2018年11月、私はこのゲームに出会い、小説のようなものをしたためたい気持ちになるまでに熱中し、今でも断続的にプレイしています。
このような素晴らしいゲームを世に送り出してくれた、クリス・ハント氏並びにLo-Fi Gamesのチームに感謝を。
――ぴこ山きゅん太郎
その女は私の前に突然と現れた。小麦の穂のような薄い色の長い髪と、深い青色のつぶらな目をした若い女だ。
「わたしと一緒に来ない?手伝ってほしいんだ――。」
私は生まれ故郷のスワンプを着のみ着のままに飛び出し、流れ着いた先で食うや食わずの生活をしていた。路銀はとうに尽き、身に付けていたものを少しずつ切り売りしながら。残っているのは擦りきれたズボンと、錆び付いて切れるかどうかも分からない、ひと振りの刀だけだ。
私がいるのは大国間の戦いに巻き込まれ、あらゆる建物が倒壊し荒れ果てている、ハブという街だ。住民のほとんどは私のような流れ者か、追跡から逃れるために隠れている犯罪者のような連中だ。そして皆一様に貧しく、飢えている。
街で唯一の酒場の片隅で、空腹に耐えながらぼんやりとしゃがみこんでいた私に、その女は声をかけてきた。酒場の用心棒が私を追い出しに来たのかと思い込み、睨み付けるようにして顔を上げてしまったのだが、それを意に介す様子もなく女は続けた。
「あなた、ずっとここにいるよね。ちゃんとごはん食べてるの?」
私は驚くと同時に、余計なお世話だ、と思った。お前に心配される程じゃないよと、そう言ってやりたいところだったが、もはやそれは強がりでしかないなと、私は口をつぐんだ。
すると女はおもむろにひと切れの肉を差し出してきた。ドライミート――火でただ焼いただけの獣の肉。この辺りではもっとも安価でありふれた食べ物だが、今の私はそれにありつくことすら難しい。
「――餌付けするつもりなのか?」
ようやく絞り出した私の声に、女はただにっこりと微笑み、「ぺろみ」と名乗った。聞いたことがない珍しい響きの名前だと思い、出身地を尋ねると、覚えていない、とはぐらかされてしまった。
街のゲートから少し歩いた場所、小さな岩の塊の前に連れてこられた。右手にはツルハシを握りしめている。
「鉄だよ。この塊をね、崩して売るんだ。その日食べる分くらいの稼ぎにはなるよ。」
じゃ、よろしく。そう言うとぺろみは私の背中を軽く叩き、もう一本のツルハシを担いで離れていった。別の場所で作業をするのだろうか。
それにしても、この岩の塊が飯の種になるとは考えもしなかった。沼に囲まれて四六時中じめじめとしているスワンプでは見たことがない。あそこにあるのは薄暗い森と、濁った水と、危険な原生生物の群れだけだ。
しばらく食べていなかったせいか、少し動いただけですぐに疲れてしまう。重いツルハシを二、三度振っては少し休みを繰り返し、日が落ちかけた頃には両手でようやく抱えられるほどの小さな塊が集まった。
さて、どうするか。まずどうやって運ぶ?そしてどこで換金する?さっきまで掘り崩していた塊に腰掛けてぼんやりとしていると、視線の先に人影が映った。一人…いや二人、三人?私はハッとすると同時に、傍らの刀に手をかけていた。
野盗の集団だ。この辺りでは割とよく見かける、腹を空かせたアウトローたち。獲物を見つけゆっくりと、しかしまっすぐにこちらへと向かって来る。獲物はやがて武器を持った五人の男たちに取り囲まれた。
「食い物をよこせ。」
リーダーと思しき男が口を開いた。五人の中ではただ一人、刃物を握っている。
「取り引きだ。俺たちは食い物を得る。お前は生き延びる。」
一方的ではあるが悪い取り引きではない。食べ物を差し出せば、命は助けてくれるというのだから。私は応答する。
「持っているように見えるか?」
要求に応える代わりに両手を挙げてやれやれ、のポーズを取った。ぺろみにもらった肉片が最後の食事になりそうだな。そんな考えが頭の片隅をよぎる。
「ならば持っているものを全部もらう。」
男は顔をしかめ、得物を握り直した。私は立ち上がる。瞬間、刀の柄を握り、鞘から抜いた勢いで振り上げた。男が身を守ろうと反射的に出した右肘の先が、地面にぼとりと落ちた。
悲鳴とともに崩れ落ちる野盗のリーダー。手下たちは一瞬の出来事に固まっている。私はその隙に後ろに跳び退き、岩の塊の後ろに回った。――はずだったのだが、どうやら労働の疲れが思ったよりも足にきていたようだ。跳んだ勢いで転倒し、後頭部を痛打してしまった。
目から火花がバチバチと飛んだような気がした。意識が遠のいたが、なんとか持ち堪えた。しかしまだぼんやりとしている。私はすでに二人の男たちに見下ろされていた。両手で握った鉄の棒を振りかぶり、今にも私の頭めがけて振り下ろさんばかりだ。
もはや体に力が入らない。私は諦めてすっかり脱力していた。そして鈍い金属音が響く。一回、二回…不思議と痛みは感じない。痛くなければ楽に死ねるだろうか。
…いや、殴られていなかった。状況が理解できないまま、私は誰かにゆっくりと抱き起こされた。二人の男たちは傍らに倒れている。
「大丈夫?殴られたの?」
顔全体を不安に歪め、今にも泣き出しそうな表情のぺろみだった。その顔を見て私は安心するよりも先に、美しいな、と思った。そして、もう見たくない、とも。
心配しなくてよい事を伝えると、ほっとした顔を見せた。ありがとう、と礼を言って体を起こす。残りの野盗たちの姿は見えない。リーダーを連れて逃げたのだろう。とりあえずは危機を脱したようだ。
「どうやって倒した?」
私の問いに対し、ひと言「ツルハシ」。こめかみの辺りを指でツンツンとつついた。思ったよりも大胆な行動に出る女だ。しかし今回はその大胆さに命を救われた。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったよね。立てる?」
立ちあがり、私の手を引っ張りながらぺろみが尋ねる。私は立ちながらそれに答えた。
「――ジャグロンガー。」