Kenshi 二次創作   作:ぴこ山きゅん太郎

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拾伍

 

  プレートジャケットの試作品の出来にはおおむね満足している。装甲板による防御もさることながら、革の部分も丈夫でありながら動きを阻害しないようになっている。これを手掛けた鎧職人に云わせれば、まだまだ改良の余地ありと見ているらしい。ルカのための板金鎧もじきに完成するとの事だ。

 シオリはここのところずっと工房に籠りっきりで、防具製作に専念している。ひとつの防具が出来上がるまでには多数の工程を踏まなくてはならない。獣の皮をなめし革に加工してから服を作り、鉄の塊から装甲板を叩き出してそれを縫い付けるか、或いは鋲で打ち付けたりする。必要なそれら素材の製造も私たちには手が出せない領域であり、手伝える事といえば原材料の鉄をひたすら集める事くらいだ。そして鎖帷子を製造するための設備については資料や文献が足りず、まだ導入出来ないでいる。

 

「見て!これはもう傑作と呼べる出来だよ。」

 近頃は私たちの溜まり場になりつつある工房にいつの間にか作業台がひとつ増えていると思ったら、ぺろみがクロスボウをいじるためのものだった。加工前の装甲板をテーブルの上に立て掛けて”傑作”のトゥースピックを構えて狙いを定め、引き金を引く。決して軽いとは言えない鉄の板は、鈍い音を立てて弾き飛ばされた。拾い上げた板には矢が突き刺さっており、わずかに貫通して裏側から先端を覗かせていた。

「今のは至近距離からだったけど、ちょっとだけ貫通した!すごいでしょ?ダスト盗賊の薄いヘルメットだったら遠くからでも穴が空いちゃうと思うな。」

 ぺろみは満足した様子で作業台にトゥースピックを置き、小さくため息をついた。椅子の背もたれに体を預け、天井を見つめてぽつりと呟く。

「…ワールドエンドで見た、あのクロスボウが欲しいな。」

 ぺろみはクロスボウという武器を大いに気に入っている様子だ。私もサーベルについては斬馬刀以外にも色々な種類を試してみたいと思っているので、気持ちは分からなくもない。

「前に言っていた、矢が遠くまで飛ぶやつだろう?そんなにすごいのか。」

 ルカが珍しくぺろみの話に食い付いた。ぺろみはルカの方へ向き直る。

「すごいんだよ!人が石ころみたいに見える距離の所までビュンって飛ぶの。矢も普通のより長いんだよ。」

 ぺろみは右手の親指と人差指で輪を作り、その穴からルカ――そして私を覗く。その視線に()(ころ)されそうな感覚を覚え、反射的に手のひらが前に出て射線を遮る。

「武器もそろそろ新しい物が欲しいな。いつまでもなまくらを振り回している訳にはいかない。シェクの身体を切り裂くのは簡単ではないぞ。」

 ルカの言う通り、私たちの武器はダスト盗賊のお下がりで、お世辞にも品質の良い物とは言えない。ハイブのトレーダーも武器は扱っていないので、また街にでも行って買ってくるしかないだろうか。

「ハブのシノビ盗賊に掛け合ってみましょうか?()(ばい)商人が何か掘り出し物を持っているかもしれませんから。」

 シオリが作業の手を止めて会話に混ざって来た。聞けば黒龍党とシノビ盗賊は提携関係にあり、物資のやり取りをする事があるらしい。故買商とは顔馴染みであるとの事なので、ここはシオリに一肌脱いで貰う事にした。ずっと工房に詰めていたから、外に出て気分転換をする事はシオリにとっても悪くないはずだ。

 

 思い立ったが吉日とばかりに、シオリと私、そしてぺろみの三人でハブへとやって来た。街外れにある、一際背の高い塔のような建物がシノビ盗賊の根城だ。彼らのネットワークに”加盟”していない者はまず相手にされないせいか、付近には塔の前で見張りをしているシノビ以外の人影はない。

