Kenshi 二次創作   作:ぴこ山きゅん太郎

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弐拾漆

 

 私とぺろみはスーの顔を見たまま凍り付いている。あまりにも唐突に知らされたジャレッドの訃報に対して、理解が追い付かない…いや、全く信じられないのだ。

「先日、クレーター調査の遠征隊が戻って来たんですけど、七人で出発した隊が三人に減っていて……その三人の中にジャレッドは居なかったんです。」

 スーは生還した隊員からの話を、とつとつと語り始める。

 

 ――クレーターまでの道のりは相当厳しいものであったと聞きました。ステン砂漠周辺は、人間よりも大きいスキンスパイダーという蟲が群れを成して闊歩しているとか…。そして危険な蟲たちの目を掻い潜りながら辿り着いたその先の地は、多数のガッターが棲息する更に恐ろしい場所だったそうです。

 運悪くガッターの群れに追われた調査隊は、すでに見えていた遺跡に向かって走りました。ガッター…ビークシングとも言うんですけど、この生き物は恐ろしく足が速いんです。…まずそこで一人が犠牲になりました。逃げ込んだ先の遺跡は研究所跡のような建物でしたが、この中にも次の脅威――アイアンスパイダーと呼ばれる機械仕掛けの巨大な蟲が警備していて……。

 外にはガッターが徘徊していて逃げ出せませんから、調査隊は建物を制圧すべく奮戦しました。しかしながら次々と這い出してくる鉄の蟲たちを相手に二人が命を落とし、ジャレッドもこの時に深手を負いました。すぐに応急処置を施されましたが状態は芳しくなく……一行は調査を断念して南東のクラウンステディへと急ぎました。ですが…残念ながらその道中で息を引き取ったそうです。ジャレッドはそのままクラウンステディで()()に付されました。

 

 スーは上着のポケットから小さな包みを取り出し、テーブルの上で広げ始めた。白い欠片と白い繊維が、布の上で音も無く転がる。

「ジャレッドの遺灰と遺髪です。親交の深かった人たちに配られました。果てるならば旅のどこかで、とよく言ってましたから、彼も本望だと思います。」

 旅の達人は去り際も淀みない。ふと、ぺろみが連れ帰ったオオカミの事を思い出す。あいつもこんな風に白い欠片だけを残して、あっけなく居なくなったんだっけ。

「ジャレッドがスーのお父さんっていうのは初めて聞いたけど、本当なの…?」

 ぺろみの疑問に答えるように、スーは続けて自身の身の上を話し始めた。

 

 ――子供の頃、故郷のデッドキャットがカニバルの襲撃に遭いました…その時に家族と生き別れになったんです。皆うまく逃げおおせて何処かで生きているのか、それとももう居ないのかは…今も分かりません。

 逃げ延びた先は海の側で、一緒に逃げた大人たちはそこに漁村を興しました。幼かった私は、同じように身寄りを失くした子供たちと一緒に暮らす事になって…。私は両親が恋しくて、毎日泣いて過ごしました。そんな時、私が給仕として働いていた酒場に現れたのが、テックハンターとして旅をしていたジャレッドでした。

 ジャレッドはしばらく村に滞在していたんですけど、店は暇でしたから私はジャレッドの話し相手をして過ごしました。そして世界を旅するテックハンターという職業がある事を知って、私は閃いたんです。テックハンターになれば、旅をしながら両親を探せる!って……ふふっ、子供の考えですよね。

 それから私は毎日のように、ジャレッドに連れて行ってくれるように頼みました。ひとつも真面目に取り合って貰えませんでしたけど、どうしてもテックハンターになりたかった私は、彼が村を発つ前の晩に泣いて頼み込んだんです。…結局聞き入れて貰えませんでしたけどね。

 でも、私は子供ながらに勘を働かせていました。きっとジャレッドは私が眠っている間に、黙って居なくなるに違いないって…。まだ薄暗いうちに寝床を抜け出して外に出ると、丁度ジャレッドが村の門を出てゆくところでした。私は彼に()()られないように、見失わない程度に距離を取りながら後を付いて行きました。…まあ、彼はランタンを提げていたので、追跡はそれ程難しくなかったんですけどね。

