新サクラ大戦~異譜~   作:拙作製造機

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ゲームではあんまりな夜叉の正体ですが、こちらでは見た目や声に相応しい厄介さとなっています。
ちなみに前回のサブタイにはアナスタシアの事だけでなく、仮面を着けている夜叉が裏切る事もかけてあります。


二人のさくら 前編

 あの幻庵葬徹との戦いの翌日、大帝国劇場の支配人室に深刻な表情を浮かべる大神とカオルの姿があった。

 

「竜胆君、花組のみんなはどうしている?」

「それぞれ自室にいます。ですがやはりかなり精神的に弱っているようです。それと神山さんだけは爆発の衝撃による脳震盪のためまだ意識が戻っていませんが、幸い命に別状はないそうです。念のためこまちが傍についていますが心配はいらないかと」

「そうか……。無限の方はどうなっている?」

 

 大神のその問いかけにカオルは苦い顔をした。

 それこそが何よりの返事だと思いつつ、大神はカオルの口から報告が上がるのを待った。

 

「……司馬さんの見立てでは、全機、修復には相当の時間が必要との事です。特に神山機は決勝での無茶が直り切らぬ内に無理をさせた事もあり、修復ではなく新規で作り直すべきだと」

「っ……そこまでか」

「はい」

「それで、他の無限は修復にどれ程時間がかかりそうだと?」

「最低でも五日は欲しいと」

「五日……。分かった。下がってくれ」

「失礼します」

 

 一礼し退室するカオルを見送り、大神は視線を手元へと動かした。

 置かれている月組からの報告書には、あの後夜叉が帝剣の力を使い幻都へ何らかの干渉を続けている事と、時折妙に苦しむような様子を見せている事が記載されていた。

 

「……時間の猶予はあまりない、か」

 

 その最後には、おそらく数日中に幻都の封印は解かれるだろうとの結論が記されており、大神もそれは確信していたのだ。

 

 現状の帝国華撃団は壊滅状態と呼んでも良かった。

 

 花組は全員無事だが隊長は意識不明。戦力である霊子戦闘機は全機出撃不可と、何一つとして好材料がなかったのだから。

 

(どうすればいい? 他の華撃団へ救援を要請しようにも、各都市でも降魔の出現が確認されていてとてもではないが援軍を頼める状況じゃない。おそらく夜叉のやっている行動の影響だろう。つまり他の華撃団も自分達の国を離れる事は叶わない。シャオロンとユイ君は帝都防衛を受け持つと言ってくれているが、二人も本国の状況や仲間達が気になっているはずだ。そして、神山の意識が戻ったとしても、今の俺達に出来る事は……)

 

 大神が現役だった頃でも今のような状況は中々なかった。

 光武が降魔によって大破させられた時も、天武が高濃度の都市エネルギーにより運用できなくなった時も、光武二式が金色の蒸気のせいで行動に支障をきたした時も、仲間達や自分達を支える人々の力で乗り越えてこれたのだ。

 

 だが今回の状況では、それらと同じやり方では乗り越えられないと思えた。

 勿論その時々も同じく帝都の、世界の危機だった。

 ただ相手は葵叉丹であり、京極慶吾であり、大久保長安だった。

 要はその正体も力もある程度分かっていた相手だったのだ。

 

 しかし今回の相手は、最悪降魔皇という降魔達を統べる者か降魔達の根源と思われる存在だった。

 しかも十年前に大神自身も戦い、その強さと恐ろしさは理解している。

 帝国華撃団だけでは勝つどころか互角に渡り合う事も厳しく、巴里・紐育の力を借りてようやく戦えるような相手だったのだから。

 

(あの頃の俺達と今の神山達が同じとは思えない。無論彼らは成長している。それでも、あの頃の俺達にはそれまでの時間で培ったものが、絆があった。それに……)

 

 大神の脳裏に甦る降魔大戦の記憶。その中でも特に深く記憶に刻まれている思い出があった。

 

(さくら君が意識を失う少し前、あの謎の現象は起きた。それを見た米田支配人が、かつて真宮寺大佐が魔神器を使用した時を思い出したという事は、やはりあれは帝剣の発動だったんだろう。だが、帝剣の使用と製造を俺達は断った。その証拠に今も天宮夫妻は健在だ。しかし帝剣は存在している。これは一体……)

 

 今の自分に出来る事は考える事だとばかりに思考へ耽る大神。

 するとノックの音がその耳へ入った。

 

「はい?」

「支配人、お客様です」

「客?」

「はい。その、村雨様です。それとお連れの方が一人」

 

 その告げられた内容に大神は眉を顰めた。

 

「一人ではない?」

「はい。男性の方が一緒です」

「分かった。すぐに行く」

 

 この状況で白秋が誰かと共に訪ねてきた。それには確実に何らかの意図があると感じ取り、大神は一縷の望みを抱いて支配人室を後にすると一路食堂を目指した。

 本来であれば多くの人で賑わうはずのそこは、帝剣を切っ掛けとする出来事の影響で静まり返っていた。

 

 その一角にカオルが立っていて、そのテーブルには白秋と一人の男性が座っていた。

 大神は男性の姿と顔を見ると思わず足を止めて息を呑んだ。

 

「あ、貴方は……天宮鉄幹さん、ですか?」

「いかにも。やはり私の事を御存じでしたか」

 

 鉄幹と呼ばれた男性はそう答えると静かに椅子から立ち上がって大神と向き合った。

 

「大神一郎殿、この事態を収拾する方法を伝えよう」

「っ!? どういう事ですかっ!?」

「帝剣の事はご存じのはず。今、あの夜叉なる降魔の傍にある物がそれだが、あれを無力化する術がこちらにはある」

「無力化する術……。それは一体……?」

「それを教える前に一つ聞かせていただきたい。十年前、降魔大戦の際に何故帝剣の使用を断ったのかを」

 

 その言葉に大神は表情を凛々しくして鉄幹を見つめる。

 しばし二人の間に沈黙が流れた。白秋もカオルも一言も発さず事の成り行きを見守るように黙る。

 

 やがて大神は鉄幹へ短く返した。

 

「俺達は犠牲を出したくなかった。それだけです」

「…………やはりそういう事か」

 

 眩しいものを見つめたかのように目を細め、鉄幹は納得するように頷いた。

 だがしかし、その表情が次の瞬間には一変する。

 

「ならば、今回はその犠牲を飲み込んでもらおう。でなければ帝都が、世界が降魔によって滅ぼされてしまうのだから」

「まさか……帝剣を無力化する術と言うのは……」

「そのまさかだ。そして、もうその事は妻も了承している」

「やはり、か。道理で彼女を家に置いてきた訳だ」

 

