ガブリアスがガラルに入国してくるってマジ?   作:またたね

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画竜点睛、音速拳

 

 

 修行を始めてから、四季が一周した。

 

 それを二度、経験した。

 

 

 

 目の前に、土壁がある。

 

 その土壁には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その全てが、俺が拳のみで二年をかけて打ち付けたものだ。

 

 俺の正面にあるのは、一本の丸太。まだ土壁に刺さっているだけで、埋まりきってはいない。その前に立ち、()()()()。二年の鍛錬の果てに辿り着いた俺だけの、俺専用の型。左足を前に出し、右足を下げて斜に構える。左手は正面に、右手は腰に。そのまま一気に──()()()()()()()()

 余計な力は不要、無駄な力みはかえって打撃の威力を削ぐ。100%を発揮するのは、着弾(インパクト)の一瞬だけ。最低限かつ最小の力で体を動かす為に、心を無にする。拳は弾丸だ。全身は、拳という弾丸を放つ為の銃口。足の親指の、母子球の、足首の、膝の、腰の、肩の、腕の、肘の、首の、全ての運動エネルギーを拳に収束させるイメージで──!

 

 

 

『────ンン゛ッ!!』

 

 

 

 

 ──放たれた(弾丸)()()()()()()()()

 

 

 

 着弾と同時にパァン!という音を立て、丸太の中心へと拳は吸い込まれた。次の瞬間には、()()()()()()()()()()()()()()()。衝撃の余波で、土壁が大きくひび割れる。丸太の中心には、拳の後がくっきりと残っていた。()()()()()()を振るった残心のまま、俺は声高に叫ぶ。

 

 

『よっしゃぁぁぁぁ!!』

 

 

 遂に、遂に完成したぞ!長かった……ここに至るまで二年、マジで長かった。本当に覚えられるのか、心配になることもあった。それでも愚直に拳を奮い続けた。その成果が、今ここに現れた。

 

 

 ──()()()()()()、此処に成る。

 

 

 念願の格闘物理技に、心が躍る。それに二年間拳を奮い続けたおかげで、念願であった特性『てつのこぶし』を得ることもできた。あれは一年と少し経ってからだったかな、ある日を境に、それまではあった成長の過程を素っ飛ばして急にパンチの威力が増したのだ。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その頃には傷を負わずに岩を殴って破壊できるようになってたから、俺は『てつのこぶし』の習得を確信した。これによって俺の仮説が見事立証されたことになる。それからも鍛錬を続け、自らの爪が漆黒に染まり、黒曜石のような輝きを帯びてから暫くして。もう一度壁を乗り越えたような感覚が訪れた。そう、『かたいツメ』の習得である。これにより、俺の物理攻撃の火力が更に底上げされた。

 身体面の変化で言えば、まず体が一回り大きくなった。フライゴンの平均体長を大幅に上回り、四メートル近くまで身体が成長した。腕も奇形に見えてもおかしくないほど成長し、俺最大のメインウェポンとなっている。羽は筋肉がより凝縮され、増えた体積によって生み出される空気抵抗を少しでも減らすために、薄く進化した。それにより今までとは比べ物にならない速度を生み出すことが可能となった。動作の方も完全に身体に馴染み、より精密性と巧緻性が増した。

 ただその過程で、俺は『ふゆう』を失った。俺の拳は全身の筋肉の動きを利用して威力を高めてある。回避もステップを主に用いるし、加速も初速を稼ぐために足を使っている。故に地に足をつけている時間の方が長く、体が不要と判断したのかある日を境に、それまでは自然にできていた羽を用いない浮遊が、出来なくなってしまったのだ。まぁ『ふゆう』を失うデメリットよりも、得たメリットの方が大きいのでこれは正直あまり気にしていない。

 

『──少しは強く、なれたかな』

 

