっぱツキカゲ凄いなと思って」

 

 

 

基地といい組織のデカさといい改めて凄いと思う。何処から資金が出ているのかは謎だけど。というかクッソ久し振りに入る時に必要な合言葉の"オリジナルカレー、はちみつ抜き、ガラムマサラマシマシ"を言った。最初思い出せなくて超焦ったし、何ならちょっと言い間違えてたからね。記憶力無くてごめんなさい。

 

 

 

「どうやら先客がいるようね」

 

「先客?」

 

 

 

エレベーターの動きが止まり、大きな扉が音を立てながら徐々に開いていく。そこには雪の言う通り、命と命の弟子である楓ちゃん、そして初芽の弟子である五恵ちゃんが揃っていた。

 

 

「ユッキー達遅いよ!」

 

「貴女達が早すぎるのよ」

 

「モモちゃんは?」

 

「もう少しで着くと思います」

 

 

 

どうやら楓ちゃん伝いでWasabiに来る事は既に伝えてあるらしく、その際の合言葉も教えてある様子。代々自分の弟子を見つけた時はこういう風な直感?みたいなところによるものが多いって聞いてたけど本当っぽいな。そういう俺もツキカゲにスカウトされた時はアイツのその場の独断だったらしいし。

 

 

 

「......来たようね」

 

 

 

雪の言葉通り、俺達が先程ここへ来る為に乗っていたエレベーターが動き出し降りてきていた。案内はカトリーナさんに一任してるらしいし、カマリやモノミ達を店に置いていくから安心だな。

 

 

パンッ!

 

 

「ようこそモモちー!」

 

「うわっ!ビ、ビックリした〜......」

 

「メイ、まだ決まったわけではないのよ」

 

「まぁまぁ、こういうのは雰囲気が大事だよユッキー!」

 

 

 

連れてこられたモモちゃんはともかく、一緒にいた俺達まで少し驚いてしまった。何にせよいきなりパーティーグッズでもてなすのはやめて頂きたい。何処に隠し持っていたのか不明だがもう一発あるらしいので流石に止めておく。

 

 

 

「じゃあモモの案内は楓と五恵に任せるわ」

 

「了解しました」

 

「じゃあモモち行こっか」

 

「う、うん!」

 

 

 

命がパーティーグッズの後始末をしている間に二人はモモちゃんを連れて行ってしまった。その場に残ったのは俺がかつてツキカゲメンバーだった頃の同期ばかり。

 

 

 

「んでここからどーすんの?」

 

「この面子を見て分からないのかしら」

 

「いや、分かるっちゃ分かるけどさ」

 

「取り敢えず軍議の社(話せる場所)に行きましょうか」

 

 

 

楓ちゃんや五恵ちゃん達に万が一でも聞かれるわけにはいかない為、基地にある軍議の社という場所へ移動。基本的には作戦の打ち合わせをしたりするところだ。

 

 

 

 

「よっと......それでどこから話すんだ?」

 

「はいはーい!まずメイから質問良い?」

 

「構わないわ」

 

「さっくんとユッキーって付き合ってたんだっけ?」

 

『付き合ってない(わ)』

 

「おおー、そこは息ピッタリなんだね」

 

 

 

何故その質問を一番初めにしたのかは謎だが良しとしよう。そりゃあ外野から見れば雪とは比較的一緒にいる時間多いし、まず男でツキカゲに入ったのなんか俺が歴代で初めてだったし。かと言って付き合う云々の思考に辿り着くのが何とも命らしい。

 

 

 

「はぁ......まずは咲の事について話しましょうか」

 

「一番疑問なのはどうして忘れていたかよね......」

 

「しかも咲斗君に関してのみ、というところも不思議です」

 

「答えを簡潔に説明すると、貴女達は咲について忘れていたのではないわ」

 

 

 

雪がそう言うと三人は首をかしげて分からない、といった風な様子で雪を見つめる。そう、雪の言う通り命達は俺についてただ単に忘れていたという訳ではないのだ。

 

 

「となると作為的に、そして人為的な何かがあったという事ですか?」

 

「だったとしてもどういう方法なのかさっぱりね」

 

「この案を考えつき生み出したのは初芽自身なのよ」

 

「私が......ですか?」

 

「初さんが?でもどういう事?」

 

 

 

多分あの時初芽が居なかったら俺はもうツキカゲに戻る事は無かったと思う。俺の願いを初芽が叶えてくれたからな。身内贔屓無しで本当に初芽は凄いと思う

 

 

 

「今から説明するから良く聞いておいて」

 

「分かった」

 

「......2年前のあの件は覚えてるわよね」

 

「2年前......衛星ジャックの事ですね」

 

 

 

2年前の衛星ジャック。この言葉の意味する事、それは俺達のたった一人の仲間......そして俺の大切な人を失ってしまった日。

 

 

「あの事件があった翌週、私達が薬の製造工場を潰しに行った事を覚えてる?」

 

「確かユッキーが主犯格を取り押さえて終わったやつだよね?」

 

「残念ながら取り押さえたのは私じゃないわ」

 

「えぇ!?じゃあ誰なの?」

 

「俺だよ。そこら辺まで誤魔化せてるのか」

 

 