 鉄幹の言葉に息を呑む大神とは違い、白秋は何故鉄幹が一人で帝都へやってきたのかを理解して息を吐いた。

 ただ一人カオルだけが事情が分からず困惑していたが、下手に口を出していい状況ではないと察して黙り続けていた。

 

 そんな彼女に白秋は顔を向けると真剣な表情でこう切り出したのだ。

 

「すまないがさくらと話がしたい。彼女はどこにいるか教えてくれるかい?」

 

 

 

 大神が鉄幹と二人で支配人室へと移動を始めた頃、カオルにさくらが自室にいる事を教えられた白秋はその部屋の前に来ていた。

 

「さて……」

 

 控えめにノックをする白秋。するとやや間を置いてから……

 

「誰?」

「さくら、私だ、白秋だ」

「……師匠?」

 

 予想外の相手にベッドに座っていたさくらが疑問符を浮かべながらドアを開けるべく動き出す。

 その気配を感じ取りながら白秋は一瞬だけその場から周囲へ目をやった。

 

(……見事にどこも活気が失せている、か……)

 

 生命力とでもいうべきものが、さくらの部屋だけでなく帝劇全体から消え失せていたのだ。

 

 それを感じ取って白秋は小さく息を吐く。

 

「私も傍観者のままではいられないかもしれないね……」

 

 その呟きはさくらがドアを開ける音と共に漏れて、誰に聞かれる事なく消える事となる。

 

「師匠……」

「やぁさくら。思ったよりは元気そうで安心したよ。中に入っても構わないか?」

「は、はい」

「じゃ、お邪魔させてもらおう」

 

 室内へと入った白秋は部屋の中央で全体を見回すと、その目を何も乗せられていない刀掛けで止めた。

 

「……まさかあれが帝剣だったなんて思いませんでした」

 

 白秋が見ている物へさくらも気付き、悔しそうにそう呟いた。

 実際、そうだと知っていれば安易に場所を教えなかったし、もう少し配慮もしただろう。

 そうすれば操られたアナスタシアに奪われる事も防げたかもしれない。そうさくらが思ったところで白秋がその額を軽く指先で弾いた。

 

「ったぁ!? な、何するんですか?」

「さくら、今君は自惚れてやしないかい?」

「自惚れ?」

「そう。例えば……あれが帝剣と教えられていればこうはなっていなかった、とね」

 

 思わずさくらは目を見開いた。己が心を読まれたからだけではない。そう告げた白秋の顔が呆れたものになっていたからだ。

 

「さくら、帝劇で舞台に立ち、役者として成長した今の君ならともかく、ここへ来たばかりの頃の君に、故郷を出る際に渡された刀が帝剣、つまり重要な物だと知って周囲に露見しないように振舞えたかい?」

「……いえ」

 

 それが答えだった。さくら自身も嫌と言う程に理解したのだ。

 

(自分が未熟だったからお父さん達が言わずにいた事だったんだ。もしあの頃のわたしが教えられてたら、もっと状況は悪化してたかもしれない……)

 

 まず思い浮かぶのは花組が今のような状態になっていない事だった。

 それが一番最初に浮かび、一番重要な事でもあった。故にさくらは胸に手を当てて俯くと己が未熟さを恥じ、小さく息を吐くと凛々しく顔を上げた。

 

 その表情から白秋もさくらの心境を察したのか小さく笑みを浮かべる。

 嬉しさが滲むそれにさくらも小さく微笑みを返した。

 

「その顔が出来るなら大丈夫か。それにしても、やはりここでの時間がさくらを強くしたんだな」

「……はい。そうだと思います。みんなと出会って過ごした時間が、わたしを強くしてくれました」

 

 噛み締めるようにそう答え、さくらは視線を白秋から窓へと動かす。

 そこから見える空は曇り、不気味さが漂い続けている。その中に時折紫電が走っているのを見て、さくらは無意識に呟いた。

 

――絶対に降魔皇の復活は阻止してみせる……。

 

 その呟きを聞き、白秋はさくらへ話そうと思っていた事を敢えて言わずにおこうと決めた。

 

(さくらはまだ諦めていない。なら、きっとあの事を聞いても答えは一つだろう。なら私からより父から聞く方がいい)

 

 と、そこで大神の返答を思い出して白秋は小さく呟くのだ。

 

――きっと彼もそう言うだろうし、ね……。

 

 

 

「……ここは……俺の部屋……?」

 

 ぼんやりとした視界に広がる光景に、神山は自分がいる場所が帝劇内の自室だと気付いて起き上がろうとした。

 

「っ!」

「まだ起きへん方がええよ」

 

 体を走る痛みに顔を歪めるのと同時に聞こえた声に神山が顔を動かすと、そこには椅子に座って自分を見つめるこまちの姿があった。

 彼女は神山と目を合わせると人懐っこい笑みを浮かべて椅子から立ち上がると、そのままベッドに横たわる神山へと近付きその顔をジッと見つめた。

 

「……うん、どうやら後遺症とかはなさそやね」

「あの、こまちさん、俺は一体……」

「簡単に言うと、離脱の際に受けた衝撃で意識を失った、ちゅうとこや。それと、多分軽い鞭打ちみたいにもなっとる」

「そうですか……」

 

 説明を終えたこまちはそれまでの凛々しい表情を崩し笑顔で部屋を出ようとする。

 

「あの、どちらへ?」

「神山はんが起きたってみんなに教えんと。数少ないええ事やしな」

「あっ……」

 

 神山の視線の先で閉じるドア。まるで自分からの質問を受け付けるつもりがないとも取れるそれに、神山はおぼろげに現状を察した。

 

(きっと状況が良くないんだろう。少なくても帝剣は夜叉の手に渡り、俺の無限は下手をすれば……)

 

 戦える状況でさえないかもしれない。そう思うも、神山は絶望する事はなかった。

 いや、正確にはそんな事をする余裕さえなかっただろう。彼の脳裏にはあの戦いの最後が浮かんでいたのだ。

 

「……夜叉は幻庵葬徹を殺した。その時、夜叉はこう言っていた……」

 

 思い浮かぶのは帝剣で幻庵葬徹を貫いた夜叉の言葉の一文。

 

――我を生み出した事と今回の事による褒美だ。

 

 その事が何を意味するのか。それは深く考えずとも分かる。夜叉は幻庵葬徹が生み出した存在だと言う事だ。

 だがそれだけではない。夜叉はこれまで神山達と何度か対峙し、その度に自分は幻庵葬徹達の仲間などではないと言い続けてきた。

 それがあの行動にあるとすれば、夜叉とは幻庵葬徹でさえも御し切れる存在ではなかったと言う事に他ならないのだ。

 

 それが意味する事を考え、神山は思わず息を呑んだ。

 

「降魔皇、とでも言うのか……」

 