 やがて私たちは森に差し掛かりました。木々に紛れて見失わないようにするのが精一杯で周りが見えていなかった私は、ラプターの巣に足を踏み入れてしまったんです。丁度繁殖の時期で気が立っていたラプターたちに追い掛けられた私は、もうなりふり構わずジャレッドに助けを求めました。ジャレッドはたいそう驚いた顔をしていましたね……ふふっ、あの時の顔は今でも忘れられません。……私を担ぎ上げたジャレッドは、森の中を風みたいに駆け抜けました。すごく速かったんですよ、本当に。そして私たちはとある集落に辿り着いたんです。

 オクランの(かいな)から西に広がる、隠れ森の中にそれはありました…浮浪忍者を名乗る人々の隠れ里です。ジャレッドは私が本気なんだって事をやっと認めてくれましたが、まだ子供の私を連れて旅を続ける事は出来ない…という事で、浮浪忍者を束ねるモールさんの元へ一旦預けられました。私はそこで村の仕事を手伝ったりしながら、一人で生きてゆく為の戦いの(すべ)や包帯の巻き方、狩りの仕方などを学んで過ごしたんです。大きくなったらテックハンターになれると思えば辛くはなかったですし、村の人たちは優しくて…。たまに様子を見に来てくれるジャレッドを待ち焦がれたりもして、本当に楽しい日々でした。

 そして私の背丈がジャレッドを追い越した頃にようやく…私を連れて旅をしながらテックハンターのいろはを教えてくれるようになったんです。

 だから……本当の両親よりも長く一緒に居たジャレッドは私の父で、母はモールさんなんです。二人にそれを言っても断固として認めてくれませんけどね、ふふっ。…あ、モールさんは女性なんですよ。聡明で芯の強い方で、村の皆の憧れなんです。

 

 ひとしきり話して満足したのか、スーは深いため息をついて大人しくなった。

「――すみません!私の話ばっかり……ええと…そういう訳ですので、これは形見分けの品として是非受け取って頂きたいと思うんです。特にレンジャーはジャレッドの体格や癖に合わせて調整されているので、私には少し使いにくいんですよね。」

 ぺろみはクロスボウを手に取ってじっと見つめる。私も黒い鎖帷子を手に取り、広げてみた。すると…あの日の記憶、ダスト盗賊と戦いジャレッドと出逢ったあの晩の様子が鮮やかに蘇る。

「これは…ジャレッドが頭に巻いていたターゲルムストじゃないか。自分で使わなくていいのか?貰ってしまうのは……」

 スーは少し苦笑いを浮かべて頷く。

「ええ、ええ…いいんです。私はジャレッドの思い出が()()にありますから。それで充分なので…。」

 胸元に手を当てて微笑む。黒染めの鎖で編まれたターゲルムストは裏側に布が宛ててあり、顔を近付けると仄かにジョイントの煙の匂いがした。

「スー…ありがと。大事にするね。」

 ぺろみとスーは再び相擁する。ジャレッドが私たちの所へスーを寄越したのは、ぺろみならばスーの良き友人になってくれると考えたからじゃないだろうか?今となってはもう尋ねる事も叶わないが、私はジャレッドの親心に深く感じ入る。

「そうだ、スー、あのね――」

 ぺろみはジャレッドに貰った地図に記されていた、遺跡での出来事を話し始めた。スーは身を乗り出して聞き入る姿勢を見せる。きっと長くなるだろう――私は給仕に追加の酒と肴を注文した。

 

「――またいつでも遊びに来て!まろやか村はどんどん大きくなってるから、きっとびっくりするよ。」

 お喋りが終わって外がすっかり暗くなった頃、私たちは酒場の前で別れた。そして宿に戻り、私はベッドに腰掛けて足の傷に新しい包帯を巻き直す。

「明日はどうする?大学に顔を出していくのか?」

 スーと別れた後、ぺろみはずっとぼんやりとしている。

「…ううん。そんな気分じゃないし、特に用もないからもう帰ろう。」

 そう言うとぺろみは静かに私の隣に座り、頭をもたれて寄り掛かって来た。私の右手を握り締めてぽつりと呟く。

「…ジャグロンガー、いなくならないでね。ずっと一緒に居てくれなきゃ()だよ。」

 ……ずいぶんと一方的な物言いをするじゃないか。片時も離れずにいたいのは私だって同じなんだ。むしろお前の方こそが、すぐにどこかへ消えてしまいそうに(はかな)げで虚ろな雰囲気を纏っているんだよ。

