Kenshi 二次創作   作:ぴこ山きゅん太郎

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弐拾壱

 

 鉄板と廃材で間に合わせた囲いは強い砂嵐に倒れる事もなく、まろやか村を外敵から守ってくれている…と信じてやまない。堅牢な門を作るだけの材料が無かったのは悔やまれるが、敵の侵入経路を絞れる事は住み処を防衛する上で都合が良いと思っている。

 アビゲイルは高い所が好きなようだ。風力発電機の鉄塔を登って、遠くを眺めている姿をよく見かけるようになった。その日、いつものように鉄塔に登っていたアビゲイルが、鉄の製錬機を動かしている私たちの所へ息を切らせてやって来た。

「北東から集団が近づいて来てる。あれは多分…黒龍党の忍者たちだ。」

 工房へ知らせると言ってまた走り出す。

「ついにお出ましか!待ちかねたぞ……。」

 ルカは張り切った様子で板剣を手に取る。敵襲とあらば私も戦いの支度をしなくてはならない。作業の手を止めて工房へと向かう。

「相手を選ばないと痛い目に遭うって、教えてあげないとね。」

 ()()()調()()を施したトゥースピックに矢をつがえるぺろみ。シオリの一件で黒龍党に対して強い嫌悪感を抱くようになっていた。

「ジャグロンガー、一番強そうに見えるね。ルカよりも戦士みたいだよ。」

 ぺろみが私の姿をからかう。私はバンドオブボーンズとの戦いで顔面を負傷した事がトラウマになり、動きが鈍くなっている事をルカに指摘されていた。相手に肉薄するとつい守りに入ってしまい、攻撃の手が疎かになるのだ。

 そこでシオリが作ってくれたのが、フェイスプレートという防具だ。顔の下半分から鎖骨の辺りまでを覆ってくれる金属製の覆面で、多少の打撃なら痛みを感じる事はない。実戦での効果の程はまだ分からないが、心理的な負担が減る事は私にとってこの上なく大きい。

 フェイスプレートとプレートジャケット、そして装甲付きズボン。上から下まで鉄の装甲に覆われているからには、皆よりも前に出て戦わなければならない。一対多の戦いでどこまでやれるだろうか……。

「それ、良さそうだな。私も後で作って貰う事にしよう。肘鉄で鼻を折られてはたまらん。」

 ぺろみに便乗してフェイスプレートを爪弾(つまはじ)くルカ。甲高い金属音が耳を突いた。

「その辺で勘弁してくれよ。戦いの前に心が折れてしまう。」

 私は仕返しにルカの鎧を拳で小突く。

 

 敵をわざわざ囲いの中へ通してやる事もない。外に出て待ち構えるのはルカとシオリ、そして私。ぺろみは射手として少し離れた所にいる。

「稽古の通りに戦えば何とかなるはずです。突きの間合いにはくれぐれもお気をつけくださいませ。」

 私たちは(きた)る黒龍党との戦いに備え、シオリとアビゲイルを相手に模擬戦闘での訓練を重ねた。ある程度の動きは見切れるものと考えているが……。

「所詮はフラットスキンどもがディマクの付け焼き刃を振り回しているだけに過ぎない。そんなものに我々が勝てない訳がないだろう?」

 強者の余裕かはたまた油断か、ルカはそう(うそぶ)きながら板剣を振り回して身体を暖め始める。

 しかし訓練でのシオリの強さは、ダスト盗賊の比ではなかった。戦いに及び腰のアビゲイルでさえ、棒で打ち合うだけと割り切ればシオリにもひけを取らない動きを見せたのだ。あれが大挙してやって来るのかと思うと、私は強い緊張感から脱する事が出来ないでいた。

 

 しかし相手は待ってはくれない。やがて到着した忍者の集団が、私たちから少し離れた所に立ち並んだ。二十人くらいはいるだろうか――四人で相手をするには些か数が多すぎやしないだろうか。

 武器を手に身構える私たちを前に、忍者たちは襲って来るでもなく何やら話を始めた。内容は聞き取れないが、時おり笑いが起こっている辺り雑談でもしているのだろうか。随分とふてぶてしい連中だ。