 しかしそう仮定すれば全てが納得出来てしまうのだ。

 帝剣により幻都が出現し封印が弱まった今、夜叉が幻庵葬徹へ反旗を翻して行動出来る事も、何故散々自分は他とは違うというような事を言ってきたのかも、全てが腑に落ちてしまう。

 

 実際、あの時の夜叉の言葉はそれを裏付けるような内容であった。

 と、そこまで考えて神山は疑問を浮かべた。

 

「何故真宮寺さくらさんの姿と声を模したんだ?」

 

 そう、どうして夜叉が真宮寺さくらを真似ているかである。

 帝国華撃団関係者の精神的動揺を誘うためか。あるいはかつての花組へのあてつけか。

 

「……そのどちらも違うのかもしれないな」

 

 もし仮にそうであるのなら何故顔を仮面で隠すのか。顔を晒してしまった方がより一層与える影響は大きいはずと、そう神山は考えたのだ。

 

「ん? 待てよ? 仮面……っ!?」

 

 その時、神山に電流走る。

 

(アーニャが操られた原因は幻庵葬徹に贈られた仮面だった。なら、あの仮面の力で夜叉もある程度幻庵葬徹の支配下にあったのかもしれない)

 

 そして帝剣による封印の弱体化によりその力を夜叉自身が上回った。

 それがあの結末の背景かもしれないと、そう神山は推測して息を吐いた。

 

「誠十郎さんっ!」

「さくら……」

「良かった……。意識が戻ったんですね」

「クラリス……」

「心配した」

「あざみ……」

「まっ、アタシはそこまででもねーけどな」

「初穂……」

「無事で良かったわ。本当に、良かった」

「アナスタシア……」

 

 ドアが開いたかと思うと、続々と室内へさくら達花組が入ってきたのだ。

 五人の乙女はベッドの周囲へと集まると神山の顔を見て安堵するように笑みを浮かべていく。

 神山は知らないが、ドア付近では室内の光景を白秋とこまちが静かに見つめて微笑んでいた。

 

 そこでようやく神山は現状をある程度把握する事が出来た。

 さくら達の口から語られた内容はどれも希望など感じさせるものではなかったが、だからこそ沈んではいけないと神山へ思わせた。

 

 隊長である自分が沈めばさくら達も沈む。だからこそ何があろうと弱気になってはいけない。

 その気持ちが神山の表情を凛々しいものへと変える。

 

「すまないが、誰か体を起こすのを手伝ってくれ。起き上がれない程じゃないんだが、一人じゃ辛くてさ」

「ならアタシが手伝ってやるよ」

「私も手伝うわ」

「ありがとう、初穂、アナスタシア」

 

 花組が誇る長身二人に支えられるように神山は上体を起こした。

 先程よりも心なしか痛みが小さくなった気がして、神山は笑みを浮かべて頷いた。

 上半身を起こした神山は凛々しい表情で自分を見つめる五人の乙女の顔をゆっくりと見回していく。

 

「みんな、状況は最悪と言っていいと思う。無限は使用不可で、相手は幻庵葬徹と同等かそれ以上の強さだ。しかも時間をかければ降魔皇が復活してしまう。何も良い材料はなく不安要素しかない状況だ。それでも、たった一つだけ好材料がある」

「何だよ?」

「俺達がいる」

 

 その力みもなく放たれた、さも当然のような言い方とはそぐわぬ意味にさくら達五人の顔が変わる。

 

「俺達が、帝国華撃団がいる。これが唯一にして最大の好材料だ。まだ俺達は戦える。例え無限がなくても、俺達が生きている内は降魔の、夜叉の好きにはさせない。違うか?」

 

 静かにだが力の宿った声にさくら達は無言で首を横に振った。

 違わないと。自分達がいる。これこそが現状で唯一の朗報だ。そう彼女達も思ったのである。

 

「誠十郎さんの言う通りです。まだ、わたし達がいます」

「そうです。例え霊子戦闘機がなくても、戦う術は、勝利する方法はあるはずです」

「諦めなければ必ず道は開く。華撃団大戦で優勝出来たのも、あざみ達が最後まで諦めなかったから」

「そういうこったな。アタシ達が生きてる内は夜叉の好き勝手にさせるもんか」

「現実は厳しいけれど、だからこそ希望を捨てる事はしたくないわね」

「ああ。諦めるにはまだ早すぎる。生きてる間は希望を持ち続けよう」

 

 神山の言葉に五人が力強く頷いたその時、部屋のドアがノックされた。

 その場の全員の意識がドアへと向けられ、代表して神山が声をかけると返ってきたのはカオルの声だった。

 

「皆さん、すぐに作戦司令室へ来てください。司令から重要な話があるそうです」

 

 告げられた内容に神山達は一度だけ顔を見合わせた。

 何となくではあるが嫌な予感めいたものを感じ取ったのである。

 それでも大神がこの状況で重要な話をする事に微かな希望のようなものを持つのも事実であった。

 誰もが大神の性格を知っている。どんな時も諦めず、最後まで希望を持ち続けるような、その性格を。

 だから神山達は感じ取った予感を振り払うかのように地下へと向かう。きっとこの絶望的な状況を打破する一助になると願いながら。

 

 簡単に言えば、それは間違っていなかった。

 地下にある作戦司令室に到着した神山達はそこにいたさくらの父である鉄幹の姿に驚きはしたものの、大神からの話を聞くためにすぐに静かになって席へと着いた。

 

(鉄幹さんはいるのにこまちさんとカオルさんがいないな……)

 

 いるべきはずの二人がいない事に疑問符を浮かべる神山だったが、そこで大神の口から語られたのは帝剣を無力化するという話だった。

 

「帝剣を……無力化、ですか?」

「そうだ。天宮さんの話では帝剣は新しい物を用意すると自動的に古い物は力を失うそうだ。実際、十年前の降魔大戦で彼はそれを利用するべきと、今は解体された賢人機関を通じて当時の俺達へ帝剣の使用を打診してきた」

「で、でも司令達は帝剣を使わなかったんですよね?」

「ああ」

「なら、今の帝剣は古い物って事ですか?」

「そうなる」

「じゃあ話は簡単じゃねーか。さっさと新しい帝剣を作ってもらって、夜叉が持ってる帝剣を無力化すればいい話だろ?」

「そうね。ミスター、どうしてそうしないの? 十年前に使用を断ったのと関係してる?」

「うん、あざみも聞きたい。何で新しい帝剣を使わないの?」

 

 その問いかけに大神は眉間にしわを寄せた。

 それだけで神山達はその事がかなり話すのを躊躇う内容なのだと察した。

 だからだろう。大神ではなく別の人物が先程彼へしたのと同じ内容を語り出したのだ。

 

「帝剣を作るには天宮の巫女が必要だ。つまり、私の妻や娘になる。当時でいえば妻であるひなたしか該当しない」

「鉄幹さん……」

 

