Kenshi 二次創作   作:ぴこ山きゅん太郎

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 ぺろみのお陰で少しではあるが金銭的な余裕が生まれたので、もう一日ゆっくりと過ごし翌日に帰路につくことにした。

 ミバールは酒場でダストウィッチの調理をしている。というのも、我々がここに宿泊している事を件の戦士が聞きつけ、あのダストウィッチをまた食べさせて欲しいと言ってきたのだ。持ち帰った先の隊員たちの間でも評判は上々だったとの事で、ミバールは機嫌を良くしている。

「ダストウィッチ屋さんでお店が開けそうだね。」

 ぺろみの何気ない一言に、私は畑のさらなる拡張を頭の中で打算してみる。……とてもじゃないが今の労働力では生産が追い付きそうにない。将来的な交易の手段の可能性として、心の片隅に留め置いておくことにする。

 出発の準備のために荷物をまとめていると、我らの料理番が戻ってきた。その背中には、ぱんぱんに膨らんだ商人用のバックパックを背負っている。それを床にどっしりと降ろして曰く

「いやあ、よっぽど気に入ったんだろうね。あの百人衆に持たされたよ。肉を食えってさあ。」

 ルカの受け売りではあるが、百人衆というのはあの戦士が所属する、シェク王国の主力部隊の事だ。平時においては街や砦の警備と、その周辺の巡回を主な任務としているそうだ。

 バックパックの中には、獣の皮で包まれた生肉がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。これだけで半月は暮らせそうな量だ。しかもかなり新鮮であるように見える。どこかで獲ってきたばかりなのだろうか?

「またお肉が食べられる!」

 ぺろみは目をきらきらと輝かせている。ミバールのダストウィッチも悪くはないが、確かにそろそろ肉が恋しいところだ。しかしぺろみよ、お前はさっき酒場でドライミートを二つも平らげていなかったか?

 

 翌朝、例の戦士は今日も門の警備についており、大きく手を振って見送ってくれた。気さくな人物は案外居るものなんだな、とシェクに対しての考えを改めた次第だ。手を振り返してスクインを離れる。

 行く手の空が土色に煙っている。その下では砂嵐が吹き荒れている事だろう。じきにこちらにもやって来そうだな。巻き込まれる前に、なるべく早く戻ってしまいたい。途中、遠くに盗賊の一団を発見したので、大きく迂回をする。またあのような目に遭うのは懲りごりだ。

「ねえ、ジャグロンガー。ちょっと休もうよ。」

 珍しくぺろみがぐずりだしている。多少遠回りしているとはいえ、行きよりも荷物は軽くなっているはずだ。そもそも、それほど疲れているようには見えない。それにここはまだ荒野の真っ只中で、周りには身を隠せる場所がない。少しでも早く住み処へと辿り着きたいのだが…。

「私も休憩を提案する。お前、だいぶ疲れた顔をしているぞ、ジャグロンガー。」

 ルカに言われてようやく状況を理解した。住み処への帰りの道中、私はずっと周囲を警戒し気を張り詰めていた。どうやら気の疲れが顔に出てしまっていたようだ。ぺろみは自分が休みたいのではなく、私を休ませたかったのだと気付く。気持ちはありがたいのだが、しかし今ここで休憩したとしても、とても気が休まるとは思えない。

「分かったよ。じゃあ一旦ハブに立ち寄って、そこでひと休みしよう。それでいいか?」

 ハブであればここから住み処までの丁度中間くらいの距離で、そう遠くはない。顔を見合わせながら、私の提示した妥協案に同意する三人。目的地はひとまずハブに変更になった。

 

 思った通り、ハブへ到着した時には一帯が砂嵐に見舞われていた。早足で酒場へと逃げ込む。私が定位置にしていた店の隅の空間が空いていたので、荷物と腰をどっかりと下ろし、しばし喧騒を眺める。ここへはしばらく来ていないが、風景は何も変わっていない。いつもの客、いつもの店主、いつもの砂嵐――。私はあの時からだいぶ変わってしまったが、変わっていないものを見るのは何となく安心する。そんな事を思いながら瞼を閉じる。

 次に目を開いた時には、外はすっかり暗く、静かになっていた。迂闊にも眠ってしまったようだ。ぺろみとルカの姿が見えない。街の案内でもしているのだろうか?名所と呼べるような場所は、この酒場かシノビ盗賊の拠点くらいしか存在しないのだが…。寝起きの頭でぼんやりと考えていると、二人が戻って来た。あまり浮かない顔をしていたので、何事かと尋ねる。

「うーん…お家、乗っ取られてた。盗賊がいたよ。」

 私が居眠りをしている間に、住み処の様子を窺って来たようだ。状況はやはり思わしくない。盗られて困るような物は置いては来なかったが、盗賊たちが我が物顔でのさばっている場所は、苦労して築き上げてきた我々の城だ。何としても取り戻さなくてはならない。

 まずは作戦を立てよう。二人の話では、盗賊たちは建物の入り口の前と、屋根の上に二人ずつの見張りを立てている。残りの何人かは、中にいるはずだ。夜陰に乗じて建物に近付き、不意を突いて襲撃するのが良いだろう。もはやどちらが盗賊か分からなくなってくるが、こうなってしまえば目には目を、というやつだ。

