Kenshi 二次創作   作:ぴこ山きゅん太郎

18 / 30
拾漆

 

 シェクの戦士たちは散開し、距離を取るようにしてこちらを取り囲む。ダスト盗賊のように一様ではなく、胸当てを着けている者、サラシを巻いている者、下履きのみの者など思い思いの恰好をしているようだ。相手の出方を窺っていると、初めにルカが仕掛けた。前進しながら板剣を大きく振りかぶり、勢いよく振り下ろす。相手は正面から剣で受ける姿勢を取ったが、板剣自体の重さと遠心力で生まれた破壊力には勝てなかったようだ。板剣は勢いのまま額にめり込み、相手は崩れ落ちる。仲間を一撃で倒され、戦士たちはわずかにどよめく。

 余所見をしていられたのはここまでだった。いきり立ったサラシの戦士が私に斬りかかって来る。手から取り落としそうになる程の凄まじい衝撃が、刃を防いだ剣の持ち手から全身に響く。私が一気に踏み込んで斬り上げた剣は弾かれ、そこに出来た僅かな隙に攻撃を捩じ込んでくる。ぎりぎりで身を反らせてかわし、跳び退いて息を整える。そこへ別の戦士がさらに斬りつけて来た。剣で受けたがそのまま弾き飛ばされ、私は転倒した。飛び起きて再び構えながら、口に入った砂を吐き棄てる。

 息つく暇もないとはまさにこの事だな。バンドオブボーンズの戦士たちは確かにダスト盗賊よりは強いが、このくらいはルカとの稽古で慣れたものだ。しかし打ち合いを続けていては体力がもたない。早く斬り伏せてぺろみたちに加勢しなくては…。

 お互いににじり寄って距離を詰める。相手の間合いは私よりも広く、先には仕掛けてくるのは向こうだ。太刀筋は大体読めてきた。振り下ろされた剣を刀身でいなして体勢を崩し、首元を狙って袈裟斬りを浴びせる。刃は左肩を捉え、骨を砕いた手応え。サラシの戦士は倒れてのたうち回る。息を整える暇もなく次の相手、顔に(あざ)のある戦士が斬りかかって来たが、一人倒して少し気が緩んだ私は反応が一瞬遅れてしまった。相手が横に薙いだ剣は私の胴体を捉えた。胸に強い衝撃を受け、呼吸が止まる。私はそのまま仰向けに倒れた。

 意識が遠のいた気がした。動けない。斬られたのだろうか……にしては、痛みはあまりない。次第に呼吸が戻り、私は起き上がる。胸の装甲板が刃を受け止めたようだ。助かった…私は剣を握り直し、立ち上がる。それほど動いていないはずだが、相手はもう肩で息をしている。ここに来るまでの旅路で消耗してしまっているのだろうか。疲れているなら早いところ倒れてしまえばいい。素早く攻撃を繰り出し、畳み掛ける。痣の戦士は凌ぎきれず、剣を打ち落とされた。そして斬り上げた剣は胴体を捉え、横腹を切り裂く。

 直後、右腕に強い衝撃を受け、私はよろめいて膝をついた。背後から二の腕を斬りつけられた私は剣を取り落としてしまう。振り向くと相手は次のひと太刀を今にも振り下ろす瞬間だった。これはよけられない……致命傷を避けようと反射的に身を反らせる。その攻撃は胸の装甲に当たって防がれた。危ない、もう二度も致命的な一撃を貰っている。プレートジャケットが無かったら命があったか分からない。横に転がる勢いで剣を拾い、私の頭を狙った横薙ぎを間一髪で防いだ。その衝撃でまた弾き飛ばされる。

 強い。一太刀の重みがダスト盗賊とは段違いの力の強さだ。その(りょ)(りょく)もさることながら、使っている得物が強さに拍車を掛けている。切れ味は良くないようだが刀身が長く厚みがある鉈のような武器を持ち、その重量も相当なものであるように思える。立ち上がった私に少しずつ間合いを詰めてくるのは、初めに口上を述べた戦士のようだ。今回の襲撃の首謀者だろうか。これだけの人数を従えて来るからにはリーダー格だろう。だとすれば道理で強いわけだ。