 鉄幹は感情のない声で淡々と事実だけを告げていく。

 帝剣製作とは天宮の女性を犠牲にする事。十年前ひなたを犠牲に帝剣を作ろうとした事。それらの事を知った大神達が帝剣使用を拒否した事。今回の事を受けて、ひなたは既に覚悟を決めている事。

 

 それらの事を全て話し、鉄幹は最後にさくらへと顔を向けた。

 

「十年前、もし帝剣が使用されていれば、今回犠牲になるのはお前だった」

「っ!?」

「鉄幹さんっ!」

「誠坊、これに関しては私は大神司令やかつての華撃団達に感謝している。おかげで私は妻と娘の両方を失わずに済む。あの戦いでひなたを犠牲にせず済んだ時、私は内心安堵したのだ。だからこそ、今回は私にもひなたにも未練はない。本来であれば十年前に死別していたのだ。それが十年間、娘の成長を見守りながら生きてこれた。それだけで」

「良いはずがないっ! 良いはずがないでしょうっ! ひなたさんもきっと本心はそう思ってるはずですっ!」

 

 勢い良く席から立ち上がり、神山はそう言葉をぶつけた。その視界の隅には複雑そうな表情で俯きそうなさくらが映っている。

 今、神山はさくらの分まで鉄幹へ言葉をぶつけていた。幼い頃にもう一人の父のように接してきた相手への怒りと悲しさを込めるように拳を握り、神山は鉄幹の反応を待った。

 

「……このままではどうせ死ぬしかない。ならば、せめて娘の未来を守りたいという親心だ」

「お父さん……」

 

 初めて感情の宿った言葉にさくらがそっと胸を押さえた。

 鉄幹とひなたが覚悟を決めた理由が自分なのだと知り、その深い愛情を感じ取ったためである。

 降魔皇が復活すればその結果はどうなるかなど十年前の事を知る者であれば言うまでもない。

 かつての三華撃団が協力し合っても撃破ではなく封印がやっとだった。ならば、それよりも劣る現状の華撃団が同じ結果を勝ち取れるとは思えない。

 故に天宮ひなたは決意したのだ。どうせ死ぬのなら愛する娘の未来を守れる方向へ命を使おうと。

 それを夫である鉄幹も察し、夫妻は愛娘のために犠牲を払う事を受け入れたのだ。

 

 ただ、それを聞かされて頷けるような神山達ではない。

 けれど、この状況ならばそう考えても仕方ないと理解もしていた。

 故にそれ以上言葉がなく、作戦司令室は静まり返る事となる。

 

「……鉄幹さん、今夜叉が持っている帝剣はかつての天宮の巫女が犠牲となって製作された物だと分かりますが、ならば何故あれがさくらさんの手元へ渡ったのですか? そもそもあの帝剣があるのなら何故十年前新しく帝剣を作ろうとしたんです?」

 

 沈黙を破ったのはクラリスのふとした疑問。

 降魔大戦時、大神達は帝剣の使用を拒否した。なのに帝剣が存在するのは何故かは納得出来る。が、ならば何故新しい帝剣を作る事になったのか。それが納得出来ないと気付いたのである。

 

 その場の全員が、いや大神以外が鉄幹へと視線を向ける。彼は逡巡するような表情を見せたが、すぐに観念するように話し出した。

 

「あれを降魔に奪われたのが降魔大戦の切っ掛けだったのだ」

 

 幻都を作り出せる帝剣。それは魔神器と同じく古来より秘匿されていた日ノ本を、この国を守る力。

 それを降魔が狙い、天宮家から奪った後、その力を使い降魔皇と呼ばれる存在を呼び出したのだ。

 

「では、降魔皇とは元々幻都にいた?」

「……おそらくな」

 

 使用するのに霊力を必要とするはずの帝剣を妖力で強制的に使用したため、幻都に封じられていたと思われる降魔皇が帝都に出現、復活を喜ぶかのように暴れ始めたのだ。

 それを封じるには帝剣を使用するしかない。だが帝剣は降魔の下にあり、とてもではないが奪還は不可能と思われた。

 

「そこで私は新しく帝剣を作り、古い帝剣を無力化しようと提案した」

「それを俺達が蹴ったんだ。月組、諜報部隊からの報告でそれがどういう物でどういう事かを知ったからな。犠牲を最初から肯定するような事はしたくない。あれで俺達の覚悟も決まった。その結果、俺達は降魔皇へ痛手を負わせる事に成功した。だがその時……」

「何故か降魔の手にあったはずの帝剣が発動したのだ。そしてその帝剣は気付けば我が家に戻っていた。以来、目に着く場所へ置く事で監視を続けていた」

「じゃあ、あれが居間に置かれたのってそういう事だったんだ……」

「そうだ。私達だけでなく、あちらの、月組とやらの目も届くようにな」

 

 視線を向けられた大神は若干申し訳なさそうな顔をして息を吐いた。

 月組による監視が気付かれていた。それに対する何とも言えない気持ちを吐き出すように。

 

「じゃあきっと帝剣を盗んだのは幻庵葬徹ね」

「だろうなぁ。アナスタシアへそれを探せって言ってたって事はそういう事だろ」

「でも不思議。何で帝剣はさくらの家へ戻ったの?」

「分かりませんね。鉄幹さん、そういう力が帝剣にあるんですか?」

「さてな。私やひなたも帝剣に関して詳しい事は知らぬ。ただ、おそらくそんな力はないと思うのだ。それと、帝剣が戻る前にひなたが体調を崩した。それも、もしかすると関係しているのやもしれん」

 

 もう話せる事はないとばかりに息を吐いて、鉄幹は無言で大神を見つめた。

 降魔大戦の発端が帝剣にあったと知り、大神は言葉がなかった。あの恐ろしい降魔皇が幻都に封じられていただろう事も含め、彼にとっても驚くべき情報が多く出てきたのだ。

 

 未だ謎が多い降魔皇。分かっている事は、それが今幻都に封じられている事と、復活すれば今度は十年前以上の災厄となる事だ。

 

「それで、どうするのだ大神司令。もし新しい帝剣を作るのなら、私は急いで家へと戻って製作へ取りかからねばならん」

 

 返答を求める鉄幹に周囲が息を呑む。彼の言っている意味は、自分の手で愛する妻を殺す事と同義だ。

 それでも、娘の未来を守れるならばと考えている。それを理解し言葉がなかったのだ。

 ただ、大神はそれでも犠牲を受け入れる事を迷っていた。現状それが一番最善なのは大神とて理解している、しているが、だからといって素直に頷ける程大神一郎は非情になれなかった。

 

(どうすればいい。米田司令だったら、グランマだったら、かえでさんだったらどうする? 司令官とは時に非情さを求められるのは分かる。だが、だからといって天宮さんに愛する妻をその手にかけさせるのか? 娘の天宮君のためといって、その彼女の心へ大きな影を作ってしまっていいのか? 帝都を、世界を守れるのなら一組の家族の不幸などどうでもいいと割り切るのか?)

