声の聞こえた方向へと灯りを向けると、暗闇の中に浮かび上がったのは長いコートを身に付けたスケルトンだ。同じ姿をしたスケルトンが一体あと何人居るというんだ…?
〔あの蟲を排除してくれたのは君たちだな。ありがとう、助かったよ。〕
人間の声とは少し違う…何と言うか、頭に箱か何かををかぶっているような、ややくぐもった音で流暢に喋る。
〔それはそれとして、私の刀を返して貰えると非常に有り難いのだがね。〕
私とぺろみは顔を見合わせる。この人物は向こうに倒れていた
「ごめんなさい!てっきりもう動かないと思って……!」
ぺろみは手を合わせて平謝りだ。私もすでに事切れているものだとばかり思っていた。
「こっ…ここは我が聖王陛下の土地なるぞ!ナルコの生み出した悪魔め……一体どこから入り込んだ?」
グリフィンが剣に手を掛けて尋問を始めた。態度がすっかりパラディンのそれになってしまっているが、スケルトンは意に介する様子もなく淡々と応じる。
〔オクランの使徒よ、そう怖がらなくてもいい。我々はオクランの
あの橋か……!グリフィンは唇を噛む。
「あなたもあの遺跡に何かを探しに来たの?」
ぺろみの質問に、スケルトンは深く頷く。
〔古代の遺跡にはスケルトンの部品が残されている事がある。私はそれに用があるんだ。ところで――。〕
倒れているスケルトンを指差して曰く
〔そろそろそいつの様子を見させて貰えないだろうか。仲間なんだ。〕
私たちが一歩退いて道を空けると、スケルトンは仲間の身体と蟲の様子を詳しく調べ始めた。
〔ずいぶんと食い意地の張った個体に狙われたな。頭を食い破ってそこに前肢を突っ込んだと見える。回路を短絡させて感電したんだろう。〕
おもむろに仲間の背負っていた刀を抜き、蟲に突き立てた。蟲は小さく痙攣してやがて動かなくなった。
〔こいつはもう駄目だ。エーアイコアが焼損している。――残念だ。〕
スケルトンはゆっくりと立ち上がり、こちらに向き直る。
〔自己紹介が遅れてすまないね。私はクリプト。そこに倒れているのはフロップ……という名だったが、最早ただの機械の塊だ。〕
そして声を上げてどこかに呼び掛け始めた。
〔ケイオス、居るんだろう。そろそろ出て来い。〕
少しの間を置いて、もう一人のスケルトンが暗闇からぬらりと現れた。
〔マーベラス!流石だねえクリプト。どうして分かカカカカカカったんだい?〕
やはり長いコートに身を包んだスケルトン“ケイオス”をクリプトが小突く。
〔お前は一番最初に逃げ出しただろう。どうしてフロップを助けてやらなかったんだ。〕
ケイオスはフロップの傍らに座り込み、泣き縋るような仕草をしてみせた。
〔ごめんなあフロロロロロロロロップ!見えてはいたんだけど、どうしてテテテテテテテも足が前に出なくってえ!〕
クリプトはケイオスを押し退け、フロップの亡骸を担ぎ上げて曰く
〔お前の部品を探しに来た代償は大きい。次はちゃんと働いて貰うからな。〕
釘を刺されたケイオスは大袈裟な身振りでそれに応える。
〔アイノウ!まマママママずはこの遺跡を調査しないとね!〕
そう言ってケイオスは遺跡の入り口の方へと向かって軽やかに歩いて行ってしまった。
〔――ご覧の有り様でね。我々はあいつの交換用部品を探しに来たんだ。しかし君たちも目的は同じように見える。ここはひとつ協力しないか。〕
遺跡の扉の前でケイオスが鍵開けを試みていた。ぺろみと同じようにして鍵穴に金属の細い棒を突っ込んで弄り回すと、程なくして扉の開錠に成功したようだ。こちらを向いて親指を立ててみせる。
「すごい!どうやって開けたの?わたしがずっとやっても開かなかったのに!」
ぺろみが食い付くと、ケイオスは得意げに胸を張る仕草で応える。