 

俺の近くで一緒に任務してた命がこれなんだからカトリーナさんや初芽が覚えてるわけが無い。ここまでくると副作用とかそこら辺を心配するレベルだなマジで。

 

 

 

「誤魔化せてるってどういう事なの?」

 

「今までの記憶の違いや忘れていた事に直結する理由は一つ。それは初芽が開発した記憶操作弾によるものよ」

 

「私が開発した記憶操作弾?」

 

「ええ、私達が普段使っている銃には記憶を消したり置き換えたりするものがあるでしょう?あれの強化版だとでも思ってもらえれば良いわ」

 

 

 

ツキカゲのスパイが使用する銃にはそれぞれ特殊な弾が装填される。それを状況によって使い分けていくのが基本的な戦い方の一つでもあるのだ。

 

 

 

「ということはさっくんの記憶を私達の中から消したってこと?」

 

「正確には()()()()()()()という表現になるわね」

 

「完全に咲斗君の記憶を消したのではなく何かに置き換えたという事でしょうか」

 

「初芽なら原理が分かるんじゃないかしら」

 

「人間は記憶について大まかに分けると二つの部位を使用していることが分かっています。それは海馬という部位と大脳皮質という部位になります。細かい話をすれば長くなるので省きますが......」

 

 

 

俺には最後までさっぱりだったのだが初芽には理解出来ているらしい。その部分の記憶についても俺に繋がる情報だから蓋してたはずなんだけどな。もう初芽やカトリーナさんは思い出してきているみたいだし。

 

 

 

「咲に関する記憶だけを書き換えることが出来る様に初芽が開発したのが特殊な記憶操作弾よ。そして、その記憶操作弾をあの日の夜に私以外に撃ち込んだの」

 

「どうしてユッキーには撃たなかったの?」

 

「それは俺の判断だ。雪には俺が抜けてる間にツキカゲの情報だけ流してもらってたからな」

 

「......何故咲斗君はツキカゲを抜けたの?」

 

「......アイツを......長穂を失ってからは生きた心地がしなかった」

 

 

 

2年前の衛星ジャックの事件でモウリョウと戦い、その結果長穂を失ってしまったあの日。俺は目の前で大切な人が死にゆくのを黙って見ているしかなかった。あの時助けに行けていれば、俺が一緒に戦っていれば......そんな後悔ばかりが押し寄せてきた。

 

 

「だから初芽にみんなから俺の記憶を消してくれって頼んだんだ。俺がツキカゲを抜けても誰も気付かないようにな」

 

「そう言えばさっくんと長穂の姉御は......」

 

「あれは私のミスよ。あの時まだ私が未熟だったから師匠は......」

 

「それは違うぞ雪。長穂はあの時既にお前の事を一人前のスパイだと認めてた。お前が弟子だったから安心して背中を預けられてたんだ」

 

 

 

いつもいつも雪に甘えてたり世話してもらってたりしたアイツが真剣な表情して言ったんだ。"雪は私より良いスパイになる"そう言って楽しそうに話す長穂を側で見てるのが何より幸せだったのに。その幸せはふとした瞬間に掌から落ちていってしまった。

 

 

 

「でも、私達が咲斗君の記憶を取り戻せたのは何故?」

 

「それは記憶を取り戻すトリガーが()()()()()()()()()()()だからでしょう」

 

「そんな事が可能なの?」

 

「人は記憶を何かに関連付けて覚える事が多いらしく、それを利用してるので俺と親しかったあの時の面子が揃ったから記憶が戻ったんでしょうね」

 

 

 

もうこのレベルになってくると正直意味が分からなくなってくるので割愛。俺と同じ事をする奴が出ないように、その部分に関しては完全に消し去ってるから初芽にも分からないだろう。

 

 

 

「じゃあなんでまた戻ってこようと思ったの?」

 

「雪が弟子を取るみたいだから良いタイミングだと思ってな」

 

「貴女達には嘘を付いてるみたいになってしまって申し訳ないと思ってるわ」

 

「いえいえ、私は咲斗君が戻ってきてくれて嬉しいです」

 

 

 

初芽のこの優しさに今までも何度も救われた。命にだって幾度となく励まされたりしたし頭が上がらないのが本音である。前みたいに稽古見てやるとかしか出来ないけど出来るだけは協力しよう。

 

 

「これからはツキカゲとしてまた任務に就くの?」

 

「咲には主にメンバーの稽古と任務の補助をしてもらう予定よ」

 

「ビシバシいくから覚悟しとけよ」

 

 

一通りの話が終わったタイミングで案内が終わった三人が戻ってくる。そこから三人にも事情を説明して何とか納得してもらった。楓ちゃんとかには未だに滅茶苦茶警戒されてるけど。

 

 

 

「これで今日は終わりよ」

 

「それじゃあ帰りますかね〜」

 

「何言ってるのよ、咲とモモはウチで稽古よ」

 

「......マジ?」

 

「大マジよ」

 

 

 

 

 

これから少しの間は俺が稽古するというよりは稽古してもらう事になりそうな予感だなこりゃ......。

 

 

 

 

 

 

 






ガラムマサラのガラムって"暑い"とか"熱い"って意味らしいですよ。

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