「――大丈夫だよ、私はいつでもお前の側に居るから。」

 ぺろみの肩を抱いて小さな頭をゆっくりと撫でる。ずっとこうしていられたら良いのに。避けて通れない戦いの中に身を置く私たちは、いつ誰が居なくなってもおかしくはない。留守番の皆は無事でいるだろうか。盗賊や黒龍党の襲撃に見舞われてなければ良いけど……。

 良くない考えが巡って来るようになってきたな。もう寝てしまおう。まだ私の肩にもたれ掛かっているそのこめかみに口づけをして就寝を促すと、ぺろみはその場でブーツを脱いでそのままベッドに横になった。

「……ああ、ええと、うん。まあ…いいか。」

 私も防具を外し、ぺろみの隣に身を横たえる。

 

 翌日、ぺろみはいつもの様子に戻っていた。まろやか村の皆の為にと、サケの瓶とグリーンフルーツの実を荷物に詰め込んでいる。

「忘れ物ない?じゃあ、行こっか。」

 揚々と宿の外へと出ると、もうだいぶ日が高くなっていた。日差しに目が眩んだ私は左手を目の上にかざす。空気はひんやりとしているが、風は無く心地好い天気だ。ぺろみは貰ったターゲルムストを早速頭に巻いている。しかしこの街でその恰好は目を引き過ぎるから、出来ればよした方が良いと思うのだけど。

 門をくぐって街を出てしまえば、帰りは道なりに山を降りてゆくだけでオクラン・プライドへと出られるようだ。寄り道さえしなければ、明るいうちにブリスターヒルへと辿り着けるだろう。

「戻ったら水耕栽培の設備のために建物を作らないとならないな。何か考えはあるのか?」

 私の問いに対して、あるよ!との返事。それならばぜひ拝聴させて貰おうじゃないか。

「キッチンは今の人数だともう狭いから、ご飯を食べるための建物を作りたいな。ワールドエンドで泊まった酒場みたいな、二階建ての大きいやつだよ。」

 ぺろみが語るところによれば、広い建物の中に調理場と水耕栽培の設備をまとめて収めてしまおうと考えているようだ。一階で野菜、二階で米とサケを作り、運搬の手間をなるべく減らそうと目論んでいるらしい。

「なるほどね…でも肝心の水はどうするんだ?やっぱり逐一井戸から汲んで運ぶしかないのか?」

 それについても何か腹案があるようだが、まだ秘密!として教えてくれなかった。ぺろみは何かを企んでいる時に、妙に勿体ぶるのが好きだ。

「あとね、発電機も欲しいんだ。水耕栽培って、電気をたくさん使うみたいなの。大きい火力発電機を置くための建物も作りたいと思ってるよ。」

 それはいい考えだ。しかし火力発電を始めるとなると、燃料の安定供給という最大の課題がある。それについてはどう考えている?

「水耕栽培で麻を育てるんだよ。バイオマスプラントの設備があれば、麻を分解して燃料にできるってクリプトから聞いたんだ。それと麻って布地にもなるでしょ?麻から薬も作れるから、包帯とか傷薬を作ったり出来るようになると思うよ。」

 なるほど…ぺろみの頭の中には、もうすでに周到な計画が練られてあるようだ。麻の生産が軌道に乗るまでの間、発電機の燃料はハイブのトレーダーと取引すればいいだろう。

 幾つもの計画が歯車のように上手く噛み合って、まろやか村はまた一つ大きな発展を遂げつつある。果たして人手が足りるのか心配になって来るくらいだ。さしあたり必要な資材のために、またハイブの集落に出向いて隊商を手配しなくてはならないな。私の頭の中でも、計画の実現に向けて算盤(そろばん)勘定が始まっていた。

 

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