 これまでの日々を振り返る。俺は近くの水たまりに映った自身の体を観察した。

 パッと見何の変哲もない、()()()調()()()()()()()のフライゴン。しかしよく見てみれば、他のフライゴンと違った点はいくつもある。そして遠い昔のように感じる、己の身一つで不利な環境に身を置いて過ごした二年間。順風満帆とは言い難く、訓練とは別に何度も死にかけた。食糧にしていたココガラ系列の群れは、冬季になると暖かい場所を目指して森から姿を消した。目に見えて外に出ている野生のポケモンは数を減らし、貯蓄などしていなかった俺は木の実だけで飢えを凌ぐ羽目になってしまい、空腹に耐え忍ぶ冬を過ごした。さらに育てていた木の実が原因で、住処が野生のポケモンに夜襲を受けることもあった。訓練から戻ってきた後に大切に育てた木の実が荒片喰い荒らされていたこともあった。まさに、生きるか死ぬかの生存競争、俺はわかっていたつもかりの野生の厳しさを改めて認識しなおした。それでも俺が生き残ることができたのはしっかりと己を鍛えていたおかげで、この森に住む個体の中で卓越した実力を持っていたからであり、()()()()()()()()()()()()()()()()()からであった。戦闘技術や勘で大幅に遅れをとっていても、純粋な力でそれを翻して勝ちを納め続けた。今では俺に喧嘩を売る奴は余程自分の力を過信している命知らずか、この森にきて日の浅い世間知らずのどちらかだ。まぁ俺も最初期ほど生きるのに必死ではないので、軽く捻って送り返してあげているが。

 

 さて、感傷に浸るのはこれくらいでいい。偉大な進歩ではあったが、『マッハパンチ』一つ覚えたくらいでは、ガブリアスに敵うわけもない。これからも鍛錬を続けて技を習得し、磨いていかなければ。

 

 

 

 

 それから更に二年。

 

 俺の住処に、激しい戦闘音が響き渡る。木々を揺らすような衝撃、拳が空を切るごとに吹き上がる風、足を踏み締める度に鳴り響く地響き。周囲のポケモン達も、一体何事かと集まり始めている。騒ぎの中心にいるのは、二匹のポケモン。片方は勿論俺ことフライゴンであり、もう一匹のポケモンは、体長3m後半の恵まれた体格を持つゴロンダだった。

 相手の超接近状態での『インファイト』を去なし、俺は一度大きく距離を取る。一瞬の溜めの後、超高速低高度滑空で開いた距離を一気に詰めた。その速度を維持したまま、俺はゴロンダの顔目掛けて拳を繰り出す。それをゴロンダは、十字に腕をクロスさせることで守ろうとする……予想通りだ。

 接触する寸前、俺は拳を開いてゴロンダの腕を掴んだ。滑空の慣性で身体が流れるまま、しっかりと地面を掴み、全身の筋力と滑空で生まれた力のベクトルを利用し、ゴロンダを持ち上げて、地面に叩き付ける。しかしゴロンダは、驚異的な反射神経で空中で体勢を変えると、足から着地することに成功、さらにあろうことかそのまま、『ばかぢから』を発揮して俺を叩きつけ返して来たのだ。途中まで予想通りに事が運んだだけに、反応が遅れた。先程の意趣返しのように宙を舞った俺は、受け身もままならずに背中から地面へと叩きつけられてしまう。だが、タダでやられたわけじゃない。

 

 攻撃の後で無防備を晒していたゴロンダの顔の側面を、倒れながらも放たれた俺の尻尾が強かに穿った。

 

 脳を揺らされ、ゴロンダは蹈鞴を踏みながら後退する。その隙に、俺は再びゴロンダから距離を取る。睨み合う俺とゴロンダ、しばらく睨み合い──

 

 

 ──両者共に、一礼を交わした。

 

 

 そしてゆっくりと歩み寄り、固い握手。周囲のポケモンからは、歓声が沸いた。

 

 

 何を隠そう、このゴロンダは、俺の()()()()()()()()()()()である。

 

 

 修行開始から三年、身体はほぼ完成し、それまでのトレーニングは終わりを告げた。最初10kmのランニングを50kmに増やしたり、腕立てを指立てで千回にしたり、長距離飛行の時間を丸一日に変えたりしてみたが、成長は感じられなかった。前々から懸念していた成長の頭打が来たのかもしれない。だがそう決めつけてしまうのは早計であった。この三年間、俺が殆ど得られなかったものがある。

 

 

 ──そう、()()()だ。

 

 

 努力値は、それを手に入れるだけではステータスにすぐに影響を及ぼさない。努力値の恩恵をしっかりと受けるためには、経験値を得て、()()()()()()()()()()()()のだ。経験値を得るために手っ取り早いのは、まぁここガラル地方ではアメというシステムがあるが、やはり戦闘をこなすことだろう。

 しかし俺には、その戦闘という経験が圧倒的に欠如している。これまで行って来たのはあくまでも狩りや害敵を追い払うだけで、凄く端的に言い切って仕舞えば“ヨワイモノイジメ”であり、そこに技術の差込合いや、力のぶつかり合いなどは存在していなかった。つまりゲーム的に言えば今の俺は、“努力値振りがほぼ終わり、進化できるレベル程度には育ってはいる素体”というわけだ。そこまで考えて、天啓が降る。そうだ、どうしてこんな事実を見落としていたのだろう。何も個体の強さを証明するのは、三値だけではないではないか。