 

 かつての、それこそ現役時代であれば答えは出せた問いかけに、大神は中々答えが出せずにいた。

 それは彼が年齢を重ねて立場や背負うものが増えたためだし、何よりも自分が前線で手を出せる状態ではなくなった事が大きい。

 

 ここで下した決断に基づいて動くのは、自分ではなく神山達だと知っているために。

 

「鉄幹さん、もういいです。もう分かりました」

 

 そんな中、静かな声が室内へ響いた。

 誰もがその声を出した人物へ意識を向ける。その人物は何とも言えない表情で鉄幹を見つめていた。

 

「貴方が本当に覚悟を決めたのなら、ここへ新しい帝剣を持って現れていたはずです。それが出来ていない時点で貴方もどこかで迷っているんじゃないですか? ひなたさんを犠牲にしたくない。だけどこのままではそうするしかない。だからせめて誰かに背中を押して欲しい。最後の一歩を踏み出す一押しを」

「誠坊……」

「十年前もそうだったんじゃないですか? 提案したと貴方は言いましたが、本気でどうにかしようと思うならそこでも帝剣を用意するはずですよ。そうしなかったのは何故か。考えるまでもありません。誰だって愛する人を犠牲になんてしたくない。だから貴方は自分だけでその重さを背負いたくなかった。それを誰かのせいに出来るようにしたかった。違いますか?」

 

 神山の問いかけに押し黙る鉄幹。己の中にある迷いや弱さをはっきり突きつけられたと感じたためだ。

 そして鉄幹の気持ちは、かつて尊敬し憧れた上司を敵に回し最終的に失った大神には痛い程分かるものだった。

 

「天宮さん、貴方の現状を打破したい気持ちは分かりました。ですが、同時に奥さんを想う夫としての気持ちも分かりました。なら俺達はどちらも酌んで動きたい」

「だが……」

「出来る出来ないじゃありません。俺達は、帝国華撃団はいつだって最高の結末を目指して戦ってきました。それは今も変わりません」

 

 その大神の言葉に神山達がしっかりと頷いた。それを見て鉄幹は思わず目を見開いた。

 誰もが凛々しく笑みを浮かべていたのだ。絶望などしていない、希望を信じていると、そう見るだけで分かるような表情を。

 

 言葉を失った鉄幹へさくらが静かに歩み寄るとその手を取る。

 

「さくら……」

「お父さん、お母さんにも伝えて。帝剣は必ずわたし達帝国華撃団が取り戻すから。だから、信じて見守って欲しいって」

「出来るのか?」

「司令も言ったはずだよ? 出来る出来ないじゃない。やるしかないんだって。犠牲を出すとしても、それは精一杯やるべき事をやった上じゃないとダメだと思う。最初から諦めるなんて帝国華撃団はしちゃいけないと思うから」

「……そうか。よく分かった。お前の、お前達のやりたいようにやるといい」

 

 真っ直ぐ自分を見つめるさくらの眼差しに鉄幹は何かを諦めるように、けれどどこか嬉しそうに笑みを返して頷いた。

 そしてその表情のまま鉄幹は神山へ顔を向けた。自分を見つめる、凛々しい男となった神山の姿を見つめて、鉄幹は満足そうに頷くと表情を引き締める。

 

「誠坊とはもう呼べんな。いつの間にかここまで立派な男となったか」

「鉄幹さん……」

「神山君、娘を、帝都を頼む。私は家へ戻り、妻と共に君達の勝利を信じるとしよう」

「分かりました。その信頼に必ずや応えてみせます」

 

 はっきりと断言した神山に頼もしさと希望を見て、鉄幹は最後には微笑みを浮かべて頷いた。

 こうして帝剣を使った反撃は拒否され、別の手段による夜叉への行動を考えなければならなくなる。

 それでも、誰一人として不満も文句もなかった。犠牲を是とするならば、やれるだけの事をやった後というさくらの言葉に誰もが共感していたためである。

 

 だが、ここで空気は一気に落ち着きを見せて、むしろ冷え込んでしまったと表現するのが適切かもしれない程に沈む事となる。

 

「無限の修復に五日は必要、ですか……」

 

 分かっていた事とはいえ、改めて突きつけられる現実に誰もが苦い顔をするしか出来なかったのだ。

 現状帝国華撃団に残されている戦力は翔鯨丸と轟雷号のみ。主力である霊子戦闘機“無限”は全機先日の戦いによりまともに戦える状態ではなくなっていた。

 

「そうだ。どれだけ早く見積もって五日は欲しいと言われた」

「五日もなんて……」

「そんな時間はありませんね……」

「無限が使えないなら三式光武だ!」

「無茶言わないの。大体私は最初から無限が用意されていたのよ?」

「それにクラリスや初穂の三式光武は戦えなくなってさよならしたし、あざみの三式光武ももうバラバラ」

「そっか。あざみの三式光武は予備パーツ用にバラされたな……」

 

 誰もが俯きそうな中、神山も下向きそうになった。

 

「……っ!? そういえばあの時っ!」

 

 その瞬間、神山の脳裏に甦る言葉があった。それは令士の告げていたある言葉。

 

「司令っ! 神崎重工が我々の予備機として三式光武を手直ししていると令士から聞きましたが、それはどうなんですかっ!」

 

 告げられた言葉にその場の全員の視線が大神へと向く。

 その先で大神は……凛々しい表情を浮かべた。

 

「その事なら」

 

 大神がその続きを言う前にそこへ飛び込んでくる者がいた。

 

「失礼しますっ! 司令っ! 轟雷号が戻りましたっ!」

「そうかっ! 花組は轟雷号へ搭乗っ! 司馬、君も同乗するんだ」

「じ、自分もですか? 司令はどうなさるので?」

「俺の事はいい。君を同乗させる理由は行けば分かる。さぁ、時間が惜しい。神山、急ぐんだ」

「了解しました。みんな、行くぞっ!」

「「「「「了解っ!」」」」」

 

 慌ただしく動き出す神山達を見送り、大神は誰もいなくなった作戦司令室で呟いた。

 

――アレを使う時が来たか……。

 

 

 

 轟雷号へ乗り込んだ神山達は風組の二人から言われるままに格納場所へと移動する。

 令士も連れて向かったそこで、彼らは全員言葉を忘れる程の衝撃を受ける事となる。

 

「これは……」

 

 そこにあったのは、六機の三式光武らしき機体だった。

 ただ、三式光武よりも若干ではあるが試製桜武に似ていた。

 

