Kenshi 二次創作   作:ぴこ山きゅん太郎

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「あ~あ。わたしもワールドエンドに行きたかったな。」

 ぺろみは起きてからずっとこの調子だ。ジャレッドの読み通り旅に同行したいと考えていたらしく、別れの挨拶をさせて貰えなかった事もありぶつぶつと不満を漏らしている。

「お前、ヤギですらろくに狩れもしないだろう。そんな小娘の子守りをしながらの旅を強いるつもりなのか?」

 やや辛辣なルカの指摘に、ぺろみはぐうの音も出ない様子。しかしやや間を置いて、何か閃いたようだ。やにわにクロスボウを手に取り、戦いの準備を始める。

「ヤギとってくるから!」

 唖然とする我々を尻目に、そう言い放って住み処を飛び出して行った。ルカは小さくため息をつく。

「……まあ、やる気があるのは良い事だ。シェクは一人で狩りを出来るようになって、それでもまだ半人前だが。」

 ヤギは野生動物の中でも人に懐きやすく温厚だが基本的に群れで行動しており、攻撃を加えれば群れ全体から手痛いしっぺ返しを食う羽目になる。果たしてぺろみは一人でヤギを狩って来れるのだろうか…。

 

 狩人の心配はさておき、我々は新たに鉄鉱石の精錬機を導入するべく建造作業を進めている。設備の建設に鉄板が必要な場合、これまでは外から仕入れてくるしかなかったのだが、精錬機の稼働が始まればその手間と費用を大幅に減らす事が可能だ。そうして出来上がった鉄板は、新たな設備の材料として利用できると目論んでいる。

「ジャグロンガー!見て!」

 精錬機の完成まであとひと息といったところで、ぺろみが帰って来た。何か生き物を抱きかかえている。本当にヤギを獲ってきたのか?

「おかえ…り。なあ…それ、まだ生きてるんじゃないか?」

 生き物はぺろみの腕の中で大人しくしてはいるが、頭を動かしてきょろきょろと周囲を窺っている。よいしょ、と地面に降ろされた動物をよく見ると、これはヤギではなく、オオカミだ。短い尻尾をぱたぱたと振り、前肢にはぼろぼろの布切れを巻き付けている。おや、こいつは――。

「ねえ!飼ってもいいでしょ?」

 狩ってもいい、の間違いじゃないのか?狩るんじゃなくて飼うのか?オオカミを?こいつはサボテンを食えるのか?

「ボーンドッグは賢いし、懐いてしまえば主人に対しては忠実だ。番犬に良いんじゃないか。我々が食い詰めた時には肉にしてしまえば良いしな。」

 今日のルカは毒舌が冴えている。肉になんかしないもん!と憤慨するぺろみ。だめだと言って納得するとは思えないので、自分で世話をすることを条件に了承した。

「よし!じゃあ改めて、ヤギとってくるから!おいで!きゅんたろう!」

 …また妙な名前を付けたものだ。二人、もとい一人と一匹は再び狩りへと駆け出してゆく。

 

 精錬機の試運転は概ね良好だ。原鉄の塊をがらがらと放り込み操作盤のレバーを下げれば、機械が稼働して圧延された鉄の板が出てくる。ごつごつとした塊がきれいな鉄板になって出てくる様は見ているだけで面白く、延々と眺めていたい気分だ。

 鉄板の使い道をあれこれと考える。まずは火葬炉、そしてこの先も電力の需要は増してゆくと思われるので、大型の風力発電機が一つか二つは欲しいところだ。気まぐれな風に頼らない火力発電機といった物もあるが、燃料の調達という課題があるため今はまだ先送りするべきだろう。

 さしあたって必要になる鉄板用の保管容器を組み立てていると、狩人が帰って来た。肩にはオオカミ、腕には小さなヤギを抱え、左脚を引きずりながらゆっくりと歩いて来る。

「……ヤギ、とってきた。」

 そう言うや否やそのまま前のめりにばったりと倒れてしまった。肩に担がれていたオオカミは半ば投げ出された形になり、地面に叩きつけられて小さな悲鳴を上げる。とりあえず生きているようだ。

 ぺろみをゆっくりと抱え上げてベッドに寝かせる。ヤギの頭突きを貰ってしまったのだろう、ズボンを脱がすと左の太腿に大きな痣ができていたが、それ以外の外傷は無いように見える。歩いて戻って来たことから骨は折れていないと判断し、革袋に水を入れて打ち身にあてがう。少しはましになるはずだ。

