Kenshi 二次創作   作:ぴこ山きゅん太郎

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拾壱

 

 「大変申し訳ございませんでした!平に…平にお赦しを……!」

 我々に向かって土下座で謝ってくる一人の女。私はミバールと顔を見合わせ、どうしたものかと思案している。

 

 ――スーはおとといの夕刻に探索行から戻り、その帰りを首を長くして待っていたぺろみを連れ立って、昨日の朝にワールドエンドへと出発して行った。今頃どの辺りまで行っただろうか。まだ寝ているかな。食糧と路銀は十分に持たせてやれただろうか。勝手な行動をしてスーを困らせたりしていやしないだろうか。心配の種は尽きないが、お転婆娘が無事に帰って来てくれる事を願うばかりだ。

 

 今朝、私はミバールと同じくらいに目が醒め、顔を洗うためにまだ薄暗い中を井戸へと歩く。その際キッチンのある小屋の前を通るのだが、夜間施錠されているはずの小屋の扉が半開きになっている事に気が付いた。おかしいな、ミバールが鍵をかけ忘れるなんて。不審に思い中をそっと覗き込むと、人がいるではないか。誰かが椅子に座って、うつらうつらと船を漕いでいるのだ。

 物音を立てないように静かに離れ、剣を取りに戻る。

「どうしたんだい?剣なんか持っちゃって……。」

 ミバールが怪訝な顔をする。私は唇に人差し指を当てて答える。

「キッチンに誰か居るんだ。泥棒かもしれない。お前はここに居てくれ。」

 私は剣を抜き、キッチンの照明を点けた。明かりの下に照らし出されたのは、忍者の恰好をした女だ。なるほど忍者であれば、錠前外しなどは朝飯前といったところか。人が来た事に気が付かず、まだうとうととしている。忍者にしてはずいぶん間が抜けているというか、神経が太いというか――。

 私は剣の背でテーブルをコンコンと叩いた。 女はようやく目を醒まし、剣を構えている私を見て大層驚いたようだ。椅子から派手に転げ落ち、私物であろう笠を盾のように持って身を隠す。

「ひあっ!あっあの…怪しい者ではございません!…あっ…怪しいですよね!すみません!」

 女は床に正座し、平身低頭して平謝りだ。あまり悪い人間のようには見えないが…。

「どうやって入った?ここで何をしている?」

 私の質問に対し、女は姿勢を崩さずに事情を説明し始めた。

「わっわたくし、忍びの者として黒龍党に与しておりましたがこの度、袂を分かち出奔して参りました次第で…。」

 黒龍党はダスト盗賊団と同じく、ボーダーゾーンに跋扈する盗賊集団だ。姿を見たことは無かったが、背中に二本の刀を背負い鉄笠をかぶったシノビの姿をしているという話は聞いたことがあり、女の特徴はそれに一致している。この女は黒龍党を抜け出して来たという事か。

「かれこれ三日ほど前の話でございます。水も食糧も持たずにずっと歩き詰めておりましたものですから、飢えと渇きにほとほと参っておりましたところにこちらの建物が目に入りましたもので…。」

 盗賊稼業をしていた割には物腰柔らかく、丁寧な話し言葉から思わず信じてしまいそうになる。ここでミバールがツルハシを身構えて恐る恐るキッチンに入って来た。

「大丈夫かい…?こいつが泥棒?」

 女を睨み付けて今にも殴りかかりそうな勢いだ。ツルハシを下ろさせて宥め、事情を説明する。女はもはや額を床に擦り付け、命乞いを始める始末だ。

「かっ堪忍してくださいませ!刀は置いてゆきますから何卒、何卒命だけは……!」

 我々は溜め息をついて椅子に座る。命を取るまでもないが、何せ元は盗賊の小悪党だ。このまま野放しにすればまたどこかで盗みを働くだろう。

「…それ、旨かったかい?」

 ミバールは食糧を盗み食いされた事に気が付いたようだ。女は勢いよく顔を上げて曰く

「…はいっ!お肉の焼き加減が絶妙で…なんと言うか…言葉には尽くし難い美味でございました!」

 ミバールは満足した笑みを浮かべる。自分の料理を誉められるのはやはり嬉しいようだ。

「まあ、嘘はついてなさそうだし、どうしようもなく腹が減ってたなら仕方ないかね。あたしも気持ちはよく分かるよ。」

 確かに我々が出逢った時の境遇と今の状況は相通ずるものがあり、共感できるところは多々あると見える。許してしまうのは簡単だが、私はまだこの女が黒龍党の斥候である恐れを捨てきれないでいた。なぜ逃げて来たのかをもう少し詳しく訊く必要がある。

「わたくしはもう疲れてしまいました…。生きる為とはいえ、黒龍党は聖王国の無辜な人々を襲って食糧や時には命までをも奪うなど、非道の限りを尽くして参りました。時には手痛い反撃に遭って帰らぬ同胞が出る事もございます。明日は我が身と思えば、生きた心地がしないのです。」

