Kenshi 二次創作   作:ぴこ山きゅん太郎

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「はあっ!だめだ!この鍵は難しいなあ!」

 今日も足枷を外そうとして錠前外しを試みていたぺろみは、床の上で大の字になってしまった。何度か見た光景だ。素人が簡単に外せるようなものでないことは分かっている。しかしぺろみなら何とかしてしまうのではないかと期待したが、やはり難しいようだ。

 足に枷をはめられている女の名はミバール。枷の鎖はずっしりと重いが、歩くにはそれほど困らないと言う。ぺろみは相当悔しかった様子で、必ず外してやると息巻いている。私もぺろみの真似をしてガチャガチャと弄り回してはみたが、当然の事ながら鍵が開く事はなかった。

 ミバールは奴隷としてオクランのリバースへ送られる途中だったと話す。オクラン神の教えを信仰の柱とし、信奉する一大勢力、ホーリーネイションの所有するリバース鉱山は、各地から集めた奴隷を使役し労働力としている。かなり過酷な環境であるという噂だ。幼い頃、悪戯をしては「悪い子はリバースに送っちゃうよ!」と親に叱られた事を思い出す。昔からリバースは恐ろしい場所であると知られ、そういう刷り込みをされていたのだと思う。

 奴隷商を襲った連中は、おそらくダスト盗賊団ではないだろうか。自分たち以外の人間には見境なく襲撃、略奪行為をはたらく武装盗賊団で、首領の首には各勢力から賞金も掛けられている。ボーダーゾーンのどこかに本拠地があるらしく、この近辺では野盗の次に見かける機会が多い。なるべく関わり合いたくない手合いであることは間違いない。

 小麦とサボテンの畑はだいぶ広くなり、作物を食糧として利用していける算段が付いたので、収穫物を加工するための設備を整えた。小麦を挽いて粉にするためのサイロ、その粉を捏ねてパンにするための窯、そしてパンとサボテンを料理するためのコンロだ。こういった機械の組み立てにもだいぶ慣れてきたように思う。

 我々が住み処としている小屋は設備も増え、三人で暮らすには手狭になってきている。より大きな建物を作りたいとぺろみは考えているようだ。私としてもそれには諸手を挙げて賛成なのだが、すでに資金は底を突いている。やはり先立つものは必要だという訳で、畑の世話をミバールに任せ、私とぺろみは鉄や銅の採掘に精を出し、稼ぎとする日々が始まった。

 

「ちょっと!すぐ来ておくれよ!」

 朝のひと仕事を終えてぺろみと休んでいると、畑仕事に出ていたミバールが小屋の扉を勢いよく開けて入ってきた。何事かと外へ出てみると、鮮やかな橙色の服に身を包んだ数人の男たちが立っていた。

「こんにちは兄弟、今日はお祈りの日です。オクランの聖なる光を届けに来ましたよ。教典はお持ちですか?」

 困ったことになった。オクランの宣教師が来てしまった。何だって奴らはこんな辺鄙なところまでやって来たのだろうか。信徒ではない我々にとっては、ただ厄介な相手でしかない。

 教典を持っていない事を伝えると、一冊の分厚い本を手渡された。片手で持つにはずっしりと重い。一体何が書いてあるというのか。指定されたページを開き、宣教師の後に続いて一節を読む。ここは穏便に済ませたいところだ。黙って従うのがいいだろう。従者たちがじっとこちらを見ているのに気が付き、背中が湿り気を帯びていく。宣教師はいくつかの説法を垂れた後、オクランの加護がありますように、と祝福を残して去っていった。やれやれ、何とかやり過ごした。

「もう帰ったの?」

 ぺろみは様子を見に外へ出ようとしたところを、ミバールに止められたようだった。

「よくバレなかったね?ヒヤヒヤしたよ。」

 ミバールが胸を撫で下ろす。それについては土方仕事で薄汚れた出で立ちが、相手を欺くのに一役買ったと思う事にした。ぺろみはまだ事の次第が飲み込めていないようだ。どういう意味なの?と怪訝な顔をしている。私とミバールは顔を見合せ、クスクスと笑った。

 

