Kenshi 二次創作   作:ぴこ山きゅん太郎

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弐拾弐

 

「まいったあ!全然勝てる気がしねえよ!」

 ジュラニが尻餅をついて降参の構えだ。シェクの姉妹を相手に打ち合いの訓練をしていたルカは、剣の背で自分の肩を軽く叩きながら不満げな表情を見せた。

「…ふん、まるで子供を相手にしているみたいだ。黒龍党の連中にはそれで良かったかもしれないが、私には通用しないぞ。」

 そして右手に握った(おお)(なた)をしげしげと見つめる。

「それにしても……うむ、悪くない。これを拾って来てくれた事については、感謝しなくてはならないな。」

 黒龍党の忍者たちとの戦いで、ルカは一人も倒す事が出来なかった。結局、間合いの外から包囲されたまま牽制されるばかりで終わってしまったのだ。

 板剣での一撃は強烈なものがあるが、いかんせん動きが重く見切られ易いのが難点だ。シェクの王はルカの板剣より何倍も重い武器を片手で振り回すそうだが、さすがに眉に唾を付けるような話でしかない。

 ビシュマとジュラニがここへやって来る途中で見つけた廃墟から、大量の古びた武器を持ち帰ったのは昨日の話だ。刀、大鉈、棍棒……そのほとんどは風化していて鉄屑以下の代物だったが、使える状態の物が無かった訳でもない。ルカが握っている“(なが)(ぼう)(ちょう)”はそのひとつだ。

 大鉈と呼ばれる種類の剣はサーベルよりも刃渡りが長くだいぶ重量があるが、それでも板剣の重さに比べれば可愛いものだ。切っ先は平らで刺すことは出来ず、切れ味よりも質量で叩き割るようにして使う。間合いも重さも、サーベルと板剣の間くらいの丁度良い取り回しと思える。私が振り回すにはいささか重すぎるが、シェクの筋力をもってすれば扱いは容易だろう。

 先の戦果とシェクの姉妹の活躍ぶりを省み、ルカは大鉈を得物とする事に決めたのだった。一見こだわりが強そうなルカだが、思ったよりもすんなりと切り替えた事に私は少し驚いた。あくまでも勝利への近道として最良の選択をするだけ、とはルカの弁。

 そのルカは姉妹たちに“隊長”とあだ名され慕われているようだ。そして姉妹もルカと同じ“傭兵の板金鎧”と呼ばれる防具を作って貰い御満悦の様子。皆すっかり“まろやか村の戦士”が板に付いてきている。

 

「音がしないように、金具をなるべく少なくして欲しいんだ。あと出来れば黒く染めて欲しいな。暗闇に紛れるためにね。」

 工房に入ると、ぺろみが次の探索行に身に付ける新しい服の採寸をしている最中だった。自身の要望を採り入れた服を新しく作って欲しいという事のようだが、仕立ての良いものを実際に着て人目に付かせる事で、売り物の品質を知らしめる目的もあるらしい。“放浪者(ドリフター)の装束”と呼ばれる革の衣服はとても丈夫でなおかつ動き易く、まろやか村の住人たちは普段着として身に付けていて評判も良い。言うまでもなく、それぞれの体型に合ったものが職人の手で丁寧に作られているからこその着心地なのだ。

 シオリが巻尺を使って、ぺろみの身体の寸法を細かく測ってゆく。下着以外に何も身に付けていないぺろみは、シオリに言われゆっくりと回りながらやがてこちらへと身体を向けた。その肢体は細身でやや筋肉質だが、全体的に女らしく程好い丸みを帯びている。露わになっている胸は小ぶりながら形よく膨らんで、二つの(いただき)に向かって少しずつ薄紅色を呈してゆく。これまでも幾度となく目にする機会はあったが、改めてじっくりと見れば実に艶かしい身体つきだ。私の劣情は否応なしに掻き立てられ、裸体から目を離す事が出来ない。

 ふと我に返ると、ぺろみがこちらを見ているのに気が付き目と目が合った。

「…ジャグロンガー、あんまりじろじろ見ないで。恥ずかしいから。」

 ああ、ごめんごめん…つい見入ってしまった。慌てて目を逸らすと、シオリがくすりと笑ってぺろみの後ろからひょいと顔を覗かせた。

「ぺろみ様はお顔立ちも愛らしくていらっしゃいますし、見惚れてしまうのは無理もございませんよねえ。旅先で殿方に声を掛けられたりなど、なさらなかったのですか?」

 採寸が終わったぺろみは、衣服を身に付けながら問いに答える。

「この間はスタックの酒場で酔っ払いに絡まれたけど、スーが一緒だったから大丈夫だった。…やっぱり一人だと危ないのかなあ?」

 (せん)だっての旅ではワールドエンドから無事に帰って来られたからまだ良かったものの、一人であちこち飛び回られるのはとても心配だ。私は皆でスクインヘ向けて旅をした時の出来事を思い出し、(むし)()が走るような気持ちになった。あの時シェク百人衆の助けが無かったら、ぺろみは男たちに好き放題に(なぶ)られてしまった事だろう。あんな事は金輪際御免(こうむ)りたいものだ。

「スタックといえば……酒場に傭兵稼業の元パラディンが居たな。雇って同行して貰うのはどうだ?まだ売れ残っていれば、の話だけど。」

 リバース鉱山の方へ行くなら地理に明るい人間の方がいいし、元パラディンという事であれば戦いもそれなりに経験がある事だろう。悪くない提案だと思ったが、ぺろみはやや微妙な面持ち。