 シオリが一人で故買商と接触し取引をする間、私たちは酒場で待機する。私たちの”顔馴染み”である店主にラムを売り付け、幾らかの稼ぎを得る事が出来た。取引の足しに出来ると良いが。

 しばらくしてシオリが戻って来たが、浮かない顔をしている。申し訳ありません、と前置きし

「わたくしが黒龍党を抜けた事がすでに先方の耳にも入っておりまして、取引は出来ないと…。」

 盗賊にも盗賊のルールがあるという事か。顔馴染みであってもルールを曲げる事は自らの信用を傷付け、立場を危うくする事になる。物事というものは、思い描いた通りに都合良くは進まないものだな。諦めて帰ろうとしたところで、ぺろみが口を開いた。

「ねえ、シノビ盗賊の仲間になれば、取引出来るようになるの?」

 シオリは意外な提案に細い目を丸くして応える。

「え、ええ。でも、大丈夫なのですか?盗賊団の看板を掲げるようなものですよ?」

 ぺろみは笑いながら

「平気だよ。こっちから襲ったり盗みに行かないだけで、実際は半分盗賊みたいなものだし。」

 言われてみれば襲ってきた相手の身ぐるみを剥いで売ったりしているし、確かに中身は盗賊に近いものはあるな、と私は妙に納得してしまった。盗賊として名乗りを上げることについてはいささかの抵抗はあるが…。

 

 シオリとはあくまで無関係を装うため、私とぺろみでシノビ盗賊の所へ赴き外の見張りに声を掛ける。

「ここで質の良い武器が手に入ると聞いた。誰と話せばいい?」

 シノビの覆面を付けた見張りは私とぺろみを舐めるように見た後、待つように告げて建物に入っていった。しばらくして出てきたのは、同じように覆面をしたスコーチランダーの男だ。

「俺たちと取引をお望みかな?悪いんだが”仲間”として認められた人間としか取引しない決まりでね。」

 どうやら顔役のようだ。どうすれば仲間になれる?私の問いに対して男は答える。

「一万キャット。はじめにそれだけ貰えれば、後は自由にやってくれればいい。テストもノルマもない。物の融通はするが、そっちで起こしたトラブルについては一切関与しない。」

 ”加盟料”を支払いさえすれば仲間になれるという事か。決して安い額ではないが……私がぺろみの方に目をやると、地面にしゃがみ込んでキャットを数え始めていた。

「お若いの、ずいぶん稼いでるようだが、同業者か?」

 まだキャットを数え終わらないぺろみに代わって返答する。

「ああ、いや、ちょっと商売をやっていてね。近頃物騒だから、身を守るための武器があれば都合して貰いたいんだ。」

 なるほど、と腕組みをする男に、キャットの束を差し出すぺろみ。

「はい!一万キャットあるよ。これでいい?」

 男は部下を呼び、キャットを数えるように指示する。

「シノビ盗賊へようこそ。ところで、何という組織だ?個人じゃないだろ?」

 組織…?私とぺろみは顔を見合わせる。組織かと云われれば確かに組織ではあるだろうが、名前など考えた事もなかった。

名無し(ネームレス)か?まあそれでも構わないが。”名無しのダレソレ”ってな具合に呼ばれるようになるが良いかね?」

 名前…名前ねえ。拘るようなものでもないし、判り易ければ何だって良いけれど。

 

 

「……まろやか……村!」

 

 

 ―――!?!?

