Kenshi 二次創作   作:ぴこ山きゅん太郎

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「ぺろみ、援護してくれてありがとう。クロスボウ、上手くなったな。何本か私に当たりそうだったけどさ。」

 盗賊たちを退けた私は、同じく戦いに勝ったぺろみたちの元に歩み寄る。ぺろみとルカは何やら怪訝な顔をして曰く

「わたし、そっちには撃ってないよ。途中で矢が無くなっちゃったから。」

 言われてみればぺろみは刀を握っており、クロスボウは少し離れた所に転がっている。

「我々が相手をしていた奴らにも、矢が飛んで来てな。首を正確に射抜いて、あっという間に片付いてしまった。」

 ルカは腕組みをして首を傾げている。それじゃあ、あの矢は一体どこから飛んで来たというのか?周りを見渡しても、他に誰か居るようには見えないが…。

「やあ、驚かせたようですまない。怪我をしていなければ良いが。」

 暗闇の向こうから、男の声がした。その声の方向へと目を凝らすと、暗がりの中にぼんやりと人の姿が浮かび上がってくる。

「私たちは大丈夫だ。あんたが矢を…?」

 近付いてくる人影に向かって応える。

「ああ、そうだ。俺はジャレッド。趣味であちこち歩き回っている年寄りだよ。」

 その姿が次第にはっきりとしてきた。頭のてっぺんから爪先まで黒染めの装束を身に纏っているが、黒いのは身に付けている物だけではない。頭に巻いたターゲルムストの中に見えるその肌の色も、燃え尽きた炭のように黒い。しわがれた声の感じから、そこそこの年配であるような印象だ。体格は小柄で、背丈はぺろみとあまり変わらないように見える。

「屋上の盗賊も俺が撃ったよ。あまり動かないから良い的だった。」

 そういえば、と建物の上に目をやると、盗賊たちの姿は見えなくなっていた。あの距離から正確に的を射抜くのは、高い技術を持たなければ難しいはずだ。この男、ただの旅人ではない。

 

 恩人に対しては礼を尽くさなければならない。ジャレッドを住み処に招き入れ、とりあえず水を振る舞う。もっと気の利いた物を出したいのはやまやまなのだが、食糧が入った荷物はハブに置いてきてしまったので、ミバールを迎えに行ったルカが帰ってくるのを待つしかないのだ。部屋の中は散らかってはいるものの、破壊の痕などがないのは幸いだった。

 ターゲルムストを外しながら、ジャレッドは事の経緯を話し始めた。旅の途中で偶然にすぐそばを通り掛かったところ、ダスト盗賊と戦う我々が目に入ったので助太刀してくれたのだという。

「スコーチランダーが珍しいかな?」

 顔を綻ばせて問い掛ける。ぺろみはまた初対面の相手の顔を、まじまじと観察していたようだ。スコーチランダーという人種は、全身の皮膚が闇のように暗い。表面の細かい陰影は肌の色と同化してしまい、顔をじっくり見ても年齢はおろか男女の別さえも見分けることが難しい。

 ぺろみは問いに対し細かく頷いて答える。

「うん。それとね、そのクロスボウがとっても気になる。」

 ああこれかい、とジャレッドが壁に立て掛けたクロスボウを手に取る。ぺろみは新しい玩具を与えられた子供のような顔でそれを受け取り、くるくると回して観察を始めた。

「とても軽いだろう?レンジャーという種類の、中距離用のクロスボウだよ。ちょっと手を加えてはあるが、君のトゥースピックの五割増しくらいの飛距離は出るだろうね。俺の頼れる相棒ってやつさ。」

 へえ、すごい!構えた姿勢のままその場でぐるぐると回りながら、感嘆の声を洩らすぺろみ。だいぶ気に入った様子だ。

「こういうのはどこに行けば手に入るんだ?」

 何気なく浮かんだ疑問を私が口にすると、ぺろみが期待を込めた眼差しをこちらに向けてきた。…しまった。そういう意味で訊いているのではないのだが。

「ワールドエンドにだったら沢山ある。俺はそこに戻る途中だったんだ。テックハンターが稼業でね、色々な場所をうろつくのが仕事なんだ。」

 ぺろみの好奇心をくすぐる単語が次々と出てくる。この後しばらく、ジャレッドはぺろみの質問攻めに遭うことになった。

 