 私が眉をひそめたその時、耳のすぐそばを風を切る音と共に何かが掠めていった。と同時に一人の忍者が崩れ落ちて悶える。その喉元からは、親指ほどの長さの矢筈が頭を覗かせていた。

 振り向くとぺろみはトゥースピックの狙いを定め、今まさに次の矢を射掛けようとするところだ。そしてすぐさま放たれた矢は、別の忍者の鉄笠に突き刺さった。一瞬の出来事に忍者たちは大きくどよめく。

「はっは!我らがボスは大層()()()()()のようだぞ!お前たち、生きて帰れると思うな!」

 隙を突いてルカが詰め寄り、板剣を横に薙ぐ。しかしそれは忍者の塊に当たって勢いが殺がれ、固まっていた前の方の数人を転倒させるに終わった。

 ここでようやく相手が刀を抜き始め、戦いの幕が開ける。

 

「ジャグロンガー、どちらが多く倒せるか勝負だ!もたもたしていると私が全て倒してしまうぞ!」

 ルカが大きく動きながら少しずつ離れ、忍者は散開を始める。私は厚い装甲に守られている、大丈夫だ!――自分自身を鼓舞しながら、忍者に対峙する。

 敵の使う得物は“忍者刀”と呼ばれる、いわゆる“刀”よりも刃渡りが短く反りのない直刀だ。重量も軽く邪魔になりにくいため隠密行動には向くと思われるが、ひとたび戦いとなればその軽さは仇となる。攻撃に武器自体の重さを利用できないので、鋭い刀身に加え己自身の腕力がなければ相手に傷を負わせる事は難しい。黒龍党で使用している忍者刀はそのほとんどが拾い物のなまくらであるという事から、斬撃の脅威はそれほど高くないと考えられる。

 つまり、斬りつけられても負傷するおそれは少ないという事だ。私は大胆に踏み込み、力に任せて斬馬刀を振り回す。しかし忍者は軽快な動きで攻撃をかわしてゆく。まともに打ち合っても太刀打ち出来ない事が分かっているのだ。一旦、手を引いて上がってきた息を整える。やはり一筋縄ではいかないようだ。

 その時、視界の端で動きがあったのを私は見逃さなかった。身を翻して攻撃をかわす――その動きは予習済みだ!

 相手は突きを繰り出してきた。忍者刀の切れ味はいまひとつだが切っ先は細く鋭いため、革の鎧でも容易に刺し貫く事が出来る。シオリたちとの訓練でも、この突き技には特に警戒するように言われていたのだ。

 突きをかわされた相手は、勢いのまま私の目の前に背中を晒してしまった。この好機を逃すはずもなく、渾身の力を込めて振るった刃は胴体の右側面を捉え、肉を切り裂いた。

 

 まずは一人、しかし、まだ一人だ。忍者たちは一定の距離を保ち、不用意に踏み込んで来るような真似はしない。ルカの方は間合いを広く取られて(こう)(ちゃく)しているようだ。ぺろみの方に目をやると、シオリが薙刀(なぎなた)を振り回してぺろみに近付けさせまいとしている。その後ろから矢を射続けるぺろみだが、初めの不意打ちのようにはいかないようだ。いずれ矢を射尽くすだろう。

 状況が長引けば、数に劣るこちらがどんどん消耗して不利になる。目の前の相手に手こずっている場合ではない――打ち合いに持ち込めばこちらに分があるはずだ。私は一気に肉薄して刀を叩き落とし、右腕を斬りつけ、体勢が崩れたところに蹴りを見舞った。相手は仰向けに倒れる。

 次の敵に目を向けると、私を囲んでいた数人の忍者たちは背を向けて走り去るところだ。その先には、がら空きになった囲いの入口がある。

 しまった…!()(かつ)にも住み処への侵入を許してしまった。慌てて追いかけるが、ルカを囲んでいた二人が離れて私の行く手を塞いだ。侵入に気付いたぺろみが敵を追いかける。

 そこをどけ!一人に斬りかかるが、刀を使って巧みにいなされてしまう。少し出来る奴のようだ……囲いの中の事はぺろみに任せるしかないだろう。私は腰を落として身構える。

 そして踏み出そうとしたその時、背中に強い衝撃を受けた私はそのまま前のめりに倒れた。

 