「オオカミは毛が多くて外からじゃよく分からないね。はらわたをやられてなきゃいいけど。」

 ミバールがオオカミを見てくれたようだ。意識はあるようだがぐったりとしている。明日まで生きていられるかは分からないが、座布団の上に寝かせてベッドの脇に置いておくことにした。

「ヤギはまだ小さい子供だな。仔ヤギは食える部分が少ないが身が柔らかくて特有の臭みがない。まあまあ、だな。」

 ルカがヤギを捌く支度を始めたので、今夜は仔ヤギ肉が食卓に出るだろうか。それにしてもどうやってヤギを仕留めたのだろう?少なくとも親ヤギが側に居たはずだと思うのだが…。もっとも、群れからはぐれてしまう個体が出るのはよくある事だ。そういった不幸な仔ヤギに運良く遭遇したのかもしれない。

 

 キッチンからヤギ肉を調理する薫りが漂ってきた。肉の焼ける匂いはいつだって良いものだ。否応なしに食欲を刺激されてしまう。横になっていたぺろみがむくりと体を起こした。

「いい匂いがする…。」

 お前が獲ってきたヤギだよ、と告げるとぱっと明るい表情になり、ベッドから躍り出る勢いだったが脚を負傷していることを忘れていたようだ。左腿を押さえてううんとうめく。そして下に寝かされていたオオカミに気が付き、ベッドを降りて撫で始めた。

「ヤギ、よく獲って来れたな。親ヤギにやられたのか?」

 私はベッドに腰掛け、話題を狩りの成果へと移した。ぺろみは首を横に振って応える。

「白くて毛むくじゃらのでっかいやつだった。腕がこんなに太い!」

 両手を顔の前に出して輪を作る。ぺろみの頭くらいの太さがありそうだ。白い毛の獣といえば、この辺りではヴェイン峡谷の森に多く棲息するゴリロしかいない。ヤギを捜してそこまで足を伸ばしたようだ。それにしてもビークシングに出くわさなくて本当に良かった。あれに見つかっていたら、おそらく命を落としていただろう。

 ぺろみの話ではゴリロがヤギの群れを襲っており、漁夫の利を得ようと倒れている仔ヤギに近づいたところで、オオカミもろとも殴られたという事だ。こんな小さな身体でゴリロの拳を受けてはひとたまりもないだろう。いよいよ命の心配をしなくてはならなくなってきた。

 どうしたものかと思案していると、カンカンと金属を叩く音が聞こえた。食事の用意が出来た合図だ。右脚を軸にして、ぴょんぴょんと跳ねながら部屋を出て行こうとするぺろみを制する。まずは、ズボンを履け。

 

 翌日、朝起きるとオオカミが座布団の上で冷たくなっていた。ぺろみは両目をすっかり泣き腫らし、狩りに連れていった自らを責めている。私はぺろみをそっと抱き締め、慰める事しかできない。一瞬ではあったが確かに我々の仲間だった。私にも小さな刺のような喪失感が去来する。

 ある行動や判断が、常に良い結果をもたらすとは限らない。軽はずみな行動は自分や仲間たちの身を危険に晒してしまう事にもなり得る。今回の事で少しでも学んでくれれば良いのだが…。

「火葬炉を造って、荼毘に付してやってからお別れしよう。墓も作るだろう?」

 私の腕の中でぺろみは小さく頷いた。

 夕暮れ前に完成したばかりの火葬炉に、小さな友の亡骸を収めて火を入れる。初めての稼働が仲間の亡骸を燃やすためになってしまった。いくつかの小さな骨の欠片を残し、オオカミはいなくなった。ぺろみはそれを自分で使っていた焼き物のコップに詰めて木の箱に収め、住み処の裏手にある小高い山の上に作った墓へと葬った。

「ありがとう、ジャグロンガー。……ごめんなさい。」

 ぺろみはひどく意気消沈している。無理もないとは思うが、早くいつもの笑顔を見せてくれるようになって欲しいものだ。

「いや、ああ……うん。オオカミは残念だったけど、お前が無事に戻ってくれて良かったよ。」

 何か気の利いた言葉を掛けてやりたいが、取って付けたようなものしか出て来ない。惜別の情禁じ難しと見え、ぺろみは墓の前から離れようとしない。今日くらいは気が済むまで好きにさせてやろう。

 

 星が瞬き始める時間になっても、ぺろみはまだ墓の前にしゃがみ込んでいた。空に見える大小二つの月は、まるでぺろみとオオカミのように寄り添っている。

 

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