Kenshi 二次創作   作:ぴこ山きゅん太郎

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拾肆

 

「そこのお前、止まれ。荷物をあらためさせてもらう。」

 要壁の門の前で呼び止められ、バックパックの中身を見せるように求められた。私は要求に応じて荷物を降ろし、中をよく見えるように開く。難癖を付けられたら厄介だがやましいものは何も持っていないし、今日は重たい教典だって携えて来たのだ。

「これは何だ?」

 顎髭をたくわえ、浅黒く屈強そうな身体つきをした衛兵は、荷物の大半を占めている陶器の瓶を指差す。

「ラムだよ。行商に来たんだ。良かったら飲んでみるかい?」

 瓶に手を伸ばそうとした私を、首を横に振って軽く制する。

「いや、結構だ。行っていいぞ。オクランのご加護を、兄弟。」

 衛兵に軽く礼を言ってそそくさと門を抜ける。

 

 オクラン・ガルフと呼ばれる乾いた土地にある、スタックという街に私はやって来た。我々の住処から見て北に位置するこの街は、ホーリーネイションの主要な都市のひとつだ。ハイブとの取引のために造ったサボテンのラムが思ったよりもたくさん出来たので、近隣の酒場に売り込みに行くついでに衣服や鎧の型紙を物色するつもりだ。市中にはそこそこの人通りがあり、ぺろみの話は間違っていない事が分かる。

 街の人々は私の事を特に警戒する様子もない。私はオクランの民ですらないが、街の風景に違和感なく溶け込めているように思える。シオリに作ってもらった布の服は、その見た目こそみすぼらしく貧しい商人のように見えるが、人々の目を欺くのには一役買っているようだ。私の身の丈に合わせてあるので着心地が良く、何より誰かの着古しでない服を着るのは気分がいい。

 

「こんにちは。ラムを売って歩いているんだけど、良ければ買ってくれないか?」

 酒場の扉をくぐり、主人に話し掛ける。なるべく愛想の良い商人らしく振る舞うように心掛けて。

「ラムぅ?…ラムねぇ。丁度切らしているが……味見できるか?」

 もちろんさ、と試飲用の瓶を差し出す。主人は戸棚から小さなコップを出すと、それの半分ほどまで注ぎ入れた。コップに口を付けた顔を天井に勢いよく向け、一気に流し込む。そしてしばらく口の中で転がしてから静かに飲み込んだ。私はその様子をじっと見つめている。

 主人は左の眉毛をくいと上げ、小さく頷いて私の顔を見た。

「……ふむ、悪くない。三つ貰おうか。もっと買ってやりたいが、正直なところラムはあまり動かないからな。ここじゃグロッグの方がよく出るよ。グロッグを持って来たらあるだけ買おう。」

 思っていたよりも良い評価を得られた事に満足する。このサボテンのラムは、サボテンの絞り汁を蒸留する工程を何度か行った後に樽で発酵させる事で、かなり強い酒になる。やや酸味のある青臭い香りが特徴だ。ぺろみはこれを気に入ったようで、醸造の作業中に盗み飲みしてへべれけになっていた事もあった。

 グロッグとは麦の汁を蒸留して造る酒の事だが、あいにく麦はサボテンよりも栽培が難しく、現在の収量では我々が食べるためのパンを作る分だけで精一杯だ。畑を拡張するだけの人手もない。

 ラムの代金を受け取り、握手をしてカウンターを離れた。改めて店の中を見渡すと、まだ外は明るい事もあってか客はほとんど居ない。店を出た私は、街の構造を観察しつつ次の酒場へと向かう。

 

 二軒目では相手にされずに店を出た。付き合いのある商人からしか買わないと言われたのだ。確かに飛び込みで物を売ってくるような商人の扱う品は、出所も品質も定かではないし信用できないのは無理もないように思う。

 とはいえ三軒目の酒場でラムは全て売れ、バックパックには聖火の教典と旅の荷物だけが残った。思ったよりも好調な売れ行きに胸が軽くなる。酒場の出口へと体を向けた私に、声を掛けてくる者があった。