 女は俯き、膝の上の拳をぎゅっと握り締める。表面上は綺麗事で取り繕ってはいるが、とどのつまりは明日をも知れぬ盗賊生活に嫌気が差して逃げ出して来た、というところなのだろう。この女も長生きできる類の人間のように思える。

 さて、この女の処遇を決めなくてはならない。こんな時、ぺろみなら何て言うかな。あいつはお人好しだから、きっとこう言うに違いない。

「お前、ここで暮らすつもりはないか?大方行く当ても無いまま飛び出して来たんだろう。」

 はうえ!?とよく分からない奇妙な声を出して女は頭を上げる。その顔はみるみる紅潮し、目には涙をいっぱいに溜めて今にもこぼれ落ちそうだ。

「…いけません!お気持ちはこの上なく有り難いのですが、わたくしは抜け忍でございます。抜け忍にはその命をもって制裁とするが掟…きっと追っ手がかかっている事でございましょう。皆様にこれ以上ご迷惑を掛ける事など、許されるはずもございません。」

 口許を手で覆い隠して首を横に振る。涙の粒がはらはらと落ちた。

「そうか…しかし追っ手から逃げ延びたとして、その先はどうするつもりなんだ?ずっとこそ泥を続けて生きていくのか?」

 考え無しに飛び出して、後々苦労するのは私も経験済みだ。あの時ぺろみに拾われなかったら、今頃どうなっていただろうか…。

「追っ手に見つかるかもしれないしね。そしたらどうするんだい?相手は顔見知りだろうけど、やらなくちゃやられてしまうよ。」

 ミバールも援護の追い打ちをかけてくる。この女を引き入れる事について異存は無いようだ。

「い、いざという時の覚悟はあります。剣は未熟ですが、刺し違えるつもりでやれば…。」

 私は首を横に振る。命を落としてしまっては、何のために逃げ出して来たのか分からない。

 この女を捜すために黒龍党の忍者たちがうろつき始めるのならば、この場所が奴らの目に留まるのは時間の問題だ。そうなればここも襲撃の対象になるだろう。我々は何としても撃退しなくてはならない。

「お前が逃げ出した時点で、我々はすでに巻き込まれていると言えるだろう?奴らと刺し違える覚悟があるなら、我々に手を貸してくれないか。戦える人間はいくら居ても困りはしないんだ。」

 詭弁とも取れるが、防衛のために人手が欲しいのは事実だ。戦いがなくても、人手があればこの場所の更なる拡張を考える余裕も出てくる。女はしばらく考えた後

「――承知いたしました。不束者ではございますがこの命、皆様でどうぞお預かりくださいませ。」

 三つ指をついてこちらをじっと見る。腹が決まった覚悟の眼差しだ。私は女に近付いて手を差し出し、立ち上がるように促す。

「悪いようにはしないさ。我々の仲間として、ここで暮らしてくれれば良いんだ。そうすれば飯と寝床に困ることはないよ。」

 

 女はシオリと名乗った。出自の元を辿れば、貴族に仕えた侍の家系であるらしいと云う。盗賊などに落ちぶれてしまったには理由もあるだろうが、余計な詮索はしないでおく事にする。

 ルカが起きてきてキッチンへやって来た。シオリはルカの姿を見るや、緊張した面持ちに変わる。

「ああ、ええと、ルカだ。ルカ、こちらはシオリ。我々の新しい仲間だ。」

 ルカは寝起きで反応がやや渋い。腹をぼりぼりと掻きながら、よろしく、とだけ喋った。シオリははっと我に返り、挨拶を返す。

「失礼いたしました…。黒龍党のお頭様にお姿が似ていらっしゃるので、驚いてしまいまして。」

 ルカは椅子に腰を下ろし、テーブルに頬杖をつく。シオリの恰好を見て、状況をある程度は飲み込めたようだ。盗賊の親玉に似ていると言われたのが面白くなかったのか、ふんと鼻を鳴らす。

「…黒龍党の頭領はディマクだったな。奴はまだ生きていたのか。」

 ルカの話によれば、ディマクという人物はかつてシェク王国の主力部隊、百人衆の一人であったとの事だ。シェクの戦士にあるまじき行為のかどにより、角を落とされて追放されたのだという。元百人衆という事であれば、相当に腕が立つと思われる。厄介な相手を敵に回すことになりそうだ。

 

 会話が途切れ、しんと静まり返るキッチンにミバールが手を叩く乾いた音が響いた。

「さあ!そろそろお開きだよ!食事の支度をしなくちゃね。シオリ、早速だけどあんたも働いて貰うよ。畑からサボテンをいくつか取ってきておくれ。ジャグロンガー、案内してやりなよ。」

 ほら、散った散った!と我々はキッチンから追い出される。外はすでに日が昇っており、太陽の光に目が眩む。私はシオリを導いてサボテンの畑へと向かった。

 

 

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