 聞き間違いだろうか?たった今ぺろみの口から突拍子もない単語が飛び出したような気がしたが…。

「まろやか村ぁ?」

 顔役の男は驚いた顔で聞き返してきた。聞き間違いではなかった事に私も驚く。そして男は俯いて肩を小刻みに震わせ始めた。笑いを噛み殺すなら、もう少し上手くやって欲しいものだ。ぺろみは私と男の顔を交互に見て、なにやら憤慨し始めた。

「…なんだよ!いま決めたの!いいでしょ!」

 ほらっ!早く武器見せてよ!ぺろみの迫力に()()されて、顔役は私たちを建物の中へと促す。

 

 塔の一階に故買商はいた。私に目配せだけをして、顔役は去っていった。

「――で、今日は何を探している?」

 故買商の男は静かに問いかける。

「武器が欲しい。出来れば状態の良い物があれば嬉しいんだけど。」

 なるほどと呟き、故買商は壁際に据え付けられた保管庫の扉を開く。

「今あるのはこれだけだ。自由に見てくれ。」

 中には鞘に収まった二振りの剣が立て掛けてあるだけだった。ひとつを手に取り鞘から静かに引き抜く。形は斬馬刀に似ているが、刀身に丸い穴がひとつ開けてある。一方ぺろみが眺めているもうひとつの剣は、ジャラジャラと耳障りな音がする小さな輪が幾つも付いている。そしてどちらの剣も錆がなく、刃もしっかり付いているようだ。ひと目で品質の良い物である事が窺えるが、残りのキャットで買える額なのだろうか…。

「それぞれ四千キャットは貰いたい所だが……ふむ、二本とも買ってくれるなら七千キャットでいいぞ。この辺りは金払いの渋い連中ばかりだから、金持ちは大歓迎だ。」

 少し迷ったが結局二つとも購入し、今日のところは引き上げる事にした。これで完全に素寒貧だ。もはやひと切れの肉さえ買えそうにない。

「また来い。それと、()()()()()()()()()。」

 故買商の男は別れ際にそう呟いた。

 

 住み処に戻り、食事の席で顛末を話す。私たちが”まろやか村”として名乗りを上げた事に、ミバールは手を叩いて笑った。ルカはしばらく無言だったが、新しい剣が手に入ったので機嫌は悪くなさそうだ。シオリは取引の役に立てなかった事を気にしている様子だが、あの提案があったからこその今日の収穫であり、むしろ感謝している。そして”村長”ことぺろみは、次の探索行への計画を練っていた。目標はジャレッドから贈られた地図に記された場所だ。ホーリーネイションの所有するリバース鉱山の周辺にあるようだが、詳しい場所を地図から読み解くことは出来ない。

 シオリは食事が済めば、また仕事へと戻ってゆく。工房の床に寝袋を敷き、ずっとそこで寝泊まりしているのだ。熱心な働きぶりに頭が下がる思いだ。

 就寝前の挨拶をしようと工房の扉をくぐろうとした時、微かな話し声が耳に入ってきた。工房の中を覗いてみたが人影はない。外だろうか?建物の裏へ行こうと、角を回るところで誰かと鉢合わせした。相手はひゃっ!という小さな悲鳴を上げる。

「すっ、すみません!…どうかされましたか?」

 シオリは胸元に手を当てて息を整える。

「何か話し声が聞こえたような気がしてね。誰かいたのか?」

 シオリの後方を覗くようにしてみたが、闇が広がるばかりで誰かが居るような様子はない。

「あっあの…わたくしも声が聞こえましたので工房の周りを見て回ったのですが、誰もおりませんでした。不気味ですね。」

 シオリは身震いする仕草でひょうきんに振る舞う。とりあえず戸締まりを確かにするように告げて、私は建物の周りをぐるりと見て回る。特に異状は認められなかったので、私はそのままベッドへと向かった。

 

 横になって昼間の出来事をしみじみと思い返してみる。私たちの住み処は今日から”まろやか村”になった。ぺろみはいつも独特の感性で名付けを行う。”ぺろみ”という名前自体も聞いた事がない響きだし、一体どこからやって来たのだろうか。空に浮かぶ二つの月のどちらかから落ちてきたのかな。そんな空想をしているうちに、私はいつの間にか眠りに落ちていた。

 

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