「御機嫌よう、商人の方。少し話せるかな。」

 声の方に目をやると、体格の良い一人の男が立っている。外の衛兵たちと比べても遜色のない身体つきだ。

「俺はグリフィン。パラディンとして聖王様に長く仕えてきたが訳あって退役してね。見たところ一人のようだが、連れはいるのかな?」

 一人で来ている事を伝えると、男は表情を明るくして続ける。

「なるほど!一人旅はさぞかし心細いだろう、腕の立つ護衛などはご入り用ではないかな?」

 傭兵の売り込みのようだ。本物の元パラディンが守ってくれるならば、これほど頼もしい話はないが…もう少し話が聞きたい。

「まずは契約金として…」

 グリフィンが何かを言いかけたところで、別の男が声を掛けてきた。

「旦那ァ~、まぁた就職活動ですかい?」

 なんだか酒臭い。どうやら昼間から酔っ払っているようだ。ふらふらと近寄り、右の肘をグリフィンの肩の上に乗せて絡み始める。

「あ、この人ねえ、すごい額のキャットを吹っ掛けてくるんで気を付けなさいよ!それに比べてオレなんかねえ、三千キャットも貰えればどこまでも着いてって歌も歌っちゃうよ!」

 男は酒臭い息を吐き散らしながらフニャフニャと何かを歌い始めた。グリフィンは相当うんざりした様子で天を仰いでいる。

「フンフフン…フガッ…ぶぁっくしょい!…うんぐ、鼻に虫が…。」

 私がこの急展開に着いて行けずに身動きできないでいると、グリフィンがとうとう怒り出した。

「お前!売れない吟遊詩人の分際で俺の邪魔をするなよ!」

 吟遊詩人と呼ばれた男は、胸ぐらを掴まれゆさゆさと揺さぶられてなおヘラヘラとしている。何となくグリフィンの人となりを察した私は、ゆっくりとその場を離れて静かに店を出た。途中何度か後ろを振り返ったが、追いかけて来る様子はなかった。

 

 さて、次の目的は防具の型紙だ。三軒目への途中で見かけた服の看板を掲げた店に入ると、中には様々な衣類や鎧が並んでいた。やはり大国ともあってなかなかの品揃えだ。外の衛兵たちが身に付けているような板金鎧もあったが、片方の籠手だけでも相当な重さがある。衛兵たちの鍛え上げられた体躯も納得といったところか。

 既製品の品揃えから型紙の棚へと目を移す。ここにも様々な種類の型紙が並んでいる。適当に手に取り、軽く叩いて埃を払う。これは革の服に金属の装甲を施した鎧の型紙のようだ。

「これの実物があったら見せてくれないか?」

 興味が湧いたので店主に訪ねると、店の棚から木の箱を下ろしてきた。箱の蓋を取ると、辺りはやおら黴臭くなる。

「うっ、ゴホッ…こいつはプレートジャケット。それなりに金を持ってる傭兵とかテックハンターなんかがよく使うようだね。」

 中身を手に取って広げてみる。胸と両腕に装甲板が宛てがわれており、それなりの重量だ。試しに着てみたいところだが今はあまり上着を脱ぎたくないし、何よりも鼻を突く黴の臭いが気になる。スワンプも大概黴臭い場所だが、故郷のそれとは何となくにおいが違うのだ。

 装甲が体捌きにどれ程の影響があるかは分からないが、重さについては身に付けてしまえばきっと気にならないだろう。ハイブの村で型紙を手に入れた装甲付きズボンと組み合わせれば、ダスト盗賊くらいなら怖い相手ではなくなるかもしれない。信頼できる防具に身を包めば、今よりも大胆に踏み込めるようになる気がするからだ。

 実物を見て気に入ったので、型紙を購入する事にした。これでラムの売り上げは全て無くなってしまったが、帰ったらシオリに新しい防具を作ってもらう事ができる。そうと決まれば長居は無用だ。私は足早に街を後にした。

 