〔へへ!それレレレレレレレほどでもないよ。割とポピュラーなシリリリリリリリリンダーキーだからね。後でコツを教えてあげるよ。〕
ケイオスは、ひらけ~ごま!と言いながらレバーに手を掛ける。すると扉は鈍い金属音を立ててゆっくりと上にせり上がり、ついに遺跡の入口が開いた。
ちょっと待ってて、とケイオスが無警戒に中に入って行った。覗き込んでみたが中は闇に包まれていて何も分からない。そしてぺろみがじっと待って居られるはずもなく、ランタンを手に少しずつ踏み入る。私は更にその後ろを静かに付いてゆく。勿論ぺろみのバックパックはしっかりと掴んだ上で――。
たくさんの棚が並べてあり、金属で出来た床には大きな箱も置いてある。棚の上には書物が乱雑に散らばっていて、すでに荒らされた後のようにも見える。私はもっと仰々しく遺跡然としたものを期待していたのだが、ここは少し広い書物の店のようですらある。とはいえこの場所は、ぺろみの目には宝の山のように映っているはずだ。
〔敵性ユニットの検知なナナナナナし!どうやらここはライブラリーのようだね。安全だよ。〕
階段を降りて来たケイオスの報告を受けて、クリプトも中へと入って来た。グリフィンは入り口の前でまたも棒立ちになっている。
〔――警備のロボットが居なかったのは幸いだが、期待薄だな。〕
クリプトはフロップを壁にもたれるように下ろし、中を見回す。灯りが無くても周りが見えているようだ。
〔パラディンの御仁、遠慮しないで君も中に入るといい。なあに、我々は君たちを捕って食いやしない。そもそも有機物を摂取出来るように創られていない。当然ながら危害を加える理由もない。――今の所は、だがね。〕
グリフィンはなおも黙り込み、入り口から動こうとしない。ナルコの遺した建物と悪魔たちがそれ程までに恐ろしいのだろうか?
〔ボクはこの故障したボイスココココココントロールユニットが手に入れレレレば満足なんだ。それ以外のノノノノノノ物はキミたちの好きにしていいよ。〕
ランタンを持っているぺろみと、夜目が利くスケルトンたちが部品を探し始めた。手持ち無沙汰になった私はグリフィンに声を掛ける。
「なあ…彼らはあんたが考えてる程危険じゃないと思うんだけど。」
グリフィンは表情を変えずに答える。
「奴らはああやって友好的な振りをして近付いて来るんだ……今に化けの皮が剥がれる。スケルトンは危険だ。北のフラッドランドには、人を襲うスケルトンがうろついているという報告もある。」
スケルトンは危険なんだ――とぶつぶつと繰り返すグリフィン。まるで自身にそう言い聞かせているようにも見えたが、そろそろ面倒になって来た私は放っておく事にした。
調査隊はやがて幾つかの小さな部品を発見したようだ。台の上に並べてひとつずつ確認してゆくスケルトンたち。
〔これはサーモスタット、これはアククククククチュエータ、こっちはサーボドライバ……う~ん、残ねネネネネネネん!〕
何に使う部品なのかは全く見当もつかないが、ケイオスの落胆の仕草から期待に沿うものではなかった事が窺える。
〔仕方がないな。フロップの部品を取り外して使わせて貰おう。この際使える部品は全て貰ってオーバーホールするべきだ。ワールドエンドに戻らなくてはならないな。〕
ぺろみはその言葉を聞き逃さずに食い付いた。
「ワールドエンドに行くの?それじゃあ一緒に行こうよ。わたしたちもここを調べ終わったらワールドエンドに行くんだ。」
ケイオスはぺろみの言葉に小躍りして応える。
〔スウィート!それレレレレレはいいね!それじゃ早速行こうか!〕
そう言って遺跡を出ようとするケイオスのコートの襟を、むんずと掴むクリプト。
〔待て。人間は暗闇では自由に動けない。それにもう休息が必要な時間だ。ここの調査もまだ終わっていないだろう。出発はその後だ。〕
