かつて、
そんな混沌とした世界の均衡を保つために暗躍する組織が存在している、その名も【秘密結社・ライブラ】。とある事情により神々の義眼と呼ばれる異能を持った少年『レオナルド・ウォッチ』がライブラ構成員と出逢い、そこから物語が始まっていくことになった。
この世界は何でも起こりうる。ヘルサレムズ・ロットの外側の非常識が、ここでは何でも起こりうる。日常と非日常が逆転しているのだ。毎日のように喧騒としているこの街で、向こう側の常識はもはや通じないのだと思え。誰もが口を揃えてこう言うだろう。
そして、外側からヘルサレムズ・ロットへと赴く場合、大抵は行かぬ方が良いものであると誰もが口を揃える。だからこそ、この街へと向かう者は誰もが“どうなっても知らない”と口には出さぬがそう思う。今回もまた一人、白衣の男がその街へと向かうことが決定していた。
しかし、外側の住人の誤算は彼が
中身の入った試験管をその注射器に装填し、彼は自身の首に針を刺して液体を注入していく。体内へと入っていく間、彼の瞳は元の青眼から赤く変色していき、注入し終えると元の色へと戻った。丁寧に、上機嫌に、注射器と試験管を取り外しアタッシュケースへとしまうと、窓から見えるヘルサレムズ・ロットと外を隔てる霧を視界に入れた。
機嫌よく鼻歌交じりに携帯を取りだすと、彼は電話をかけた。
「久しぶり、元気してたぁ?」
その声はどことなく蠱惑的であった。
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ヘルサレムズ・ロットは喧騒の日々である。ただボンヤリと過ごしているだけで必ず何かに巻き込まれるというのは普通である。この日もレオナルド・ウォッチ、『レオ』は巻き込まれていた。具体的には職場の先輩にあたるザップ・レンフロによって、金をせびられ陰毛頭と罵られながら拘束されていた。
レオが成り行きとはいえ加入したことで以前より騒がしくなったライブラでは、もはやこれが何時ものことに思えてきていた今日この頃。そんな日常を崩すかのように一本の電話が掛かってきた。スティーブン・A・スターフェイズの電話からその音は鳴っていて、画面の発信先を見た途端全身が固まった。
鳴り続ける着信音、固まる
「あの、スティーブンさん。電話でないんですか?」
「……あ、あぁ。少し席を外してくる」
明らかに動揺の色が隠しきれていないスティーブンは部屋を出ると電話に出たようで、普段の上司の様子からは見慣れない状況を知るや否や、ザップに聞いてみた。
「何か、いつものスティーブンさんらしく無かったですね」
「番頭のあんな見え透いた動揺見るの初めてなんだが」
ザップもスティーブンの動揺に疑問を持ったらしく、誰から電話が掛かってきたのか気にはなって、二人揃ってコソコソと入口の扉へと聞き耳を立てる。が、勢いよく開けれれた扉にぶつかり二人仲良くカーペットに伏せる結果となった。
扉を開けたスティーブンはかなり慌てた様子で声を張り上げた。
「ヤバい、『ハバキ』の奴がこっちに向かって来ている!」
「!?」
「ッ、ハバキぃ!?」
クラウス・V・ラインヘルツとザップの二名は、その『ハバキ』という人物の名を聞いた途端に過剰なまでに反応する。特にザップに至っては聞いてからコンマ数秒もせずにライブラから逃げおおせる始末。
しかし『ハバキ』という名を聞いたことの無いレオにとっては、なぜそこまで慌てるのか分からなかった。クラウスとスティーブンの二人が慌てるまでの誰か、という点からすればレオも何となしには分かるのだが、実感がわかないのは仕方ないといえば仕方ない。
「あの、『ハバキ』さん? って、誰ですか」
「『
「専属医師? 居たんですか……でも医者なら特には」
「ただの医者ならどれほど良かったか…………
奴はマッドの気があるんだ、目の前で
その説明を聞いてハバキという人物の印象が、“眼鏡をかけた悪どい笑みを浮かべる高齢の爺さん”に固定された。
「極めつけに、君の神々の義眼の系譜にあたる【神々の義腕】保持者でもある」
「ゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑ!?ちょ、本当なんですかそれ!?」
神々の義腕を知らないレオでも、自身の持つ神々の義眼の系譜と言われれば理解せざるを得ない。この神々の義眼は過去現在未来を読み解くことが出来、見えない存在、見えるはずのない存在をも見ることが出来る。ただし、他人の視力を奪うことで神々の義眼は成り立つ。
【神々の義腕】────自身の本来持つ両腕の機能を明け渡すことで、利き手側に発生する腕。この腕を手にした者は“明確な目的”を持った使用行為をすることで最適解に自動で動く代物。正確無比な一連の動きは、生き物であれば血を一滴も流さずに切断できる。
ここまでの情報から、先の偏見に隻腕の人物であると追加された。しかしこれらはあくまでもレオの偏見からなる人物像であるため、正しいものとは限らない。
「いやそんな事は兎も角、レオ君。安全が確認できるまで君は外出、アイツの目の前で神々の義眼を見せたら何をしでかすか分からん!あと空港には近付かないこと!」
「わ、分かりました!」
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暫くして、噂の本人はヘルサレムズ・ロットに降り立った。空港内で人目を気にせず、機嫌よくステップを踏んだりその場で一回転したり、都会に初めて来た田舎者がウキウキしている様子が見られた。彼の場合は戻ってきたというのが正しいのだが。
迎えの一つも寄越さないのは彼の要望で、本来はリムジンにでも乗り込み勤務先へと真っ先に移動する立場であるのだが、彼にとってそれは些細なことに留まる。気にかける程のものではなく優先順位は下から数えた方が早い。
白衣の下に着た、手までも隠した両腕の黒のアームカバーが人の目に入るが気にした様子はない。こんなのも居るだろうと感覚が麻痺しているというのもあれば、そもそも当人に興味が無いというのもある。
スキップしながら、人混みをすり抜けるように向かうのは楽しかった日々のあった昔の職場。飽きることの無かった喧騒と悦楽の日々が思い起こされていき、到着した彼は勢いよく扉を開けた。
「たっだいまー!」