 右腕は辛うじてまだ動く。正眼の構えを取る。相手が仕掛けてきた剣を刀身で受け流す。懐に踏み込んで胴斬りを放ったが、相手が身を捻って繰り出した肘打ちが私の鼻柱を痛打した。私はまたも地面に転がって悶える。血がぼたぼたと勢いよく垂れ落ち、地面に染みを作った。鼻が折れたかもしれない。頭を上げた時には、もはや目の前まで詰め寄られていた。その顔は笑みすら浮かべている。楽しいのだろうな、敵を打ち負かす瞬間というのは。

 相手がとどめの一撃を振り上げた時、一陣、ひときわ強い風が吹いた。砂つぶてがちくちくと横顔に当たる。と同時に、相手が怯んだ。瞬間、私は立ち上がりながら胴斬りを浴びせる。刃は正面から下腹に食い込み、確かな手応えをこの手に伝える。膝から崩れ落ち、前のめりに倒れる首謀者の戦士。次からは砂避けのゴーグルを着けて来るといい。

 

 私は地面に突き立てた剣を支えに膝をつき、口の中に溜まった血を唾吐く。周りを見渡すと、シェクの戦士たちは敗走を始めていた。ぺろみとルカは立っている。二人の無事を確認して、私はようやく戦いの終わりを確信した。

「ジャグロンガー!大丈夫!?鼻血が出てる!」

 ぺろみが()()()で駆け寄ってきた。おそるおそる小鼻に触れてみると、顔面の真ん中に激痛が走る。これは完全に折れているな……。

「二人とも、あの人数を相手によく戦い抜いたな。誇らしいぞ。」

 ルカが労いの言葉を述べながらやって来た。鎧と手甲に幾つかの傷があるが、負傷はしていないように見える。

「名誉の負傷だな、ジャグロンガー。私が直してやろうか?」

 ルカは戦いに勝利して上機嫌だが、私は鼻が折れていてそれどころではない。

「あのね!ハブのシノビ盗賊にお医者さんがいるんだよ。はやく行って診てもらおう!はやく!」

 ぺろみは私の手を引き、ハブに連れて行こうとする。その左手の甲にべっとりと血糊が付いているのに気が付いた。

「ぺろみ、お前だって怪我してるじゃないか。腕は大丈夫なのか?」

 ぺろみは怪訝な顔をして袖を捲り上げ、わっ!と小さく悲鳴を上げた。二の腕に受けた傷から垂れてきている。

「確かに斬りつけられたけど服は破れてないし、こんなのかすり傷だよ。……この服、すごく丈夫なんだね。」

 ぺろみとルカもまた、シオリの造った防具に守られたようだった。……そうだ、シオリ。早くシオリを捜しに――行きたいが顔が痛くて堪らない。ぺろみに従ってシノビ盗賊の塔に赴き、私は治療を受けた。治療と言っても折れた骨を掴んで乱暴に元の位置へ戻すというもので、私は再び激痛に悶絶する羽目になったのだ。もう二度とこのヤブ医者の世話にはならない、と心に誓った。

 

 住み処へと戻ると、倒れていた戦士たちは息を吹き返したのか殆どがいなくなっていた。大した生命力だな…とため息をついたところで、ゆっくりと地面を這いずるひとりのシェクが目に留まる。脚を負傷して歩けないようだ。私とぺろみは歩み寄る。

「はぁ、はぁ……なんだっ!てめえ!見せもんじゃねえぞ!うっ…」

 息も絶え絶えに腕の力だけで進んでいく。おそらくルカの剣で打たれたのだろう、左の脛に関節がひとつ増えている。痛々しい見た目に顔をしかめる。

「ねえ。その脚じゃ帰れないよ。きっと途中でオオカミにかじられるよ。ちょっと休んでいったら?」

 また始まった…ぺろみのお人好しだ。さっきまで命のやり取りをしていた相手の身体を気遣っている。この切り替えどころが私には今ひとつ掴めないのだ。するとぺろみは母屋へ向かって駆け出して行く。

「脚がちぎれなくて良かったじゃないか。でも機械の脚も結構良く出来てるらしいぞ?」

 仕返しとばかりに敗者へ向かって嫌味をぶつける。私は彼らを許した訳ではないが、もはや満足に動けない相手を斬りつけるまでに無慈悲ではないつもりだ。やがてぺろみが添え木を持って戻って来た。