「あっ!悪りい!力入れすぎた!」

 誰だ…?状況が飲み込めないまま身体を起こす。身体に痛みはない…突きを貰ってしまった訳ではなさそうだ。すぐ(そば)に肩口がざっくりと裂けた忍者が転がっているのを目の当たりにして、私は戦慄した。そして顔を上げた視線の先には――。

「やってんねえ!俺らも混ぜてくんなきゃ困るぜ、旦那あ!」

 大振りの剣を携えたシェクが二人、立っていた。

「だから言っただろ!私らを置いといた方がいいってよ!」

 ビシュマとジュラニ――かつて助けたバンドオブボーンズの戦士たちが再びやって来たのだ。

「ジュラニ、こっちの奴やれ。私はあっちのをやる。どっちが多くやれるか、勝負だ。」

 ビシュマは飛ぶように駆け、ルカの戦っている方へと向かう。

「はっはあ!負ける訳ねえだろ!俺が!」

 ジュラニが嬉々として忍者へと躍り掛かった。

 

 ――その後の事は、“血の惨劇”とでも言い表すのが相応しいだろうか。二人のシェクは刀で斬りつけられるのも(いと)わず、忍者たちを次々と斬り裂いていった。細い刀で攻撃を防ごうなどとしようものなら、シェクの腕力に加えて“人斬り庖丁”の重みが乗った強烈な一撃を見舞われるのだ。ある者は鉄笠ごと頭を割られ、ある者は腕を吹き飛ばされる。敵が戦意を喪失して敗走を始めるまで、それは続いた。

「ジュラニ、何人やった?」

 敵を退けてこちらにやって来たビシュマの問いに、ジュラニは指折り数える。

「いち、にい、さん……四人だな。五人目は逃げた。」

 ビシュマは両の拳を握り締めて勝ち誇る。

「よし!私の勝ちだな!五人目もちゃんと仕留めたからよ!」

 顔を歪めて悔しがるジュラニ。そう言えば、私もルカと数を競っていたっけな。向こうは何人倒したのだろう?勝負の行方は少し気になるが、私は囲いの中へと急いだ。

 キッチンの小屋の前でシオリとアビゲイルがしゃがみ込み、倒れている誰かを見ているようだ。背筋が凍りついた私は、無意識に駆け出していた。

「わっ!びっくりしたあ。ジャグロンガー、大丈夫?」

 母屋から急に現れたぺろみと鉢合わせた。……ああ、良かった、倒れているのがぺろみじゃなくて。私は深くため息をつく。

「…どう?シオリ。」

 ぺろみは母屋から医療品を抱えて持って来たのだった。シオリは首を横に振る。

「ありがとうございます、ぺろみ様。……先ほど、いってしまいました。」

 それを聞いたぺろみは落胆の表情。シオリは最期を看取った相手の頭を撫でている。

「この子はケイリーと申します。戦いの腕はまずまずながら、鍵開けが得意で素直な性格の娘でございました。」

 顔を上げたその向こうにも、二人の忍者が倒れていた。おそらくはもう、動かないだろう。

「覚悟は出来ていたつもりでおりましたが、一度は同じ釜の飯を食った者同士……殺し合いはやはり辛いものでございますね。」

 運命は時に苛酷な現実を突きつける。組織に属するからには、組織の掟に従わなければならない。裏切り者の始末もまた、忍者たちに課せられた掟なのだった。お互いに、苦しい選択だったに違いない。

 

 戦いで命を落とした忍者たちの亡骸は、シオリの希望により工房の裏に作られた墓に丁寧に葬られた。

「掟に縛られて死んじまったんじゃあ、どうにも締まらねえなあ。その辺、俺らは楽でいいや、なあ姉貴?」

 シオリたちの前でもこれといって悪びれる様子もないジュラニに、ビシュマは例によって拳骨制裁で応える。

「まろやか村にも掟はあるよ。“生きるのを諦めないこと”だよ。みんな、忘れないでね。」

 ぺろみの言葉を、私は胸の内で(はん)(すう)する。諦めない――そうだ、私は生きる事を諦めない。生きてさえいれば、チャンスはいずれ巡ってくる。私がぺろみと出逢った、あの時の様に、きっと。

 

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