「こいつは……間違いない。例の改良型光武だ」

「これが……」

「俺も資料でしか知らないが、その通りだとすればこいつは無限で得た事を踏まえた上で製作が開始されている。しかも、参考にさくらちゃんが動かした試製桜武の情報も活かされてるはずだ」

「桜武の……」

 

 外見からもそれが伝わってくる気がして、さくらはどこか嬉しそうに笑みを浮かべる。

 桜色の機体は試製桜武でも無限でも、ましてや三式光武でもない。だがその三機の魂とでも言うべき要素が全て詰め込まれているように感じられる機体だった。

 

「司馬さん、この機体の名前は分かりませんか?」

「俺の手元に来た資料のままなら分かるが……」

「それでいいって。仮称とかじゃなかったんだろ?」

「それはまぁ」

「なら教えてくれる? これから命を預ける相手の名前を知らないなんて……ね」

「うん、あざみ達もこの子達も嫌だ」

「令士、頼む」

 

 花組全員の視線を受け、令士は後ろ手で頭を掻きながら記憶を引っ張り出す。

 

「ええっと……たしか、新式光武だったはず」

「新式光武……」

「じゃあ新武でどうでしょう?」

「新武?」

「新式光武だから略して新武です。それに、桜武や無限の力も組み込まれた三式光武なので、新時代の光武って意味もあると思うんです」

「新武、かぁ。いいんじゃねぇか? アタシはそれでいいと思うぜ?」

 

 初穂がそう言って周囲の顔を見回す。それに同意するように頷いていくアナスタシア達に初穂は笑みを返し、最後に神山へ視線を合わせた。

 

「神山は、隊長はどうなんだ?」

「俺か? 俺は……」

 

 そこで神山は自分用の白い新式光武を見上げる。

 その姿にどこか光武二式を重ね合わせた神山は一瞬驚きを浮かべたものの、すぐに軽い笑みを見せて頷いてみせた。

 

「いいと思う。新しい力という意味も込められるし、何より武とは元々戦を進めるという意味だった。それとは別に戦を止めるという解釈をされる事もある。なら、俺達華撃団としての在り方とも通じるからな」

「成程な。華撃団とはある意味で矛盾する存在だ。平和を守るために武力を振るう。だからこそ新しい武力の在り方とも言えるか。しっかし真面目なお前らしい理屈だな」

「ほっとけ。お前はもう少し真面目になるべきだぞ」

「いいんだよ、俺はこれで。堅物が二人じゃ息がつまる」

「ったく、堅物になれるはずもないのによく言う……」

 

 軍学校の同期の二人のそのやり取りにさくら達が小さく笑みを見せる。

 緊張感の欠片もない会話だからこそ、この状況で出来る事が本当に仲が良い事を表していると感じたのだ。

 

 そして神山達を乗せた轟雷号はどこか分からぬ場所へと到着する。

 到着したと神山達が思ったのは轟雷号が停止したからだが、その瞬間切羽詰まったような声が響き渡った。

 

『皆さんっ! 申し訳ないですが出撃してくださいっ!』

『カオルさん? 出撃とはどういう』

『説明は後でするから今は地上の敵を撃退してくれへんかっ!』

『誠十郎さんっ!』

『新武の慣らし運転も兼ねて行きましょうっ!』

『こいつの力を確かめておかねーと夜叉との戦いもちょっと不安だしな!』

『急ごう、誠十郎!』

『降魔達に、そして帝都の人々に見せてあげましょう! 私達帝国華撃団が健在だって事をっ!』

『みんな……よしっ!』

 

 外へと飛び出した六機の新武はそのままカオル達の誘導に従って上を目指す。

 その道中、移動しているだけで伝わってくる力に神山とさくら以外は首を傾げ、その二人は息を呑んだ。

 

(これは……光武二式に乗った時と同じ感覚だ!)

(桜武の時と似てる気がする……。この子、きっと凄い力を秘めてるはず……)

(何? この安心感みたいものは?)

(温かい、気がするぜ。それにこの感覚は……中庭の霊子水晶に近い気がする……)

(何だろう? 誰かあざみの傍にいるみたいな感じがする……)

(この感じは何かしら? ……安心感、が近い気がするわね)

 

 地上へ出た神山達が見たのはひしめくように存在する数多くの降魔や傀儡機兵。

 その中を六色の風が駆け抜けるようにその一角を切り崩すと、降魔達が警戒するように吼えた先には凛々しく構える六機の新武がいた。

 

「「「「「「帝国華撃団、参上っ!」」」」」」

 

 放たれた宣言に降魔達の一部が弾かれるように動き出して新武へ迫る。

 

「させないわっ!」

 

 その強襲に狼狽える事もなくアナスタシアの新武が銃撃を放って先頭の降魔二体を撃破した。

 

「凄い……この力、無限以上よ」

 

 新式光武は、分類としては無限と同じ霊子戦闘機ではある。だがその根底にあるのは三式光武ではなく試製桜武であった。

 そう、WOLFの目を誤魔化すために三式光武を母体としていたが、新式光武とは実際には試製桜武の改良型なのだ。

 試製桜武の爆発的出力こそ常時出す事は出来ないが、その代わりに無限を超える出力を瞬間的に出す事を可能としている。更に霊子甲冑からの正統進化であった試製桜武を基にしたため、搭乗者が強くなる事で機体も強くなるという要素を継承しているのだ。

 

 つまり、華撃団大戦を経験し夜叉達との戦いを経験した今の神山達の強さを合わせる事で、新式光武こと新武は無限を超える強さを発揮していた。

 

「次はこっちの番!」

 

 アナスタシアの新武の強さに足を止めた降魔達へあざみの新武が迫る。

 その速度は風作戦使用時の無限と同等かそれ以上のもの。故に降魔達の集団がまるで刹那の間に弾け飛んだ。

 

「……この子、速くて強い」

 

 新武はそれぞれの特性や戦術に合わせた強化を施されている。それは無限もそうだったが、新武は更に特化させていた。結果、あざみの新武は機動性特化の性能となっていた。

 

「まとまっている内にっ!」

 

 先走った降魔達が瞬く間に撃破された。それを受けて様子見をしていた降魔や傀儡機兵がバラバラに動き出す前にクラリスの新武が先制攻撃を仕掛ける。

 放たれた霊力弾は意思を持つかのように動き、空中にいた降魔達を貫いていく。それは花火のように爆発を演出し地上にいる降魔達を怯えさせた。

 

「重魔導の発動が早い……。この子の力も加えてくれてるの?」

 

 実際には違う。クラリスの新武は都市エネルギーと呼ばれるものを利用し、それを動力ではなく攻撃や防御への補助へ使用しているのだ。

 だからこそクラリスの重魔導の欠点である使用までの待機時間を短く出来ていた。これもかつて存在した天武からの技術の発展であった。

 

「へへっ、みんなやるじゃねーか。なら……っ!」

 