「私の剣は、狭い屋内で戦うための物ではない。建物の中の連中は、外におびき出して欲しい。」

 ルカが店の中で得物を研ぎ始めている。なるほど、確かに今ここでその剣を振り回したとしても、あちこちにぶつかって上手く戦えそうにないな。それよりも、店の用心棒が何か言いたげにこちらを注視しているので、そろそろ剣をしまってくれないだろうか。

「わたし、今日は手加減しないよ。命の保証はしません!」

 ぺろみはかなり本気でかかるようだ。トゥースピックの狙いを確かめている。確かに下手な情けは命取りになるだろう。それは前回で懲りているので、私も本気でやるつもりだ。それよりも、店の中でそれを構えるのはやめてくれ。

「あたしは……何をしたらいいかな。包丁ならあるけど。」

 人を斬りつけた包丁で作った料理を食べるのは遠慮したいな。全会一致でミバールは留守居に決定した。万が一の場合は、隙を見て我々の救出を試みてくれるように念押しをして。

 

 夜の闇に紛れて、我々は住み処の陰に身を潜める。まずは入り口の二人を始末する段取りだ。一、二の、三で飛び出し、不意討ちを仕掛ける。ルカが勢いに乗せて水平に薙いだ剣は、盗賊の胴体を斬り裂いた。私はその隣で怯んでいる男を袈裟斬りにする。骨を砕いた手応え。おそらく致命傷を与えたはずだ。

 そしてルカとぺろみは入り口から素早く距離を取り、盗賊たちが出てくるのを待ち構える。私は再び物陰に身を隠し、息を潜める。外の異変に気が付き、何事かと三人の男が建物から出てきた。ルカが大きく動き、闇の中へと誘い出す。剣を打ち合う音が聞こえ始め、建物の上の見張りも気が付いたようだ。降りて来ないところを見るに、おそらく射手だろう。屋根には照明が置いてあるため、明るい場所から暗がりへの射撃は困難なはずだ。危険は小さいがなるべく早く対処しなくては。

 私は静かに住み処へと忍び込む。すると中にはまだ二人の男が座っており、目が合ってしまった。立ち上がる隙を与えず、突きを繰り出す。切っ先は胴体を捉えたが相手が身を逸らせたので、攻撃は胸当てに阻まれた。勢いに任せ剣を横に払うが、刃はそのまま空を切る。飛び退いて息を整える。突きを受けて倒れたのは射手だ。

 もう一人の男はゆっくりと立ち上がり、剣を抜いた。この状況に動じる様子もなく、むしろ堂々としているように見える。こいつがこの部隊のリーダーだろう。

「こんな夜更けに来客とはね。盗賊相手に略奪でもするつもりか?」

 略奪者から略奪者呼ばわりされる謂れはない。奪ったものを返して貰うぞ、と睨みつける。

「ああ!あの時のお前らか!じゃあ、あの阿婆擦れもいるのか?うちの頭から生け捕りにして来いと言われていてな。」

 手ぶらじゃ帰れねえんだよ!そう叫んで斬りかかって来た。応戦する私の太刀筋を巧みな剣さばきでいなし、私は徐々に壁際へと追い詰められつつある。これは手強い。部隊をひとつ任されるからには、それなりの理由があるようだ。倒れた射手も立ち上がり、棍棒を手に隙を見計らっている。堪らず建物の外へ転がり出た。

 剣戟の音が闇の中に響き渡る。一本の矢が私の耳を掠め、建物の壁に突き刺ささった。ひやりとしたが、今はぺろみに文句を言っている暇はない。早く片付けないと、そのうち本当に射られてしまいそうだ。しかし私は先程から防戦一方で、なかなか相手の懐へ踏み込む事が出来ない。その間にも、暗闇の向こうから二本、三本と矢が飛んできては壁を穿っている。そして遂に、矢が右腕を貫いた。私が対峙している盗賊の腕を、だ。大きくよろめき、流血する腕を押さえる。もう剣を振ることはできないだろう。

 いいぞ!私はこれを好機とばかりに、渾身の力を込めた袈裟斬りを浴びせた。刃は胸と左腕の肉を斬り裂き、血飛沫が飛び散る。盗賊はうめき声を上げながら仰け反って倒れた。後ろで隙を窺う振りをしながら全く手を出して来なかった射手の男は、すでに背を向けて逃走を始めていた。逃げ足が早いのは悪い事ではない。臆病者は長く生きる事が出来る。そして生きてさえいれば、チャンスはある。

 

 そしてこいつには、挽回の機会を与えるつもりはない。

「何か言い残すことはあるか。命乞いを聞くつもりは無いぞ。」

 もっとも、伝える相手など居るはずもないか。私は剣を逆手に持ち、ゆっくりと近付く。倒れたまま後ずさる盗賊の男。這いずった地面が湿っている。おそらく初めて味わったであろう敗北と、これから自分の身に訪れる最後の時に恐怖し、失禁しているようだ。

 何とも情けない姿。このまま生き恥を晒させるのも忍びない。私は覚悟と決意、そして最大限の慈悲の心を込めて、その首をひと突きにする。

 

 戦いは終わった。我々は盗賊たちの手から住み処を取り戻したのだ。ぺろみだけに手を汚させる訳にはいかない。剣をびゅんと振り、刃に付いた血を払う。辺りは再び静寂に包まれていた。

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