「んなっ、何してやがる!触るんじゃねえ!……痛っっってえって!!ももももげる!もげちまうよ!!ああーーーっ!!!」

 ぺろみはシノビ盗賊の医者が私にやったのを真似て、折れた骨を乱暴に戻し添え木で処置を始める。脚が本当にもげてしまわないか、私はシェクの肩を地べたに押さえつけながら見守る。大声で喚いていたシェクは処置が進むにつれて大人しくなっていった。

「あんたぁ、なんで俺を助けるんだ?とどめを刺す事だって出来たじゃねえか。」

 もっともな疑問を口に出すシェク。それは私も大いに知りたいところだ。

「とどめ刺して欲しかったの?わたしが助けたいんだからいいんだよ。あんまりうるさいともう片方もおんなじくするよ?」

 ぺろみは処置の終わった脚をぴしゃりと叩いた。シェクは痛みに悶えて呻く。

「…あ、あんたらに頼みがある。目の周りに黒い痣がある奴が居たはずだ。その辺にまだぶっ倒れてたら、助けてやってくれねえか。俺の姉貴なんだ……後生だ、頼む。」

 顔に痣のある戦士……私が相手をした気がするが、結構な深手を負っているはずだ。私が戦っていた辺りに戻ってみると、痣の戦士はまだ倒れており意識は戻っていない。出血がひどいな……助けてやれるだろうか。シェクの身体の事はシェクに聞けばいい、とルカに助言を求める。ルカは傷口を観察して曰く

「見たところ(はらわた)までは達していないようだ。糸で縫って包帯を巻いておけばそのうち治るだろう。シェクの身体はお前たちよりも頑丈に出来ているから心配するな。」

 ルカの助言通り傷口を洗って縫合し、包帯を巻いた。シオリがいたらもう少し丁寧に縫ってやれたかもしれないが、今は無い物ねだりでしかない。とりあえず工房に二人分の寝袋を敷き、シェクたちを寝かせておく事にした。

 

 シオリ捜索の計画は仕切り直しだ――と思いきや、ぺろみは支度を整えて出発しようとしている。

「ジャグロンガーは怪我してるしここで待ってて。大丈夫、場所を確かめるだけにするから。」

 もうじき日が傾き始める。明日に伸ばせないのか?私の問いに対しぺろみは

「暗い時間の方が都合がいいよ。ダスト盗賊も夜中はうろうろしないでしょ。」

 そう答えて出ていってしまった。やれやれ……一度決めたら簡単には曲げない性格だから、止めたところで同じ結果になっていただろうけれど。

 右腕は擦り傷で済んだが何をするにも顔が痛いし、今日のところは夕食を取れば後はもう横になってしまうばかりだ。そういえば、シェクの戦士たちにも食事を出してやらなくてはならないな、と気がついてキッチンへ行くと、ミバールは丁度よく食事の支度を終えるところだった。

「あ、そうか!ぺろみとシオリは居ないんだったね!…ジャグロンガー、これ、余るからさ。あいつらに持って行ってやりなよ。」

 ミバールはカクティ・ミーティの乗った皿を二枚、私に手渡す。やや芝居がかったような、上ずった口ぶりだったのは気のせいではないはずだ。

 工房へ入ると、脚の折れたシェクが身体を起こして姉の様子をじっと見ているようだった。

「腹が減っているだろう、これを食べるといい。そっちはまだ目を覚まさないか?」

 シェクは心配そうな顔で私を見る。ルカが見せた事がないような、沈痛な面持ちだ。その感情を是非他人にも向けて貰いたいものなのだが――。

「止血は済んでいるし脈拍もある。()()()()()()()も心配するなと言っていたから、大丈夫だろう。」

 それを聞いて安心したのか、シェクはカクティ・ミーティを掴んでひと口頬張り、やがて硬直する。

「……うめえ。」

 シェクは啜り泣きを始めた。涙を流し鼻を啜りながら食べ物を頬張るその姿は、余りにも憐れで胸を打つ。情が移りそうになった私は、姉の分を食うなよ、と釘を刺してその場を離れた。

 さて、私たちも勝利の晩餐にありつこうではないか。酒も欲しいところだが、折れた所が痛みそうなのでやめておく事にしよう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。