 重魔導による攻撃で混乱した降魔達が雪崩を打って自分達へ向かって来るのを見つめ、真紅の新武は手にした棍棒を高々と掲げた。

 それが瞬時に展開し棍棒から金槌へと変化する。それは光武F2と呼ばれた機体から生まれた武装の展開機構による物だ。

 グリシーヌという女性が乗っていた機体の武装である手斧は、機体の霊子水晶が使用者の意図を汲み取って柄の部分を伸ばす事でハルバードへと変形するのだが、それを応用した技術が初穂の新武が持つ武装へ組み込まれていたのである。

 

「吹っ飛びやがれぇぇぇっ! って、形が変わった!? あととんでもないな、こいつの力!」

 

 思っていたのと異なる武装の姿に驚く初穂だったが、それと同時にこれまでよりも力強い感触に笑みを浮かべた。

 火作戦使用時の無限を上回る攻撃力。それが初穂の新武の特化方向だった。どれくらいかと言えば、今の初穂と新武ならば幻庵葬徹が遠隔で操った荒吐の障壁を一撃で崩壊寸前に出来る程である。

 

「残った降魔は……っ!」

「俺達で片付けるっ!」

 

 残り僅かとなった降魔や傀儡機兵を純白と桜花の剣閃が蹴散らしていく。

 神山とさくらの新武は目立った特化部分はないが、だからこそ全体的に高性能となったと言える。

 その中でも特化部分を挙げるのならば、神山機は通信能力で天宮機は瞬間最大出力解放時間の長さだろう。

 神山は言うまでもなく隊長故であり、さくらは試製桜武の制御へ挑戦しある程度の結果を出した故の事であった。

 

「この子、桜武に近い……。なのに負荷が減ってる……」

「この不思議な頼もしさ……やはり光武二式に通じるものがある」

 

 本来、霊子戦闘機としてのプロトタイプとなるはずだった試製桜武。だがその性能は乗り手の負担を考えない作りであった。

 ただし、試製桜武とそれ以降の霊子戦闘機には大きな違いが存在している。それこそが神山やさくらが感じたものの正体。

 

 それは、機械の心。光武を始めとする霊子甲冑は心とも呼べるものを持っていた。

 それは俗説的に霊子水晶だと言われているが、真偽の程は定かではない。それでも一つだけ確かな事は、光武から続いていた霊子甲冑は心があるのではないと思う程に乗り手と結びつき、その性能を限界以上に引き出す事が多かった事だ。

 

 それがWOLF監修の霊子戦闘機からは薄れた。乗り手と共に強くなる霊子甲冑とは異なり、試製桜武以外の霊子戦闘機は乗り手の強さに関わらず、一定の、定められた性能しか発揮しなくなったのだ。

 それは性能面だけ見れば霊子甲冑を凌駕し安定性があるようにも見えるが、人機一体の効果が消えた事により経験値というものが目に見えなくなってしまったとも言える。

 仮に従来のままで霊子戦闘機が生み出されていれば、旧型であろうと乗り手によっては新型を上回る事が可能となり、数値だけでは計れない底力のようなものを見せる事も出来たのだ。

 

 神山が疑問を浮かべた事の答えがここにある。WOLF監修の霊子戦闘機は、数値以上の力を発揮出来ないようにされていたのだ。

 それは幻庵葬徹ことプレジデントGが華撃団の戦闘力をほぼ正確に把握出来るようにであった。

 乗り手である各華撃団隊員達が成長しようと機体性能に変化が起きないようにと、霊子戦闘機に使うフレームから意図的に細工されていたのだ。

 

 だからこそ、試製桜武を基に作られた新式光武は従来の人機一体の精神が生きていた。

 乗り手の強さがそのまま機体の強さに繋がるというそれは、経験した事が全て強さの向上へ繋がるのだ。

 神山が初出撃で見せた底力は光武二式だったからこそであり、さくらが試製桜武の限界値を徐々に扱えるようになっていったのもそれである。

 

 乗り手の成長とは身体的なものだけではない。その精神的な成長までも強さとして反映する。

 それが霊子甲冑であり本来の霊子戦闘機の姿だった。

 

 新武の強さもあってか神山達は短時間で周辺の降魔達を全て片付け、やっと轟雷号がどこに到着したのかを理解した。

 

『ここは……ミカサ記念公園か』

『ですね。じゃあ、轟雷号はここの地下に?』

 

 すると突然地面が震動を始める。地震かと思って若干狼狽える神山だったが、そこへ通信が入った。

 

『神山隊長、花組を連れて轟雷号がいた場所まで戻れ』

『轟雷号のいた場所? 貴方は一体何者ですか?』

『そんな事はどうでもいい。いいから早く移動するんだ。時間がない』

 

 画面には誰も表示されず、音声のみが神山に届いていた。

 その男性らしき声は神山の問いかけに答える事はせず、それだけ告げると通信を切ったのだ。

 

(一体今の誰なんだ? ただ声からは敵意や悪意は感じられなかった。それにこの振動の正体も気になる。今は一旦声に従ってみるか)

 

 未だ震動は続いていて、その発生源は地下だと神山は察していた。

 故に彼は花組と共に来た道を戻るように急いだ。風作戦を発動し機動力を向上させて移動する神山達は、その上昇度合に驚きながらも轟雷号が停止していた場所へと戻る。

 だがしかし、そこに既に轟雷号の姿はなかった。どういう事だと戸惑う神山達へ令士からの通信が入ったのはそんな時だった。

 

『神山、線路に沿って先へ進め』

『先に?』

『ああ。進めば分かる。急げ、時間がない』

 

 言われるままに六機の新武は先を急ぐ。線路を辿り、着いた先には轟雷号が停車しており、そこが格納庫である事が窺えた。

 何せそこには明らかに霊子戦闘機用と思われる設備が散見されたのだ。それを神山達が発見したのとほぼ同時に再び通信が入り、そこへ機体を預けてしばらく待機するように令士経由で大神の指示が届いた。

 

 その頃、一人帝劇に残っていた大神はカオルやこまちからの報告を受け、最後の仕上げとばかりにある命令を下そうとしていた。

 

『司令、こちらの準備は整いました』

『進路も問題なしや。ただ、時間をかけるとまた降魔の邪魔が入るかもしれへん』

「分かった。なら抜錨してくれ」

『『了解!』』

 

 大神の言葉で二人が何かの操作を始める。それを合図に振動が大きくなり、やがてミカサ記念公園に面した海面から巨大な何かが姿を見せ始めた。

 

 その姿を見た帝都に住む一定年齢以上の者達は息を呑み、そして歓喜した。

 何故ならそれは、かつて聖魔城や武蔵といった巨大な悪の居城へ立ち向かい、日露戦争の旗艦であった戦艦を模した帝国華撃団最後の切り札であったのだ。

 