「う~ん……でもそれお金が掛かるやつでしょ?わたしお金持ってないしね。」

 …まあ、それもそうか。革の衣服が売れれば幾らかの金は手に入るだろうけど、その額で雇えるかどうかはまた別の話だ。そうかと云って遺跡への一人旅は、ぺろみにはまだ危険だと思うのだが…。

「お金が掛からない用心棒なら、そこにいらっしゃるではありませんか…ねえ?()()()?」

 再びひょいと顔を出してこちらを見やるシオリ。……私の事を言っているのか?そりゃあ一緒に行きたいのはやまやまだけど、まろやか村の守りだって疎かにする訳にはいかないだろう。いつまた黒龍党の忍者たちが襲ってくるかも分からない。

「ここの守りはシェクの皆様にお任せして大丈夫かと存じます。もうじき門も出来上がりますし、この間のように易々とは入って来られないはずですから。」

 それを聞いてぺろみは小さく拍手をしながらぴょんぴょんと跳ねる。

「そうだよ!ルカもお気に入りの武器を見つけてやる気まんまんだし、みんな強いから大丈夫!それにわたしが居ない間、また寂しいの()でしょ?」

 勝ち誇ったような笑みを浮かべ、私の胸元を指でぐいと押すぺろみ。私は図星を突かれて言い返す言葉が出て来ない。なんだか上手い事やり込められた気分だ。しかしながらぺろみと一緒に旅に出られる運びとなり、胸が踊ってもいるのが正直なところでもある。

「……仕方ないな。それじゃあラムも持って行こうか。売れる物は多い方がいいだろう?」

 

 まずは拠点の門を完成させなくては話が進まない。私は大いに発奮し、建設作業を急いだ。そしてようやくの完成を見たのは、ハンドルを手でぐるぐると回して落とし格子の昇降を行う、スワンプの集落でもよく見る形の簡素な門だ。井戸の汲み上げポンプに使っているモーターを使って自動で開閉させる案もあったが、残念ながら力が足りず門が持ち上がらなかったために今回は見送りとなった。ハブにあるような立派な壁で囲ってみたくもあるが、とりあえずは拠点としての体裁が整った事に満足している。

「戦いの最中に敵の侵入を警戒しなくて良くなるのは結構な事だ。次の戦いが待ち遠しいな。」

 ルカは雪辱を果たす事に執念を燃やしているようだが、今の状況であればすぐに成就するに違いない。後は旅の支度をしながら、ぺろみの服が出来上がるのを待つばかりだ。

 ――そして数日の後に、闇に溶け込むような黒色に染められた放浪者の装束が出来上がった。上下に合わせて黒いブーツも(あつら)えて貰ったようだ。上着の中には黒いタートルネックの長袖シャツを着込み、ぺろみの白い肌はほとんど全て覆い隠されている。使用を最低限に抑えた金具も光を反射しないように黒く染められ、その姿はかつて私たちを助けてくれたテックハンターのジャレッドを彷彿とさせるものだ。

「まるで忍者みたいだねえ。でも明るい所に居ると、かえって目立つね。物売りにはその方が都合が良いんだろうけどさ。」

 ミバールがぺろみの髪を(くし)を使って()かし、後ろで三つ編みに結っている。いつものひっつめ髪とは少し雰囲気が変わり、額にゴーグルを着ければ旅慣れた冒険者の様に見えてくる。

「これに似合う素敵な帽子なんかがあったらいいな。ワールドエンドに着いたらまずは帽子屋さんに行かなくちゃ!」

 やれやれ、すっかり観光をしに行くような気分でいるようだ。遺跡に辿り着けるかどうかもまだ分からないというのに…。

 

 旅の荷造りをあらかた終えて、いよいよ明日には出発する段取りになった。スワンプから出奔して来た時とは違い、不安よりも希望に満ちた旅立ちの予感だ。

 いつもより早めに横になったが、なんだか気分が(たかぶ)って寝付けない。寝酒を一杯ひっかけようとキッチンへ行くと、ミバールが旅の食糧を準備していた。なんだか包みがたくさんあるな…。

「あまりたくさん作らなくて大丈夫だよ。ある程度は旅先で何とかするさ。」

 ラムをコップに注ぎながら声を掛けると、ミバールはぴたりと手を止めた。

「あら、そうかい?保存が利くパンと乾燥肉を多めにしてあるから、少しずつお食べよ。咬み棒もあるよ。」

 ミバールは椅子に座ってひと息つく。

「ぺろみが居ないのは慣れたけど、あんたが居ないのは初めてだから、なんだか心配だよ。」

 そう言われてみれば、何をするにもぺろみか私の決定で進めてきたから、リーダーが不在という状況は皆にとっても初めての経験だ。

「戦いは戦士たちに任せればいいし、何か困った事があったらルカとシオリに相談して決めればいい。…ああ、もしトレーダーが来たら、米の苗を少し分けて貰っておいてくれ。」

 ミバールは不安を吐き出して少し楽になったようだ。相談してくれてありがとう、と告げて私は寝床に戻った。

 

 旅立ちの朝、相変わらず晴れてはいるが風力発電機の羽根は勢い良く回転している。じきに一帯は砂嵐に見舞われるだろう。

「それじゃあ留守を頼むよ。ルカ、ここの守りは任せた。」

 ルカは無言で腕組みをして頷く。

「お土産たくさん持って帰るから!アビィ、シオリを手伝ってあげてね。」

 分かってるよ、とアビゲイルは頭を掻く。

「よし、行こうか!」

 門の前まで見送りに来てくれた皆に手を振り、私たちは出発した。最初の目的地、スタックへと向けた足取りは軽い。

 

 

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