 

 ──()()()

 

 ポケモンに、1から100間で存在するその数値もまた、強さを表す重要なものだ。そう、俺が今から為すべきこと、それは()()()()()。戦闘を繰り返し、経験値を得て、レベルを上げる必要がある。そうすることで初めて、鍛えた基礎が技術へと昇華し、俺はまた一つ強くなることができる。そうであるならば、戦闘するしかない。道が開いた俺は、大いに喜んだ。しかし同時に、悩みも生まれた。

 

 ──俺は、()()()()()()()()()()()()()

 

 勿論、これまで沢山のポケモン達を殺して来た。しかしそれは生きるためであり、限度を超える殺生はしたくないというのが本音だ。ナックラーに転生して数年、もうすっかり身も心もフライゴンに染まってしまった俺だが、そこだけは揺るがなかった。綺麗事を、と言われるかもしれないがここだけは曲げるつもりはない。意味もなく殺戮を繰り返すようなら、それはポケモンではなく()()()である。

 そして俺は探し始めた。自分と渡り合うことのできる実力を持ち、かつ理性のある、殺し合いではなく、スパーリングのように手合わせできる相手を。そして見つけたのが、さっき手合わせをしていたゴロンダというわけだ。

 

『お疲れ様、()()()()()。今日もありがとう。コレみんなで食べてくれ』

『グルルゥ』

 

 ゴロンダに草の茎で作ったネットに包んだ、沢山のオボンの実を渡すと、満足そうに親指をサムズアップして、彼は自分の巣へと帰っていった。こんな感じで、バンチョーとは週に一回、多ければ二回のペースでスパーリングを行っている。

 

 それは一目惚れに近かった。巣に襲いかかって来たドラピオンの群れを、()()()()()()()()()()()()()()()追い返し、怯えるヤンチャム達を抱っこして安心させているゴロンダの姿を見て、こいつしかいないと思った。

 その日の夜、俺はこのゴロンダの巣へと訪れた。ありったけの貢物(オボンとラム)を添えて。最初はかなり警戒している様子だったが、幾度に渡る接触を経て、俺はバンチョーとスパーリングを行う関係になったのだ。

 俺はゴロンダことバンチョーの言葉はわからない。向こうも同じはずだ。意外な事に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようなのだ。俺にとって言葉が理解できるポケモンと、理解できないポケモンがいる。正確に言えば、同じ言語で話せていないような感覚。でもまぁこれは少し考えれば当たり前のことだ。人間だって、全ての人間と会話できるわけではない。日本語を用いる人間もいれば、英語で話す人間もいる。ポケモン間にだって、言語の違いはあるのだ。では、どのような共通点が有れば会話が成立するのか。俺は()()()()()()()が関係しているのではないかと睨んでいるが、正確な事はわからない。しかしバンチョーとは身振り手振りや声のトーンを通して、コミュニケーションをとる事ができていた。

 最初は全く勝てなかった。パワーはほぼ同じ、ともすれば俺の方が強い。スピードに至っては俺のほうに圧倒的に利がある、にも関わらずだ。俺の攻撃は、バンチョーに一つたりとして有効打になり得なかったのだ。しかもバンチョーは、左手で俺の攻撃をあしらいながら、右手でオボンの実を美味しそうに食べている始末。文字通り片手間に、体勢変換と体重移動を巧みに組み合わせて俺を赤子のように扱っていた。戦闘技術の無さを、ひたすら痛感させられる日々だった。それでも俺は、歓喜に震えた。

 

 嬉しい。まだ終わりじゃない。俺はまだ、強くなれるんだ。

 

 そんな日々が、一年続いた。

 

 元々鍛え続けていた基礎に、戦闘技術が噛み合う。俺に起こった変化はたったそれだけ。しかしそれだけのことで、俺の勝ち星は飛躍的に上昇した。具体的に、本気を出したバンチョーに四割勝ちを拾えるくらいには。順調にレベルが上がっている証拠だろう。

 そうなると、確かめたくなる。自分がフライゴンの中で、どれほど強くなれたのか。前々から考えていたことだ。一度群れに戻り、今までの非礼を詫びようと。そしてその環境の中で、己を見つめ直そうと。

 

 次の日俺は、住処にあった木の実を全てバンチョーに引き渡し、森を離れる旨を彼に伝えた。バンチョーは泣きながら俺との別れを惜しみ、肩をバンバンと叩いた。その様子に苦笑しつつ、俺は群れを探して飛び立つべく、羽を一度大きく羽ばたかせた。

 

 

 

 

 ──それだけで、バンチョーから俺の姿は見えなくなっていた。

 

 

 





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