「飛行戦艦ミカサ、無事出航しました」

「出力などに異常なし」

『そうか。そのまま進路をスタジアム、いや幻都へ向けてくれ』

「了解。進路、幻都へ」

「司令、合流までは微速前進でええですか?」

『頼む。こちらもすぐにそちらへ向かう』

 

 通信を終えた大神は小さく息を吐くと、座っている場所の目の前にある長机の下へ手を伸ばした。

 そこに隠されていたボタンを押すと、大神の目の前に一本のレバーがせり上がってくる。

 

「……まさか、これを使う日が本当に来るなんてな」

 

 帝国華撃団の司令官であった米田は、当時から既に霊子甲冑で戦う事は出来ぬ現役軍人だったが可能な限り降魔などの悪との決戦には自身も前線へと参加した。

 その指揮下で戦い、その背に父を見ていた大神も将来後進が出来た時に備え、自分も帝都の命運を賭けた戦いの前線へ参加したいと思った。

 

 そのため、彼は降魔大戦前に改修されたミカサへ合わせる形で帝劇に新しい役割を持たせる事を決め、降魔大戦後にそれがやっと実現出来たのだ。

 

「霊子水晶、起動っ!」

 

 言葉と共にレバーを手前へ倒し、大神は来たる衝撃に備えた。

 

 大神の操作によって中庭にある霊子水晶が眩く輝き、その霊力が帝劇地下にある霊子機関を作動させる。

 その結果、帝劇が勢い良く上昇を始めたのだ。

 

 かつてのミカサはそれ自体に作戦司令室や各隊員の私室となる部屋などを完備していた。だが改修に辺り兵装面の強化をするべくそれらを排する事となった。

 

 それはミカサで過ごした大神達だからこその選択だった。

 初めてミカサが出撃した聖魔城の時はそもそもミカサ内で長時間滞在する事がなく、武蔵の際も同様であり、大久保長安の時などはミカサが乗っ取られるという事態になったのだ。

 それ故に大神達は決戦兵器でもあるミカサ内で長時間滞在する事自体が有り得ないと判断し、武装などの強化のためにまず私室となるような部屋を削減する事にした。

 

 だが、それでは決戦前の小休憩に困るのではないかとレニが発言し、ならばとカンナがこんな事を呟いたのだ。

 

――いっそ帝劇をミカサの中に持って行ければ楽なのになぁ。

 

 その発想に多くの者は苦笑したが、紅蘭一人だけが真剣な表情でそれを思案し、実現するにはどうすればいいかを考案、その結果帝劇そのものを臨時の作戦司令部としてミカサへ合体させるというとんでもない機構の設計図を完成させたのだ。

 

――こんな事もあろうかと……の最終形やな。

――今回はまさしく言葉がないよ。君は本当に天才だよ、紅蘭。

 

 それは降魔大戦が起きる僅か一週間前のやり取り。

 そう言われて照れ隠しのように頬を掻く紅蘭の姿を思い出しながら、大神はモニターへ表示されたミカサの姿に表情を険しくした。

 

「これまでミカサが出撃して負けた事はない。なら、それをこれからも続けていくだけだ」

 

 自分が司令となって初めてのミカサ出撃となる今回の戦い。

 その勝利を信じる想いを言葉に乗せて大神は呟いた。

 帝劇がミカサへと合体する際の低く響く振動と衝撃に表情を凛々しく変えながら……。

 

 

 

「……やはり破邪の力が騒がしくなってきたな」

 

 宙に浮かぶ帝剣を見つめながら忌々しげに呟く夜叉。

 その仮面に隠れた顔からも憎しみのようなものが滲んでいる。

 だがそれもすぐに消え、いつものような無表情へと戻った。

 

「まぁいい。どれだけ足掻こうと最早止まらぬ。幻都の封印はもうじき解かれる。そうなれば……」

 

 ゆっくりと右腕を動かして夜叉は仮面へと手をかけた。

 そしてそれをおもむろに外すと上へと投げ捨てたのだ。

 

――来たるべき時のために、今一度役立ってもらおうか。

 

 夜叉が投げ捨てた仮面へ妖力を放つと、仮面が何と幻庵葬徹へと変化していく。

 ただ、その姿は以前よりも醜悪となっていた。顔の右半分は目玉が飛び出ていて、皮膚が剥がれ落ちていたのだ。

 

 反魂の術である。ただ、夜叉は自身を良い様に使っていた幻庵葬徹を完全な形で甦らせなかった。

 

「ぐぅぅぅぅ……い、痛い……」

 

 故に甦った幻庵葬徹の第一声は痛みに呻く声だった。

 

「くくっ、痛い、か……。冥府へ堕ちたのを引き上げたのだ。それぐらいは受け入れよ」

「な、何故完全な形で甦らせなかった……?」

「人間は追い詰められると底知れぬ力を発揮する。ならば、降魔はどうなのだろうと思ったのだ」

「に、人間と我らを同列に扱うのか……っ」

「そんな事はせぬ。我の中では貴様よりは人間共の方が厄介なのでな」

「ならば何故甦らせたのだっ!」

「我は封印を解くのに忙しい。それが終わるまでの間、帝国華撃団とやらを足止めしろ。貴様の利用価値はそれだけだ」

 

 話は終わったとばかりに夜叉は意識を幻庵葬徹から帝剣へ、更にその先の幻都へと戻した。

 

「……大人しく従うとでも思っているのか?」

「ならばまた冥府へと堕ちるだけだ。だがここで我の手助けをすればこれまでの無礼、忘れてやってもよい」

「…………本当か?」

「我には虚言を吐く必要がない」

「っ……」

 

 放たれた言葉に幻庵葬徹が息を呑み、そして無言で動き出す。

 その離れていく気配を感じ取りながら夜叉はその長い黒髪を風になびかせて声も無く嗤った。

 

――ああ、そうとも。我には虚言を吐く必要などない。“今の”我には、な……。




本来反魂の術はその死者が眠る場所で行う必要がある(2での葵叉丹の描写を見る限り)のですが、幻庵葬徹は降魔なのでその力の残った物を触媒として復活という流れとなりました。

ミカサ関係については、新サクラの(帝劇が司令部のように合体する)ようになったのは、金銭面などを考えるとおそらく降魔大戦前に動き出していたと判断しましたのでこうしました。

新武は……旧シリーズをやった方なら分かる事ですが、霊子甲冑は乗り手が強くなる事で機体も強くなるという設定があります。
でも新の霊子戦闘機にそんな描写はなかったので、どうしてかと考えた際にWOLF監修だからという結論になりこうしました。

試製桜武が葬られた本当の理由は、人機一体を弱めて霊子戦闘機を単なる道具へ格下げし、降魔側への不安要素をなくしたという考察&設定です。
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