そう言われてみればまだ食事もしていなかったな。建物の二階に程好い空間があったとの話だから、今日はそこで寝泊まりする事にしよう。残り物の品定めは明るくなってからでも良いだろう。
「グリフィン、そろそろ扉を閉めたい。中に入ってくれ。……まさか外で寝るとか言い出さないよな?」
まだスケルトンを睨んでいる朴念仁を中へと促すと、渋々ながらようやく建物へ足を踏み入れた。私は階下でスケルトンたちと話し込んでいるぺろみに、早く寝るように念押しをして二階の寝床に横になった。
翌朝、目を覚ますとぺろみは私の隣でまだ眠っている。しかしグリフィンの姿は見えない。二階には居ないようだ。
下に降りると、三人に出迎えられて朝の挨拶をされる。
〔おはよう。よく眠れていればいいが。〕
お陰様で快眠出来たと伝える。やはり寝るのは屋根の下に限ると思う。
〔キミたタタタタタタちが寝てる間に価値がありそうな物をピックアップしてテテテテテテテおいたよ。後でチェキラウ!〕
それは手間を掛けさせて申し訳なかった。探す手間が省けたのはそれだけで有り難い。そしてグリフィンが晴れやかな笑顔で声を掛けて来た。昨日までの仏頂面は一体どこへ…?
「ジャグロンガー、昨日は済まなかった。俺はスケルトンに対する先入観が捨てきれていなかった。」
グリフィンはスケルトンたちと同じ長いコートに身を包んでいた。どういう風の吹き回しだと云うのか、にわかには信じ難い光景が目の前に広がっている。
「昨日の夜、思い切って話を聞いてみたんだ。彼らの歴史、第二帝国の盛衰……。教義には反するが、やはり俺はこの世界の過去についてもっと知りたい。」
昨日の約束を覆し、ワールドエンドまで同行すると言うグリフィン。何にせよスケルトンへのわだかまりが解けたのは好ましいと思える。
〔ボクのコート、彼にジャストトトトトフィットでしょ!友達になった記念にニニニニニあげたんだ!最高にイカしてるよね!〕
なるほど、それじゃ今ケイオスが着ているコートは――壁にもたれている裸のフロップが目に付いた。
ぺろみが起き出してきたので戦利品を見せる。大部分は棚にあった書物や地図の類いだ。
〔箱の中に興味深い物があった。古い地図だが、きっと気に入るはずだ。〕
Ashland Domeの文字とバツ印――クリプトが差し出したのは、遥か南東にあるというアッシュランドの地図だ。かの地を目指して旅立った者たちのそのほとんどが、二度と戻る事はないと噂される場所だ。
「へえ、何があるんだろうね。いつか行けるようになるかな?」
あまりにも遠過ぎて現実味に欠けるのか、意外にもぺろみはさほど興味を示さなかった――もっとも行きたいなどと言われでもすれば、私は全力で止めに掛かるつもりだけれど――。その他の地図も工廠跡や書庫といった遺跡の場所を示すもので、主に南西方面の遺跡が多く北西や東の方の地図が数枚、といったところだ。住み処から近い場所であれば、きっと足を伸ばしてみる事だろう。
ぺろみは見つけた書物や地図を全て
「怪我人には重すぎるかな。わたしが持つから、貸して。」
私の不安が透けて見えたのか、ぺろみは私からバックパックを奪って勢いよく背負い込んだ――までは良かったが、流石に重過ぎたのか歩き出す事が出来ないでいる。両脚を小刻みに震わせながら摺り足で前に進もうとする姿は、強く胸を打ち思わず目頭が熱くなる……よな?傭兵殿?
「……分かった分かった、俺が持つよ。いつもは別料金だが今回は特別だぞ。」
私とぺろみの熱視線を浴びて空気を読んだグリフィンが、荷物持ちを買って出た。そういう事なら君のバックパックは私が背負っていってあげようじゃないか。
グリフィンを先頭に列を作り、私たちはワールドエンドへの道のりを歩き始めた。ジャレッドやスーにまた会えるだろうか?