 ハブから二人が戻って来たので、ミバールに経緯を説明して食事の用意を頼んだ。スクインで作ったダストウィッチを分けて貰っていたらしく、ジャレッドにも振る舞われた。

「…これは本当にダストウィッチなのか?ううむ……なあ、これに肉を挟んでみたら、もっと旨いんじゃないか?」

 意外な提案に我々一同は思わず膝を叩く。早速とばかりにミバールはキッチンで生肉の調理を始めた。肉の焼ける良い薫りに鼻の奥がくすぐられ、私の腹の虫がぐうと鳴く。

 やがて皿に乗った料理が出てきた。いつものダストウィッチに、薄切りの生肉を焼いたものを何枚か挟んでみたようだ。

「いただきます!」

 テーブルに着き、ぺろみの号令で食事が始まった。新しいダストウィッチを一口囓ってみて、味を確かめる。そしてお互いの顔色を窺い、皆の顔に笑顔がこぼれた。

 パンは肉の脂を吸って、いつもよりややしっとりとしている。サボテンの爽やかな苦味とシャキシャキとした歯応えに、肉の旨味が追い討ちをかけてくるのだ。顎に残る心地よい疲労感。やがて食べ終わってしまうのが名残惜しいとさえ思える。まあ、一言で言えば、これは旨い!

 

「俺たちテックハンターはね、各地の遺跡を捜しては古代の文献や遺物といった物を集めて回ってるんだ。今日のお礼とお近付きの印に、これを差し上げよう。なかなかお目に掛かれない珍しいものだよ。」

 ジャレッドは我々のもてなしにだいぶ満足した様子だ。バックパックから数冊の書物を取り出して差し出す。それを嬉々として受け取ろうとするぺろみを、一旦制する。助けて貰った上に貴重な品まで貰う訳には…。ぺろみからの抗議の視線をひしひしと感じる。

「遠慮しないでくれ。元々は拾った物だしね。その代わりと言っちゃあ何だが、また近くに来たときに寄らせて貰えるとありがたい。」

 白い歯を見せてにっこりと微笑む。また一人、ミバールの料理で心を掴んだようだ。ぺろみはすでに書物を受け取り、読み始めている。しかし初めの方をぱらぱらとめくったくらいで、よく分からんといった顔をして本をぱたんと閉じた。

「…ま、そのうち分かるようになるよ。役に立ちそうな事が書いてある雰囲気だし!」

 書物を腕に抱いて嬉しそうにしているぺろみを、ジャレッドは孫娘を見るかのように目を細めていた。

 

 客人に今夜は泊まっていくように勧めると、二つ返事で喜んだ。旅をしていると、眠るための安全な場所の確保に骨が折れるそうだ。

 外からどすんという鈍い音がした。ルカとジャレッドが建物の上で見張りをしていた二人の盗賊を、乱暴に下へ落としている。倒れていた盗賊たちは皆すでに事切れていた。我々は亡骸の硬直が始まってしまう前に身に付けていた物を脱がし、形ばかりの黙祷を捧げる。

「死体は明日ヴェインの森に捨てて来よう。ゴリロかビークシングが食うだろう。しかしこんな事はこの先もあるだろうから、早々に火葬炉を設置することを提案しておく。」

 ルカの言う通り、これからは倒した敵の亡骸の処理も考えなくてはならない。放置すれば不衛生であるし、臭いがすれば危険な肉食動物を呼び寄せてしまう恐れもある。何よりもまず見た目がよろしくない。敵が来る度にヴェインへ捨てに行っていては、森に住むハイブたちの心象も悪くなってしまうに違いない。

 

 翌朝、まだ薄暗い内にふと目が醒めたので、屋上に寝袋を敷いて休んだジャレッドの様子を見に上がる。すでに荷物をまとめ終えており、ジョイントを燻らせてひと息ついていた。煙の香りにふと故郷の風景を思い出す。

「早いな。もう発つのか?」

 私が朝の挨拶をすると、吸い殻を潰しながらジャレッドは立ち上がる。

「ああ、あまり長居をするのも悪いからね。それに……あのお嬢さん。俺にワールドエンドへ連れて行けと言い出しそうな気がしてならないんだよ。いや、別に迷惑という訳じゃないんだがね?」

 そう言ってまたにっこりと笑う。なかなか鋭い洞察力だ。あのお転婆なら確かに言いそうな事ではある。

 そっと階下へ降り、旅立つ客人を見送る。皆によろしく、そう言って颯爽と去って行った。旅の達人は去り際も淀みない。

「おや、もう行っちまったのかい?肉入りダストウィッチを持たせてやりたかったね。」

 早起きのミバールが起きてきた。

「テックハンターは忙しいみたいだ。まあ、また会えるさ。」

 少しずつ日が射してきた。ぺろみは遅くまで読書をしていたようなので、今日はきっと朝寝坊だろう。

 

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