 ――その日の夜、我々は最大の危機に瀕していた。

 絶望という言葉はこの状況をひと言で表すのにふさわしく、何とも言えぬ悲壮感に包まれている。ぺろみに至ってはもはや顔を手で覆ってしまっている。嗚咽が聞こえてきそうですらある。

 夕暮れの迫る頃、労働を終えて住み処に戻ると、ミバールが食事を用意してくれていた。サボテンを薄切りにしたものをパンに挟んで焼いた、ダストウィッチという食べ物だそうだ。

「おいし……そう?」

 ぺろみが私の顔をちらりと見た。私だってこの食べ物は初めて見る。薄茶色のパンの間から緑色の具、すなわち薄切りのサボテンがわずかにはみ出しているのだが、あまり食欲をそそられる見た目ではなかった。味は想像もつかない。私は何を答える事もできず、ただ肩をすくめるだけで茶を濁す。

「いただきます!」

 テーブルに着き、ぺろみの号令で食事が始まった。初めてのダストウィッチを一口囓ってみて、味を確かめる。そしてお互いの顔色を窺い、やがて長い沈黙が訪れた。

 強烈な苦みが口の中いっぱいに広がった。舌全体がぴりぴりと痺れるようだ。このまま噛む動作を続けようものなら、更なる苦みに襲われるだろう。それが恐ろしくて顎を動かすことができない。かといって吐き出してしまう訳にもいかず、少しずつ噛み締める。パンは乾燥していてパサパサしており、口の中の水分を容赦なく奪ってゆく。サボテンは繊維が多く筋張っていて、なかなか口の中から無くならない。最初の一口を飲み込んだ頃には、顎の筋肉が猛烈な疲労感に襲われていた。まあ、一言で言えば、不味いのだ。

「酒場のマスターに聞いた通りに作ったんだけどね。」

 ミバールが沈黙を破った。調理法が間違っていた訳ではないと思う。これはそもそもこういう食べ物なのだ。酒場で提供されていなかったのは、むべなるかな。ぺろみは目をぎゅっと瞑り、まだ口をもぐもぐと動かしている。私は溜め息をついて、次の戦いに挑む。

 永遠とも思われる時が刻まれ、私はようやくダストウィッチを食べ終えた。ミバールは私よりも先に食べ終え、ぺろみの方をじっと見ている。そのぺろみはといえば、半分ほどを残して戦意喪失のようだ。テーブルに両肘をつき、顔を手で覆い隠して微動だにしない。

 もう食べないのか?私の問い掛けに対し、黙って両足をバタバタとさせる。食べなくてはならないのは分かっているが、心がついて来ない様子。いつもの余裕綽々といった佇まいからは想像もできない姿だ。ぺろみの意外な一面を見出し、微笑ましい気分になる。私はちょっと意地悪をしたい気持ちが湧いてきた。

「毒じゃなければ何だって食べるんじゃなかったのか?」

 動きがぴたりと止まった。他の誰のものでもない、かつての自分自身の言葉がその身に返ってきたのだ。それはぺろみの心に火を点けたようだった。

「もう!分かってるよ!」

 ダストウィッチの残りを手に取り、じっと対峙している。しばらく睨みつけた後、気持ちを奮い立たせて勢いよく齧り始めた。時々足をバタバタさせたり、うー!などと唸ったりしている。その光景を固唾を飲んで見守る。

「ごちそうさま!」

 遂に最後の一口を飲み込んで、高らかに勝ち鬨をあげた。これは誉めてやらねばなるまい。私は笑いながらその頭をわしわしと撫でる。ぺろみは再び両手で顔を覆ったまま天を仰ぎ、呟いた。

「――お肉食べたい。」

 ぺろみよ、それは言わない約束だ。なにせ明日からしばらくは、毎日これを食べて暮らさなければならないのだから。

「作り方を工夫してみるよ。サボテンは先に茹でたほうが良いかもしれないね。それともう少し若いやつの方が筋が少ないと思う。」

 食材や調理の知識が豊富にあるようだ。肉を焚き火で焼く事くらいしか出来ない我々にとっては、得難い存在である。こうしてミバールは料理番としての地位を確固たるものにし、ダストウィッチの食べ難さは後に劇的な改善がなされたのだった。

 

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