 帰り道、遠くにダスト盗賊の集団を発見してやり過ごすのに時間がかかった。住み処に辿り着いたのは、辺りがすっかり暗くなってからだ。私と同時に出発し南のスクインで行商をしてきたぺろみは、すでに帰って来て夕食にありついていた。カクティ・ミーティを頬張りながら私に向かって手を振る。

「早いじゃないか。ラムはどれくらい売れた?」

 椅子に腰を下ろして、バックパックから型紙を取り出しながら問いかける。

「全部売れた!前に泊まった酒場のマスターがたくさん買ってくれたんだ。それでね、鉄の鎧の作り方の本を買って来たよ。」

 ぺろみが差し出してきた書物を受け取って目を通す。胴体をすっかり覆う板金鎧の製法のようだ。かなりの重さがありそうだが、シェク達が使う分には問題ないのだろう。

「なるほど、それは良かった。街や道中で変な連中に絡まれなかったか?」

 酒場での出来事を思い出して何気なく聞いたつもりだったが、ぺろみの表情が少し曇ったのを私は見逃さなかった。

「ジャグロンガー、その話なんだけど…。」

 ああ、ちょっと待って。私はぺろみが話し始めようとするのを遮り、目の前に出された食事に手を付ける。

「食事が不味くなりそうな話だろう。食べ終わってから聞く事にするよ。」

 

 話によれば、ぺろみはスクイン近郊で負傷して倒れているシェクの戦士を助けたそうだ。しかしルカに言わせれば、それはシェク王国の兵士ではなさそうだとの事だ。

「我々は戦いの中で死ぬ事は厭わないし、最後の一人になったとしても敵に背を向けて逃げ出したりはしない。しかしぺろみが助けたのは一人だけで、周りには他に死体も無かったという話だ。」

 ルカはテーブルに頬杖をついて続ける。

「おそらくバンドオブボーンズの戦士だろう。ダスト盗賊如きに遅れを取るとも思えんから、百人衆の巡廻部隊と小競り合いでも起こしたんだろう。」

 聞いたことのある名前が出てきた。スワンプにも時折現れて、誰彼構わず喧嘩を吹っ掛けてくる厄介な連中だ。スクインよりも南の地域、ステン砂漠からやって来ていると聞いた事はある。

「――で、その厄介者を助けたと。お人好しのぺろみらしいじゃないか。それが何か都合が悪い事でもあるのか?」

 ぺろみの方に目をやると、中空を見たままそわそわしている。

「どこから来たのか問われて、教えたんだそうだ。この場所をな。」

 ああ、そういう事か。するとそれはつまり――。

「腹を空かせたシェクの荒くれ共がここへやって来るぞ。この辺りをうろついているフラットスキンの野盗共よりも、ずっと骨のある連中だ。良かったな、近頃はダスト盗賊辺りじゃ物足りなくなってきただろう?」

 ふん、と鼻で笑ってルカは話を締めくくった。私はため息をひとつ。

「…まあ、仕方ないさ。見返りがなくても、誰かを助けようとするのはぺろみの良い所だ。私も同じようにしたかもしれない。もっとも、素性の知れない相手にわざわざ住み処を教えるような真似は避けるけどね。」

 ぺろみはうなだれてしょんぼりしている。いささか可哀相な物言いだっただろうか。胸の辺りがちくりとした気がした。シオリがぺろみの両の肩に手を置いて口を開く。

「まあまあ、あまりぺろみ様をいじめないでくださいませ。わたくしが急いで鎧を仕立てますから、皆様は一層気を引き締めて日々の修練を怠らぬようになさってくださいまし。」

 思わぬ助け船に感激したのか、ぺろみはシオリの手を取る。

「うーっ、ありがとお~…!何でも手伝うから言ってね!」

 やれやれ、調子の良いものだな。かくいう私も素性の良く分からないシオリを仲間に引き入れたりしているから、あまりぺろみを責める事は出来ないのだが。

 バンドオブボーンズの連中が本当にやって来るかは分からないが、さしあたって鎧に使う為の鉄鉱石をたくさん採らなくてはならないな。今日のところは早めに床に就いて、明日に備えよう。私はラムを一杯ひっかけて、ベッドに横になった。

 

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